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2014年12月28日20:28

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やっぱり小説はおもしろい

 言語の魔術師井上ひさしさんの『言語小説集』は純粋におもしろい。帯のコメントにあるように,奇想天外な世界を書かせたら天下一品です。

 サン=テグジュペリの『夜間飛行』は重みのある小説でありながら,美しい心象風景で綴られています。
 人の生以上に価値のあるものとはなんでしょう。明確には理解できないけれど,その存在をリヴィエールは確信しています。しかし,ファビアンというもっとも信頼している生を失うファビアンの妻にとって,ファビアン以上に大切なものがあるとは思えません。

<以下引用>
 パタゴニア便の乗員たちを思うと,リヴィエールは胸が締め付けられた。人間の行動,それも人びとのために橋を建造するような行動でさえ,個の幸福を打ち砕くことがあるのに。問わずにはいられなかった。「何の名において?」
 「二人とも」と思った。「いま逝こうとしているかもしれないあの二人とも,幸福な人生を送ることができたはずだ」。夕暮れのランプが金色にともされた食卓,その聖域でうつむいて祈る顔が心に浮かんだ。「自分は何の名において,そこから二人を引き離したのか」。何の名において,個人としての幸福を矧ぎとったのか? 最優先されるべき原則は個の幸福を守ることではないのだろうか? だが自分がそれを破壊したのだ。とはいえあらゆる金色の聖域は,いつかは蜃気楼のように消滅してしまう宿命にある。リヴィエールよりさらに無慈悲な,老いと死に破壊されるからだ。おそらく救うべき別の何か,より永らえる何かが存在するのだ。おそらくは人間のその領域に属するものを救うために,リヴィエールは働いているのではないか。そうでなければ,この活動を正当化することなどできはしない。
<以上引用>

 リヴィエールが個の幸福より大切だと確信している「おそらく救うべき別の何か,より永らえる何か」は,少なくとも今のファビアンの妻には理解できない。
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