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2023年04月19日01:57

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【映画日記】『『幾多の北』と三つの短編』、『メグレと若い女の死』

 4月18日、火曜日。

 起きてから、しばらくの間、グロッキー。久方振りに長時間眠られたが、悪夢が酷くて。この<悪夢>というのも、服用している眠剤の副作用であるとか。眠剤、減らしたいのだけれどもなあ……

 夕刻、外出。

 まずは第七藝術劇場にて1プログラムを鑑賞。


●『『幾多の北』と三つの短編』

 日本が世界に誇るアニメーション作家&絵本作家である山村浩二の監督作&プロデュース作を集めたオムニバス・アニメーション。山村浩二は、短編『頭山(あたまやま)』が2002年度の米アカデミー賞短編アニメーション映画賞部門にノミネートされた時に、広くその名を知られる事になった。以降、僕は『カフカ 田舎医者』、『年をとった鰐』、それから全9作の短編集『山村浩二 右目と左目でみる夢』を劇場で観ている。

 今回上映された4作品は……

・『ミニミニポッケの大きな庭で』(監督:幸 洋子、プロデュース:山村浩二、7分)

 【自身の日記を落書きのように大胆に描いたアニメーション詩】という触れ込みだが、僕にはイマイチ、ピンと来なかった。残念。


・『ホッキョクグマすっごくひま』(監督:山村浩二、7分)

 【<すっごくひまなホッキョクグマ>が、様々な生き物に出逢っていく過程が綴られる】というもの。

 <『鳥獣戯画』の海洋版>といった趣き。日本語と英語の言葉遊びによるテクストも微笑ましく、墨絵で描かれた画も可愛らしい。わりあいに好き。


・『骨嚙み』(監督:矢野ほなみ、プロデュース:山村浩二、10分)

 2021年開催の第45回オタワ国際アニメーション映画祭で短編部門グランプリを受賞した他、世界中の映画祭で28もの賞を受賞した作品。

 【日本のとある島。父親のお葬式で、少女は父と過ごした最後の夏を思い出す……】というスジ。

 点描による画力の物凄さに圧倒された。製作期間は2年に及び、その間、紙の表にも裏にも色を打ち続けたという。監督自身の経験が基になっており、自らの過去と向き合った作品になっている。郷愁漂うカラフルな一篇。


・『幾多の北』(監督:山村浩二、64分)

 日本とフランスの合作作品である。監督、原作、脚本、編集、作画、合成、ビジュアルエフェクト、彩色、背景美術を山村浩二が兼任した渾身の力作だ。64分。堂々の大作である。

 【全ては北である】という抽象的な世界観の中で展開される<旅>。そう、これは<観る旅>だ。ナレーションも台詞も排し、繊細なアニメーションとスクリーンに表示される暗示的なテクスト、そして、ウィレム・ブロイカー(故人)の音楽で構成されている。アート・アニメーションの真髄を体感した思い。これが山村浩二の底力だ。凄い。


 鑑賞後、すぐさま移動。丁度、ほどなく大阪駅行のバスが来るというタイミングだったので、シネ・リーブル梅田に向かう事にした。帰宅するには50分程もバスを待たなくてはならなかったのだが、丁度、リーブルで観たい作品のタイムテーブルがピタッと合ったので。

 この日に上映が発表となったウォン・カーウァイ監督の中編『若き仕立屋の恋 Long Version』(56分、1週間限定上映予定)は、本当に急に決まったらしい。よって、チラシすら無かった。宣材、皆無。出来れば観たい。

 さて、お目当ての作品は……

●『メグレと若い女の死』

 新世界国際劇場の三本立で掛かるかどうか微妙なところである。が、観逃したくないので封切で押さえておく事にした次第。

 フランス映画界にこの人在り! パトリス・ルコント監督、『暮れ逢い』(2013年)以来、約10年振りとなる久々の日本公開作は、ジョルジュ・シムノンによる世界的大ベストセラー・シリーズ<『メグレ警視』シリーズ>から、シリーズの中でも名作の誉れ高い同名小説(早川書房:刊)の映画化!! ルコント先生とシムノンの組み合わせは、傑作『仕立て屋の恋』(1989年)以来、2度目となる。これだけでウキウキワクワクである。

 ここで気になるのは「メグレ警視は誰が演るん?」という点であろう。これがまあ、ジェラール・ドパルデューなのである。原作シリーズのファンなら、ここで膝を叩くに違いない。これ以上無い程にイメージにピッタリでは無いか!! この時点で7割方、勝ちである。メグレ警視のキャスティングに関しては文句無しに満点を差し上げよう!!

