２７日は「滝を見にいく」、
２８日は「TATSUMI マンガに革命を起こした男」
「ジェイソン・ベッカー 不死身の天才ギタリスト」を観に行きました。
「TATSUMI マンガに革命を起こした男」、
相当なマンガファンでも 辰巳ヨシヒロを知っている人は少ないんじゃないか？
０９年の自伝的エッセイマンガ「劇画漂流」と
６０〜７０年代の短編５編を原作の絵をそのまま動かす手法のアニメーションで見せる。
思惟太でさえ辰巳作品のよき読者ではない。
今回の５編も読んだ記憶がない。
しかし「劇画漂流」は実に興味深く読んだし
あの長大な作品をシンガポール人のエリック・クーがアニメ映画化というのに
本当に驚いている。
「劇画漂流」や短編の真髄は的確に抽出されアニメ化されていて
その精緻な出来から
辰巳ヨシヒロの作品自体が読者に思考や情動を喚起する力を有していることが明らかだ。
マンガ(劇画)には
ただ面白い面白くない以上の 確かな"よさ"があるのだ。
マンガファンだけでなく
多くの人に観てもらいたい真摯な作品である。
昭和の純文学を読んだ印象を得られる映画である。
「ジェイソン・ベッカー 不死身の天才ギタリスト」、
驚異的なギター演奏で１０代にして成功を手にした天才ギタリスト
ジェイソン・ベッカーのドキュメンタリー。
音楽音痴の思惟太はもちろんこの人を知りませんでしたが、
相棒だったマーティ・フリーマンは知ってる。
それはともかく
豊富な映像資料が明らかにするジェイソンのギターテクニックに
震え上がりました！
もちろん練習の鬼なんだけど
やっぱり天才なんだと思う…。すごすぎ！
そのギターを弾くために生れて来たような男の子が
若干２０歳で世界デビューを目前にして
「ＡＬＳ」を発症してしまう。
その絶望を思うと…。
映画は順風満帆のギター人生と
家族や友人たちに支えられた闘病生活を時系列に添って描いているのだけれど、
難病ものの感動作…ではなく
ジェイソン・ベッカーの才能と人間に敬意を表し
ジェイソン・ベッカーなるギタリストを称揚するものになっていると思う。
天才ギタリストの伝記として
ＡＬＳ患者の闘病記として
一人の表現者の絶望と苦悩と再生の物語として
いくつもの読解を提供してくれるドキュメンタリーだと思う。
「滝を見にいく」 ’14
監督･脚本：沖田修一 撮影：芦澤明子 照明：御木茂則 録音：高田伸也
美術：寺尾淳 衣装：馬場恭子 ﾍｱﾒｲｸ：田鍋知佳 編集：佐藤崇
音楽ﾌﾟﾛﾃﾞｭｰｻｰ：安井輝
ｍ：黒田大輔
ｆ ：根岸遥子，安澤千草，荻野百合子，桐原三枝，川田久美子，��納敬子
渡辺道子
’14 東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門 スペシャルメンション
『南極料理人』『キツツキと雨』『横道世之介』の沖田修一の新作。
紅葉の妙高山で幻の滝を見て温泉に入ろう！というバスツアーに参加した
中高年女性７人が山の中で道に迷う…だけのお話。
おばちゃんばかり７人が山の中で道に迷ったら面白いだろうな…
という沖田修一の発想だろうが、
その思い付きをこんなに見事に愉快なドラマに仕立てるのだから
沖田修一の群像劇の手腕に惚れ 〃 してしまう。
で、７人というのは もちろん
『七人の侍』に通じているのだと思う。
そっくりなカットに笑ってしまったもの(笑)。
一人も知ってる女優さんがいない…と思ったら
演技経験のない素人も含めて全員オーディションで選ばれたご婦人方で、
知らないから ホントにその辺のおばさんがバスツアーに行ってるのを眺めている感じで
“年輩の女優さんの共演”という華々しさに煩わされず
おばさんの自然な生態観察を楽しめるのだ。
身の上話を語って一人 〃 の個性や背景が明かされる…わけではなくて、
バスの車中や山歩きの途上の会話や行動から
彼女らの性格や背景がそこはかとなく浮上するのが上手い。
突出した美貌や特技があるわけではないけれど
いるよなぁ…こんなおばさん…と思わせる造形が楽しくて、
鬱陶しかったり面倒くさかったり厄介だったりすることも含めて
沖田修一の人間観察はどこまでも庶民目線で優しい。
頼りないツアーガイドとはぐれて
最初こそ個性や関係性がもつれたりするけれど、
さて野宿―という段になると団結しちゃって
まぁおばさんたちのバッグやリュックからは何でも出て来て、
お菓子や食べてしまったお菓子の袋(貴重な塩分が残っている！)や
レジャーシートやソーイングセットやホイッスルやコンパスや
森林散策ガイド本(キノコや木の実の鑑定！)なんかが
何となく役に立ってしまう。
これが男性だと、必ずサバイバルナイフを持ってる人がいて
野外活動のスキルの高い人がリーダーシップを発揮したりするんだろうが、
“遭難”という結構深刻な事態もおばさんたち(複数なのが重要！)は
まぁ何とかなるんじゃない…と いたって鷹揚な構えで臨んじゃうところが
あるある感を裏書きしてしまう(笑)。
レジャーシートと枯葉にくるまって寝たまま
「恋の奴隷」を大合唱するところは爆笑ものである！
７人のおばさんたちが“あなた好みの女に〜なりたい〜♪”と声を張り上げるんだもの(笑)。
夜が明けて寝起きのくしゃくしゃ顔が７つ並ぶ画も笑える。
顔を洗って口をゆすいで焚火のお湯でインスタントコーヒーを飲んで…という
日常の続きみたいな朝の光景と裏腹に、
おばさんたちは「お嬢さん！お入んなさい！」となわとびを始めたり
亡き夫を夢見てまどろんだり
蛇を見つけてキャーキャー言ったり
太極拳を始めたり…
おばさんをおばさんたらしめている地上の理から離れて、
まるで少女のように華やいではしゃぐのだ。
ファンタジーみたいだが、
実は女というのは基本的に“少女”成分からできていて
どうかしたはずみに
おばさんから“少女”がダダ漏れすることだってあるのだ。
おばあちゃんがすごくカワイイ♡ ことがあるように…ね。
さて、ヘリでの救助はイヤだなぁ…などと言っていたおばさんたちは
自力での下山を目指すのだけれども、
途中正規のハイキングコースを発見すると
“みんなで滝を見にいく”ことにするのだ。
客観的には相当ひどい目に遭っていると思うのだが、
おばさんたちは晴れ晴れと滝を眺めて
“ステキね〜。来てよかったわ〜♡ ”とひとしきり感動する。
ね、“少女”成分漏れてるでしょ？(笑)
ここでガイドと再会、無事帰途に就いて映画は終わる。
有名俳優が一人も出ていない―
おばさんが道に迷うだけのお話―なのだが、
こんなに手応えのある愉快な映画体験は稀少だと思う。
なんだか
おばさんたちと一緒に「紅葉の妙高山滝見ツアー」に参加して帰って来た…ような
充実感、満足感を得られるのだから。
１２月のこの時期にこんな作品と出会うと
「年間ベストランキング」に影響しちゃうなぁ…と思ってしまう
良作である。
ログインしてコメントを確認・投稿する