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2016年02月25日10:08

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「ハッピーアワー」 「愛しき人生のつくりかた」 「氷の花火 山口小夜子」

「ハッピーアワー」 ’15


監督:濱口竜介 脚本:はたのこうぼう(濱口竜介,野原位,高橋知由)
撮影:北川喜雄 音楽:安部海太郎
m:申芳夫,三浦博之,謝花喜天,柴田修兵
f :田中幸恵,菊池葉月,三原麻衣子,川村りら

’15 ナント三大陸映画祭 コンペティション部門 銀の気球賞,観客賞
’15 ロカルノ国際映画祭 インターナショナル・コンペティション部門 最優秀女優賞,脚本スペシャルメンション
’15 シンガポール国際映画祭 アジア長編映画コンペティション 最優秀監督賞


「即興演技ワークショップ in Kobe」に参加した
演技未経験者たちを俳優として起用した5時間17分のドラマ。
30代後半じきアラフォーの仲のいい4人の女性たちの物語。
バツイチ独身の看護師あかり
編集者の夫とハイセンスな会話を交わす芙美
中学生の息子を持つ専業主婦 桜子
不倫をして学者の夫と離婚係争中の純…の4人が
純の離婚騒動を機に自身の境遇を顧みて
“私が望む私の生き方とは何か?”を摑まえようとするさまが
ゆっくりと丁寧に描かれる。
濱口竜介はカサヴェテス『ハズバンズ』を観て映画監督を志したらしく、
40代の中年オヤジ4人の抱える人生を
30代後半の 人生の色々を一通り経験し
その経験が容姿に現れたもう若くはない女性4人に翻案して、
夫婦や親子や友人との関係性や 仕事との関わり方や距離感
それらが彼女らの幸福観にどのように関わっているのか…?等々を
妙に生々しい手触りで提出する映画に仕上げている。
この“妙に生々しい”は橋口亮輔『恋人たち』に通じていて、
無名の俳優たちが演じるドラマは
我々の周りの無数の他者の人生を覗き見る感覚を呼んで、
あるかもしれない人生を皮膚感覚で味わうことになるのだ。
ここでは不倫もSEXも嫉妬も羨望も諦念も焦慮も
何一つドラマチックに語られないのだけれど、
ドラマチックでないこと―
見知った俳優が演じていないこと―で
我々は登場人物の抱えるそれら複雑な感情を
“私に引き寄せて”感じ 考えてしまう。
この“私に引き寄せて”がまさに『ハズバンズ』なのだ。
おっさん4人の人生を客観視しているはずなのに
何やら哀しき共感を禁じ得ない感覚と同じなのだ。
愛だ 恋だ 成功だ 勝利だ 敗北だ 絶望だ…という
分かりやすさで人生は成り立ってはいなくて
それら色々な事情や経緯が照らされて落ちる陰影の中に人生はあって
時に苦く時に甘い滋味として感じる人生こそ
我々に親しいのではないか?
この映画の醍醐味はここにあるような気がする。
看護師あかりが指導する2年目のナースがめちゃくちゃよくて
あかりに対する尊敬や憧憬や萎縮が
作られつつある彼女の人生とその滋味を見せているようで、
15年後の彼女の物語としてこの映画が成ってもおかしくない…
そのように思わせるキーパーソンである。





「愛しき人生のつくりかた」 ’15 (仏)


監督・脚本:ジャン・ポール・ルーヴ 原作・共同脚本:ダヴィド・フェンキノス
m:ミシェル・ブラン,マチュー・スピノジ,ジャン・ポール・ルーヴ
f :アニー・コルディ,シャンタル・ロビー


上述の「ハッピーアワー」と正反対
作り込まれた人生の機微がコミカルに展開する楽しいフランス映画。
夫を亡くして老人ホームに入れられたおばあちゃんマドレーヌが失踪
仲良しの孫 大学生のポールは彼女を探して祖母の故郷を訪ねるが…というお話。
夫を失い生活環境が著しく変わってしまった老女マドレーヌ
真面目で善良だがはっきりせず頼りないその息子ミシェルは定年退職したばかり
思いやり溢れるその息子ポールはこれといった目標も野心もない大学生
3世代の家族のドラマは気持ちいいくらい作り込まれていて
嫌味なく笑えて 品よく愉快で
しかし気取ったところはないフランス映画で、
『男はつらいよ』的親しさがフランスで100万人動員―の理由なのでは?
ノルマンディーの景勝地が舞台だったりするしね。
ポールは「アントワーヌ・ドワネル」が働いたホテルで夜勤のバイトをするし
何者とも知れない若い男が恋愛で人生を拓くかも…
という『夜霧の恋人たち』的構成は
トリュフォーへのオマージュであるらしい。
アントワーヌ・ドワネルと比すと
ポールはあまりにいい青年すぎると思うけどね(笑)。





「氷の花火 山口小夜子」 ’15


監督:松本貴子


山口小夜子のドキュメンタリー。
07年に亡くなった彼女の遺品が収められたいくつもの箱を
出身校杉野ドレスメーカー女学院の学生が開くシーンから始まるのだが、
若い彼らは既に山口小夜子が何者か知らなかったりする。
パリコレに採用された最初の東洋人モデルで
資生堂のCMモデルとして一般に知られ
後年はアーティストとして舞台に立っていた
…くらいの知識しかない私にも、本作は非常に興味深いドキュメンタリーだった。
彼女の人生の概要を知ると共に
彼女がファッションモデルから表現者へ変容して行く過程が
きちんと摑まえられていたからだ。
山口小夜子の仕事や成功をなぞるだけでは…という懸念を覆してくれたわけだが
彼女が着て歩いてこそ服が完成するモデル―から
着て歩くことを身体表現と捉えパフォーマンスするアーティスト―まで
彼女が、いや彼女と彼女が創造した山口小夜子が共に変容して行くのを
夥しい数の服やアクセサリーや靴によって検証する画は楽しい。
ただモデルの仕事にしろプライベートにしろ表現者にしろ
つっ込みは薄めで
女神さまを崇めるだけの感じは否めない。
アーティスト山口小夜子にもう一つ寄ってくれると
彼女の人間にも迫れたのではないかと思う。
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