かみであるお話。

２年ほど前に，mixiのこの日記で，中島梓氏の評論と宮部みゆき氏の意見とに触れたことがある。
（http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1407782110&owner_id=2230648「つくりこむお話。」）
今回の日記は，その焼き直し版。

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中島梓「わが心のフラッシュマン」（ちくま文庫54頁）
（引用開始）
文学を書く分には，べつだんただマルクシストであるだけでも，なんの痛痒もない，小林多喜二であればいいのだが，物語は，つまり曹操も劉備も孔明も司馬仲達も，みんな書けねばならぬ。（中略）なぜなら，文学とは，ある一つの「世界解釈」であると思うが，物語とは「世界」そのものを内包し，同時に世界に包括される，「世界」のホログラフィーにほかならぬからである。
（引用終了）

結局のところ，物語の作り手は，ある特定の存在にその感性を委ねてはならない，ということなのだろう。
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宮部みゆき「解説　気配りと頑固さと」（北村薫「覆面作家は二人いる」角川文庫所収）
（引用開始）
主役はもちろん，脇役のどんな小さな役回りしかない人物に対しても，作者は親切でなくてはならない。丁寧でなくてはならない。言葉足らずであってはならない。（中略）「名探偵」の役を振り当てられた役者には，どうしたら名探偵になれるか，一緒になって役作りをしてあげなければなりません。「被害者」役の役者には，殺される場面ばかり熱心に演出するのではなく，それ以前のささいなシーンでも，彼または彼女の人生が浮かび上げってくるように，立ち位置から台詞回しまで，丁寧に考えてあげなければなりません。
（引用終了）

宮部みゆき氏のこの意見を，中島梓氏の意見を具体化したものして結びつけて理解するのは，私が両方の意見に親近感を感じるからに過ぎないのだろうか。
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映画とか，小説とか，漫画とか，ＴＶドラマとか，アニメーションとか。
面白くないフィクションにおいて，その面白くないことの理由がどこにあるのだろうと考えたとき，私は大抵，この，「世界の作り込み」の不十分さにつきあたる。
つまりは，ご都合主義。

中島梓氏は「物語は『世界』を内包する」と評した。
とすれば，そこに内包される「世界」は「世界」と称するに足りるほどに作り込まれていなければならないだろう。

例えば。
物語世界における全知全能の創造主たる作者が
「俺がこう思っているんだから，登場人物がここでこういう言動をしたって構わないんだ」
とばかりに，つい先ほどまでとっても大人しくて奥ゆかしくて内気で控えめで物静かだった登場人物が，（物語展開の都合により）突如としてなんの脈絡も必然性もなく，五月蠅くて乱暴で出しゃばりで騒々しい性格に変貌する，なんてことがあると。
そんな乱暴な物語は，読者・観客についてきてもらえないだろう。
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ご都合主義に堕ちることなく，物語世界を「世界」として構築しようとするならば。
ありとあらゆる事柄をきちんと感じ取り，きちんと想像すべく努力しなければならないのだと思う。
しかし，そういう優れた創作物に，あまりお目にかかれなくなってしまったような気がする。
（いや，べつに，クトゥルー神話のような独自の架空世界を構築せよ，ということではなく。）

反面，創作物を迎える読者・視聴者のほうも，創作物の「世界」への理解力が不足しているのではなかろうか。
私の目から見て，明らかにご都合主義に堕していると思われるフィクションが，ベストセラーになったりもするので。
（まあ，私が偉そうに言うことでもないのだけど。）
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そもそも，他者の存在に対する想像力の不足・不在という，中島梓氏が「コミュニケーション不全症候群」と呼んだ事象が蔓延するこの社会では，そういった優れた創作物を生み出しうる作者もまた，生まれにくいのかもしれない。