ごめん、ごめん。
今朝はあなたと会話したくない。
朝の張り詰めた空気の中、車から降りて私は思う。
ロッカーで着替えながら私は思う。
今朝は本当に会話したくない。
でも。
タイムカードを押すために待つ場所にたどり着くと、数分と待たずして彼はやってくる。
無視できない。
話しかけられて無視できるほど、私は強くない。
彼は会話がすべて疑問形で、内容がすべて自分が過去に遭遇したことばかり。
僕ワンピース見た?
僕自転車乗ってた?
僕買い物行ってた?
僕?僕?僕?
ひとことも、今日は寒いね、とか、今日は仕事忙しいかな?
とか、普通の朝の会話はない。
でも無視できないよ。
それほど強くない。
Iさん。綺麗な年下の女性。彼女も私と同様、彼に好かれている。
ひととおり会話して本当に疲れてくると、私はちょうど出勤してきたIさんにバトンタッチする。
Iさんも困惑するが、正義感が強いので、彼に諭したりする。
そんなんじゃ友達できないよ。
みんな疲れちゃうよ。
だけど彼は聞いていない。
お昼休み。
彼は私の前の席。
また例の会話が始まる。
疲れる!静かに本を読みたいのに。
一度上の人に注意され、彼も本を持ってくるようになった。
ワンピースの単行本。
読むふりをしてるだけ。
人と会話したくて仕方のない22歳の男の子。
外見は好青年なのに、中身を知るとみんな離れていく。
私とIさんは離れられない。
無視できない。
それほど強くない。
脳のある部分が欠落しているのだ。
一生ああなのかも知れない。
それだったら少しでも会話してあげていたい。
心が拒絶しても態度で表せない。
それほど強くない。
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