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2015年05月19日07:21

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正史にオマージュ 第103回



終章 事件が解決したあとで



 ディオスからハンカチを渡された。
 そのとき、なにか叫び声が聞こえ、すぐに、どたどたという幾人もの足音が廊下に響いた。スペイン語の叫び声がする。私はあわてて涙をぬぐった。
 背後の襖がガサっという音を立てて、乱暴に開いた。振り返ると、迷彩服を着て、ヘルメットを被り、機関銃を構えたふたりの黒人が、銃口をこちらに向けていた。ディオスはすぐに両手を上げて、何か言った。スペイン語だった。兵士の背後から、黒人ではないが肌の浅黒い男が、弟子待(でしまつ)とふたりで出てきた。やはり迷彩服を着て、無帽で口ひげをはやしている。その後ろにも、何人かいるようだった。弟子待が早口のスペイン語で無帽の男に向かって言った。男はうなずいた。弟子待は、こちらを見ながら、早口のスペイン語でしゃべり、すぐに日本語をつけ加えた。あとで聞いたら、同じ内容を西日二ヶ国語でくり返していたらしい。
「こちらがトシマツ・マツラゴウ。あなたが会いたがっていたマツラゴウの当主。こちらが、ハツネ・サンチェス・マツラゴウと、その友人でディオス・マキーナ」
 無帽の男がうなずいた。彼はメモを取り出し、それを見ながら喋った。名前を読み上げているようだった。かろうじて聞き取れたのは、國松大叔父、松男叔父、池添、小郡の名前だった。喋り終わると、弟子待がすぐに口を開いた。
「通訳します。私はエスメラルダ人民解放統一行動戦線南部地区第三行動隊長のラモン・ロドリゲス中尉だ。エスメラルダ南部の治安および資産保全にあたっている。まず、クニマツ・マツラゴウに会いたい。実質的なこの村の長だと、私たちは認識している。その上で、サダコ・ナカクラという女性を訊問したいので、この村にいるならば、引き渡してほしい。これが、まず最初の、そしてもっとも重要な用件だ。次に、以下の人間がこの村にいるならば、サダコ・ナカクラに関して訊問したいので、引き渡してほしい。質問があるだけで、拘束その他の危険がないことは保証する。ケンゾウ・ミヤモト別名イサク・オゴオリ、アキラ・イケゾエ、ホルヘ・ガルシア・ワニブチ。この男――ぼくのことです――は、クニマツ・マツラゴウと三人の男は、行方不明になるか死んだかしたと言ったが、それは本当か。クニマツ・マツラゴウが死んでいる場合は、息子のドミンゴ・マツラゴウか、他の家族の者でもよい。ドミンゴ・マツラゴウも死んだというのは本当か」
 私はディオスに目で問いかけた。ディオスは顎を引くようにして、かすかにうなずいた。迷彩服の男を弟子待はきちんと通訳しているらしい。私たちが質問に答えるより先に、弟子待が早口で質問し、日本語でくり返した。
「クニマツ・マツラゴウのひとり息子は、正しくはマツオ・マツラゴウだ」
ロドリゲスは弟子待の方を向くと、吐き捨てるように言った。
「出生証明で確認している。ドミンゴ・マツラゴウ・ワカモトの名で、クニマツ・マツラゴウが届けを出している」

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