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2016年10月11日16:15

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【創作】超攻鬼装オーガイン  第四話:特機、出撃!【その1】

【創作まとめ】
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【前回】
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薄暗い部屋の中、心臓の脈動と同調した生命維持装置の機械音が響き渡る。
寝台には一見すると人型のロボットと見て取れる物体が寝かしつけられている。
額に大きな角が一本生えており、異形を強調していた。
しかしこれはロボットではなく、正真正銘の人間である。
人間を鋼の肉体へと改造し、最強の機動兵器へと改造する、神の領域へと足を踏み入れた研究。

「改造すると本来の肉体年齢は関係なくなるとはいえ、48歳を素体にするのはどうかと思うよ」

改造手術の素体となる男の名は小部倫太郎(おべりんたろう)、かつてコマンダー・オベロンとしてオーガインと戦った男である。
コマンダー部隊総隊長の御雷荒矢(みかずちあらや)隊長曰く、最初は小部倫太郎だからコマンダー・オベリンというコードネームだったらしいのだが、名前に迫力が無いということでオベロンになったらしい。
コードネームを駄洒落で決めるってどうなのよ?
まぁ今となってはどうでもいいことね。

「実際のところ反応速度とか大丈夫なんですかね」

コマンダー部隊の彼が改造手術を受けるきっかけは、オーガインとの戦闘での敗北が起因している。
コマンダーの中でも新人に当たる彼が、初陣で完膚なきまでに敗北し、骨の髄まで恐怖が刷り込まれたのだという。
実際に現場に居合わせた私から見ても、かなりトラウマになりそうな負け方だったわ。
その結果として彼は闇の組織であるシャドールから抜けたいと申し出るものの、組織の秘密を知った者を簡単に抜けさせるわけにはいかず、こうして改造して再利用することになったわけ。

「改造しても脳年齢が若返る訳でもないし、あんまり期待しない方がいいと思うよ」

当然ながら脳改造も施して記憶を消去されている。
もはや彼が小部倫太郎だった証拠は、僅かに残った生体部品のDNAだけである。
生物学上は生きていると判断されるが、倫理的、個人としては死んだも同然と言えるだろう。

「予算的にもキツいのに、なんでこんなの引き受けちゃったんですか?」

オーガインの逃走から始まりコマンダー部隊の二連敗、この事実を重く見た組織の上層部である三聖者の意向で、第一開発室の予算を大幅にカットされたのである。
それにより改造人間『オーガノイド・オベロン』はヒューマノイドフォームへの変身、オーガインの特徴であったパイルバンカー、補充に予算のかかるマイクロミサイル等、内部武装の実装は全て廃止となった。
言わば高性能AIを搭載した人間よりも力の強いだけのロボットという位置づけになる。

「だってあの時はまだ予算カットされてなかったし、キミも同席してたでしょ」

会話しながらも二人の手は絶えず動いている。
機械科学の分野において100年先の技術を持つ男、園崎顕将とその助手である小鳥遊桜子、つまり私である。

「そう言えば、あの時ミカエラ博士と話していた新型AIはどうなってるんですか?」

ミカエラ博士というのは第二開発室室長であり、バイオ化学の天才と呼ばれているミカエラ・アンダーソン博士のことである。
機械科学の園咲顕将とバイオ化学のミカエラ・アンダーソンの共同開発なら、きっととんでもないAIになるに違いない。

「ニューロコンピュータAIのこと? もうすぐ素体が完成する予定だよ」

先日、試作段階の仕様書を読ませてもらったが、たんぱく質を培養して疑似的に脳を精製するという内容だった。
しかもスペックは人間の脳と同等というのだから、とんでもない内容である。
改造人間を造るだけでも神の領域に足を踏み入れるようなものだというのに、二人の博士はさらにその先へ進もうとしている。
園咲顕将の助手となって7年経過したわけだが、いまだに背中を追いかけるばかりね。

「ま、外側が完成しても中身は空っぽだから、情報を詰め込んでいく作業の方が大変だろうけどね」

ただこのニューロコンピュータAIの欠点は、成人級の脳を精製したとしても、中身は生まれたての赤ん坊と同じだということである。
いや、赤ん坊には本能として母親を求めるといった知能が備わっている分、何の情報も持たない空っぽのAIより上と言えるだろう。
もしこのニューロコンピュータAIが完成すると、人間と同等の脳を、人の手で作り出すことが出来るという意味であり、今やっているような生きた人間を素体とした改造人間を制作する必要がなくなってくる。
元々組織の人間だった小部さんはともかく、オーガインのように組織とは関係のない人間を、さらって改造するのは非常にリスクが高い。

