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2018年09月09日04:44

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夏の一日  番外編 柳くんの憂鬱

それは、生まれながらと、嫌な体験のせいだった。

小学校のとき、同じクラスの体格の良い女子に何かといじめられた。
ひ弱で体力のない僕は、彼女の腕力にかなうわけなかった。

それから、女の子が嫌いになった。
関わりたくなかったし、考えたくもなかった。

中学生になると、次第に周りが色めき立つ。
女の子の本とか情報とか、男たちは必死にかき集め妄想を膨らまし、
すすんでる輩は実際に女子と付き合っていた。

僕は全然興味がなかった。
そんなことをしてるより、星の本を眺めている方が良かった。
次第に図書館に出入りするようになり、お気に入りの作家に夢中になった。
芥川龍之介とモーバッサンは僕のお気に入りの作家だった。そして、
マスターベーションのお供だった。

真面目に勉強したので、そこそこランクの良い高校に入れた。

バドミントンに惹かれていて、部活に入ったので、夕方の退屈さはなくなった。
もうその頃になると、自分の性癖をはっきりと自覚出来た。
ああ自分はゲイなんだと。
これから社会の異端児として生きていかなければならない。
その覚悟はまだ出来ていなかったけど。

二年の夏の部の合宿で、部の女子に告られた、びっくりした。
ごめん、しか言えなかった。
素直ないいコだったけど、自分には無理だった。

三年の夏休みで部活も終了し、受験勉強に集中した。
経済学部に入りたかった。
受験は難しかったけど、何とか合格した。

春、憧れの大学生活がスタート。七割が男子生徒で居心地が良かった。

とある昼休み。一人で過ごしていると、急に前に座っている男から声をかけられた。
すみません、そこのソース取ってもらえますか?
顔を上げた僕は、耳まで赤面してしまった。
向かい側に座っていた、仁科秀樹は、僕のどんぴしゃだったから。
いつも描き上げてた理想の人。
170cmくらいで、痩せていて手足が長い。
細くしなやかな髪はちょっとくせ毛。
涼しげな釣り目に小さな鼻と口。

もう僕は耳まで赤くなっているのに、相手は全然気付かずに、更に追い討ち。
隣に行っていい?
頷くと、やおらいい匂いがして彼が隣に座る。

いつも同じ時間の電車に乗ってない?
前からちょっと気になってて。
良かったら友達にならない?

ま、マジ!?
こんなことって。

それから、彼仁科秀樹は、僕と行動を共にするようになった。

みずみずしい果実は、まだ誰にも食べられてはいなかった。
僕の手で、大切に熟してあげたかった。
19の夏。

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