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2016年08月09日18:39

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【創作】超攻鬼装オーガイン  第二話:その名はオーガイン【前編】

【創作まとめ】
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【前回】
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OnI001が第三研究所から逃走してから日が開けた。
博士に言われるがままに急いで帰ったものの、よく考えると第三研究所はN県の人里離れた山奥にあるわけだから、着のみ着ままの無一文で逃走したOnI001がすぐに実家に来ることはなかった。
距離を考えると無事に辿り着くかさえ不安に感じる。
時刻は午前7時、今日は休みでいいと博士に言われていたので私は私服に着替え、家族のいるリビングへと向かった。
小鳥遊家の朝食はトーストにベーコンエッグだ。
キッチンから香ばしく食欲をそそる匂いが胃を刺激する。
科学研究者をしている私にとって、朝食は脳を活性化させるために必要不可欠である。

「母さん、緑子(みどりこ)は?」

私には歳の離れた幼稚園児の妹がいる。
キッチンで朝食の用意をしている母さんに、妹の行方を尋ねる。
いつもなら私より早く起きて、朝の子供向け番組を観ている時間なのだが、今朝は姿を見ない。

「緑子なら牛乳がきれてたから、近くのコンビニに買いに行ってもらってるわ」

ふーん、と応え私は朝食用の紅茶を用意する。
あらかじめ作り置きしてあるアイスティーにミルクとガムシロップを入れるだけなのだが。

「そういえば帰るのが遅いわね。どこか寄り道してるかもしれないから様子見てきてくれない?」
「えー、緑子ももう年長だし、大丈夫でしょ」

緑子が産まれた当初は、この世にこんなにも可愛い生命があるのかと可愛がったものだが、年齢を重ねるにつれ生意気になり、今では少々ウザくも感じる。
すぐにテレビに影響されて変な言葉を使うし、意見も論理的でない。
まぁ、幼稚園児に論理性を求めても無駄だとわかってはいるんだけどね。

「でも出て行ってから30分は経つわ。心配だからちょっと見てきてちょうだい」
「30分!?」

近所のコンビにまで私の足で5分程度、幼稚園児の歩幅で考えても30分はかかり過ぎだわ。
コンビニでお菓子を買おうと悩んでる可能性もあるけど、さすがに心配ね。

「そういうのは早く言ってよね、ちょっと見てくるわ」

私は玄関で靴を履くと、急いでコンビにへ向かう。
朝とはいえ、じりじりと夏の日差しが肌を刺す。
すると、家から10メートルもしないところに居た。

「ね?お嬢ちゃん、ちょっとだけだから、ね?」
「いーやーだー!」

夏の眩しい日差しの中、不審者が幼稚園児に対して必死に通せんぼをしていた。

「ね?お兄さん怪しい者じゃないからちょっとだけお嬢ちゃんの家に招待してくれないかな?」

家に来ようとしている!?
この不審者、やば過ぎる。

「うちの子から離れなさあああいッ!」
「ぐほッ!」

気がついたら私は不審者の顔目掛けてドロップキックを放っていた。
緑子の視線に合わせるために屈んでいたので当てやすい。
シャドールの研修で空手習っておいてよかった!

「おねえちゃああん!」

泣きながら抱きついてくる緑子、朝のお使いで不審者に遭遇して怖かったに違いない。
私は不審者から守るように緑子を抱きかかえ距離を取る。

「この子に一生モンのトラウマ植え付ける気か!」

私は警戒しつつも倒れた不審者に侮蔑の視線を向ける。
あれ?この顔どこかで見たような・・・・・・

「自分は怪しい者じゃない・・・・・・す」

やば、これOnI001だ。
ヒューマノイドフォームのため気づかなかった!
どうしよう、不審者として警察に突き出せない・・・・・・


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「で、何か言い訳はあるわけ?」

夏の焼け付いたアスファルトに正座させたOnI001を問い詰める。
二人で話すため、緑子は先に帰らせた。
これからコイツのメンテナンス関係の面倒を見ないといけないわけだが、緑子との最悪の出会いでどうしたものかと悩む。

「えと、自分は石動雷馬(いするぎらいま)と言いまして、ある人物に会いに来ました」

知ってる。
っていうか、この圧倒的主人公オーラな名前はなに?
コイツ、こんな名前だったの?
改造手術を行う際、素体に感情移入しないように個人情報は読まないようにしていたので名前のインパクトに驚いてしまった。
だって本来脳改造を施術したら彼の記憶は消去される予定だったので、見る必要がないと判断したのよ。

「それが幼女を誘拐することにどう繋がる訳?」

冷ややかな視線を向けつつ問い詰める。
研究所での出来事を一部始終見ていたので事情は知っているが、この石動雷馬は私をシャドールの一員だということを知らない。
当然ここで会うのも彼にとっては初めての出会いになるわけなので、こっちもそれに合わせる必要がある。