「でも脳の育成ってどうするんですか?」

つまりこの新型AIが完成し、生産ラインが整えば、このオベロンと同等のオーガノイドの量産が可能になるということを意味する。
まぁ育成したAIが使い物になればの話だが。

「その辺はエミール君が暇な時にでも手伝ってもらうさ。なんせ桜子君はこれから忙しくなるからね」

科学者でもない事務員のエミールでも、会話形式で言語を教えることくらいは可能ということね。
私も今後はシャドールとオーガインのサポートという二足の草鞋状態になるわけだから、エミールに任せられる部分は任せたいところね。

「どちらにせよ、実用化にはまだ時間が必要だということだ・・・・・・よし、これで完成っと」

そう言うと博士は最後の作業を終え、胸部装甲をパチンと閉める。
今回はオーガインの時とは違い、脳改造まで一気に施術したので逃亡される心配もない。
脳改造をされていないオーガインを除けば、ある意味完璧な改造人間の完成第一号ということになる。

「歴史的瞬間に立ち会ってるはずなのに、素体が小部さんだと思うだけで全然感動がありませんね」
「仕方ないよ、コマンダー部隊の廃棄処分品だもん」

本人の意思とは関係なく記憶を消され、機械の体に改造されながらもこの言われよう。
つくづく小部さんってシャドールに向いてなかったんだと思うわ。

「さて、昼食にでもしようか。今回は一気に施術したから、もうお腹ペコペコだよ」

お腹をさすりながら空腹をアピールする博士。
本来なら博士の食生活の管理も私の仕事の一つなのだが、今回はそうも言っていられない事情がある。

「あ、私これから警察に行かなきゃなので、昼食はエミールに作ってもらってくださいね」
「えー、またぁ? 正直エミール君の食事はあまり合わないんだよね」

博士の顔が引きつっている。
よくイギリス人の作る料理は美味しくないと言われているが、エミールの料理も例外でないらしい。
私は実際に食べたことはないのだが、かなり奇抜な隠し味を用意すると聞く。

「もう嫌なんだよ、隠し味とか言いながら土入りの料理を出されるのは! カレーには赤土の色が最適よねって笑顔で出される恐怖を考えたことがあるかい?」

うわぁ、それはキツイな。
イギリス人がみな料理に土を入れるとは思わないが、その味付けに関しては同情せざる得ないわね。

「しかもエミール君はしれっとコンビニ弁当を食べるんだ・・・・・・いったい僕が何をしたって言うんだ!」

えーと、本人の意思とは関係なく人体改造したり?
博士の非道徳的行動を挙げたらキリがないわけだが、ここでは敢えて何も言うまい。

「でも実際に私も時間が押してるので、今日のところはすみませんね」

泣き崩れる博士を背に、私は研究室を後にする。
これから警察へ向かわなければならないわけだが、これに関しては少し時間を遡って説明をした方がよさそうね。
私は先日、警察で開かれたオーガイン運用のプレゼンの様子を思い出した。


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そもそもオーガイン運用のための特殊部隊の提案は、個人でサポートするには限界があると感じたからである。
いつまでも私の家でメンテナンスをするわけにはいかない。
幸いにも今までの戦いでは大きな損傷を受けなかったが、今後の戦いもナノマシンの自動修復で治せる程度のダメージしか受けない保証はどこにもない。
弾薬の補充にしてもそうだ、前回のコマンダー・ウインドとの戦いで使用したマイクロミサイル。
シャドールからの横流しを受ければ補充可能だが、常識的に考えて民間人である私がそんな物を融通できる訳がない。
どうやっても大きな組織のバックアップを受けなければ辻褄が合わなくなってくる。
しかも石動君自身が警察関係者なため、迂闊に怪しい組織と接触することもできないわけだ。
そうなってくると、消去法で警察に支援を受ける選択肢しか残らない。
幸か不幸か先日の戦いは警察署内で行われた。
これにより警察にシャドールの危険性と、現行の警察装備では通用しないことが判明した。
さらにオーガインだけがシャドールに対抗可能で、警察に所属しているときている。
この条件が揃っている状態で、警察上層部を説得できなければよほどの無能と呼ばれるだろう。

