mixiユーザー(id:6086567)

2016年07月29日19:20

459 view

【創作】超攻鬼装オーガイン  第一話:天才科学者と私と被験体【後編】

前回はこちら↓
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1954384331&owner_id=6086567



seen3

監視室は緊急を告げる警報がけたたましく鳴り響いていた。
工作室の寝台で拘束されていたはずのOnI001が逃亡したという報告を受けた私と博士は急いで駆けつけた。
研究所内の監視カメラを一望できる部屋でOnI001の動向を探っていた。

「いやー、まさかこんなに早く麻酔が切れるなんて予想外だよ」

呑気な言葉とは裏腹に博士の眼光は笑っていない。
それもそのはず、OnI001には多額の開発費と研究期間が費やされてるわけで、おいそれと逃亡されましたとは言えない。
もしそんなことが組織の上層部に知れたら私たちはどうなるかわかったもんじゃないわ。

「あ、第三通路にいますね、どうします?」

モニターに映ったOnI001は周囲を警戒しながらゆっくりと歩を進めている。
おそらく脳の調整がされていないため、普通に歩行するのもままならないのだろう。
なんせ機体の出力は人体の100倍は超えているのだから。
それでも警戒を緩めず、壁伝いにゆっくりと歩を進めている。
本人は警戒しているつもりなんだろうけど、カメラにはバッチリ映っているわけだが。

「桜子君、音声拾える?」

私は監視室のコンソールを操作して、モニターに映っている通路の集音マイクの音量を上げる。

「音声、出ます」

室内のスピーカーから、くぐもった声が響き渡る。

『ここはどこなんだ・・・・・・・俺はどうなっちまったんだ』

見事なまでにテンプレ通りのセリフを吐くOnI001、しかも狙ったようなタイミングで。
ひょっとしてセンサー類の感知が可能だったりするのだろうか。
いやいや、脳が未調整の状態でそんなことが出来るはずがないわ。
偶然よ、きっと偶然に違いない。
人が混乱に陥ったとき、大抵は同じような動きをすると聞いたことがある。
この被験体も例に漏れないようね。

「とりあえず隔壁閉じて捕獲しちゃいますね」

ぽちっとな、とコンソールを操作して捕獲を試みる。

『チッ、体が思うように動かない。この体、本当にどうなってんだ』

閉じる隔壁にOnI001は慌てふためくが、本人が言う通りほとんど身動きが取れないまま閉じ込められる。
制御不能の機体の回収なんてこんなもんよ、ちょろいわ。
今回の施術に当たり、私たちは普段拠点としている組織の本部にある第一研究所ではなく、N県の山奥にある第三研究所を利用している。
これは施術が終わった後、そのまま起動実験や各種データ取りを行う予定だったため、敷地面積が広く、人里離れたこの場所が打って付けだった。
そのため、本部なら常駐しているはずの警備兵はおらず、我々の手で捕獲するしかない。
そんな状況での被験体の逃亡は想定外であり、まったくもって迷惑極まりない。
もっと空気を読みなさいよ。

『クソッ、こうなったら自力でこの隔壁を突破するしかないか』

OnI001は腰を落とし、右手を前に差し出し左腕を引く。
いわゆる左正拳突きの構えである。左正拳突き?
マズいわ、OnI001の左腕には大型のパイルバンカーが装備されていたはず。
そんなもので攻撃されたら、いくら厚さ10センチの隔壁といえどもたないわ。

「博士、これってマズくないですか?」
「大丈夫だよ、問題ないって」

一体なにが大丈夫なんだろうか。
OnI001は今にもパイルバンカーを撃ち出そうとしている。

『唸れ我が黄金の左腕、天衝エンジェルスパイカアァァァァッ!!』

うわああ、隔壁が破られるうう、っていうかそのダサい名前なにいいい!?
ツッコミ所が多すぎて言葉が追い付かない上に、隔壁の修理にかかる予算を考えると私は画面を見ていられず目を背ける。
しかし予想していたような、隔壁が破壊されるような音は聞こえてこなかった。

「ね、言ったでしょ?問題ないって」

おそるおろる目を開けてみると、特に隔壁が破壊された様子はなく、OnI001が左正拳突きを寸止めしたように見える。
パイルバンカーは不発だったの?

