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2016年12月31日21:54

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【創作】超攻鬼装オーガイン  第六話:テンプテーション・パニック【その5】

【創作まとめ】
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【前回】
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 腰まで伸びた栗色の髪をサイドアップで纏め、少しパーマのかかった髪型が、端正な顔を彩る。
 その顔もモデルのような小顔で、目はクリッとして可愛らしい系。
 詳しくは知らないけど、年の頃は二十歳前後といったところね。
『美也ちゃん? キミが何でここに?』
 私にとってはシャドールで見知った相手なんだけど、話の流れを読む限り、石動君とも知り合いのようね。
 いったい二人はどこで知り合ったのかしら。興味深いわね。
 石動君には美也と呼ばれてるけど、これも偽名ね。
『えーと、まずはこの物騒なのを下ろしてくれないっすか?』
 彼女は剥き出しの拳銃に臆することなく、そっと手を添え下ろさせた。
『んーと、昨日の種無・・・・・・じゃなくて、いっすーが何でこんなことをしてるんすか?』
 石動君のことをいっすーとか呼んで仲いいようだけど、二人はどういった関係なのかしら。
『いや、自分は警察で、ここには事件が・・・・・・』
 屈強の改造人間は速攻で主導権を握られていた。
 それでいいのか、特殊部隊!
「なんか石動君と知り合いみたいだけど、あの子誰か分かる?」
 私も石動君の交遊関係の全てを知っているわけではないけど、一つだけ言えることがあるわ。
 今、石動君と話している彼女は、シャドールのコマンダー部隊、それも陸戦部隊隊長のヤミ・マクドゥガル。
 コードネームはコマンダー・ダークネス、二丁のガンナイフを自在に操る、凄腕の戦士ね。
「昨日、石動と行ったキャバクラのホステスで、美也ちゃんって名乗ってましたよ」
「マジで!?」
「マジで!?」
 ボスの質問に答える氷室さんの言葉に、私と博士が同時に反応する。
 シャドールは特に副業を禁止してるわけではないけど、あの子なにやってんの?
 ていうか博士も私と同じ反応しないでよ。私とシャドールの関係を疑われたらどうしてくれるのよ。
「あれ? 何か問題でも?」
 ほら、氷室さんがいぶかしんでるじなない。
 こういう細かい誤解を解いていくのって、結構面倒くさいんだから、余計な手間をかけさせないでほしいわ。
「昨日、夜の店で男として反応出来なかった事を悩んでたみたいだから、キャバクラよりももっと直接的な店に行ったのかと」
「なにあいつ、去勢されてるのにそんな事で悩んでるの? バカだねえ」
「貴様、石動を改造しておいて、随分な言いぐさだな」
 石動君を悪く言われたのが勘に触ったのか、私の言葉をスルーして氷室さんが博士に怒りを露にする。
「別に他意はないよ。事実を言ったまでさ」
 博士はやれやれといった感じで肩を竦める。
 話がいちいちややこしくなるから、博士は黙っててくれないかなー。
『美也ちゃん、どうしてキミがこんなところに居るんだい?』
『それは種無・・・・・・いっすーが相手でも言えないっすねー』
 モニターの向こう側では二人の会話が続く。
 ていうか、石動君のことを毎回『種無し君』と呼び間違えそうになってるのは、わざとなのかな?
『とにかくここは危険だ、早くここを離れるんだ』
 おいおい、いくら知り合いだとしても、怪しい護送車から出てきた相手に逃げろは無いでしょ。
「石動君、その子を逃がしちゃダメよ」
 咄嗟にボスが指示を出す。まあ、そうなるよね。
『ボス、きっと美也ちゃんは何か理由があって、たまたまここに居合わせただけです。だから逃がしてあげられませんかね』
「何言ってるの、そんなこと出来るわけないでしょ!」
『しかしボス』
 元々変なヤツだと思ってたけど、今日の石動君は飛び抜けて変ね。
 知り合いの女の子を助けたいと考えるのは分からないでもないけど、明らかに怪しい人物をここまで露骨に庇うなんておかしいわ。
「そうね、石動君と氷室さんの知り合いを疑うなんてどうかしてたわ。早く逃がしてあげなさい」
 え? ボスも何言っちゃってんの?
 指揮車両の中をぐるりと見渡すと、ボスだけでなく、みんなトロンとした虚ろな目をしている。
 いったい何が起きてるっていうの?
「そろそろ効いてきたみたいだね」
 この異様な空間の中、博士だけははっきりとした口調と足取りで動き出し、各メンバーのデスクから奪われたエロゲーを手早く回収していく。
「いったい何が起きてるんですか?」
「今回の作戦はね、催眠ガスを操るバイオロイドを使ってるんだよ」
 つまり私と博士以外は催眠状態に陥っていると。
 緑地公園に来ていた人々が、護送車に自分から搭乗していったのも、催眠状態だったからなのね。
 それにしても外に居る石動君はともかく、指揮車両の中のみんなまで催眠状態になるなんて。
 それに私と博士だけ効いてないのもおかしいわ。
「先月、シャドールの健康診断を受けただろ? その時の予防接種で、シャドールの扱う毒ガス関係のワクチンを投与されてるんだよ。だからヤミ君も含め、シャドールの人間に催眠ガスは効かないんだ」
 たしかに先月、石動君を改造するよりももっと前に健康診断は受けたけど。
「そんな怪しい薬が投与されてたなんて・・・・・・」
 用意周到と感心するべきか、勝手に変なワクチンを投与するなと非難するべきか、反応に困るわー。
「じゃ、荷物も回収したし、後はまかせたよ」
 博士はシュタッと敬礼して言うと、指揮車両のハッチを開けて出ていく。
 なるほど、さっき石動君が出た時に、ハッチから催眠ガスが入ってきたのね。
 ていうかこの状況、私一人でどうしろっていうのよ。
 博士の薄情者ー!
『じゃあいっすー、アタイのために特機のメンバーを皆殺しにしてきてねー』
『ああ、任せておけ。チャージ・イグニッション!』
 石動君は変身キーを左腕のブレスレットに差し込むと、光るナノマシンが放出され、鋼鉄の肉体へと変貌していく。
『わお! ワイルドっすね』
 ヤミに見送られ、オーガインは指揮車両へ近づいてくる。
 マズいわ、私一人じゃオーガインの相手なんて不可能よ。
『噂のオーガインも、一味ごと潰せて任務もこなしちゃう。これぞ一石二鳥ってやつっすねー』
 モニターからはヤミの余裕の勝利宣言が聴こえる。
 くっそー、何で毎回私ばかりこんな目に合うのよ。