「違います、誘拐なんてしませんよ。自分は小鳥遊桜子っていう人に会いに来ただけで、決してお子さんを誘拐しようだなんて考えてません」

緑子は私の子供じゃなくて妹なんけどね。
年齢差があるからそう見られるのも仕方ないのかもしれない。
でも花も恥らう乙女を捕まえて、お子さん、は無いんじゃないかしら。

「内臓GPSを使って家の前まで来たまではよかったものの、どうやって訪ねたものかと思案していたらお子さんが家から出てこられたので」
「で、誘拐しようとした?」
「違います!」

ダメだコイツ、内臓GPSとか言っちゃってるよ。
早く何とかしないと、どこでどう情報が漏れるか分かったもんじゃないわ。

「私、あなたのことなんて知りませんけど、何の用ですか?」

あんまり誘拐犯でからかっても話が前に進まないので、少し助け舟を出してみよう。

「あ、貴女が小鳥遊桜子さんですか?」
「ええそうよ、残念なことに」

私の名前を知って、石動雷馬の顔がぱっと明るくなる。
そしておもむろに両手を地に着いて。

「自分を・・・・・・一人前の男にしてください!」
「言葉を選べボケがッ!」
「あべしッ!」

突拍子の無い言葉に反射的に頭を踏みつけていた。
一応ここは家の近所なんだから、言葉を選べっての。

「園咲顕将って男を知っていますか?」

頭を踏みつけられたまま、石動雷馬は声を絞り出す。

「知ってるわ、学会を追放された狂気の科学者ね」

実際はほぼ毎日職場で顔を合わせてるんだけどね。
私としてはその狂気から生まれる発想が彼の才能だと感じている。

「自分はその園咲という男に、体を機械に改造されたっぽいです」
「ぽいってどういうこと?」

私は慎重に言葉を選びながら会話を続ける。
彼に博士と私の繋がりを悟れるわけにはいかないから。

「昨日、目が覚めたら研究所みたいなところに居て、ロボットみたいな体になってました」
「それで?」
「状況が飲み込めず、怖くなって逃げ出してきました」

目が覚めたら機械の体になっていた。
どんなにメンタルの強い人間でも、動揺するだろうし不安も感じるだろう。
状況が飲み込めない状態が恐怖を煽る、まあ想像できなくもないわね。

「その際、自分を改造したという、園咲顕将と名乗る男に会いました」

一夜明けて、まだ組織に敵対しようと考えているのだろうか。
それとも自分を改造した強大な力に怯え、生き残ることだけに執着しているのだろうか。
彼が博士に対してどのような感情を抱いているのか、踏みつけた靴底の下にある顔から表情は読み取れない。

「園咲顕将は自分に言いました。貴女なら、小鳥遊桜子なら自分のメンテナンスができ、命を永らえることが出来ると」

話している間、彼は地面に押さえつけられている頭を上げようとはしなかった。
踏みつけられている足も払おうとはしなかった。
ただ懇願するように言葉を搾り出す。

「貴方の言葉が全て本当なら私にメンテナンス出来るかもしれないわね。でもそれで生きながらえて何がしたいの?復讐かしら?」

研究所を逃げ出す際、彼はいつか組織を潰すと言っていた。
だがシャドールに所属する私にはわかる。
組織は巨大で、とてもOnI001の力だけで潰すことなど不可能だと。

「研究所から逃げ出して、ここに来るまで一晩考えました。体のほとんどを機械に改造されて、それで生きてるのかって。正直に言って今の自分が人間と呼べるかもわかりません。力だけなら化け物だと思います。そんな自分が生きながらえて何が出来るかって・・・・・・」

地面についた手を強く握り締める。
表情は読み取れないが、そこに力強い意思を感じる。

「桜子さんにメンテをしてもらっても、どこまで長生き出来るかはわかりません。それでも・・・・・・自分と同じような人間を減らしたい。復讐よりも、まだ見ぬ被害者を減らしたい、そのための機械の体だと思いました」

一晩でどれだけの葛藤があったのだろうか。
彼の言葉からは言い知れない不安と決意が感じ取れる。

「研究所を逃げ出した自分は、まだ未調整の状態だったみたいで上手く体を動かすこともままなりません。今のままでは救えるはずの命も救えません。だから・・・・・・自分を戦えるように、誰かの命を救えるように・・・・・・」

彼の進もうとしている道は茨の道だ。
自身も組織に狙われ、その上でまだ見ぬ被験体を助けたいというのだから。
彼をメンテナンスをするということは、私自身もそれに付き合うことになる。
まったく博士も無理難題を押し付けてくれたものね。