「安全のため、全武装オミットしてあるからね。誰かが手入力で解除しない限り武装は一切使えないんだよ」

右の掌で顔を覆い、左腕で右の腰を抱く、いわゆる中二病特有のポーズで解説する博士。
指の隙間から見えるドヤ顔が腹立つわー。

「そういうことは先に言っておいてもらえまえんか?」
「桜子君も施術に立ち会っていたんだから知ってると思っていたんだが?」

私の不満を当然と言わんばかりに博士は受け流す。
やっぱりドヤ顔が腹立つわ。
その時スピカーから、ドゴーン、と耳をつんざく音が響き渡る。

『なんだ、普通の正拳突きでも破れるじゃねーか。スゲー力だぜ』

OnI001はそのまま隔壁に空いた大穴を通り抜けていく。

「全然大丈夫じゃないんですけど?」
「ぱ、パワーリミッターが外れてるようなもんだからね、仕方ないよ」
「これ、どうやって報告するんですか!」

博士に抗議している間もOnI001は次々と隔壁を破壊して突破していく。

『響け我が白銀の右腕、剛拳エンジェルナックルッ!』

アイツ、何であんなにエンジェル推しなわけ?
自分の見た目が鬼をモチーフをしていることに気づいてないんだろうなぁ。

「最初はどうなることかと思ったが、なかなか面白い展開になってきたね」

博士は相変わらず中二病特有のポーズをとりながら、ワクワクが止まらないといった感じで笑っている。

「隔壁が何枚も突破され、今にも逃げられそうな状況のどこが面白いんですか?」

彼の態度に苛立ちを覚える。
この人は状況をきちんと把握できているのだろうか。

「桜子君、どんな状況でも前向きにとらえ、楽しむことも科学者には必要なことだよ」

やれやれと首を振りながら応える博士。
この状況を楽しむ?本気でそう思っているのだろうか。

「どうせ私には遊びが足りませんよーだ」

もしOnI001がここを抜け出したらどうなるのだろうか。
この倫理を無視した研究が世に知れ渡ったらどれだけのバッシングを受けることになるか。
組織のことが公にバレると、私たちにどのような処分が下されるのだろうか。
OnI001が逃走した後のことを考えると、とてもこの状況を楽しむ余裕なんてないわ。

「仕方ない、桜子君の不安を取り除くためにも僕が出よう」
「はい?」

この人はいったい何を言っているのだろう。
確かに博士は天才かもしれない。
あの改造手術をたった4時間で終わらせるスタミナも尋常じゃないことは理解できる。
だからと言って、決して肉体派な人間ではないはず。

「戦闘実験用に用意しておいたギアモンスターは何体もってきている?」

ギアモンスター、それは動物をモチーフにした戦闘用アンドロイド。
OnI001のように生体部品は一切使用しておらず、AI制御で行動する。
そのため複雑な指令には対処できず、近くで人間が指示を出す必要がある。
汎用的に運用するにはまだまだ改良が必要だが、戦闘実験には十分対応できると判断して用意しておいたものである。

「たしかギアハウンドが12体、ギアスパイダーが2体です」

ギアハウンドは犬、ギアスパイダーは蜘蛛を模した姿のギアモンスターである。

「なるほどね。じゃあギアハウンドを8体連れていくね」

まるで近所の公園に散歩に行くようなノリで博士は言う。

「まさか博士が現場でOnI001を捕らえるんですか?」
「そだよ」
「そんな、危険すぎます!」

絶対に無理だ。
相手は鋼の肉体を持ち、なおかつパワーリミッターの外れたOnI001である。
いくら博士が天才といえど、どうにかなるような相手ではない。
ギアモンスターとOnI001ではスペックが違いすぎる。

