mixiユーザー(id:6606597)

2012年03月22日20:57

46 view

三題噺「雲、抹茶サブレ、アリンココロリン」

今度のお題は、ラノベの「文学少女シリーズ」で出てたお題をそのまま持ってきた。
アリンココロリンってたしか防虫剤だったよねー、と思いながらググったら、けっこう同じお題で三題噺書いている人がいる。
あとで読んでみよう。
私のは、なんか若造の青春グラフィティ、みたいな感じになった。
で、青春グラフィティってなに?
オチがぼんやりした感じになったので、もしかしたらぼんやりしたオチのお話を総称して、青春グラフィティ、っていうのかも知れない。
-------------------------------------------------------------

三題噺「雲、抹茶サブレ、アリンココロリン」

朝から女子たちが教室で抹茶サブレを食べながらアリンココロリンの話をしていた。
で無気力に机に伏せっていた俺は「アリ専用の防虫剤なんてものがあるのか」とか、「よくそんな防虫剤の商品名まで知ってるもんだな」などとひそかに感心したりとかして、女子たちの話を聞くともなく聞いていたわけだ。てゆーか、聞くまいとしても耳に入ってくんだよな、あいつら声高ぇし。なんかアリが大量に出てきたから、先生たちが退治しようって算段してるらしい。お前らホントその情報どこから仕入れてくんの?
「朝からよくあんなもん食えるよな」と俺を小突いた伊藤は、抹茶サブレの方に食いついた。いや実際に食いついたわけじゃなくて、話題としてな。わかってると思うけど。
「欲しかったら頼んだらいいんじゃね」と伊藤をチラ見する。
「はあ? 俺の話、どう聞いたらそうなんの?」
俺は身体を起こして女子に向って話しかけた。
「あのさあ、伊藤がその抹茶サブレ、一枚欲しいってさ」
「おっ、バカ、てめえ……!」
女子が一瞬会話を止めて顔を見合わせ、どっと笑った。
顔を赤くして伊藤が食ってかかってくる。
「っざけんなよてめ、一体どういうつもりでっっ」
「別にいーよー、ほら」と女子の一人が笑いながら抹茶サブレの箱を差し出してきた。
「え? いいの?」
途端に喜色満面の笑顔で態度をひるがえす。
「いやあ、なんか悪いね」
伊藤は片手チョップを「ハイごめんハイごめん」の形にして目の前の空気をちょんちょちょんと軽く切る仕草をしつつ、腰をかがめて女子のグループの方に近付いていった。
抹茶サブレのためにそこまで卑屈になれるのか、と思いつつ、俺はなんだか羨ましくて、思わず顔を背けていた。
別にそれがずっと尾を引いてた訳でもないのだろうが、それから以降、ホームルーム、一限目、二限目と、妙に気がふさいでテンションが上がらず、昼飯もそこそこに伊藤らの誘いを断って教室を抜け出した。
校庭のフェンスに寄りかかってしゃがみ込み、雲が流れていく様を眺めてホッと息を吐く。訳のわからないムシャクシャは、空を眺めていれば霧散する。霧散して、拡散して、透明になって――――時には自分の中が透かし見えてきたりする。
「……ああ、そうか」と俺は我知らず呟いていた。
訳のわからないムシャクシャなんかじゃない。なんでこんなに落ち込んでんのか、自分でもわかってはいたんだ。ただ、わかっている事に気付いていなかった。いや、気付かないようにしてたんだな。
俺もやっぱり、伊藤みたいに抹茶サブレがちょっと欲しかった。ただそれを口に出すのが恥ずかしかったから、伊藤をダシに使ったんだ。いやもちろんそれが問題なんじゃない。そんな事で高校生にもなってここまで落ち込んだりしない。問題はその見え透いた浅ましい嘘を、女子たちに見透かされているような気がした事だった。本当は自分が欲しいくせに、伊藤のせいにして、見栄はって……女子にそう思われたんじゃないかと思うと、恥ずかしくて情けなくて、消えてなくなりたくなった。
と、俺の憂鬱は、たぶんそういう事なんだろう。
自覚するとすっきりした部分もあるが、あらためて恥ずかしくなって情けなくなる。
抹茶サブレごときに、はあ、俺、ダッセぇ……教室に戻りたくねえ。
盛大なため息とともに頭を抱えてうつむく。その視界の先に、アリの行列があった。
俺は別にアリの行列なんかに興味のある人なわけじゃない。が、そいつらが何か緑色のカケラのようなものを運んでいるのに気がついて、気持ちが引き寄せられた。
これ、もしかして――――
ぐぐっと顔を近づけて確認し、確信する。
これ、抹茶サブレじゃねえか。
ちょっ、ちょっと待てよ。
校舎の方に目をやって距離を確認する。アリの寸法で考えると、結構な距離だ。
え? つまり何? まさか、女子どもが朝食べてた抹茶サブレのカケラを、こいつらが拾って今ここまで運んできたってこと?
ほえ〜〜〜
なんか……なんかすげえ!
急にテンションがあがってきた俺は、思わずケータイ出して写メに撮った。抹茶サブレが抹茶サブレだってわかるくらいにズームアップして……うーん、写メにすると今一つピンとこねえな。伊藤やあの女子どもに見せてやりたかったがこの感動はとても伝わりそうにない。
ちっ、残念だな。
しかしでっけえカケラだな。ボロボロこぼして食ってんじゃねえよ、行儀の悪ぃ。にしてもこいつら、この抹茶サブレをどこまで運ぶつもりなんだ?
行列の連なる先をたどって目線を移動させると、その行列は花壇のある方向に向かっているようだった。
そこに、教師たちが集まっているのが見えた。
女子たちがアリンココロリンの話をしていたのを思い出す。
俺は。
――――教室に戻ると、伊藤たちはもう戻っていた。
「よう、一人でどこ行ってたんだ?」
「いや、別に。たださ」はあ、と大きくため息をつく。「なんかさ。なんか世の中、ままならねえよなあって」
「そうか?」
そう答える伊藤の声が、物を食いながら喋っている風にくぐもって聞こえたのでふと見ると、抹茶サブレの箱を抱えて食っていた。
「……お前それどうしたの」
「四限目ふけて買ってきた」満足げな笑みを浮かべて答える。
「すまん、お前には全然関係ない話だった。てゆーか、それ一個よこせ」
「いや」
気がつくといつの間にかへこんでいたのがなくなってて、なんでへこんでいたのかもよくわからなくなっていた。そういう青春の一日。
0 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2012年03月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031