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2013年04月18日23:31

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白兵戦になったら即座に起きるようにしている

 わたしは外国語を習い始めた。

 かつて大学では、第一外国語を英語に、これを二年生の終わりまで習った。こうする学生が多かったようだ。ぽっぴんHはほとばしる向学心に従い、西欧の一言語の授業に行ってみた。いわゆる「二外」、第二外国語だ。ところが二回、これに顔を出したあと、登録を消されて講義への出席が禁止となってしまう。

 のちにわたしは、この学び損ねたヨーロッパ語に強い興味を持った。大学院初年度のこと(2007年)。その外国語の活字で本や論文を読みたかった。でも、懇意の教授に頼むと、はっきり断られたのである。
「習得には六年かかる。悪いことは言わないからおやめなさい」
と。わたしは独学で文法を学び、単語を覚え、そして忘れた。

 さて、最近、「人生の残り時間について」考えるようになったわたしは、自分のしたいこと・生きた証を刻むことを模索し始めた。そして、いくつかの習い事に通うと決めた。再度取り組みたいあの言語の教室を見つけ申し込む。

 入門と銘打ったクラスだったが、講座の開設から1年が経過しており、テキストも2冊目の25ページあたりを勉強中とのことである。前日に「キャンセルを承りますが」と事務局から連絡がきた。ぽっぴんHは「キャンセルしません」と返した。そして独学した分の復習もせず授業に臨んだ。

 教室に入ると、ホワイトボードのところにいた先生に、名前を告げに行った。ノイバー先生は、
「ハロウ!」
と言った。わたしは怯んで、それでも、
「こんにちは……」
と返した。その後ノイバー先生は、「新しい(英語:new)」の意味の「ノイ、ノイ、ノイ」と何度も口にした。

 生徒はわたしを含め9人いて、机と椅子の数の段取りのため、彼らは銘々に「9(英語:nine)」を示す「ノイン、ノイン」をくり返した。

 発注したテキストが未着で、コピーを配られた。Lesson 9が始まった。初学者に助動詞の活用は難しかった。実はテレビや学習CD など以外で、この言語を耳にするのは初めてである。ノイバー先生によるネイティブの発音に聞き惚れた。美しい音楽のよう。

 自己紹介の時間になった。8人の先輩は、順に名前を口にした。わたしだけ、
「ぽっぴんHです。よろ……おねが……しま」
と自信なげに言った。ぽっぴんHが日本語しか話せないことがわかると、ノイバー先生は、
「何でも聴ぃて」
と生徒に指示した。

 先輩達がワーワー騒ぎ始めた。この新入りに対し、簡単な疑問文で、あなたはどこに住んでいるかと訊いている。
「埼玉!」
 わたしはもちろん日本語で。今度はどこから来たのかたずねられる。わからない! 先生はホワイトボードに例文を書いた。それでわたしは理解した。出身地を答えるのだ。
「千葉!」

 短文を音読させられるのには緊張した。自分の部屋以外で発音して人に聞かれるのは人生初である。たどたどしく読む。特に直されなかった。

 先生を眺めた。やはりヨーロッパの人間は大きいし、頭の形がいい。瞳をじっくり見たら、コンタクトレンズが入っているのがわかる。それは日本で買ったのか、本国から持ってきたのか。鼻は高く4cm はありそうだ。白い肌、短いクルクルの金髪。

 先生が米兵に見えてきた(涙)。近くに来ると怖い。十分離れても多少の恐怖心を拭えない。泣きたい。映画の戦場シーンと重なった。

 銃の撃ち合いで、共に歩きながら近付いて行き、接近しすぎて銃剣の戦いに移行する。日本軍は刀で斬り込む。
(こういう前線での殺し合いを「白兵戦」というそうです。教えて下さったB 28さん、ありがとうございます。)
 まず生きて帰れない。運良く命があっても手足が飛んで無くなるだろう。その先の人生は続くのだから困る。

 というわけで、夢で敵の歩兵が視界に入ったら、わたしは一目散に逃げるようにする。でも退却が見つかると味方に撃ち殺されるという厳しい世界。これをかいくぐってうまく助かったら軍法会議、のトリレンマ。

 だがわたしは平和愛好国家の日本人だし、女だし、戦場にいることがおかしい。夢だと気付く。そうなったら瞼を開ければそこから抜け出せる。

 おっと、しかしノイバー先生は同盟国の人間だ。むしろ一緒に戦う立場だ。よかった。

 わたしは徹底的に日本語を貫いた。先生に何を指図されても「はい」。その次週からは、 「はい(英語:yes)」の意味の「ヤー」を覚えて行って使った。

 宿題が出ると、勘で解くしかない。知能テストみたいに。どうしてもわからない箇所をB 28さんに電話で訊く。彼はゆっくりゆっくり答える。
「まさかGoogle 先生
に頼っているのか」
「もちろんだとも」
「こらこら」
「知らんて」

 とりあえずまだ挨拶では「ハロウ」と「こんにちは」と「ありがとう」と「じゃ〜あねー」しか話せない。先輩もそのくらいしか言わない。あとは日本語で、「また来週ね、失礼しますね」などと両隣と交わし合いながら帰る。そういう表現から身に付けていけばよいのに。

 おかしいことは他にもある。授業中に先生は名前を呼び捨てされるし。犬じゃないのだから、「ミスターなんとか(名字)」がよいのでないだろうか。 帰りはみんな口々に、先生に「マイケル、じゃ〜あねー」と手を振って教室から出る。わたしも真似した。
「じゃ……、じゃ〜あねー」
 この違和感よ!

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