3月4日
熊野修験の奥駈が始まった。
今日は、那智山から本宮の請川まで約28キロを歩く。
ここは熊野古道中辺路の大雲取小雲取越の道だ。
普通は途中の小口で一泊するが、奥駈は一日で歩く。
奥駈に参加するようになって16年になる。
年に4回に分けて那智山から吉野まで歩く熊野修験の奥駈。
参加しない年もあったが、日帰りの3月と4月はできるだけ参加するようにしている。
毎年同じ時期に同じ道を歩いても、その時々で気持ちは違う。
今回はマイミクのYAMACHANさんが初参加する。
私から高木導師に参加のお願いの手紙を出していた。
それだけでも気持ちが変わる。
YAMACHANさんは前日の夜にうちに来た。
1時間半ほどおしゃべりをして10時過ぎに寝た。
新客のYAMACHANさんには前のほうを歩いてもらい、私は後ろのほうを歩く。
今回は前回の4月に初参加したくろめいじんばさんもまたNさんと一緒の参加だ。
また、去年の3月の奥駈でお会いしたYさんも参加していた。
彼女はほとんど山歩きの経験がなく、去年はバテバテになりながらも請川まで歩いた。
ヨガを教えているYさんはその後何度か色川でヨガ教室を開いてくれて、それに参加したことで親しくなった。
そして、娘のお姑さんと遠い親戚に当たるらしいということも知って親しみを感じていた。
今回は途中の小口までにすると言っていた。
出発に当たって先達の山伏さんは「歩いている時は無言の行をするように。もし、話すときは小声で話すように。」と注意する。
それでも歩きだすと、おしゃべりが止まらない人もいる。
私も以前は奥駈で出会った方とお話するのも楽しみの一つだった。
思いがけない出会いもあった。
だが、今回は祈りたいことがあった。
だからできるだけ無言の行に徹しようと思った。
いつもこの時期、白い小さなバイカオウレンが道端に咲いている。
今年も咲いている。ほっとする。
他の場所で見るよりも、この奥駈で見るバイカオウレンが好きだ。
勤行をする。
般若心経を唱える。
祈る。
誓う。
最後の林道でぜんざいのお接待がある。
甘いぜんざいと、塩気のあるたくあんが疲れた体にうれしい。
熊野修験の奥駈はサポートが充実している。
それも高木導師のお人柄からだろう。
皆さんボランティアで一日サポートしてくださるのだ。
林道からまた歩きだすと、それまでは前のほうにいた一人の山伏さんが後ろを歩いていた。
「出そびれちゃって・・・」
と言うその若い山伏さんは高木導師の息子さんだ。
百間ぐらに着く。
頼まれて山に向かってほら貝を吹いてくれる。
だが、まだ上手ではない。盛んに照れている。
今回高木導師はあまり体調が良くなくて小口までにするつもりだったそうだ。
だが、歩き始めると調子がよくなり請川まで歩かれたそうだ。
高木導師は67歳。
いつかこの若い山伏さんが先達になって熊野修験の中心になっていくのだろうか。
高木導師がお元気で奥駈を歩かれる間は私も参加し続けたいと思う。
それがお世話になった恩返しだと思っている。
YAMACHANさんは我が家にもう一泊した。
翌日色川を案内する。
色川からは昨日歩いた大雲取越えの稜線を見上げることができる。
「昨日あそこを歩いたんですよね。」
感慨深くYAMACHANさんがつぶやく。
いつも見慣れた景色がちょっと違って見えた。
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