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2014年06月27日16:35

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「バルテュス　最後の写真　－密室の対話」展

ドアを開けると、狭い部屋があった。暖炉も設えてある。そこに全裸の少女がいた。ある少女は、足を広げ、挑発的とも見えるポーズを取っている。ある少女は、まだ幼い、成熟しきっていない乳房もあらわに、ソファに横たわる。ある少女は、トルコの衣装をまとい、やはり、ソファに寝ている。

「・・・・・・死んでいるのか？」
私は思う。少女たちは、皆硬質で、温かみはない。死体のようだ。だから・・・だろうか。少女たちは、何処か崇高にも見える。何某かに殉教したような・・・そんな感じだ。
バルテュスは少女を天使ととらえ、絵を描いていた。「あぁ、天使とは、殉教者のことであったか。」私は、そうバルテュスに問いかける。
美男子のポーランド貴族の末裔の画家は、「キミは、ちっとも分かってないね。」と言う顔をしていた。

三菱一号館美術館・歴史資料室で開催中の、『バルテュス　最後の写真　－密室の対話」展』に行きました。

↓バルテュス最後の写真　－密室の対話展のＨＰ
http://mimt.jp/balthus/

この美術展。バルテュスの奥様である節子夫人の希望で、英国のクイーン・アン様式で復元された、この建物で、開催となったそうな。確かに合ってました。

バルテュスが生涯拘ったテーマに『少女』があります。最初は細かくデッサンをとっていたのですが、最晩年、体力的にもデッサンが取れなくなり、ポラロイド写真でモデルの少女たちを撮るようになるのです。その資料ポラロイドの展示でした。
ポラロイドの少女も見事にバルテュスの作品だった。

面白い・・・と思ったのは。私、バルテュスの絵には、さほど、「死の匂い」を感じません。私はエロスとタナトス・・・生と死を同時に感じさせてくれるものが大好きなのですが、バルテュスの絵画には、それほど死の匂いはしないのです。怖さや、不思議さはあるのですが。あの、少女という時を固めてしまったような、少女のフリーズドライのような・・・あの絵たちには、死の匂いはしない。
それなのに。このポラロイド写真は、まさに、私が好きで好きでたまらない『エロスとタナトスが同時せいを持ってそこにあるもの』でした。
何故か、ポラ写真の方には、死の匂いを強く感じた。
モデルの少女は硬質で、温かみはまるでない。オブジェのようだ。漫画が好きな人なら「丸尾末広の描く美少年、美少女みたい。」で通じるだろうか？（まぁ、丸尾氏には、実際バルテュスをパクった絵もあるが）

でも、温かみがないことにより、少女たちは、崇高に、神聖なものに見える。
写っているのはヌードの少女のはずなのに、淫靡さや、淫猥さはない。自然光の中で撮影された少女たちは、まるで、自分自身が光っているような、ある種異様な・・・何処か近寄りがたい、神秘的で、気高いものになっていた。「あぁ、これが、バルテュスの言っていた天使なのか・・・」と思った。

全裸・・と書いたのですが、実際には、少女は、白いパンティだけは履いています。なので、性器は見えません。おそらく、性器が見えていたら、対象が少女だし、展示するコトに、東京都や、人権団体がごねたかも知れないね。

三菱一号館美術館の歴史資料室って、狭いんですよ。しかも、ご存知の方もいるでしょうが、三菱一号館美術館って、19世紀末の英国の建物を復元して建てており、内装も、当時の感じにしてあるのね。暖炉があったり（おそらく、飾り暖炉で、実際には、使えないと思うんだが）。そんな部屋に、ズラっと沢山の少女のヌード写真があると、何て言うのかな・・・『とある、お金持ちの秘密の展示室に呼ばれました。』みたいな、ちょっとイケナイ感覚になる・・という、なかなか耽美的な体験が出来たな・・・と。

前述通り、最晩年のバルテュスは、手の自由がきかなくなり、長時間のデッサンが出来なくなり、少女モデルのポラロイド写真を撮影するようにになる。油彩画の制作の前に、イメージを纏める下絵として撮影していたらしいのだが、わずかな姿勢の違いをシークエンスのように撮っているのだ。
良く見ないと「これ、こっちのポーズと何処が違うの？」と思うと思う。ホント、良く見ると、微妙～に手の位置や、足の開き具合が違ったりするのだ。拘りだったんだろうなぁ。どうやら、㎜単位で、ポーズの位置を気にしていたようですね、バルテュスさん。だから、どうにも「気難しい人」って言うイメージがあるんだよな(^_^;)。

