※この記録は大魔導城の構造上の秘密の核心に触れているため部外秘とする。大魔導城に関わったことのない者の閲覧は慎まれたい。
※特に今回は、できればクリアした方にしか見て欲しくない肝心な部分が描かれています。本編を楽しんだ後でまた来ていただきたいと思います。
これまでのあらすじ:ファルガスは倒した。一人密かに国外へ出ようとしたところ、マルドゥークが立ちふさがった。
●アタック08-3
ファルガスを倒した。
任務は完遂した。
完遂したからこそ、マルドゥークと城内で合流など、しない方がいいのだろう。
私は一人脱出経路の模索を始めた。が、そこにマルドゥークの方からやって来た。
そうか。
来てしまったか。。。
2人で城から脱出を図る。
小さな隠れ家で作戦の成功を伝えたマルドゥーク。
今日は休み、ささやかな祝勝会を用意したから出て欲しいと言う。
私は断った。
私は、いつまでもこの国に残ってはいけない人間だ。
すみやかにここを去る、と。
「そういうわけには、いかないのだ」
マルドゥークの瞳に、覚悟の色が読み取れた。
「私がこの国を去るだけでは足りない、と言うのだな」
「その通りだ」
マルドゥークは続ける。
「ファルガスが倒れたと言えど、領主一派は力を残している。実行犯を血眼になって探すだろう。私たち、領主に恨みを持つ者達は疑われ、危険にさらされる。我々には、実行犯の首を挙げることが必要なのだ。疑いを晴らし、我ら一派から次の領主を選び出すために」
そしてマルドゥークは金貨の入った袋を投げよこした。
「報酬だ。受け取ってくれ」
「これから殺そうという相手に丁寧なことね」
「依頼を果たしてくれたのだ。当然の報酬だろう。……では」
「待って。私からも、返しておくものがある」
「……?」
私はマルドゥークに、太陽剣を投げ渡した。
「これのおかげでずいぶんと助けられた。お前のものだ。返せなくなる前に、渡しておく」
「いいのか。太陽剣の威力を知らぬわけでもあるまいに」
「もちろんむざむざと殺されてやるつもりはないさ。私は、これを使う」
すらりと細身の剣を抜き放つ。
「名剣中の名剣、『サーバルの蜂』。骨董品として飾られているよりも、最後の舞台を与えてやった方がこいつも喜ぶだろう。それに、私にはこれくらいの方が使いやすい」
マルドゥークもまた、剣を構えた。――――もう、戻れない。
「では――――死んでくれ」
「断る」
そして、戦いが始まる。
マルドゥークの技術点は8。体力点は10。それに太陽剣の攻撃力1が加わる。
私は技術点9。体力点19。戦上手の腕輪で攻撃力1、サーバルの蜂で攻撃力2の合計3点が加わる。
明らかに私の技量の方が上回っている。
それがわからぬマルドゥークでもあるまいに。
私は手傷を負いながらも、少しずつマルドゥークを圧倒していった。
マルドゥークの体力点が残り2点となった時、私は無駄と知りつつ声をかけずにはいられなかった。
「もうやめにしないか。これ以上戦う必要なんてない。お前はよく戦ったが、賊には逃げられてしまった。それで、いいじゃないか」
マルドゥークは何も答えず――剣を繰り出してきた。
そして……マルドゥークの攻撃のサイコロは、わずか3を出して止まった。その剣の動きに反応した私の攻撃は、マルドゥークを的確に貫いていた。
「マルドゥーク……! まさか、お前、わざと……」
その瞬間、気のせいだろうか、苦悶にゆがみながらも、彼の口元が少し、笑ったように見えた。
そのままどう、と倒れ込む。
「街道は危険だ。私の仲間がいる。すぐ先の小川を下っていけ。私が使うはずだった小舟が隠してある。お前は、逃げ延びなければならない。私たちのためにも」
さっきまで命を取ろうとしてきた男が、今度は私の心配をしている。
しかし、それはどちらも本心なのだ。彼の、国を思う気持ちゆえのことだ。
「お前を殺そうとしたのは、私だけの意思だ。だが、間違っていたよ。お前が死ななくて、良かった」
マルドゥークの声はだんだん弱くなってゆく。私はその手を握っていた。
「礼を、言わせてくれ。愛するこの国を救ってくれて、ありがとう。私の愛するこの国を」
そしてマルドゥークは、静かに息を引き取った。安堵と優しさをたたえて。
いつの間にか降り出した雨が、私の頬を濡らしていた。
マルドゥークが言ったとおり小舟はあった。
だが、これは本当に彼の脱出用のものだったのか。
そんなわけはない。
彼には必要ないのだ。彼の仲間はこの辺りにも潜伏しているのだから。
この時のため、私が脱出するために用意したものだ。
そう。どちらでも、良かったのだ。
私が勝とうが、彼が勝とうが。
彼が勝てば、暗殺者の首級を挙げる。
私が勝てば、傷口から犯人は領主殺しと同一犯とわかるだろう。
彼が暗殺者に返り討ちにあったことで、旧領主派の疑いは晴れる。
私と戦うことそのものが、彼の最後の計画だったのだ。
数日後、旅を続けた私は国境付近に居た。
国を離れる馬車に乗って行かないかと声をかけられ、乗せてもらうと、一人の女性が乗っていた。
大魔導城の使用人室で会ったことのあるメイドだ。
だが私は今回も変装している。気づかれては、いないはずだ。
2人だけの客。彼女は身の上話をする。
「私の恋人は、大魔導城で殺されました。グリンティという、私と同じ小人(コビット)です」
ここで気になっていたグリンティ・ボトムズの名前が出た。兵士の詰所の選択肢にあった名前だ。
「魔導城の主は死にました。名前も知らない方が、仇を取ってくれました。これからは別の方が領主となるそうです。何でも先々代の領主様の従弟だそうで、良かったです。私はこの地方を出て行きます。家族の待つ故郷に帰ります。自らを省みずに戦った私の恋人を、今でも誇りに思っています。同じように、圧政に苦しむ人々を救うために戦った方々に、感謝しています。悲しい思い出が多すぎる土地だけど、こうして去るのは寂しいものですね」
そして彼女は私に、悲しみをたたえた笑顔を向けた。
「生き延びてくださいね」
この意味ありげな一言は。
……どうやら、私の得意の変装は最後の最後に見破られてしまったようだった。
一連の出来事に思いを馳せる。
最後まで国を思い、国に殉じた、高潔なる魂を持った騎士を、私は生涯忘れることはないだろう。
■登場人物
フィリアン 第8の挑戦者。
マルドゥーク 忠誠心に厚い実直なる騎士。
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