 ジェラール・ドパルデュー。一時期は<フランス映画界の魂>と謳われた名優だ。僕は、この俳優が大好きである。が、苦い思い出が一つ……(←前にも書いたが……)

 あれは、1996年の秋。この年の東京国際ファンタスティック映画祭は、当初はスルーを決め込んでいたのだが、突如、<ジェラール・ドパルデュー来場決定!!>という報が飛び込んで来た。秀作『俺たちは天使だ』の映画祭上映に合わせての来日だという。

 「一目、見たい!! 生でジェラール・ドパルデューを見たい!!」と思った僕は、即座に夜行バスのチケットを予約し、他の上映作品や、同時開催だった東京国際映画祭の上映作品も併せてチケットぴあで出来るだけ予約をし、常勤アルバイトの日数を増やした他、臨時で超短期のアルバイトも幾つかこなして旅費&遊興費を用意した。準備は万全である。

 しかし、当日、期待に胸を膨らませて、ファンタの上映会場であった渋谷パンテオンに足を運んだのだが、上映前に映画祭の総合プロデューサーである小松沢陽一さんが舞台上で哀しい報告を……


小松沢さん:「ジェラール・ドパルデューさんは、飛行機事故に遭ってしまい、来日が出来なくなりました……」


 「えーー……」である。感嘆符を付けても良い程、ショックであった。頑張って、バイトしたのに。期待もしたのに。ホンマ、「えーーーー……」である。

 しかし、この後、小松沢さんから嬉しい報告が。


小松沢さん:「ですが、そんな大変な状況の中…… 飛行機事故に遭われたというのに…… ジェラール・ドパルデューさんはビデオレターを送ってくれました。そのビデオレターを今から上映します!!」


 ここで僕は、「ビデオレターか。飛行機事故に遭ったというのに律儀な御仁であるな。それよりも何よりも、お身体は大丈夫なのだろうか……? 心配ぞな……」となった。そしてビデオレターが上映…… 直後、スクリーンに映し出されたドパルデューの姿は……


ドパルデュー:「ボンジョォォ〜ルノぉ〜〜〜っ♪」(←満面の笑み&ワイングラス……)

 
 <病院のベッドで包帯まみれになっている名優>を想像していた僕にとって、この<めっちゃ陽気で責任感皆無なおちょけ振り>は、ヒジョーーーーに癇に障ったものである。

 以降、「(日本語訳)今回は日本に行けなくてとっても残念だよ、飛行機事故でぇ〜〜♪」、「今度はちゃんと行くからね。身体? お陰様で大丈夫だよ。心配させてごめんねー」的なメッセージを見せつけられ、僕は憤慨した。

 「やかましいわ、このペンギンでぶっ!!!!!(怒)」ってなもんである。そうだ、こんなに人を馬鹿にしているフレンチ野郎を名優だなんて崇め奉る事など無い! 見たまんまだ。こいつは<嘘つきなペンギンでぶ>だ!!! もう大嫌いだっ!!(←念のために書いておくが、僕のドパルデューに対するファン心の根幹は「Love」では無い。「Like」である。尚、デブ専でも全く無い。誤解は避けたい。^^;)

 と、当時は心の中で激昂し、その夜は新宿のクラブで盛大に呑んだくれつつ踊りまくったものである。「あのペンギンでぶっ!!」と、何度もビデオレターに収められていた<アホみたいな満面の笑み>を思い出しつつ踊り狂ったのである(←この頃の僕の呑み方&遊び方はタダでさえ酷かったものである)

