mixiユーザー(id:12582321)
2017年03月24日23:43
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極私的METALLICA論
…「DEATH MAGNETIC」／METALLICA
世界で最も売れている、ヘビーメタルバンドといえば、METALLICAなんじゃないかと思う。
なんてったって1991年に発表した通称「ブラックアルバム」は世界で3000万枚以上売れているらしいし、最新作の「HARDWIRED...TO SELF DESTRUCT」も全米をはじめ世界中でNo.1を獲得している。
こんなヘビーメタルバンドは、彼らをおいて他にはいないんじゃないだろうか。
そして、彼らは作品を出すたびに賛否両論を巻き起こす問題作を発表する、革新的な、リベラルなヘビーメタルバンドだったりする。
作品ごとにこれだけ顔が違うアルバムを出すヘビーメタルバンドというのも、もしかしたら彼らぐらいかもしれない。
そのMETALLICAの出発点は、スラッシュメタルである。
それはデビューアルバム「KILL'EM ALL」を聴けば一聴瞭然。
冒頭の“Hit The Lights”からエンディングの“Metal Militia”まで気持ちいいぐらいスカッとするスラッシュメタルで、ジェイムズ・ヘッドフィールドは現在の彼からは想像もつかないような金切り声で叫び声をあげている。
現在も重要なレパートリーとなっている“Seek And Destroy”はその中でも貴重なミドルテンポの曲だが、この曲のギターリフも聴くものを切り刻む殺傷力を持つ強力なリフが魅力的だ。
現在もよく、スラッシュメタル四天王（他にはMEGADETH、SLAYER、ANTHRAX）のひとつに数えられるMETALLICAなのだが、その理由はこのアルバムに集約されていると思う。
そして、続く2nd「RIDE THE LIGHTNING」で彼らは早くもスラッシュメタルにはとどまらない、新たなステージに大胆に踏み出していく。
その「RIDE THE LIGHTNING」の冒頭はなんと、抒情的なアコースティックギターによるイントロ。
そして続く“Fight Fire With Fire”のリフはスラッシュメタルには間違いないが、それは速さだけではなく、重厚感をこれでもかと効かせたもので、これが壮厳な雰囲気を見事に醸し出している。
叙情的かつユニークなリフが素晴らしいミドルテンポのアルバムタイトルトラック、後の「ブラックアアルバム」も通じるスローかつヘビーなリズムが腹の底に響いて気持ちいい“For Whom The Bell Tolls”、さらには絶望的なまでに暗くて美しくて劇的なバラード“Fade To Black”とあまりにもバラエティに富んでいる内容で、もうこの時点でこのバンドはスラッシュメタルの域には収まっていないのである。
その中で“Creeping Death”というヘビーメタル史上最高峰といっても差し支えないであろう圧倒的な名曲も含まれているところがこのアルバムの恐ろしいところだし、ラストを圧倒的な構成で聴かせるインスト“The Call Of Kutul”で締めるあたり、このバンドのこの頃は湧き水のようにあふれ出るアイディアが、素晴らしい水準のメタルナンバーを次々に生み出していたことがよくわかる内容だといっても、過言ではないだろう。
このアルバムを完成させて満を持したバンドが続いて発表したのが、歴史的名作として名高い「MASTER OF PUPPETS」である。
この名作は前作「RIDE THE LIGHTNING」で拡散したMETALLICA流ヘビーメタルを一気に完成度を高めて確立したアルバムで、要は前作と同方向の音楽性ながらより高い水準のメタルを披露した、まさに名作となるべくして生まれた名作なのである。
はっきり言ってしまえば冒頭の“Battery”のイントロを聴いてピンとこない人は、ヘビーメタルを所詮、向いていない、といって断言してしまって、いいんじゃないかと個人的には思う。
8分を超える長さの中に全く無駄な音が入っていない名曲のアルバムタイトルトラックや、クリフ・バートンの作曲能力がさく裂した“Orion”など、このアルバムの各楽曲の完成度は語るまでもない。
もっと言ってしまえば、このアルバムには聴き逃していい音なんて、ないのである。
さて、ここまでのMETALLICAなのであるが、実に素晴らしいヘビーメタルの名盤を3枚も立て続けに出してはいるが、実はセールスは「MASTER OF PUPPETS」の全米23位が最高である。
といっても当時のスラッシュメタルはアンダーグラウンドな存在で、彼らの全米23位は相当な衝撃的な出来事だったらしいのだが、現在は当たり前のように1位をとっている彼らしか知らない僕のような人間にとっては、結構意外に思ったりする。
そのMETALLICAがいよいよ、全米を制覇する、足掛かりになったのが「...AND JUSTICE FOR ALL」だと思う。
METALLICAはこのアルバムの発表前に、ベースのクリフ・バートンが事故で逝去するという、不幸に見舞われている。
一人のメンバー、という枠には留まってはいなかったんじゃないかという、圧倒的に個性的なベースフレーズを聴かせていたクリフを失った痛手は、想像を絶するが、METALLICAはここでジェイソン・ニューステッドというまた新たな素晴らしいベーシストを迎え入れ、再生する。
さて、その「...AND JUSTICE FOR ALL」。
基本的には「MASTER OF PUPPETS」の延長線上、といってもいいとは思う。
しかし、そこはMETALLICA、それだけにはとどまらない。