「まずはシャドールの危険性を説明させていただきます」

プレゼンを成功させるには相手を納得させなければならない。
先日の戦いが警察署内で行われたとはいえ、会議に集まった面々が直接見たわけではない。
まずは現状を理解してもらう必要かあるわけだ。

「先日のシャドールとの戦いで、この組織が大きな戦力を有していることが見てとれます」

スクリーンにはオーガインの戦闘記録から抽出した画像が映し出される。
そこにはオベロンと廃工場で戦った時のギアスパイダーとギアハウンド、ウインドと戦った時のギアラプターズ・ライズファルコンが映っていた。

「シャドールが戦闘を行う際、写真のような機械のバケモノを使用し、これらはギアモンスターと呼称されています。ご覧のように様々な種類が存在し、これだけでも組織戦力の強大さが窺い知れます」

画面はトカゲ男の写真へスライドされる。

「また、このように生物兵器と見てとれるバケモノも確認されています。信じられないかもしれませんが、このトカゲ男、元捜査一課課長の山田敏郎が変身した姿なのです」

実際に山田が怪しげなアンプルを注射し、姿をおぞましく変貌させる動画が流れ出す。
その様子を目の当たりにした警察関係者達の間からどよめきが漏れる。
まあ衝撃映像だもんね。

「このトカゲ男、オーガインとの戦いで命を落としましたが、驚くべき事に死後、ものの10分程度で肉体が液化、さらにその数分後には気化して証拠を一切残していません」

トカゲ男が液化していく様子を撮影した写真が数枚映し出される。
これはオーガインとの戦闘で一階に転落した後、その場に居合わせた警察官が撮影してくれたものである。
非常事態に陥っても証拠を残す、警察ならではの手際の良さね。
この現象についてミカエラ博士に尋ねたところ、諜報活動をしている信奉者全員にこのアンプルを配布しているとのことだった。
万が一スパイ活動が露見して追い詰められたとしても、変身して追跡者を殲滅、だが基礎手術を受けていない信奉者は急激な細胞変化に肉体と脳が耐え切れずに三時間ほどで絶命するらしい。
その後はトカゲ男のように肉体が液化、気化で証拠隠滅をする寸法である。
つまり諜報員として利用するだけ利用し、用が済めば追跡者ごと証拠を始末するという、非常に効率的なアンプルなのである。
最初はCGだ何だと騒いでいた連中も、徐々に事の重大さに気付きはじめる。
そもそも警察上層部を集めてCGでしたって冗談が言えるわけがないのにね。

「このモンスター達は人間の力を軽く越え、警察の通常装備では全く通用しませんでした。結果として対抗出来たのはオーガインの力だけです」

氷室さんの装備が全く通用していない映像と、オーガインの戦闘風景が比較するように映し出される。
映像を観る限り、氷室さんは決して弱くない。
むしろ生身で上手く立ち回っていると言えるだろう。
人間相手なら十分圧倒する強さだと見てとれるが、攻撃が全く通用しないモンスターが相手ではさすがに分が悪い。
その後もシャドールの戦力と危険性を細かく語り、その対抗策としてのオーガインの必要性を説明していく。
さらにはオーガインを運用する際のメンテナンス方法とその難しさ、消費武器の補充は民間人では不可能であること、パーツ交換や武装強化などを行う際には大掛かりな施設が必要になること、そして何よりも予算について説明していく。
一部隊に投資する予算としては大き過ぎる額だと自覚しているが、シャドールの強大さと国土防衛を天秤にかければ仕方のないことね。
この場合、部隊結成に成功しても予算が中途半端では何も意味がない。
私個人の問題としては、警察を説得する際、すべての情報を開示できないのも悩みの種である。
説明を進めていくにしても、シャドールの内情やコマンダーの素性を伏せての説明は、予想以上に神経を使う。
オーガイン側の人間として、判明していることと不明なことを整理し、何をどこまで明かして大丈夫か精査する。
一言でもオーガイン側が知り得ない情報を口走ってしまうと、私がシャドールの人間であることがバレてしまうかもしれない。
そうなってしまっては、警察関係者が集まるこの場から逃げ切ることは不可能だろう。
寿命を削るような思いで進めたプレゼンもひと段落し、関係者からの質疑応答の前に休憩を挟むことになった。
果たして私の真意はどこまで伝わり、理解してもらえたのだろうか。
少しでも気持ちを落ち着かせるために休憩所へ移動し、自動販売機で砂糖たっぷりのミルクティを購入する。