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 私一人で催眠状態のオーガインを相手取ることなんて出来ないわ。
 まずはみんなの目を覚まさせなくちゃ。
 かといって時間は無い。今もオーガインはこっちに近づいてきてるんだから。
 私は特機のメンバーを見渡す。
 ボス、戦力的に無理。今は作戦指示よりも、動ける人が欲しいわ。
 酒田さん、老体にオーガインの相手は無理ね。
 水無さんとゆづきちゃん、非戦闘員の女性達にそんな無茶はさせれないわ。
 車田さん、戦力になるかどうか分からないからパス。
 氷室さん、キミに決めた!
 私は全身のバネを最大限に利用するべく体を捩る。
 そして、足の指、足首、膝、腰、肩、肘、手首の計七ヶ所の関節を連動させ加速を重ね、スナップを利かせた渾身の平手打ちを、少し顔をしゃくれさせながら氷室さんに叩き込む。
「元気ですかーッ!」
 うん、気持ち的に音速を越えたような気がするわ。気がするだけだけど。
 催眠状態で無防備な氷室さんは、打撃に対する受けの覚悟を決めることなく成すがままにくらうと、盛大にふっ飛んだ。
「いっつぅ〜、あれ? 俺は今まで何を?」
「正気に戻ったようね。今は細かい話は置いておいて、アレを止めてちょうだい」
「アレ? オーガインじゃないですか。え? アレを止めんの?」
「敵に操られてるの、頼んだわよ!」
 私はグッと親指を立ててウインクする。
「いな無理ですよ。俺、生身ですよ?」
「男には無理と分かっていても、戦わないといけない時がある!」
「それ、第三者に言われるセリフじゃありませんからね」
「つべこべ言わずにさっさと行く!」
 何でこう、私の周りの男は理屈っぽいのが多いのかしら。
 でも氷室さんの言うこともいうことも一理あるわね。
 このままま無策に突っ込ませても瞬殺されるだけだし。
「仕方ない。まだ調整段階だけど、アレを使いましょう」
「アレ?」
「アクセルレイダーよ!」
 それはオーガインの追加装備として制作された存在。
「あれを俺が使うんですか?」
「他に使える人がいないんだから仕方ないわ」
「・・・・・・わかりました、やってみましょう!」
 無茶なのは分かってる。
 でもこのまま何もせずに全員殺される訳にはいかないわ。
 オーガインも自分の手で特機のみんなを殺したと知ると、きっと耐えられずに心が壊れるだろうし。
 ここが無茶のしどころよ。
 氷室さんも特殊部隊歴が長いせいか、即断で腹を括ってくれた。
 やっぱりウダウダ悩む男より、即決力のある男の方がいいよね。
「準備はいい?」
「はい、大丈夫です」
 氷室さんの言葉を確認すると、私は整備室のハッチを開け放つ。
「アクセルレイダー、発進!」
 氷室さんは手に握ったアクセルを一気に開放すると、エンジンが爆音を上げて加速する。
 それは風を切り裂き疾走し、一直線にオーガインへ迫っていく。
『うおおおおおおおッ!』
 スピードの乗ったアクセルレイダーは、勢いよくオーガインを撥ね飛ばす。
 そう、アクセルレイダーとは、オーガイン用に開発された専用バイクなのだ。
 撥ね飛ばされたオーガインは地面に勢いよく落下する。
 この衝撃で正気に戻ってくれればいいんだけど。
『なになに? 何が起こったっすかー?』
 ヤミも突然の出来事に、状況が飲み込めないでいた。
『ハッ! 自分は今までなにを!? ていうか全身痛ッ!』
 超高速のバイクに跳ねられて『痛ッ』で済むのか。
 アイツ、どんどん人間離れしていくなー。
「オーガイン、目が覚めた? アンタ、催眠で操られてたのよ」
『え? そうだったんですか?』
 オーガインの催眠が解けた事を確認すると、私は通信を繋いだまま残りの特機のメンバーを横並びに立たせる。
「とにかくッ、今はッ、敵をッ、倒すことにッ、専念しなさいッ」
 そして順番に平手打ちをしていく。
 女性に平手打ちは悪いと思うのだけど、他に方法が無いから許してね。
『了解!』
 オーガインは勢いよく返事すると、ヤミの方へ向き直る。
「はっ! 私は今まで何を!?」
 特機のみんなも目を覚ました。
 お前ら全員同じリアクションで目覚めるのね。コントかよ!


