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2015年10月31日17:21

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「ミッドナイト・アフター」 「ハッピーボイス・キラー」

「ミッドナイト・アフター」 ’14 (香)


『メイド・イン・ホンコン』の陳果(フルーツ・チャン)の新作。
この人最近ホラーしか撮ってないみたい…。
本作もシッチェス映画祭ファンタスティックセレクション2015の1本。
深夜便の満席のミニバスがトンネルを抜けると
街の姿はそのまま人の気配がまるでない世界が広がっていた―
というサスペンスなのだけれど、
なぜ街は無人と化したのか? 次々と命を落とす乗客たちの身体に何が?
電話は通じずネットの記事も新規の更新が皆無なのはなぜ?
…等々の謎はまるで回収されないまま
原発事故とか異なる時空へのスリップとか乗客たちは既に死亡しているかも?とか
解決の糸口らしきものは置き去られ
何だか無駄とも思えるカーチェイスの末に
“九龍に帰ろう!”が全員の意思というかスローガンになっちゃったり、
すごく面白いけど全く腑に落ちないお話と展開なのだ。
でもね…いいのよ!(笑)
やっぱりフルーツ・チャンの撮る香港は抜群によくて
雑踏の巷も 人気の絶えた夜の街路も
ああ なんでこんなにいい画になるんだ…と思ってしまう。
その上本作はサイモン・ヤム,サム・リー,ラム・シュー,クララ・ウェイ…と
香港映画ファンには嬉しい俳優たちが活き 〃 と芝居をしていて
そのやや過剰なやかましいほどの広東語の台詞の応酬とアップの多用に
ドキドキしてしまうのだ。
行政長官選挙に言及する台詞があったり
原発事故が中国(共産党)の脅威を揶揄する風があったり
額面通りのSFではなく、実は政治的社会的色合いが強いような
…感じも確かにするけれど、そんな事どもは措いても
これは様々な要素で読んだり観たりできる大変面白い映画だと思う。
実は映画の原作はネット上に発表され人気を博した小説で
本作はその半分を映画にしたものであるらしい。
後半が映画化されたら
とっ散らかった謎が解けるのかなー??





「ハッピーボイス・キラー」 ’14 (米)


『ペルセポリス』のマルジャン・サトラピの新作。今度はアメリカ映画。
衛生容器(バスタブとか便器とか)の工場で働く出荷係ジェリーは
イヌとネコ2匹のペットと暮らし精神科医のカウンセリングに通うが
イヌに慰撫されネコに誘惑されていること(つまり彼らと会話していること)は
秘密だし、実は薬も飲んでいない。
その彼が恋をしたのは会計課のフィオナ。
彼女にデートをすっぽかされたジェリーが墜ちる陥穽は…というお話。
鮮やかな色彩に喋る動物たちやちょっとレトロな美術・衣装
コミカルな語りやミュージカル仕様によって
一見カワイイ系スリラーみたいな映画に見えるのだけれど、
ジェリーの病理とその症状がなんともリアルで
イヌネコがカワイイ分、女たちの生首が艶っぽい分、余計に
ジェリーの病の深さが暗く寂しく響いて来るのだ。
処方された薬を飲むと
恐ろしい現実が迫って来て生きているのが耐えられなくなる…という件りは
世界の残酷から身を護るために幻覚や幻聴が働いているということで、
自分を取り巻く“世界”が病者にとっていかに恐ろしいものであるか?が
見事に画になっていて唸ってしまった。
三宅乱丈のマンガ「 PET 」を思い出す。
アニメ「トムとジェリー」なんかに
耳元で悪魔と天使が囁き合戦をするシーンがよくあるけれど、
イヌは正しいアドバイスをし ネコは悪事に誘惑するという構図が
退いたカットでそのまま画になっていたりするから、
なんか解かりやすいだけに不気味だなー…と思ったり。
はねた鹿は瀕死の瞳で“お願い、殺して…”と懇願するし…ね。
ラスト ミュージカルになって愉快で楽しいエンドクレジットに導かれるけれど
ああ、ジェリー壊れちゃったのかな…
壊れちゃって幸せなのかな…と
ポップでキュートなCP(キューピー)スリラー―とチラシは謳うけれど
複雑な気分になる映画なのだった。
さすがマルジャン・サトラピ!と思わせる
佳作なんじゃないだろうか。
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