夜に影

なるべく毎日、と思いつつも1週間に数回くらい、近所をランニングしている。

大体スマホで音楽を聞きながら走っていて、最近は90〜2000年代のヒット曲を良く聞いている。

次々に懐かしい曲がかかるたび、10代の頃を思い出す。

今でも思い出すセリフが一つある。

高校2年生の時、文化祭の準備をしていた時、
クラスの女子が屋台の壁になる板にペンキを塗りながら、同じ作業をする女子生徒に向かって
「ねえ、信じられる？これも将来想い出になるんだよ？」と言っていた。
そう言われた友達は何て言っていたか憶えてない。多分「ねー」とか返していたと思う。

俺はその会話を盗み聞きしながら「たしかに、こんなことが想い出になるのか？」
と思っていた。ちなみに俺はその時「楽そうだから」という理由で学期の初めに
文化祭実行委員の役割を買って出て
（クラス全員、何かの係か委員会に所属しなければいけなかった）
いざ文化祭になってみると意外と大変で、部活の大会があるからという理由で
仕事の大半を放り出していた。

今振り返ると、文化祭は全然想い出になっていない。ほぼ記憶にない。
その年クラスでは「えんにち」として駄菓子を売っていたが、1日目は大会で欠席し、
2日目は確かちょっと売り子をしたがほぼ憶えていない。
ただその時の「これも想い出になるんだよ？」というセリフだけが頭に残っている。

高2の時記憶に残っているのはそのことと、数学で14点をとったことくらいだ。
何が思い出に残るかは分からない。

あと10年経った時、今、31歳の思い出は何だろう。
今のところ何にもないけど、もしかしたら何かあるのかもしれない。
近所のうどん屋に入ったらたまたま何周年か記念で安かったことかもしれないし、
新宿でお芝居を見た事かもしれないし、腕時計の電池を取り換えたことかもしれない。

でもきっと9割の事は忘れてしまうのだ。良いことも悪いことも。
なのでとりあえず、何はなくとも日記をつける。

昔のことを思い出すことに何の意味があるのか。
それはよくわからないけど、だからこそ自分で意味を決められる。
ふと思い出してしまうことには、
今の自分に必要なもののヒントがあると、そう思えば何となく
何となく、、、何だろ。

ランニングを終えた後、公園で一休みしている時、
街灯の灯りがベンチに影をつくっているのを見た。
夜なのに影を見るようなことは、江戸時代にはなかったろうなと
ふと思った。
その後、いやろうそくとかの灯りもあったし、全然あったろうなと思い直した。