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『あっちゃ〜、我に返ったっすかー。これはマズいっすねー』
 ヤミは正気に戻ったオーガインに目をやりながらぼやいていた。
『美也ちゃん、どうしてキミが・・・・・・』
『あー、そのくだりは飽きたっす。アタイはシャドールの陸戦部隊隊長のコマンダー・ダークネス。ちなみに本名はヤミ・マクドゥガルっす』
『え? ダークネ・・・・・・ヤミ?』
 突然のカミングアウトにオーガインは混乱している。
 ていうか、サラッと本名教えたわよ、あの子。
「しっかりなさい、相手はシャドールのコマンダーよ」
 早く落ち着きなさいよ。
 理解力の低さに、たまに彼が本当に特殊部隊の人間かどうか疑いたくなるわ。
『昨日はバイト先に噂のオーガインがいきなり現れてびっくりしたっすよ。土産話用に少し相手してあげたけど、まさか種無しとは思わなかったっすよ』
『はうっ』
 ヤミの心無い言葉が、種無しオーガインの繊細な心にダイレクトアタックする。
 アイツ、メンタル弱いよなー。
『まさか今日もオーガインに会うとは思わなかったっすよ。少しは空気読むっすよ』
『そうは言われてもだな』
『そんな訳でアタイは任務を優先するっすからー』
 ヤミは護送車のドアをコンコンとノックする、
『エントラ、オーガインの相手してあげるっすよ』
『お任せください、ヤミ様』
 ヤミの合図に反応して、エントラと呼ばれた男が護送車の助手席から出てきた。
 こいつ、ずっとそこで待機してたの?
『なんだお前は。今は俺が美也ちゃんと話しているんだ』
『そいつは残念、選手交替だ』
『じゃ、そういうことだから、後はよろしくっすー』
 ヤミはエントラと入れ替わるように運転席へ乗り込むと、護送車を発進させる。
 つまりエントラにオーガインの足止めをさせて、その隙に護送車に集めた人間をシャドールへ移送するわけね。
 脳筋の風間さんと違って賢い作戦ね。
『え? 美也ちゃん? 話はまだ終わってないよ? どこ行くの?』
 オーガインは催眠が解けてもボケたままだった。
『しっかりしろ、石動』
 アクセルレイダーから降りた氷室さんがオーガインに声をかける。
『こいつの相手は俺がする。だからお前はアレを使って車を追え』
 クイッと親指でアクセルレイダーを指す。
『分かりました。気をたけてくださいね』
『ああ』
 氷室さんはオーガインと入れ替わるとエントラに向かって銃を構える。
『悪いな、こっちも選手交替だ』
 なんか今日の氷室さん、頼り甲斐があって少しカッコいいわね。
 でも何が忘れてるような・・・・・・あ!
 たしか博士が言っていたわ。
 今回の作戦には催眠ガスを操るバイオロイドが使われているって。
『お前が俺の相手だと? 笑わせるな!』
 エントラは腕を顔の前でクロスさせ、唸り声をあげると体の細胞を変化させていく。
 以前戦ったトカゲ男とは違い、彼は正式に素体手術を受けたバイオロイドだと思われる。
 使い捨てではなく、正式なシャドールの戦士だということね。知らない人だけど。
 体は緑色の皮膚に変色し、植物の蔦のような触手が肩から生え、先端には楽器のトランペットを彷彿させる形の白い花が咲いていた。
『俺は三種の毒を持つ植物、エンジェル・トランペットのバイオロイド。エントラロイドだ』
 なるほど、エンジェル・トランペットを略してエントラ。
 ネーミングセンスについては、うちの博士とどっこいどっこいね。
『フッ、選手交替だ。俺が車を追いかけるからオーガインはアイツの相手をしてやれ』
『え?』
 今まさにバイクに跨がろうとしていたオーガインを静止する氷室さん。
『生身の俺にアレの相手は無理だ』
 氷室さんがカッコよく見えたのは、どうやら気のせいだったようだ。
 むしろカッコ悪いわ。 
『わ、わかりました。美也ちゃんのこと、よろしくお願いしますね』
『ああ、任せておけ!』
 親指を立ててキメる氷室さん。
 もう手遅れよ、何をやってもダサく見えるわ。

【その6へ続く】
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