「4月末になったら石徹白の山に行きましょう。」
滋賀に住むSさんから誘われていた。
「石徹白」と書いて「いとしろ」と読む。
白山の別山から南に当たる。
お互いの都合が合い天気も良さそうな、27,28日に行くことにした。
石徹白から別山に続く美濃禅定道の途中にある神鳩ノ宮避難小屋に一泊する。
銀杏峯に一緒に行ったYさんと女3人の残雪の山歩きだ。
山の候補はこの時期限定で登れる願教寺山か丸山だ。
丸山のほうが易しい。
願教寺山のほうがアップダウンが多く時間がかかる。この時期雪が融けた部分は藪山になる。
どちらにするかは行ってから決めようということになった。
前日愛知県の道の駅で車中泊をした。
白山中居神社に着いてSさんたちを待つ。
29日夕方からはここから登山口までの大杉林道が開通する。
だが、この日はまだゲートに重機がどっしりと通せんぼしていた。
神社に無事の登山下山帰宅をお祈りする。
予定より少し遅れてSさんとYさんが着いた。おしゃべりしていて高速を行き過ぎたそうだ。
仕度をして10時に出発する。
大杉林道は6キロの行程だ。
道々に花が咲いている。
ネコノメソウ、ショウジョウバカマ。
ちょっと離れたところにザゼンソウを見つける。
花を探しながらおしゃべりしながらの林道歩きはそう苦にはならない。
登山口に着く。
いとしろ大杉までは階段が続く。途中から雪が出てきた。
樹齢1800年の大杉はりっぱだった。
今迄見たどの杉よりも太かった。
朽ちかけているように見えたが、後ろに回ると、新しい枝が伸びていて、まだまだ元気そうだ。
雪道にトレースはない。
最初はYさんが先頭を歩いたが、わかりにくくなってSさんが先頭を歩く。
彼女が一番地図読みができる。
Sさんは地図、コンパス、高度計を使って今いる場所やこれから進む道を探す。
時々Yさんがスマホで場所を確認する。
私はなるほどと思いながら付いて行くだけだ。
木の間越しに小屋が見えた。
神鳩ノ宮避難小屋だ。
今日はここに泊まる。
ガスコンロや石油ストーブ、シュラフや毛布まである。
荷物を置いて、ちょっと散歩する。
真っ白な山が見えた。
多分別山から続く南白山だろう。
小屋に戻り、Sさんがジェットボイルで雪を沸かす。
写真で見たことはあったが、初めて見る。
効率よくお湯を沸かすために周りは温かくならない構造だ。
夕飯はお湯を沸かすだけですむ簡単なものにした。
明日はどこに登ろうかという話になった。
丸山は見た感じであまり魅力を感じなかった。
願教寺山か、行かれる所まで三ノ峰に向かうかのどちらかにしようということになった。
まずは銚子ヶ峰に登り、そこで決めることにした。
翌日は4時半起き。
外を見ると、もう明るくなっていた。
この時期、日の出は5時前だ。
朝焼けの空がきれいだが、当分日は昇らないだろう。
朝食を食べ、仕度をして6時前に外に出る。
ちょうど稜線から日が昇った。
アイゼンを効かせながら登っていく。
雪は適度に締まっていて歩きやすい。
少し登ると、銚子ヶ峰が見えてきた。
振り返ると小屋が小さい。
銚子ヶ峰に着くが、山名版は雪の下のようで何もない。
別山に続く一ノ峰、二ノ峰、三ノ峰の稜線が美しい。
願教寺山はここから200mほど下る。
ということはまた200m登り返さないといけない。
距離もある。
ということで、二ノ峰を目指すことにした。
まずは一ノ峰だ。
ストックからピッケルに持ち替える。
傾斜がきつくなる。
Sさんの後ろを登っていく。
Sさんは時々立ち止まり、アドバイスしてくれる。
登りながら、もし滑って滑落したらどうしようと思う。
登ったら下らないといけない。
そのほうが怖い。
必死に登る。
一ノ峰に着く。
ほっとする。
雲が取れて別山も見える。
昨日南白山かと思った山は別山だったのだ。
もう満足だった。
二ノ峰を見ると、夏道から雪道になって稜線に上がる斜面が急に見える。
あそこを登るのはもっと怖そうだ。
「私はもうここまでにする。待っているから二人で二ノ峰まで行ってきて。」
するとSさんもYさんもここまでにすると言う。
一ノ峰からの眺めを満喫して下る。
慎重に下る。
急な斜面が終わるとほっとする。
一休みして周りの景色を眺める。
先の雪庇は今にも落ちそうだった。
クラックができていた。
これも今だからこその景色だ。
明日になったら落ちているかもしれない。
昨日とも明日とも違う今日だけの山の姿。
三人だけしか知らない世界。
遠く御嶽山、乗鞍岳、北アルプスも見えた。
小屋に戻り、荷物をまとめて下る。
いとしろ大杉に着く。
登山口に着く。
また長い林道の始まりだ。
昨日の朝はあまり開いていなかったキクザキイチゲがきれいに開いていた。
これらの花たちはほとんど人の目に触れることはない。
明日の夕方からは林道が開通する。
歩く人はほとんどいないだろう。
そう思うと、私たちのために咲いてくれているように思えて愛しい。
白山中居神社の駐車場に着く。
二人と別れて、鳥居にお辞儀をして帰路に着く。
SさんとYさんのおかげで、今迄見たことのない山の姿を見ることができた。
感謝感謝!!
「ツボさんも来シーズンは雪山歩きを少し楽に感じるはずです。
来年も春の白山山旅、どこか企画しましょう。」
Sさんから嬉しいメールが届いた。
61歳になって最初の山歩き、新たな目標ができた。
この1年間、どんな山との出会いが待っているだろうか。
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