リーダートラックとなった“One”に代表されるように、メロディーを強調したコマーシャナリズムに舵を切った作品だと思う。
それを歌い上げるジェームスのボーカルは、そこには「KILL'EM ALL」で聴かれた金切り声は微塵も聴かれず、現在も聴かせる独特の節回しを持った中低音を聴かせた深い歌声を聴かせている。
そして、曲は長尺に、よりダイナミックに複雑に展開していくものが多い。
この作風は彼らの狙い通りにあたり、全米4位を獲得。
この時点で、世界で最も売れているヘビーメタルバンドの座に就いたといってもいいのではないだろうか。
そして、そのあとに発表されたのがノンタイトルのアルバム、通称「ブラックアルバム」である。
このアルバムは天文学的な売り上げを伸ばしただけではなく、世界中に賛否両論を投げかけ、下手をすればいまだにその論争を続けている、大問題作だったりする。
その大問題は、速さである。
ここで彼らはツーバスドコドコのスラッシュメタルを完全に捨て去っている。
ヘビーかつスローなテンポで、曲展開も極力、シンプルになっており、ジェームズの歌うメロディはよりポップかつキャッチーになっている。
さらにはサウンドも非常に高品質で、聴いているときの心地良さは他に類を見ない、非常に高い水準のものだ。
たしか、当時のアルバム論評に「映画のサウンドトラックを聴いているような感覚に陥るアルバム」というのがあったように記憶しているが、それは的を射ているのではないかと思う。
非常に高い水準の聴きやすさゆえに刺激が少なく、だからヘビーメタル、というかロックならではの刺激が希薄なアルバムであり、だから異常なまでに売れたのだと思う。
もっと言ってしまえばこの時点で彼らはヘビーメタル、ロックともさようならを言っていたのではないだろうか。
別次元に行ってしまったMETALLICAの、次なるステージは、今考えると実は自身のルーツを探ることで、それが形になった音が「LOAD」と「RELOAD」だったのではないかと、僕は思っている。
この「LOAD」と「RELOAD」も、問題作だの駄作だのと当時（というか現在も）叩かれまくっている作品だ。
たしか、この当時のMETALLICAは髪の毛を短く切り、OASISを聴きまくっている、ということで彼らのファン、というよりも世界中のヘビーメタルファンを不安のどん底に突き落としていたように思う。
そして、発表された音は、ファンのその不安にしっかり答えてしまったものになった。
ここで披露されれたのは、そののちに発表されたカバーアルバム「GARAGE INC.」でもよくわかるように、彼らのルーツであるクラッシクロックを、彼らの生み出すヘビーなグルーヴで味付けしたような音なのである。
ギターサウンドもヘビーメタル色は希薄で、重いクラッシックなハードロックの音だ。
ヘビーメタルらしいザクザクと切り刻むようなリフは皆無で、ユニークかつメロディアスなギターリフが支配的で、特に「LOAD」は各楽曲がしっかり練られており、METALLICAだということを意識しなければ実によくできたロックアルバムだったりする。
対する「RELOAD」は"The Memory Remains"や"The Unforgiven��"、"Fuel"、"Prince Charming"といった非常にポップなメロディをもった秀曲がある一方、ストーナー・ドゥームメタルを退屈にしたような曲もちらほらあり、最後まで聞くにはつらい作品だと言わざるを得ない、というのが正直なところだ。
この「LOAD」と「RELOAD」の音は彼らは意外なほど長く出しており、その後、先述した「GARAGE INC.」やオーケストラと共演した「S&M」でもこの音を披露している。
この音と決別し、新たなステージ、というよりもヘビーメタルに無理やり戻ろうとしたアルバムが「St.ANGER」だ。
ここではラーズ・ウルリッヒのツーバスドラムが復活。
ドコドコ打ち鳴らしており、速い曲も多数入っている。
そして、なんとギターソロが抹殺されており、ザクザク刻むリフが支配している。
その上を、キャッチーなのかなんなのかよくわからない歌メロが乗っており、実に不思議なアルバムである。
僕はこのアルバムがいまだに理解できていない。
発表当時は3曲目まで聴いてギブアップして、それ以来、長いこと聴いていなかった。
今回、この日記を書くにあたって我慢して3回、通して聴いたのだが、どうしてもどの曲も同じように聴こえてしまうのである。
ただ、この頃から彼らはライヴではセットリストにスラッシュメタルだった頃の曲も復活させており、彼らがヘビーメタルに復帰するには「St.ANGER」は必要な荒療治だったのかもしれない。
その彼らがようやく、ヘビーメタルに戻ってきたのは「DEATH MAGNETIC」である。
といっても、そこにあるのは「KILL'EM ALL」のようなスラッシュメタルではなく、「ブラックアルバム」のようなコマーシャルな要素をふんだんに塗しつつも、スラッシュメタルっぽいスピードも取り入れた、非常にバランスがとれたアルバムになっている。
ギターリフもメロディもとても良いとは思うし、なによりもギターソロが復活して、カーク・ハメットに、よかったねと言ってあげたい内容になっている。
最新作「HARDWIRED...TO SELF DESTRUCT」は2枚組ということもあり、また問題作かと騒がれたアルバムではあるが、中身は「DEATH MAGNETIC」の延長線上と考えていいのではないか。
リベラルな革新的なヘビーメタルバンドとして、常に最先端を走りつつ、圧倒的な売り上げを記録してきた彼らの、ここが一つの到達点なのかもしれない。
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