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2015年09月06日23:33

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「ボヴァリー夫人とパン屋」 「ふたつの名前を持つ少年」 「ロマンス」 「死霊高校」 「わたしに会うまでの1600キロ」

29日は「この国の空」(2回目)

30日は「ボヴァリー夫人とパン屋」

31日は「ふたつの名前を持つ少年」

1日は 「ロマンス」

2日は 「死霊高校」
     「わたしに会うまでの1600キロ」

5日は 「奇跡の2000マイル」を観に行きました。





「ボヴァリー夫人とパン屋」、

コメディともファンタジーともつかない不思議な触感のお話だなぁ…と思ったら、
元が英国の絵本作家の描いたコミックなのだそうな。
監督はアンヌ・フォンテーヌ。
ノルマンディーの小さな村でパン屋を営むマルタンの隣家に
ジェマとチャーリーのボヴァリー夫妻が英国から越して来る。
ジェマを「ボヴァリー夫人」のヒロイン エマに重ねるマルタンは
ジェマが若い男との不倫に走るのを見、
その行く末を心配するあまり妄想を逞しくして行くのだが…というお話。
ファブリス・ルキーニ演じるマルタンの
インテリ中年男(マルタンは都会での編集者勤めを辞め故郷にUターンしている)の
脳内で増殖する妄想が愉快で、
教養高く善良な男がお隣りの美人妻の行動勝手に(・・・)翻弄される姿が
実に上品なエロティック・ファンタジーになっているのだ。
この“上品な”というのがヨーロッパ的で
不倫を倫理的に眺めるのではなく ファンタジーの対象として遊ぶ
大人な感性であることが粋なのだ。
実はマルタンが“田舎町のパン屋のおやじ”を今一つ引き受けきれず
文学の豊饒に憧憬を抱いている…というのがそこはかとなく可笑しくて
ファブリス・ルキーニはこういう中年男の愛すべき悲哀を演らせたら
ピカいちだよなぁ…!と思うのだ。
ラストの新しい隣人の件りに爆笑するぞ!(笑)





「ふたつの名前を持つ少年」、

ゲットーから逃げ出した8歳の少年が1943年から45年の終戦まで
たった一人でポーランドの森や農村で生き延びた実話の映画化。
この時代ホロコーストを生き延びたユダヤ人の逸話には
俄かには信じられない体験や経緯がいくつもあるが、
これもその一つ。
監督ペペ・ダンカートはドキュメンタリーで評価の高い仕事をしている人らしい。
冒頭2行のあらすじだけで 興味深いお話であることは間違いないけれど、
少年ユレクをめぐるドイツ人にしてもポーランド人にしても
人間の善し悪しは個人の資質によることが明かされて行き、
ユレクの驚異の経験はエンタメのようだけれども
彼が最終的に自身のアイデンティティをどこに求めるか…?が
映画の見どころになっている。
8歳の少年を労働者として雇う農家が普通にあった…というのが
一番の驚きだったかもしれない。
面白いかどうかは別にして
作られるべき映画なのだと思う。





「ロマンス」、

『百万円と苦虫女』以来7年ぶりのオリジナル作品となる
タナダユキの新作。
新宿⇔箱根を走るロマンスカーで車内販売をする鉢子は
ある日ワゴンから菓子を万引きした中年男と関わることになり
映画プロデューサーだというその男 桜庭と
疎遠になった実母を探して箱根を経巡ることになる…というお話。
面白い♪
鉢子の造形も秀逸なら
箸にも棒にもかからない桜庭のいい加減な存在感もよくて、
この二人の 恋愛要素ゼロの箱根めぐりは
人生に高望みをしないことで不幸を避けている鉢子の諦念と
おちゃらけたもの言いで人生ナメてるみたいな桜庭の隠された絶望が
何とも絶妙なハーモニーを醸して、
上等なバディムービーになっているのだ。
現在立ち入り禁止区域となっている箱根の観光スポットが登場していて
行ってみたいと思っても行けない 観光地箱根としては残念な事態なのかも?
二人の境遇に何が劇的な変化が起きるはずもない一日一晩のお話は
それでも
生きて行くって結構しんどいけど
それほど悪いもんでもないよね…とぼんやり思わせてくれる。
そのユルい肯定感が気持ちいい良作である。
大島優子,大倉孝二の好演が光る
佳作。





「死霊高校」、

POV仕様のホラー映画で
上演中に死人の出た因縁の舞台を上演予定の演劇クラスの受講生が
夜中のステージにしのび込むと…というあらすじにしても
予告編の映像にしても、
全く期待させるものはなく当然のようにスルーする予定だったのだけれど
何だか褒めてるレビューに出会うので出かけてみると…
なるほど!
何かが起こりそうだ…と思わせる気配の演出こそホラーである―
と言わんばかりの演出といい、
因縁話のベタさを巧みな構成で謎解きに変換するラストといい、
いやいや 面白かった!
チャラ男の撮るホントどうでもいい映像のうるささに耐えることも
ステージのある講堂(?)に閉じ込められてからも
20年前の事件のニュース映像が流れることも
特に怖くはないのだけれど、
ケータイやビデオカメラの灯りが頼りなく照らす闇の深さこそが
ああ怖い!(笑)
見えないことより 何か見えるかもしれない…と脳が身構えるのが怖い。
そういう怖さを重ねた先に
因縁話の謎解きが訪れる快感!(笑)
いや、是非に劇場で!とは言いません。
ブルーレイで観てね!





「わたしに会うまでの1600キロ」、

たった一人でパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破した
シェリル・ストレイドの体験記をジャン・マルク・ヴァレが映画化。
アメリカ西海岸を南北に縦断する砂漠と山岳の道1600キロを
母の死から人生が狂ったシェリルが
3ヶ月かけて歩くその行程が描かれる。
一人では用意に立ち上がれないほどのバックパックによろめき
燃料の過誤から火を使えず料理ができず
説明書を見ながらテントを張り…とトレッキングの経験ゼロの
男とクスリに溺れ優しい夫に離婚されたばかりのみじめなシェリルが、
大自然の過酷と 出会う人の人間に癒されて
次第に生きる実感を身内に培って行くさまが
とても気持ちよく描かれている。
リース・ウィザースプーンは自ら製作をしているだけあって入魂の演技。
45歳で亡くなったその母を演じるローラ・ダーンの
DVから逃れて貧しい暮らしの中明るく生きた女性の造形が秀逸。
この母を回想するシェリルの悔恨が痛ましいのだが
(決していい時ばかりではなかった母娘の時が彼女を苦しめる)、
そこに拘泥して自らも人生も委縮させてしまっていることを
大自然の過酷が教えるわけだ。
とてもいい映画だと思う。
明日頑張る勇気を得たい人にお薦め(笑)。
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