5月17日
日本百名山の一つ、福井県の荒島岳、お天気がいい土曜日なら混むだろう。できるだけ人が少ない早い時間に登ろう。
勝原の登山口で車中泊して、4時に歩き出す。
空は曇っている。今日は早朝は良くないが、次第に晴れてくるはずだ。山頂に着くころには晴れているだろう。
工事用に作られた舗装道路を歩く。それから、石がごろごろした歩きにくい道が続く。
スキー場のリフト跡に着く。ここが登山口になっていた。
急な道を上がっていく。
ブナの新緑がきれいだ。大きなごつごつした木が多い。
その1本には「トトロの木」と名前がついている。
シャクナゲ平に着く。だが、シャクナゲの木はない。
ガスは晴れそうにない。
その先には「もちがかべ」という急登があってロープや鎖もあるが、階段が整備されているので、使う必要はない。
8時に荒島岳山頂に着いた。誰もいない。今日の一番乗りだ。
ガスは晴れない。間近に見えるはずの白山どころか何も見えない。風も強い。
祠に手を合わせて、晴れることを祈る。
祠の陰で休む。落ちていたゴミを拾った。少しは御利益があるだろうか。
15分いたが、寒くなってきた。体がどんどん冷えてくる。
山頂でじっとしていてはだめだ。
少し下りて、風のないところで晴れるのを待とう。今日は絶対晴れるはずだ。
20分ほど下ると、体も温かくなってきた。前荒島岳の下は風がなかった。ここでしばらく待つことにした。
登山者が上がってくる。皆山頂に行っても寒いだけだろうなと思う。
しばらくすると、3人組が登ってきた。女性一人、男性二人だ。
「もう疲れたんですか?」と聞かれたので事情を話すと、彼らもここで晴れるのを待つことになった。埼玉から来た人たちだった。山の話をしていると気が紛れる。
「あっ!」雲が少し途切れて、雪山が顔を出した。「きっと白山だ!!」
雲はかかったり切れたり、山も姿を見せたり隠したりと思わせぶりだ。
一瞬きれいに見えた。
そろそろ上に行こうかと思うが、荒島岳の上にはしっかりガスがかかっている。
大分晴れ間が出てきた。白山もその全貌を表し始めた。荒島岳はまだガスがかかっているが、登り始める。
下りてきた人に聞くと、皆一様に寒かったと言った。山頂まであと少しだが、もう少し待つことにした。
すると遠くが晴れてきた。
「あっ、あれは北アルプスかな?」「そうだね、キレットみたいなのが見える。」「ちょっととがったのは槍かも知れない。」「そうしたら、あの南のほうの山が乗鞍と御嶽かしら」
4人で盛り上がっていると、突然雲の中から大きな白い山が現れた。
北アルプスの左だ。
「あれは何かしら。北アルプスと白山の間にあんな山あるかしら?」「御嶽じゃないかな。」「でも、御嶽なら北アルプスの右にあるはずよね。」
4人であれやこれやと話していると、通りがかった人が「あれは御嶽ですよ。その右は中央アルプスと南アルプスですよ。と教えてくれた。
我々が今まで北アルプスだと思い込んでいた山は中央アルプスと南アルプスだったのだ。
荒島岳の山頂も晴れてきたので、山頂に向かう。
11時過ぎに着いた。山頂近くで3時間近くも待っていたのだ。
白山には相変わらず、雲がかかったり取れたりしていた。
山頂には360度の山名版がある。確かめると、確かに大きな白い山は御嶽山で、北アルプスは雲で見えなかった。その右には中央アルプスと南アルプスが重なって大きな山脈に見えるのだ。
遠くには日本海も見えた。この景色を見ないで下山した人が何人もいた。
粘り勝ちだなと思った。
次々と登山者が登ってくる。もう景色は堪能した。11時半に下り始めた。
登りでは閉じていたカタクリの花が開いていた。
シャクナゲ平から小荒島岳に向かう。ここからの荒島岳の姿がいいと書いてあったのだ。
小荒島岳から初めて荒島岳の姿が見られた。やっぱり小荒島岳にも登って良かった。
荒島岳ではガスっていて見えなかった南西の山が見えた。
西にある山が能郷白山かと思ったが、地図で確認すると、能郷白山は南のとがった山だということがわかった。能郷白山と思ったのは、銀杏峰や部子山らしい。
シャクナゲ平に戻り、勝原に下山する。滑りやすい急な下りだが、地下足袋だと快調だ。今回は新しい地下足袋にしてきたのだ。
もっと遅い時間から登れば、あんなに待つことはなかった。だが、待って待って、やっと見えたからこその感動があった。
ガスの中のブナの木と日が当たったブナの木も見られたし、閉じたカタクリと開いたカタクリも見られた。
ガスの中の静まり返った荒島岳山頂と大勢の登山者で賑わう山頂も。
荒島岳はいろいろな表情を見せてくれた。
5月17日、亡くなった父の誕生日だ。生きていれば94歳だ。
福井は父の故郷だ。父の誕生日に父の故郷の山に登り、ちょっと父を懐かしく思う自分がいた。
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