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2018年06月24日09:27

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ジャー・ヒロ、ジャー・ヒロを語るー16

番外編:山の伊達男、黒猫の黒ちゃん

・足掛け七年暮らした千葉は君津の鹿野山。ここで出逢った動物達といえば、沢山の
蛇たちや、時々慌てて逃げ去った兎たち、二度しか出逢えなかった梟(ふくろう)、
松の梢で松ボックリを「よいしょ!」ともいでいた子もいた多くの栗鼠(りす)た
ち、そして無数の捨てられた哀れな犬達。その捨てられ犬たちの仲間であるポチと
ラッキイとエリーと元野良猫みゃー子との生活があったからこそ、人里離れた山の上
での暮らしが楽しく賑やかにやれたのだろう。もし僕と彼女の二人ぼっちの暮らしが続いていたら、どうなったことだろう?あまりにも孤独な生活から、もしかすると精神さ
え病んだかも知れないなあとさえ思う。それほど彼等動物達の力は偉大なのだ。

・そして更に付け加えなければならないのは、鹿野山で生きている猫たちだ。結局触
れ合いはなかったけど、山に越してきて以来時々見かける、毛がふさふさした黒猫な
どは小さな蛇を咥えているのを見たことがあるほど、天性のハンターとしての資質を
充分に生かして、唯一山で満たされて生きているように感じた。そして我が家の一員
であるミャー子は、不妊手術をしたとはいえ、女の子だから、山にいた四年間ほどの
間に数人(匹?)のボーイフレンドがいた。彼女はあちこちの男と浮気をするタイプ
ではなく、いつも一人だけの男と仲良くなっていた。虎柄の猫や可愛い顔の三毛猫と
一緒に散歩を楽しんでいた。そして最後に出逢ったのが黒猫の「黒ちゃん」だった。
そして我々にとって、彼が一番忘れ難い「山の猫」となる。

・何故そんな風な言い方をするかというと、彼等、野生に生きる者たちは警戒心が強
くて、絶対懐かないが、唯一黒ちゃんだけは、後一歩で飼い猫の世界に足を踏み入れ
るというぎりぎりの線まで近づいた唯一の猫だったからだ。もし僕がひょいと手を伸
ばし、たとえ引っ掻かれたとしても、むんずと捕まえていれば、ここ札幌に来たかも
しれない。(懐いたなあ)と思って、手を出して、引っ掻かれたことが一度あったか
ら、それも心の抵抗になっていたのだろうが・・・。(連れてくれば良かったなあ)
という気持ちも心のどこかに傷となって残っている。野生の生活は自由というのは簡
単だけど、千葉といえども冬には水道管が凍って破裂する程の寒気に堪えねばならな
いし、生命の危険さえ感じるだろう台風の強烈な風雨にも晒される。いつも飢えに苦
しみながら、一日一日をただ必死で生きるだけの厳しい人生なのだ。山で暮らし、彼等の厳しい人生に触れたからこそ、そんな後悔がいつまでも心に残っている。

・初めて黒ちゃんと逢ったのは、多分、去年の春頃だったような気がする。その前に
みゃー子と仲良かった三毛猫は、若くて、なかなかのハンサムで、おまけに油断でき
ない奴だった。彼等がいつも腹を空かせているのを知っている(それが野生の生き物
達の正直な姿とも言える。アフリカのライオンだって、鹿野山の猫だって変わりな
い。)から、或る日居間の窓から外を眺めると、少し離れた隣家の前で彼の三毛猫君
が赤い袋から何かを出して、食べようとしていた。僕は、(良かったなあ、食べ物に
ありついて・・・)と、彼の為に喜んだが、眺めているうちに妙な気分になってき
た。(あれえ。あの袋には見覚えがあるぞ・・・。そうだ!朝食べたパンの袋だ!)
そう、気がつかない間に台所から盗まれていたのだ。開いた口がふさがらないとは、
こういう時に使うんだろうな。でも彼を恨む気にはならなかった。

・そして気がつくと、いつの間にか彼氏が代わっていて、黒い猫と外で話したり、一
緒に散歩したりする姿を見るようになる。どこか愛嬌がある猫で、一緒に散歩から
帰ってきた時には、「みゃー、みゃー!」と、まるで「お嬢さんを連れて帰ってきた
よ」と報告でもするように鳴いていた。余計な事をしたがる僕は、いつも腹を空かし
ているだろう黒ちゃんに餌を与えようとした。最初は警戒して逃げていた彼も、外に
放置したキャット・フードやミルクを一度味わってしまうと、「世の中にこんな美味
しいものがあったのか!」とばかり、我が家の食事を期待するようになる。そして毎
日のように餌を貰いだすと、警戒心も少しずつ溶けてゆき、目の前で食べるまでに
なった。その頃だったなあ。僕が撫ぜようと手を出して、ガリッと引っ掻かれたの
は。(こんちくしょう!)と一度は腹が立ったけど、彼は野生児だから仕方がないと
も思った。要するに、僕が悪いのだ。

・それでも寒く厳しい冬になると、北風に責め苛(さいな)まされる黒ちゃんを見る
のは辛かった。居間のみゃー子用ソファーでのうのうと寝そべるみゃー子を羨ましそ
うに眺めながら、ガラス一枚外で、黒ちゃんは丸くなっていた。彼にとっては、憧れ
て憧れたみゃー子のソファー。春になった或る日、彼の夢が、一瞬とはいえ、実現し
たことがある。あまり暖かかったので、偶然開けっ放しにしていた居間のガラス戸か
ら、そっと入ってきた黒ちゃんがみゃー子のソファーで寛いでいた。僕はその光景に
(そんなに憧れていたんだなあ・・・)と胸が痛くなる想いがしたのだった。野良猫
なら見逃す筈がない台所の食べ物には目もくれずに、憧れのソファーに寝そべってい
た黒ちゃん。恐らく、喉から手が出そうなほど飼い猫の安逸な生活に憧れていた黒
ちゃんは、結局僕たちに、それ以上慣れることなく、引っ越す前に忽然と姿を消して
しまった。彼を連れていきたいという無謀な僕の想いを振り切るように永遠の中に消
えていった。誇り高く生きていた黒ちゃんのことを僕は決して忘れないだろう。

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