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2018年08月31日14:09

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映画 ”高崎グラフィティ。”  

”高崎グラフィティ。” 川島直人監督 佐藤玲主演

この夏、日本映画界の奇跡”カメラを止めるな”に乗り遅れた映画好きとしては
それなら違う若い才能を応援しようと、
堤幸彦、大根仁らが主催の第一回未完成映画予告編大賞でグランプリを獲り、
その特典として3000万円の資金援助を受けて完成した作品を鑑賞してきました。
六月にハル・ハートリー作品をアップリンク渋谷で見た時の予告編も印象的だったし。

東京から遠くもなく近くもない群馬県高崎市、
その街に高校卒業式を終えた幼馴染の男女五人がいた。
浮かれているクラスメートとは距離をおく、
五日後には東京にある服飾の専門学校に行くため街を離れる美紀。
バイト先の店長と卒業後に結婚宣言をしてはしゃぐ寛子。
父親の車修理工場を継ぐか迷い、同級生より先輩とツルむのが好きな寡黙な優斗、
東大を出て公務員を目指す真面目な康太、
東京の大学で華やかな生活を夢見るお調子者の直樹。

クラスの卒業パーティー前に美紀に専門学校からかかってきたのは
父に頼んだはずの入学金がまだ振り込まれてないという電話。
慌てて父に連絡するも音信不通で所在がつかめない。
パーティーでのクラスメートとのトラブルから抜け出した五人は
みんなで美紀の父を探すことに。
探偵ごっこのように最初は盛り上がるも次第に行き詰まり、
それぞれが抱える悩みや現実も露わになっていく。
そんな中、美紀の入学金を手っ取り早く稼ごうと優斗は
やばい仕事をしている先輩の元へ。
バラバラになりそうな五人、そして美紀の父は何処に、、、。


高校卒業直後の高揚感、将来への不安や強がり、
新幹線で一時間、在来線で二時間と中途半端に都会な故郷への思い、
トラブルをきっかけにこれが高校最後と盛り上がる五人の友情(ほのかな恋心?)、
そんな誰もが経験したような感情が
浮ついたところのない演技と映像で描かれた良作でした。

高校でやり残したことへの後悔、
高校を卒業した途端に直面する夢を叶えるための現実の壁、
影で自分の悪口を言ってるのを知りつつも仲の良いフリをする生きづらさ、
仲が良い美紀と寛子でさえ親身になった慰めを意固地になって素直に
受け入れられなかったり、そう言う高校生ならではの悩みや意地が
リアルに伝わってきます。

一方で商店街の疾走、徹夜明けの朝焼けの中、河原でする花火、
雑魚寝の後の朝食など、青春感アリアリのキラキラしたシーンに
すごく懐かしさや羨ましさを覚えたり。

スカッとした爽やかさや感動、どんでん返しや驚きなどはないですが、
表面的なクラスメートとの付き合いが卒業を機に崩れたり、
それぞれの隠れた事情が明らかになっていったり、
父親探しごっこや優斗の暴走といった展開に
派手さはないもののしっかりと引き込まれました。
適度にユーモアもあったし。

五人はいずれも有名ではありませんが、
それなりに経験のある役者さんで演技はしっかりしています。
主人公の美紀を演じる佐藤玲(りょう)さんが特に素晴らしい。
もともと皆川幸雄の舞台で演技を始めた実力派(現在25歳)。
実は先日CSの一挙放送で見たバカリズムの”架空OL日記”(昨年地上波で
全9回放送されギャラクシー賞や向田邦子賞を受賞。 面白いです!)に
彼女が出ていて、調べてみたらちょうどこの映画に出ているのがわかり、
それもこの映画を見ようと思ったきっかけの一つでした。
ドラマでの妹キャラのすぐ人に影響される天然娘とは真逆の
自分の意思をしっかりと持ちつつ、父親(ちなみに母が亡くなり父子家庭)の
せいで自分の夢が翻弄されて苦悩する役を見事に演じてました。
特に最後の微妙な表情が良かった。

寛子演じる岡野真也(まや)も昨年半年間見ていたEテレの
”おとなの基礎英語”のドラマ部分に出ていて馴染みのある女優さん。
男子三人もそれぞれのキャラを好演してましたが、
中でもマッシュルームカットで南海キャンディーズの山里似たキャラの
優等生康太が印象的。そして情けない美紀の父親役で
名バイプレイヤー渋川清彦がしっかり脇を固めていました。

舞台となる高崎の風情がいいです。
新幹線が止まるそれなりに都会な駅前があるし、
街の中の郷愁を誘う大きな川とその上を走るローカルな列車、
高台にある観音様とその足元の街が見下ろせる駐車場(関西の六甲みたいな
デートの定番)。都会と自然豊かな地方の両方の景色があり、
それらを叙情的に切り取った映像で見る人は親近感を覚えることでしょう。

東京に住まなくても東京圏内の生活もできるし、
かといってそこを出ることで自分を変えるきっかけになる
(距離的にそれほど大きなハードルでもないし、いつでも戻れる)、
そういったいい意味での微妙な距離感もいいです。

あとエンディングのスカートの書き下ろしの”遠い春”も良かった。
インディーズ界隈で評価の高いメロディメーカーであるスカートを
選んだ監督のセンスがよろしい。(劇中の他の音楽もよし)

上映前に若手の可愛い女優&イケメン男優の漫画原作の恋愛映画の
予告編がたくさん流れてました。主人公達がやたら笑みを浮かべたり、
誰かが死んだり、犬猫が出たり、女優にコミカルなシーンさせたり、
幸せの絶頂と不幸のどん底の振れ幅が大きい大味な映画ばかり。
そんな作品とは対象的な地味で落ち着いた作品ですが、
そこにリアリティを感じたし、監督の長編デビュー作としても
自主制作上がりにありがちなチープさも感じなかったし、
映画ファンにこそ作品の良さや監督・役者の映画への思いが伝わる作品に
仕上がっていると思います。

この映画、冒頭に書いたように未完成映画予告編大賞を獲ったわけですが、
そもそもそれに応募したのは、日大芸術学部の演劇科に通っていた佐藤玲が
三年前の卒業直前、同じ芸術学部映画科ですでに自主映画を何本か撮って
小さな賞も取っていた川島直人監督に、全く面識がないにもかかわらず、
一緒に作品を撮りましょうとメールしたのがきっかけ。
まるで作品中、美紀が高校時代にできなかった青春を後悔したことを、
現実の佐藤玲が大学卒業前にやり残したくないからと思い切って
行動したかのように。
そこから手始めに予告編大賞に応募したら見事優勝したという。
”たった三分の予告編から生まれた映画”、
”カメラを止めるな”にはかないませんが、
こちらもなかなか夢のある話です。

タイトルの ”高崎グラフィティ。” には最後に敢えて 。があります。
この映画の 。から新たに始まる川島監督や佐藤玲始め四人の若者の、
悩みあり夢ありのそれぞれのこれからのグラフィティが素晴らしいものに
なって欲しいもんです。

才能ある若い人たちによる、いつの時代、場所にもある青春の落書き、
素敵な映画でした。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=3&v=FUh1zM_UWBA


グランプリを獲った予告編 これをきっかけに3年後に本編が。 
若干、本編とは違っていて、役者も佐藤玲のみ一緒。 
https://www.youtube.com/watch?time_continue=9&v=bjU9_1sU3nk


佐藤玲が出ていた”バカリズムの架空OL日記” のHP。このドラマ、面白かった。
http://www.kaku-ol.jp

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