私の名前は川口民雄。子どものころから、周囲から浮いていた。学校の成績は低空飛行で、お情けで卒業させてもらった。小学校低学年のころからごく普通に生きられないと堪忍した。なんでみんなと同じことができないのだろうか。学校時代の運動会、学芸会、展示会、修学旅行で、周囲のクラスメートと同じ行動をとるのに、非常に神経を使った。仕事をいくつか渡り歩き、発達障害を支援するNPOで働いている。大人になって、検査を受け、検査の結果で、読み書きはかなり厳しいことがわかった。発達障害当事者は別に努力して、普通に見せようとしても、無理である。例え給与は低くとも、暮らしていければ、文句はない。この仕事は自分に向いているようだ。発達障害トラブルシューティングが仕事になった。
川口の独白、港から船を見ながら、思いついたように。
「ああ、今年も終わりか。今まで、何をやってきたのかな。発達障害者の相談に乗って、支援してきたけど。実は自分の方が就職相談したいぐらいだ。なんとか解決した案件でも、本当に解決したか、わからないし。来年も仕事があるかわからない。NPO自体、資金繰りに困っているようだから、いつまで活動できるだろうか」
飛んでいるカモメを見て、又つぶやく。
「自由に飛んでいるカモメはいいなあ。俺もあんなになりたいな。だけど、仕事があるうちは働くさあ。又、新しい希望があるかもしれないから。寒くなってきた。家に帰って、ゆっくり、夕食を食べ、風呂へ入って、寝よう」
川口は港から家路についた。来年はどんな事件に巻き込まれるだろうか。
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