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2017年12月03日20:31

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【波濤】(創作)

@gamesのアバターを使ったユーザーイベント【刀剣舞勇祭ー蓮夏の陣ー】から派生した創作です。興味ない方は回れ右っ


《ガーディアンに出会うまでの物語》


山懐に抱かれた保養所の一角、幾棟かあるサウナ小屋も夜遅くなれば人影は疎ら。
地元の人間が掃けた後体格の良い二人の青年が小声で語り出す。

「私のような人間ばかりでは士気が上がらんだろう」
「まあな。逆に俺みたいなのが溢れてたんじゃ組織が駄目になる」
冷徹と熱血、先の作戦で対照的な評価がなされた二人―ジルベールとヴィクトルは思いの外仲が良い。
燃えるような色の髪を持つ男は無精ひげを軽く掻き、伸びをして水を飲む。
「そろそろ出るか」「ああ」
士気が上がらん、と発した黒髪の男は小さなあくびを一つした。

水風呂に肩まで浸かる二人はほぼ同時に身震いし悲鳴を上げる、
互いの反応に笑い合う様を見るのは森の梟のみ。

更衣室にて。寝巻きの上から外套を羽織り言葉を交わす。
「じゃ、また明日」
軽く挙手しそれぞれの部屋へ戻る途中、黒髪の男=ジルベールは空を見上げる。
月既に沈み星瞬き、雲の流れも早い。

サウナ小屋を管理する老人が点検して回り、瓦斯灯を消してゆく。

保養所の寝室。
読書灯を点け鞄から廃糖蜜の酒瓶を出し、姉シモーヌから渡された掌編を読む。
民話形式になっている初級魔術の教本は幼子への読み聞かせもさる事ながら、
魔術に疎い叩き上げの軍人や志願兵らの護身にも役立つ。
当然、彼はとうの昔に卒業しているのだが読み物としても楽しい。
今は亡き母スザンヌの膝で聞いたのを思い出し…気付いたら転寝をしていた。

葉脈を伝い大地へ降りる朝露。日に透ける緑の羽根の妖精、梢より飛び立つ山鳩。
母の詠唱に姿を現す幻獣は踊り幼子らを誘う。
糸杉の並木は風に揺れ蒲公英の綿毛が飛ぶ。
詠唱の音色が変わるや綿毛から花が現れ、旋回しながら空へ…
〜*〜*〜
あくる朝。食堂は朝から一杯引っ掛ける連中で騒がしい。
「おぅい、魚のフライ寄越せ」「待ってろ、今揚げてる最中だ」「腸詰くれよ」
その喧騒を楽しげに眺めつつジルベールは静かに朝食を摂る(豆とセロリのスープか、悪くない)苺のコンフィチュールをヨーグルトと混ぜ、ライ麦パンにベーコンと硬質チーズを挟んで頬張る。
隣に座った男はしきりにオムレツをお代わりしており「鶏になっちまうぞ」とからかわれている。
女性兵士達はカフェオレでひっきりなしにお喋り。
食器を片付けるや同僚から酒を勧められる、「これからツーリングへ行く」と言って断り
呆気にとられる連中へ「兵舎で会おう」
食堂を出、親友ヴィクトルの部屋へ水を持ってゆく。案の定部屋で深酒をした彼は起きられずにいた。

〜*〜*〜

保養所から1時間も歩けば実家へ着く、重い鉄の門へ近付く彼を最初に見つけたのは
庭先のドーベルマン。大きな図体で飛びかかっては顔中舐め回すのを宥め、
高齢を理由に引退した父マルセルに代わり当主となった長兄オーギュストの許へ急ぐ。

先遣隊の報告とは裏腹に獣より地蟲の数が圧倒的に多かった
対魔獣用の武器があまり役に立たず、ほぼ素手と魔術で戦い気配を完全に
消し去るまで相当手間取った
傷病者らの命に別条はないが一部は入院を余儀なくされている など
−少し気になる点が
−何だ
−地蟲の身体が不完全な形をしている
−そういう種類ではなくて、か?
−魔術か何かで急拵えされたような
−ふむ、なるほど…心当たりがある
−心当たり?
−ある大臣が汚職を理由に更迭されてから魔獣が急増したが、魔術を嗜んでいたらしい
「すまんな、休暇中に」「どうって事無いさ、志願兵を早く郷に帰してやりたいんでね」

(何だあれは、軍医にでもなったつもりか)(辺境伯の末っ子風情が)
傷病兵が運ばれたテントの中、衛生兵を伴い眉一つ動かさず容態を観察し記録してゆく姿は中性的な面差しと相まってより"冷たい"印象を与えたのだろう。
が一人一人に言葉をかけては労わり励ましていた事を、陰口叩いた連中は知らない。
−ダミアン(次兄)が心配してたぞ、ある事無い事吹聴されているってな
−キリがない、馬鹿馬鹿しい
−そうも言ってられんだろう、ダミアンにもしもの事があったらこの家(シュヴァリエ)と陸軍を結ぶのはお前だ
(全く同じ事を言われた)ジルベールは苦笑した。
〜*〜*〜
自室へ戻ると、何週間も使っていなかったベッドの上には姉シモーヌの飼う長毛種の猫が寝そべっている。まず顔を洗いひとしきり遊んでやった後手紙の束を開封し、急ぎの書類を粗方片付けたあたりで昼餉に呼ばれた。