 であるのに、それ以降もジェラール・ドパルデューの新作映画なると、いつも気になっている。観逃す事も多くなったが、でも好きな俳優で在り続けているのだ、僕の胸中では……(←だから、助演作品で現在上映中の『幻滅』も観たいし、6月にリバイバル上映される『ゴダールの決別』も再見しようか思案中なのである)

 と、そういった中での主演作である。それも【未体験ゾーンの映画たち】といった<本来なら劇場未公開で終わりそうな作品を集めた、ひと山ナンボ的な特集上映>ではなく、単品公開作である。おまけにメグレ警視役で主演と来たもんだ♪

 「ペンギンでぶが、ペンギンでぶである事を最大限に活かしている!!」というわけで、僕は心底から、この<ペンギンでぶ>に心を開いた。

 そういった経緯があっての本作である。


【ある日、身元不明の若い女性の刺殺体が発見された。それは、一点物の美しいヴィンテージ・ドレスを纏いながらも、その他の着衣や持ち物は貧相というアンバランスなものであった。遺体には5箇所もの執拗な刺し傷。犯人は恐らく左利き。それ以外は、ほとんど手掛かりが無い中で、フランス警視庁犯罪捜査部のメグレ警視は事件の真相を追う。やがて、少しずつ被害者の人物像が浮かび上がってくるのだが……】というスジ。

 上映時間は89分。「観客が退屈するのが怖くて、100分以上の映画はなかなか撮れないんだ」と公言しているルコント先生らしいコンパクト振りである(←例外はあるが、それでも最長は『サン・ピエールの生命(いのち)』の112分だ。殆どの監督作品が80〜100分台である)

 ルコント先生も渋くなった。「これは枯淡の境地か」と思わせる、黒味を基調とした画作りが、実にムード満点で良い。影の捉え方もお見事だ。

 語りはカッチリ。遊びが無く地味に映る。メグレの捜査も、<じっくりコツコツ>といった風に地道なもので、ケレン味も殆ど無い。しかし、この淡々とした作りが良い。ジェラール・ドパルデューは、これ以上に無いハマリ役。彼を超えるメグレ役者は、もう出てこないのではないだろうか? ビジュアルのハマリ具合に限って言えば、かのチャールズ・ロートンやジャン・ギャバンをも超越している。最後の最後、背中で語るジェラール・ドパルデューに名優の本領を見た思いがする。余韻の有る素晴らしい幕切れだった。

 ミステリーなので、ネタを完全に割ってしまうわけにはいかないが、一言で言うと、本作で扱われるのは<通常とは「逆」な事件>である。そこにメグレの捜査・推理が到達した瞬間に訪れる充足感は、ミステリー・ファンには堪らないものがある。

 惜しむらくは、若手の女優陣がイマイチ華に欠けるという点。<女優を魅力的に撮る>というのがルコント先生の真骨頂であったはずだが、本作では、その才能が活きなかったと感じた。アンナ・ガリエナ、サンドリーヌ・ボネール、ファニー・アルダン、シャルロット・ゲンズブール、ヴァネッサ・パラディ、ジュリエット・ビノシュといった女優たちを更に煌めかせていた手管の妙が本作には見られない。といった中で、ベテランのオーロール・クレマンが名バイプレイヤー振りを発揮していてよかったけれど。

 けれど、期待を裏切らない程度には楽しんだ。ただ…… 大阪では3週間で公開終了。それも最後の1週は1日1回のみ&1日置きに上映時刻が変わるという変則上映となった。ルコント先生が最も日本で輝いていた頃は、やはり1990年代だったよなあ、って。ミニシアター・ブームと共に、我が国ではルコント・ブームも過ぎ去ってしまったのだなぁ……(←本作はフランスでは大ヒット♪) 少し寂しい……

 でも、<ペンギンでぶ>は頑張っていた♪(←多分、一生言う……^^;)

 この日は、第七藝術劇場、シネ・リーブル梅田、大阪ステーションシティシネマで新作映画チラシを収集。

 鑑賞後、帰宅。

 以上である。


<左添付画像使用許諾:2021(C)Yamamura Animation/Miyu Productions>
<中&右添付画像使用許諾:(C)2021 CINE-@ F COMME FILM SND SCOPE PICTURES.>
 
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