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2015年08月03日20:35

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「雪の轍」

31日は 「奪還者」、

1日は  「共犯」
      「それでも僕は帰る シリア 若者たちが求め続けたふるさと」を観に行きました。





「奪還者」、

『アニマル・キングダム』のデヴィッド・ミショッドの新作。
世界経済の崩壊から10年
無法地帯と化したオーストラリアの荒涼の中を
強盗団に奪われた車を取り戻そうと追い続ける男(ガイ・ピアース)と
強盗団のメンバーでありながら負傷して置き去りにされた男(ロバート・パティンソン)が
奇妙な関係性を醸成して行く
終末アクション映画…かな?
まずもって
『マッドマックス』じゃないか!と思ってしまうお話なのだが、
アクション映画とはいえ娯楽性は薄く
絶望の世界に生きる男たちの在りようが
ひたすら重く暗く摑まえられていて
『マッドマックス』のバイオレンスの爽快はここにはないのだった。
従って
面白いっ!とは言い難いが
『ノーカントリー』や『ザ・ロード』といった息苦しい映画の系譜に連なる映画…
と言っておきたい。





「共犯」、

『光にふれる』のチャン・ロンジーによる台湾映画。
ある朝登校途中に偶然女子高校生の死体を発見した
同じ高校生男子3人の物語。
少女の死の真相を探ろうとする3人を追いながら
彼らが抱える
時に生きていられないほどの
時に他者を貶めるほどの
痛みや絶望を掬い上げて行く。
先が読めてしまう部分はあるけれども
お話に吸引力があって大変面白い。
“心の闇”とひと括りにするには
彼らの在りようは子どもらしく脆弱であり
どの子がいつ崩れてもおかしくない
危うさに満ちている。
面白いけれど
ややエンタメによった作りで、チラシにあるように
『恋恋風塵』や『藍色夏恋』と並べて語るのはどうかな?
と思った。





「それでも僕は帰る」、

2011の民主化運動
アサド政権に抗するシリアの若者たちを追ったドキュメンタリー。
平和的なデモは政府軍に蹂躙され
サッカーユース代表の名ゴールキーパー バセットは
平和的な民主化運動のリーダーから
武器を取って戦う戦士となって行く。
死が日常であるような彼らの戦いに密着したカメラが映すものを
“世界”はいかにして受け止めねばならないか…?
を考えさせる
力あるドキュメンタリー。
バセットがカリスマとなって行く過程
カリスマであるが故の苦悩
それはまるで
「闘将スパルタカス」のようなのだ。
今この時にも
シリアで戦う彼らの命が喪われている!―と声をあげる映画なのだ。






「雪の轍」 ’14 (トルコ・仏・独)


監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
脚本:エブル・ジェイラン,ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
m:ハルク・ビルギネル,ネジャット・イシレル,セルハット・フルチ
f :メリサ・ソゼン,デメット・アクバァ

’14 カンヌ国際映画祭 パルムドール大賞,国際映画批評家連盟賞


ユルマズ・ギュネイ『路』に続いて
トルコ人監督としてカンヌで大賞を受賞したヌリ・ビルゲ・ジェイランは
数々の受賞歴がありながら日本公開がなされなかった監督であるらしく
本作が初めての鑑賞。
カッパドキアで洞窟ホテルを営む裕福な元俳優アイドゥンの物語は
特に何が起こるわけでもない。
アイドゥンとその若い妻ニハル、
アイドゥンと実家に出戻っている妹ネジラ―
二人の女たちとの火花散る会話劇を軸に
借家人とのいざこざに関わる人々
ニハルが進める慈善活動に関わる人々
ホテルの宿泊客…らとの会話が、
本格的な冬を目の前にしたカッパドキアの風光の中に紡がれて行くばかりなのだ。
監督本人がチェホフの作品を元に脚本を書いた―と言っているように
アイドゥンが舞台俳優であったこと
トルコ演劇史の執筆を企図していることと相俟って
本作は嫌というほど西洋演劇的であり、
「言葉」はコミュニケーションではなくディスカッションのツールである。
酷薄とも言える言葉の応酬が
それぞれの“人間”を晒して行くのが見事であるのだが、
チェホフに見える人品の恥ずかしさや情けなさやおかし味は殆どなく
替りに
ドストエフスキーの知性が会話劇の色調を決める。
居心地が悪くなるような会話の積み重ねは
アイドゥンという教養高く物腰柔らかく慇懃で思慮深く優しい男が
インテリの矜持に拠って生きる“力なきインテリ”に過ぎず
自身の“力のなさ”に打ちのめされることさえ
インテリの矜持として耐えて行くしかないことが
「洞窟」「冬の到来」といった閉塞の象徴
「野生の馬」といった美と自由の象徴を映す映像の中に
哀しみのように羞恥のように浮かび上がるのだ。
借家人イスマイルの幼い息子の不屈の瞳に抗することが決してできない
アイドゥンの矜持は、
イスタンブールの先進と洗練しか支えてくれない。
そのイスタンブールを回避して洞窟に戻るアイドゥンに
無垢な善良さを否定された妻は、
インテリの仕事たるトルコ演劇史の執筆は、
応えてくれるのだろうか…?
知的である―ことが
頭でっかちではなく強力な魅力であるような
力ある知性派の映画である。
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