「遅かったじゃないか」父マルセルは眼鏡の奥から末息子を一瞥する「すみません」
かつて美丈夫と謳われたが大病を患ってからは見る影もない、が鋭い眼光だけは昔のまま。
「今日は鱒よ、お父様が釣ってきたの」
焼きたてのパンに隠元や芽キャベツ。黒オリーブにチコリ、熟成の進んだチーズなど。
新鮮なオレンジをふんだんに使った冷菓。
主菜の虹鱒をきれいに平らげ昨日の残りものらしい茸のキッシュをお代わりしつつ、
話せる範囲で仕事に触れる。
美しく成長し社交界デビューを控える一番上の姪は真剣な顔で傾聴。

食事を終えて歯を磨き、ガレージへと向かう。愛機の整備を終え玄関を出るあたりで
女中に呼び止められる「お弁当です、お友達の分も」
門扉の外に二日酔いから復活したヴィクトルの姿が。

さあ出発だ

屋敷から公道へ出る手前で一台のオープンカーとすれ違う、運転するのは外交官をしている三番目の兄・ナタンで助手席に座るのは幼な妻のテレーズ。
「入れ違いになったようだな」
「ああ」
「これからツーリングか?気をつけろよ」
「ありがとう、じゃあな」

延々と続くかに見えた葡萄棚が途切れると今度は柑橘類が現れた、自生している分は
裕福でない者が自由に取って食べ又は売っても良い事になっている。
午後の眩い日差しを受け金色に輝く果実はこの国の繁栄そのもの。
額から頬を伝う汗が心地好い、こうして二人で出かけられるのもあと僅か…ヴィクトルに結婚が決まったのだ。
日もだいぶ傾き涼しい風が吹く、空腹を感じた二人は河原で弁当の包みを開け
鶏の燻製や萵苣(ちしゃ)、酢漬け人参のたっぷり詰まったサンドイッチを頬張りトマトを齧る。

夕陽が落ち辺りが闇に包まれる頃、宿場町に辿り着く。
旅籠屋を経営する許嫁一家に挨拶する親友の後ろ姿を心の中で祝福し、ジルベールはなおも旅を続ける。

〜*〜*〜

ヘッドライトに照らされた麦の穂が時折風に歌う、排気音に混じる梟の声。
ライダー達がよく集まる公園で仮眠を取る事にし寝袋を広げる―皆顔見知りの連中だ。
誰それが喧嘩別れした後またヨリを戻したとか、他愛のない話が聞こえてくる。

夏の夜明けは早い。
紅い太陽が昇るにつれ冷え固まった空気が膨らんでゆく、身震いしつつ起きた仲間達は
めいめい勝手にコーヒーを沸かし携行食を口にする。

沿岸部から来た男に忠告される「海に向かうなら気をつけろ、少し波が高い」
〜*〜*〜
波が高い、即ちサーフィン日和。
小麦色や赤銅色に焼けた肌の男女がサーフボードを持ち"良い波"が来るのを待ち構えている。
貝殻を拾う幼い女児、ボーダーコリーとともに駆け回る少年の姿も。
ジルベールは海岸沿いの石畳を快走し防風林の隙間から砂浜へ出た。

と、その時である。

でかい波が来た、来たぞ!口々に言い合い海に向かい走り出す人々。
しかし彼の両目には今までに見た事もないような巨大な黒い壁が映っていた…

〜*〜*〜
(しくじった…ここはどこだ)
自分の体が砂まみれになりつつも陸上にある、そして貝殻を握った掌の痛みから生を実感、すぐ我に返りバイクや手荷物を探す。
バイクは数歩先に、そして手荷物は波打ち際から見つかった。
(次はエンジンだ、おや?掛かった)
自分は高波に攫われたんじゃなかったのか?
そして、周りの植生が全く異なる事に気付く。携帯電話も圏外を示している。
(参ったな)
着衣の乱れをさっと整え砂を払い、手荷物を今一度確かめた。
最低限のサバイバル道具は揃っている上コーヒー沸かしも無事。寝袋が見当たらないが、まあ何とかなる。
問題はこの地にある動植物が食べられるか。

手荷物を肩に掛けバイクを押しながら浜辺を探索する、途中茎に棘があり奇数枚の葉と
赤い実を持つ植物を見つけた(ハマナスに似ている…うわ酸っぱい!)
これと干葡萄の酒、焼き菓子。真水があれば数日生き延びられるだろう。
遠くを見やると視界の端に光るものが。

それは、ひと振りの短刀。
手に取ろうとした時、目の前には陽に透ける長い髪と空を写す瞳を持つ女性が立っていた。
「貴女は一体…!」


〜fin.〜

〜*〜*〜*〜*〜

モブ(サーファー・子供・わんこ)は全員無事です
寝袋は元いた海岸の、木の枝に引っかかっていました


主な登場人物

父マルセル
母スザンヌ
長兄オーギュスト
次兄ダミアン
三男ナタン 妻テレーズ
姉シモーヌ
末弟ジルベール

親友ヴィクトル
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