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2015年05月19日13:37

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正史にオマージュ 第104回



終章 事件が解決したあとで(承前)



 事態の推移についていけない。松男叔父の本名がドミンゴ。池添の名前がアキラ。ホルヘ・ガルシアというのは、溺死したワニブチのことなのだろうか。迷彩服の男の質問に、誰が答えるべきなのか分からず、祖父に目をやると、祖父は力のない表情で顔を私に向けていた。どうやら、ここでも、話すのは私のようだった。
「確かに、イサク・オゴオリは行方不明です。クニマツ・マツラゴウ、ケンジ・イケゾエ、それからワニブチという人は死にました。マツオ・マツラゴウ……あっ、ドミンゴ・マツラゴウか……その人もです。トシマツ・マツラゴウはここにいますが、見ての通りの病人ですから、訊問は無理ではないでしょうか」
 弟子待(でしまつ)がいつも以上の早口で通訳し、ロドリゲス中尉はうなずきながら耳を傾けている。ディオスが耳元で囁いた。
「あなたが歳松さんのお孫さんだと、説明しています」
 その瞬間、黒人兵の銃口がディオスを威嚇した。ディオスはさっと両手を上げて、スペイン語で早口に喋りながら、私から離れた。ロドリゲス中尉が、また、なにか喋った。
「サダコ・ナカクラはいるか。七十七歳、女性、国籍日本となっている。……もしかして、キリストばあさんじゃないですかね」
 弟子待が最後に自分の考えをつけ加えた。私は初めてキリストばあさんに会った日に、彼女がバスケットを持っていたことを思い出した。
「名前は分からないけれど、該当しそうな女性がいて、やはり死んでいると言ってください。三十分もらえれば、確認できるかもしれない。彼女のバスケットがあるはずです。パスポートを見れば、名前が分かる」
 弟子待はバスケットの存在を知らなかったらしく、目をまるくしたが、すぐに通訳した。
 ロドリゲス中尉は弟子待の通訳を聞くと、顔を曇らせた。不審そうに何か言った。
「この村はなにか災害でもあったのか。なぜ、みんな死んでいるのか」
 私は言葉に詰まった。殺人事件のことを話してもいいものか、判断がつかなかったのだ。戸惑っているうちに、ディオスがスペイン語でまくしたてた。弟子待が、私のために日本語に通訳してくれた。
「悲しい事件が相次いだのだ。サダコ・ナカクラと思われる女性は、村の女性に銃殺された。犯人の身柄は村で確保してある。ドミンゴ・マツラゴウは病死だ。ワニブチ、イケゾエ、クニマツ・マツラゴウの三人も、殺人事件の犠牲者だ。こちらの犯人も確保している。――って、本当ですか。ま、それはあとで。(ここで、中尉が口をはさんだ)その三人はテロにあったのかと訊いてる――いや、そうではない。私的な動機による殺人だ。政治的な理由ではない。このあたりは今朝まで数日間天候が悪かったので、犯人を警察に引き渡すことが出来なかった。これから、すみやかに行うはずだった」

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