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2011年02月13日16:20

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えぐるお話。

今年の正月休みは,法律の勉強の合間に,斎藤茂男という新聞記者に関するジャーナリスト論集「斎藤茂男 ジャーナリズムの可能性」という本を読んだ。
その論文集のあとがきに,斎藤茂男氏の遺稿集「現代を歩く」という本について触れる部分があった。
私は斎藤茂男氏のルポルタージュは好きだったのだけれど,勉強不足もあってその遺稿集のことは知らなかった。
それで,この3連休で少し読んでみようと思って,早速買い求めて読み始めたのだけれど。
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残念なことに,この遺稿集はルポルタージュ集ではなかった。
どちらかというと,コラム集というべきか。

ほとんどのコラムにおいて,斎藤茂男氏が長年の新聞記者としての経験の中ではぐくんできた視点と価値観に則った論述が展開されている。
その視点と価値観を思いきって単純化・要訳してみると。
経済活動の大規模化・国際化によって市場重視・効率至上の価値観が強まり,それ故に市場に乗らない価値観・非効率な弱者が切り捨てられていく,それが現代社会の抱える歪みとして吹き出している,ということだろうか。

私としては,その視点・価値観について,大筋では異論はない。
しかし,天邪鬼な私は,「ちょっと待てよ」と思ってしまうのだ。

従来は市場の価値に乗らなかった価値化を市場原理に乗せるようにすることで,多様な価値観を市場に取り込んでいくことができるのではないか。
そうだとすれば,市場重視という価値観は,市場を無視する価値観よりもすぐれたものになる可能性があるのではないか。

そして,「弱者」と言われている人は,本当に「弱者」なのだろうか。
「私は弱者です」と言っている人や,弱者のように見える人は,本当に「弱者」なのだろうか。
本当の「弱者」は誰なのだろうか。
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ただし,「弱者」に関しては,未だ義務教育を受けている年代の子どもたちが「弱者」であることについては,異論を述べる気はない。

この点,中学生の問題行動についても大人と同様に非難し攻撃するするネット世論に接することがある。
そういった人たちというのはおそらく,中学生のころには既に大人としての人格を完成させていたとんでもなく早熟な人か,それとも中学生のころから成人後に至るまで全く進歩していない(すなわち,自分で自分を育てる努力をしていない)サボり屋かのどちらかであるだろう。
そんな人たちの意見をまともに相手にする気はない。
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閑話休題。

この「現代を歩く」には,ジャーナリストに求められる姿勢に関する,以下のような一節がある。
(引用開始)
あくまでもナマの現実に直接ぶつかり,自分の五感を総動員してその現実と格闘した果てにやっと手に入る素材を手がかりに,これにタテ,ヨコ,右,左と多様な角度から別の情報を対照して,立体的にその現象の表皮の奥にある“本質”を発見する――そんな手の込んだ作業が不可欠だ。
「『言論の自由』を守るのはだれか」斎藤茂男著・現代を歩く(共同通信社)156頁
(引用終了)

現場に潜り込み,状況に巻き込まれながら,その状況の本質をえぐり出す。
そして,真に虐げられている者はだれなのか,そして,その弱者の視点から見える世界はどのような姿なのかを提示する。
それはジャーナリストに求められる姿勢であると同時に,市民社会の市民が必要とする情報でもあるだろう。

斎藤茂男氏の晩年の仕事は,どうしてもルポルタージュよりもコラムが多かったようだ。
それは,体力的な問題もあったのだろう。
しかし,ジャーナリストにとって,あくまでも生の現実に直接ぶつかることが重要なのだとすれば,やはり斎藤茂男氏のコラムではなく,氏のルポルタージュを読みたかった。
斎藤茂男氏とそのチームによる第1級のルポルタージュたち,「教育ってなんだ」「妻たちの思秋期」「生命かがやく日のために」のような。
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だからこそ,21世紀になる直前,1999年5月の氏の死去が惜しまれてならない。
斎藤茂男氏が,バブル景気崩壊後のこの社会についてコラムではなくルポルタージュを書くとしたら,どんな現実からどんな素材をえぐりだしてきてくれただろうか。

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