「大丈夫、きっと今よりも面白いことになるから」

制止する私を無視して博士は監視室から出ていく。
果たして本当に捕獲することが出来るのだろうか。
どうか無事に帰ってきてほしい。
私は不安を胸に抱きつつ、モニターを見守ることしかできなかった。


seen4

『斬り裂け一閃、エンジェルキーックッ!』

最初の困惑は何処へ行ったのやら、ノリノリで隔壁を突破していくOnI001。
もはや時間稼ぎにさえなってないような気がする、
博士は一体どうやってこの行軍を止める気なのかしら。

『そこまでだ!』

やきもきしていると、さっそくモニターに博士が現れる。
またさっきの中二病ポーズとってるよ、この人。

『やっと人間に出会えたぜ。で、あんたは一体誰なんだい?』

博士独特の中二オーラに何を感じたのかはわからないが、OnI001は警戒している様子である。
機械の体に改造されて、施設内で初めて出会った人間相手なら警戒するのも当たり前の話である。

『君はここを抜け出して、そんな体で一体何処へ向かおうって言うんだね?』
『質問に質問で返すな。あんたは一体何者なんだ』

博士の言葉には乗らず、あくまでも自分の意思を貫き通す。
OnI001からすれば、どんなに些細な情報でも欲しいじょうきょうなのだろう。

『君の創造主だよ』
『まさか・・・・・・母さんか!?』

アイツ絶対アホだ。

『君、アホだろ』

博士と思考が被ってしまった。

『男の僕がどうして母さんになるんだ!間違えるなら父さんだろ!』

ダメだ、アホが二人いる。
うん、私の思考は博士と被ってなかった!

『まさか父さんなのか!?』

この会話まだ続けるの?
脳の調整はまだだから、改造前の記憶は残ってるはずなんだけどな。

『園咲顕将、その体の改造主だということさ』
『お前が・・・・・・お前が俺をこんな姿にしたのか!』

機械の姿で表情こそ読み取れないが、言葉には怒気が孕んでいる。
あまり煽らない方がいいのかもしれない。

『気に入ってくれたかい?』
『うん、あ、いや違ッ・・・・・・なんてことをしてくれたんだ!』

私はコントでも見ているのだろうか。
慌てて怒って見せているが、今、うんって言ったよね?
この二人、なかなか話が進みそうにない。

『君は僕に改造され、最強の体を手に入れた。どうだ、僕たちのためにその力を使ってくれないか?』

構わず続ける博士。
何とかして説得を試みるようね。

『なにを馬鹿なことを。人の体を勝手にこんな姿にして、素直に言うことを聞くと思っているのか』
『ならどうする?僕を殺してここから逃げるのかい?』

殺す。
その言葉にOnI001は動揺する。

『今の君なら僕を殺すのは簡単だろう。でも逃げてどうする?その機械の体で』

OnI001は沈黙を守っている。
博士の言葉に傾いているのだろうか、機械の姿では表情が汲み取れない。
ましてや監視カメラ越しでは詳細な機微も感じたられない。

『逃げ出したとして、メンテナンス無しではせいぜい数週間の命だ。何もできやしない』
『それなら生きているうちに、お前らを全員倒してやる』

呻くような声で答えるOnI001。
頑強な肉体とは裏腹に、蝋燭の火のような儚い命に逡巡しているように感じるわ。

『僕を殺すと元の体には二度と戻れない。僕と一緒に来れば、用が済めば元の体に戻してあげるよ』

なんと惨い言葉か、これではOnI001に選択の余地など無いのではないだろうか。
しかも彼が元の体に戻ることは二度とない。
施術に立ち会ったからこそわかる、何故なら機械に置き換えた元の肉体は、産廃用ゴミとして処理されたのだから。
そして用が済むということは、戦闘兵器として敗北した時、どちらにせよ彼が元の肉体に戻ることはない。
だがそれは彼には知る由もない。
生か死か、その瀬戸際に立たされた時、人は何を思うのだろう。