アンナ・ワーシリーという少女が、最晩年の彼のモデルを務めた。８歳～16歳まで、バルテュスのモデルだったそうな。先日放送していた、バルテュスの特番（豊川悦史が美術調査員のやつ。ミステリタッチのドラマをベースに進む。凄く出来が良かった）にも、アンナさんは出ていたが、「バルテュスの注文に答えるのに必死で、本人とは、あまり話したことがない。」と言っていた。

アンナさんは毎週水曜日の午後にモデルをしていた。バルテュスが彼女をモデルにしたのは、彼女がモーツァルトの『魔笛』のアリアをハミングしていたから。バルテュスは大のモーツァルト好きで、どうやら、それを天啓か何かのように受け取ったらしい。で、両親のところに頼みに行った。親はアンナに「どうする？」と訊いたらしいのだが、当時８歳の少女だったアンナさんは、さほど考えもせず、面白そうだな・・・と思って「やる。」と言ったそうな。
当初は、鉛筆でデッサンを取っていたが、鉛筆を落とすようになり、バルテュスはイライラし、ポラ撮影に切り替える。作業はゆっくりしか進まない。細部の変化や髪や腕や足の位置など、細かく指示され、バルテュスに直され、何枚も何枚もポラを撮影したそうな。
まだ子供だったアンナさんは、毎週水曜の午後にはバルテュスのアトリエに行くのが日課になっており、それが日常だったので、自分が大変な特別なことをやっている・・・という自覚はなかったんだそうな。

アンナさんの、この言葉が好きだ。「バルテュスと私は共犯者です。」
なるほど、アトリエの共犯者。モデルと一身一体で作られた作品たち。モデルと画家だけの世界。密室の共犯者。この美術展のタイトルに合点がいく。「密室の対話」　モデルとの間に会話はなくとも、バルテュスは絵でモデルの少女と会話をしていたのだろう。濃密な会話を。

ポラを見て行くと。バルテュスが描いた絵の写真もあった。その横に、同じポーズをとった少女の写真があり、見比べられる。
露光が暗いものもあり、かなり幻想的で神秘的な雰囲気になっていたり・・・。

おそらく、ご高齢のバルテュスの手の震えで、ピントがぶれちゃっただけだと思うが、その手ブレ写真は、ソフトフォーカスがかかっているように見え、神秘性に拍車をかけていたり。

『マンドリンの少女』の絵の元である、少女写真もあった。裸体の少女が、ソファに寝ており、手にはマンドリンを持っている。白い布が身体にかかっているヴァージョンもあった。

頭にターバンを巻いた裸体の少女。上半身のアップと足まで入っているものもある。足だけの写真もあったような。
そして、バルテュスの特徴の一つ、足を曲げた少女のポーズ。バルテュスって、少女の硬質な足が好きだったんだろうな・・・と思うんだが。足フェチかな・・・と。
後半になってくると、アンナちゃんも16歳になって、乳房も大きくなって、女性的になるのだが、何ぶん、８歳くらいの頃は、胸もさほどないし、足も細く固く中性的。この中性的な部分がバルテュスの言う、少女は「穢れなき天使」」なのかな？とも思う。

トルコのローブのアンナちゃんの写真が美しかった。寝椅子に寝ていて、足は、いつものバルテュスポーズ。曲げてるポーズね。

開脚し、手を内腿（股間の周辺）に当てているポーズは、自慰行為をしているようにも見える。しかし、エロさはない。あまりに音がせず、静かで冷たく、死の匂いがするからだ。少女が行う、死の匂いがする、静かな自慰行為。ほら、エロスとタナトスが同時性を持って、襲ってこないか？

私は、暫し、バルテュスの少女モデルと対話をした。
時を止めてしまったような冷たい少女。エロスとタナトスを同時に感じさせるその少女たちは、此岸の人間を嗤う天使かも知れない。

室内が寒くてね・・・。見に行く人は、着込んで行った方が良いです。
展示は、歴史資料室でやっているのですが、そこに、三菱一号館のジオラマがあって、三菱一号館は、元々銀行の建物なのですね。中か覗けるジオラマで、中で銀行業務をやっている人達が見られて面白かった。

尚、先日東京都美術館でやったバルテュス展か、三菱一号館美術館で開催中のヴァロットン展の半券があると、100円引きになります。

９月７日までやっています。バルテュスに興味がある方、冷たい感じの少女が好きな方など、見に行くのも一興かと思います。

おまけ。三菱一号館美術館の外観。