「だから桜子さんの手で、自分を男にしてください!」
「だから言葉を選べって言ってるでしょッ!」
「ひでぶッ!」

最後の言葉に感慨も吹き飛び、軽くジャンプしながら再び体重を乗せて後頭部を踏みつける。
いやー、頑丈って大事だわ。


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とりあえず石動雷馬を家に招き入れることにした。
別に彼の言葉にほだされたわけでもない、こうやって話を進めないと博士から受けた任務を実行することができないからだ。
あと騒ぎを聞きつけたご近所のみなさんが集まり始めたってのもある。
うら若き未婚の乙女が、朝っぱらから公衆の面前で土下座男の頭を踏んでいたとか噂になったらここに住めなくなるし。

「ただいまー」
「おかえりなさい、不審者が出たって緑子から聞いたけど大丈夫・・・・・・ってその人誰なの?」

鍋を兜のように被り、その鍋の蓋と、昔私が試作した超振動分子包丁で武装した母さんが出迎えてくれる。
勇者の初期装備かよ。
もう少し帰りが遅かったら、その姿で助けに来てくれてたのだろうか。
よかった、そんな格好で出歩かれてたらご近所の噂になってるところだよ。

「不審者なんだけど・・・・・・よく見たら知り合いだったの。私を呼んでほしかっただけだったらしいよ」
「先ほどは失礼しました。自分、桜子さんの友人の石動雷馬と言います」

丁寧にお辞儀をする石動君。
うん、いちいちフルネームで呼ぶのが面倒なので、石動君と呼ぶことにした。

「え?そうなの?あらあらまあまあ、桜子の母の紫子(ゆかりこ)です」

何があらあらまあまあなの?
変な勘ぐりはやめてほしいんだけど。

「これはこれはご丁寧に」

二人はにこやかにお辞儀し合っている。
なんなの、この平和な空気は。

「桜子が男の子を家に連れてくるなんて初めてね」

母さんは嬉しそうに手のひらを合わせてはしゃいでる。
連れて来たっていうよりも、押しかけてきたんだけどね。

「やめてよ母さん、そんな関係じゃないから。そ・れ・よ・り!アンタ、緑子にちゃんと謝りなさいよね」

石動君を睨み付けながら謝罪を促す。

「おねえちゃん、その人だれ?」

いまだ怯えている緑子はリビングのドアから顔を半分だけ覗かせている。
あんな状況にあえば警戒するのも当たり前よね。

「緑子ちゃん、さっきはゴメンね。お兄ちゃんは桜子さんの友達の石動雷馬って言うんだよ」
「おいコラ、人の妹に一生残りそうなトラウマ級の接し方しといて、謝罪が軽いんじゃないの?」

態度の軽さに、胸倉を掴んで睨みあげる。
緑子にやった仕打ち、まだ許してないんだからね。

「あ、はい、すみませんでした」

そう言うと彼は玄関に正座して両手を着く。

「緑子ちゃん、さっきは怯えさせてすいませんでした!」
「緑子、こっち来てこの頭踏んでもいいんだよー」
「ふ、ふまないよー」

そう言って緑子はリビングに引っ込んだ。

「桜子、あなたいつも外ではそんなことしてるの?」
「え?そ、そんなことしないわよ!」

母さんの冷ややかな視線が私に突き刺さる。
え?私が悪いの?

「アンタのせいで、私の家庭内の評判ダダ下がりなんだけど?」
「今のは桜子さんの自業自得じゃないですか?」

靴底から反論が返ってくる、生意気な!

「桜子、いいからその足どけなさい。はしたないわよ」

母さんは超振動分子包丁をキュイーンと唸らせながら注意してくる。
それ、製品版と違ってリミッターが付いていから、切れ味ヤバいって!

「とりあえず話は朝食食べた後にするから、私の部屋で待っててくれる?」

渋々頭から足をどけ、石動君を促す。
本当はこんな男を部屋に上げたくないのだが、一緒に居ると緑子が怯えるので仕方ない。

「あの、自分も朝食まだなのでよければご一緒させてもらえませんか?」
「は?アンタどこまで図々しいのよ」

申し訳なさそうに言ってるけど、態度は大きい。
OnI001はエネルギーの効率化を図るために消化器官を残し、人と同じように食事が出来るようになっている。
考えてみれば、昨日研究所を逃げ出してから何も食べてないはずなので空腹は仕方ない。

「後で食事を持って行ってあげるから、もう少し辛抱しなさい」
「えー」
「アンタが居ると緑子が怯えるのよ!」

その言葉に石動君はシュンとするが、それこそ自業自得よね。
私はさっさとリビングに向かう。

「母さん、ご飯にしよー?」


【中編へ続く】
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