『それでもだッ!』

彼は声を張り上げる。
機械の、視覚センサーとなった瞳に光を宿らせ、合成された声で叫ぶ。

『俺がここでお前になびけば、俺のような第二、第三の被害者が出る。たとえこの命が数週間で燃え尽きることになったとしても、それだけは止めて見せる!』

魂の叫び。
そうとしか感じられない覚悟の宿った声が響き渡る。

『フハハハハハハッ面白い!ならばその覚悟、試させてもらうよ。かかれ、ギアモンスターたち!』

博士が指令を下すと同時に、8体のギアハウンドがOnI001に襲い掛かる。
円を描いて彼を包囲し、高速に回転しながら輪を狭めていく。
360度、どこから襲ってくるかわからない、ギアハウンドの基本陣形だ。

『ならばこの運命、俺のこの手で切り開いて見せる!轟け豪風、爆砕エンジェルスマッシュッ!』

しかしその豪腕は空を切る。
その隙を見逃さず背後のギアハウンドが鋼鉄の爪で攻撃し、ボディから火花が散る。

『たしかに君のパワーは大したもんだ。しかし肉体の制御が不完全な状態ではこのスピードにはついてこれまい』

ギアハウンドは一定の距離を保ち、OnI001の攻撃範囲には決して近づかない。
そして業を煮やして攻撃を仕掛けた隙を突いて、背後から確実に爪で攻撃を当てる。
OnI001の装甲は頑強で簡単には貫けない。
しかし何度も同じ個所に攻撃を当てることで、少しずつだが確実に装甲を削っていく。

『まったく、チョロチョロチョロチョロと面倒くせえ。そんなに攻撃したければ好きに攻撃させてやるぜ』

そう言ってOnI001は仰向けに、大の字になって倒れこむ。
こいつは正真正銘のバカなんだろうか、これでは恰好の餌食ではないか。
案の定ギアハウンドは二体同時にOnI001に覆いかぶさるように襲い掛かり、鋼の牙を立てる。

『つーかまーえた!撓れ腕(かいな)、エンジェルベアハッグ!』

エンジェルベアハッグ、もはや天使なのか熊なのか意味がわからないわ。
パワーリミッターの外れた豪腕は万力のようにギアハウンドを締め付け、ぐしゃりと鈍い音を立てながら真っ二つに切断する。

『一丁上がり、残り6匹さっさとかかってきな!』

仰向けに寝そべったOnI001と唸りを上げる6体のギアハウンド。
絵面はすこぶる地味だが、かのアントニオ猪木とモハメド・アリ戦を彷彿させる戦いね。
背中を地面に着けているため、どうしても正面からしか攻撃が出来ない。
そしてその懐に飛び込むと怪力で絞殺される、見事な作戦だわ。

『はっはっはっ、見事だよ。さすが元は戦闘のプロなだけはあるね。一瞬でその回答にたどり着くとは感心だよ』

博士は彼の戦いに拍手を送っている。
どこまで呑気なのよ。

『ここは僕の負けだ。さすがに破壊されると分かっていて、ギアハウンドをけしかけるわけにはいかないからね』

素直に負けを認めた博士はギアハウンドを下がらせる。
このままではOnI001が逃亡してしまうじゃない。
他に作戦があるのだろうか。

『君の覚悟、見せてもらったよ』

博士はOnI001に小さな巾着を投げ渡す。

『これは?』

警戒しながら立ち上がったOnI001は巾着の中身を確認する。
何かメモのようなものと、鍵が入っていた。

『説明するよりも、実際に使ってみる方が早いだろう。その鍵を左腕のスロットに挿してみるといい』

OnI001は言われるがままに鍵を挿す。
素直に聞き入れたことが意外である。
鍵をひねるとOnI001は眩しい光に包まれる。
時間にして1秒ほどで光が収まると、そこには改造前の人間の姿に戻っていた。
OnI001には特殊なレアメタルを使用しており、スイッチのオンオフでナノマシンが作動し、分解、再構成を行い姿を変える仕様になっている。
この人間の姿をヒューマノイドフォーム、戦闘形態をオーガフォームと私たちは呼んでいる。