「桜子さんって研究だけでなく、商才もありそうですね」

振り返るとそこには石動君と氷室さんが意外そうな顔をしながら立っていた。
私のプレゼン内容の事を言っているのだろうか。

「研究者ってのは優れたビジネスマンでなければならないのよ」
「そうなんですか?」
「ええ、どんなに優れた研究でも成果を形にするまではただの妄想でしかないの。そこに理論で肉付けして現実味を持たせ、スポンサーを納得させる。現実に存在しない物をいかに優れた内容で、出資者に利益をもたらすかを説明できないと、研究費なんて誰にも出してもらえないからね」
「科学者も大変なんですね」

これは園崎顕将の教えでもある。
自分にとって必要な環境をいかにして揃えることができるか。
それが可能か否かで研究者としてメインを張れるか、サブのままで終わるかの分岐点であると。
今は園崎顕将を師事しているが、ずっとこのままでいいとは思っていない。
いずれは私も自分の、自分だけの研究をしたいと考えている。
そういった意味では今回のプレゼンはいい予行演習とでも言えるだろう。

「やあ小鳥遊さん、久しぶりだね」

少しでもリラックス出来るように三人で話しているところに、空気の読めない一人の男が割って入ってくる。
このプレゼンを開始した時から気にはなっていたのだが、やはり避けて通ることはできないのようね。

「ご無沙汰しています、岡田教授」

私が飛び級で海外の機械工学を学び帰国した際、ある大学で研究に参加していた時期がある。
彼はその大学で教授を務めていた岡田純一郎である。
ただ彼に連れられた学会にて園咲顕将と出会い、その場で決別した、とても気まずい関係ではある。
それだけに今回のプレゼン会場で彼の顔を見た時は少し焦ったのよね。

「まさかこんなところでキミに会うとは思いもしなかったよ」
「私もです。今日はどうしてこちらに?」

岡田教授が機械工学を専攻していたことは知っているが、警察関係者だけを集めた今回のプレゼンに何故出席しているのかずっと疑問だった。
ただでさえ彼とは気まずい別れ方をしているので、あまり顔を合わせたくなかったのだけれど。

「君が私のもとを去ったあと、警察装備の技術顧問を担当することになってね。今では色々助言をさせてもらっているのだよ」
「そうだったんですか」

おそらく岡田教授は私のことを良く思ってないだろう。
警察装備の技術顧問としてどのような発言をするのか興味深いところではある。
まったく無駄に難易度上げてくれるわね。
でも今後のオーガインの活動を考えるとここで引くわけにはいかない。
たとえ岡田教授がどんなに困難な壁になろうとも、このプレゼンは通して見せるわ。

「園咲顕将とは決別したそうだね、今は誰を師事しているんだね?」

岡田教授としては自分の元を去った後、私がどのような足跡を残してきたのか気になるのだろう。
実際には今でも園咲顕将を師事しているわけだが、この場合素直に答えるわけにもいかないわね。

「誰に、というわけではありませんが、今はフューチャーアイズに勤務しており、そこで製品開発等に携わってます」

フューチャーアイズは今や国内外問わずのトップ企業である。
シャドールの構成員は表向きはフューチャーアイズに属していることになっているので、隠れ蓑として存分に使わせてもらうわ。
もし会社に問い合わせをされたとしても上手く対応してくれるはず。

「君が企業人とはね。私としては勿体ないとは思うが、仕方のないことなのかもしれないね」
「どういうことでしょうか」
「仮にも学会で私に恥をかかせたんだ、今更普通の研究機関に戻れるはずもない」
「はぁ」

やはり岡田教授は私が学会で彼を見限って園崎顕将についていったことを今でも根に持っているようね。
7年も昔のことを根に持つなんて、女の私から見ても女々しい男だと思うわ。
そんなんだからあっさり見限られるのよ。

「今回の件、簡単に通ると思わないことだな」

なんとまぁ分かりやすい牽制だこと。
警察もこんな器の小さな男を技術顧問に据えるなんて、よっぽど人手が足りないのかしら。

「そろそろ休憩時間が終わりますので失礼します」

岡田教授との会話を適当に切り上げ、休憩所を後にする。

「なんかヤな感じの人ですね」
「あんなのに負けないでくださいね」

私を気遣ってか石動君と氷室さんが声をかけてくれる。
岡田教授もこれくらい気が回せれるようになってほしいものね。
そして協力してくれる二人のためにも、このプレゼンを落とすわけにはいかないわ。


【その2へ続く】
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