『その姿なら、ここから出ても怪しまれないだろ?』

彼は自分の顔や体を触りながら感触を確かめている。
これは元々敵地に潜入し、内部から一網打尽にする作戦を想定して組み込まれた仕様である。
まさか逃亡の手助けになるとは思わなかったわ。

『メモの方は、私以外で君のメンテナンスが可能と思われる人物の住所だ。せいぜい上手く取り入って生き延びることだな』

OnI001のメンテナンスが可能な人物?
改造手術に立ち会ったからこそわかる、あの複雑な仕組みの機体を仕様書もなしにメンテナンスが可能な人物がいるのだろうか。
いや、仕様書があったとしても、博士の説明無しでは困難を極めるはずだ。
少なくとも私の知る限り、そんな神業が可能な科学者は思い当たらない。

『なぜ俺にここまでするんだ?』

OnI001の疑問ももっともである。
彼を作成する際、どれほどの予算が注ぎ込まれたか、とても個人の資産で可能な額ではない。
組織に所属し、多額の研究費が割り当てられていたからこそ実現したのに。
それをみすみす手放すなど、本来あってはならないはずよ。

『なーに、ちょっとした気まぐれさ。ここを逃亡したら、君は組織からの追手がかかる。どこまでの規模を予想しているかは知らないが、我々の組織、シャドールは巨大だ。僕が造り上げた最高傑作がどこまで戦えるのか見てみたくなってね』

あ、最重要機密の一つである組織名を言っちゃった。
この名前を知った以上、OnI001は確実に破壊されるまで追手が差し向けられるだろう。

『それともう一つ、変身した君の姿は天使ではなく、鬼をモチーフにしている。くれぐれも外でエンジェルなんちゃらーって叫ばないでね』

博士も気になっていたのね。
さすがにあのネーミングセンスは無いと思うわ。

『バカな・・・・・・鬼だと?こういうのは機械天使と相場が決まっているだろう!?』

さも当然のように主張しているが、どこの相場を指しているのかさっぱり理解できないわ。
とりあえず鬼の姿にひどくショックを受けていることだけは、監視カメラ越しでも見て取れる。

『あと僕もただのお人よしじゃない。この後すぐに追手を出すから、せいぜい頑張って生き残ってくれよ?僕を殺すために再び会えることを楽しみにしているからね』

言い終わると博士の前の隔壁が閉じ、彼はその場を立ち去る。

『何で・・・・・・何で天使じゃないんだ。こんなこと絶対に許さないぞ』

どうやら彼には重要な問題のようだ、さっぱり理解できないけど。
残されたOnI001はメモを握り締め、叫ぶ。

『絶対に生き残ってブッ潰す!ちっくしょおおおお、覚えてろよおおおおお!!』

OnI001は出口へ向かって走り出す、まるで喧嘩に負けたチンピラのように。
博士が決めたことだ、私は彼の邪魔することもなくただ見送る。
果たして彼は生き残ることはできるのだろうか。


seen5

「どうして逃がしちゃったんですか!」

博士が研究室に戻ってきて第一声で私は詰め寄った。
事と次第によっては組織への反逆と見られるかもしれない。
そうなってしまっては研究どころか命さえ危ういのだから。

「考えてみたんだけどさ、ここでチマチマ実験をして戦闘データを取るよりも、わざと逃がして追手と戦わせた方がより生きたデータが取れると思ってね」

博士は当然だろ?と言わんばかりの態度である。
たしかに生きたデータは取れるかもしれない、だがリスクも多い。
とても諸手を挙げて喜ぶ気分にはなれないわ。

「桜子君、よーく考えるんだ。逃走したOnI001が次々と追手を撃破したら、当然他の研究室の戦闘兵器も投入されるだろう。彼がここにいては絶対に手に入らないデータだ」
「そうかもしれませんけど、OnI001に生きたデータが蓄積されても回収されなかったら意味がないじゃないですか」

逃走したOnI001が定期的に私たちにデータを送ってくるなんてことは絶対にない。
仮に追手がOnI001の破壊に成功した場合、データが無傷で戻ってくる保障もない。

「大丈夫、データの回収に関しては手を打ってある」

博士が言っていた『OnI001のメンテナンスが可能な人物』のことだろうか。
学会を追放された博士に、そんな外部の協力者がいるなんて聞いたことがない。
そもそも外部に、博士の研究の結晶であるOnI001をメンテナンス出来る人間など存在するの?
もし存在するのなら、その人物は間違いなく博士に匹敵する天才だ。

「誰・・・・・・なんですか?OnI001に渡したメモに書かれてあった人物って」

博士と長年一緒に研究を重ねてきたからこそわかる、そんな人物がいるわけがない。
しかもその人物が博士と友好的だなんてあるわけがない。
博士の生活をサポートしてきたからこそ断言できる。

「誰って?僕の目の前にいるじゃない。あのメモ、桜子君の実家の住所だよ?」

博士の言葉に思考が追いつかない。
私の実家の住所が書かれたメモをOnI001に渡した?
なるほど、改造手術に立会い、OnI001の仕様も知り尽くした私ならたしかにメンテナンス可能だわ・・・・・・って!

「ええええええええええええええッ!」
「言っただろ?面白い展開になるって」

何考えてるのこの男、乙女のプライバシーを本人の許可もなく教えるなんて!
倫理観がブッ壊れてるとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかったわ。

「なんてことしてくれるんですか!あんなのが実家に来たら家族もビックリですよ!」
「そうかなー、喋った感じだと彼面白いよ?」
「そういう問題じゃありません!うちは三年前に父が病死して、今は母と私と妹の三人暮らしの女所帯なんですよ?」
「華やかでいいねー」
「あああああ、私の・・・・・・乙女の貞操が〜〜〜〜〜!」
「その辺は抜かりないよ、去勢してあるし、仕様書にも書いてあっただろ?」

頭を抱えて抗議する私に、楽しそうに返答する博士。
悪魔だ。この人悪魔だよ!
あんな組織に追われた危険人物が実家に来るなんて!

「ん?それって私の家族も追手に狙われませんか?」
「頑張ってね、桜子君ならきっと大丈夫!」

親指を立ててウインクする博士を力いっぱい殴りたい。

「さて、僕たちは明日までにこの研究所を破棄するから忙しくなるよー、あと一時間後に残りのギアモンスターを出撃させてね。自然に桜子君の実家に誘導するようにプログラムして」

博士はパンパンと手を鳴らしながら他の研究員にテキパキと指示を出す。
OnI001が逃亡した以上、この施設から組織の足が着くわけにはいかない。
きっと明日の夜には更地にされているだろう。

「あ、桜子君はもう帰っていいよ」
「え?私も作業手伝いますよ」

何を今更私をのけ者にしようとしているんだ、この人は。

「いやいや、桜子君は実家に帰ってOnI001を迎え入れなきゃいけないだろ?」

何を惚けたことを、と博士は当然のように告げる。
そうだった。
メモを渡した以上、私がどんなに拒否してもOnI001ha実家に来る。
こうなったら私が家族を守るしかない。

「機材はメンテナンスに使うから桜子君の実家に送るね」

あんな大量の機材、実家に入らない・・・・・・早急に倉庫も探さなくちゃ。
やることが多すぎて時間が足りない。

「博士、私かえります。お疲れ様でした!」

荷物をまとめ、研究室を後にする。

「明日はOnI001の相手で忙しいだろうから休みでいいよ。明後日からは通常通り本部の第一研究所に出社してねー」

あんな面倒なものを押し付けた上に出社まで強要するの?
本当に悪魔だよ、あの博士。

「ちっくしょおおおお、覚えてろよおおおおお!!」

世界経済を裏から操り第三次世界大戦を勃発させ、その間隙を縫って世界征服を企む闇の組織シャドール。
果たして組織の目を欺きながら敵対するOnI001をサポートし、家族を守ることが出来るのだろうか。
決して双方にバレるわけにはいかない戦いが始まろうとしていた。


【第二話へ続く】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1954677364&owner_id=6086567
0 26

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する