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2016年09月14日19:11

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【創作】超攻鬼装オーガイン  第三話:それぞれの居場所【その1】

【創作まとめ】
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【前回】
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その日、私はお世話になっている大学院の岡田教授の紹介で、ある学会に出席させてもらっていた。
12歳でアメリカへ留学し、飛び級でMITに入学し、最先端の機械技術の全てを習得したのが15歳の頃。
それから日本に帰ってきた私は、ある大学院で教鞭を取りながら研究を続けていた岡田教授の下で助手をするようになっていた。
その日は岡田教授の助手になってから、初めての学会でもある。
壇上では一人の男が研究成果を発表している。
内容は義手や義足といった医療補助器具と神経を接続することで、まるで自分の体と同じように動かすことが出来るという画期的な内容だ。
これまでの医療補助器具は、普段ほとんど使用されることのない筋肉と接続することにより、訓練次第ではある程度自在に動かせるようになるというものは存在していたが、この研究内容はそれらとは一線を画していた。
もし本当に実用化されれば、手足を失った患者にとって明るい未来が約束されるに違いない。
大胆な発想を緻密な計算で現実化していく、世の中には天才と呼ばれる存在が確かに存在するものね。
だが何か違和感を感じる。

「以上が人体と医療補助器具の接続実験の内容となるわけですが、何か質問はございますか?」

一通り発表を済ませ、質疑応答に入る。
大学や研究機関から来席した教授たちが思いおもいに質問を投げかけている。
その質疑応答を聞いていると、一つの仮説にたどり着く。
だがそれは常識で考えるとかなり荒唐無稽であり得ない内容に思えてくる。
だが私は違和感の正体を確かめずにはいられなかった。
荒唐無稽と笑われてもいい、謎を謎のままに放置するなど研究者としてあり得ないもの。
本来なら岡田教授の付き人として参加した私に質問の資格などないのかもしれない、それでも思い切って手を上げてみた。

「はいそこの女性、質問をどうぞ」

指名された私は係員に渡されたマイクを握り違和感の正体を確認するように質問する。

「発表された研究内容、とても素晴らしく感銘を受けました。ただ、これほどの内容なのに対して、貴方はどうしてそんなにもつまらなそうにしているのでしょうか?」

人によって研究期間は異なるが成果に結実した内容を発表する際、誰しも誇らしげに発表するものである。
しかし壇上の男は、まるで『1+1=2である』という当たり前のことを子供に教えているように淡々としていた。
そこには成果に対する自慢のようなものや、結果を出したことに対する達成感のようなものは全く感じなかった。

「ちょっと小鳥遊さん」

私の突拍子のない質問に対して、同席していた岡田教授が止めに入ろうとするが、私はかまわず続けた。

「研究資料を拝見したろころ、特に粗もなく本当に素晴らしい成果だと感心させていただきました。しかし、この世紀の大発明と言っても過言ではない研究に対して、どうして貴方自身が興味無さげなのでしょうか」

壇上の男の思考を幾つかシミュレートしてみた結果、一つの確信に到達していた。
ただ、それは本来ならありえない内容にも思えた。
だからこそ研究者として、真実を究明したくなったのだ。

「この研究成果に興味ない? キミはどうしてそう思うんだい?」

私の失礼極まりない質問に対して、怒るわけでもなく質問を返してくる。
ひょっとすると男は私を試しているのではないだろうか。
ならば回りくどい話をするよりも、一気に確信を突いた方がいいのかもしれないわね。

「貴方はこの発表をする際、当たり前のものを当たり前として説明しているように感じました」
「結果が出ているのだから、そうなるね」
「この偉大なる研究結果に対して、貴方からは満足感も、成功に対する喜びも感じませんでした」
「事実を事実として証明しただけだからね」
「ひょっとして、この研究にはまだ先があるのではないでしょうか? そしてその研究も既に結果が出ている。そうじゃありませんか?」

その日、ここに集まった人間にとっては世紀の大発明であったとしても、彼にとっては過去の成果でしかないのかもしれない。
違和感から導かれた荒唐無稽な結論を私は彼にぶつけた。
そんなバカな、という言葉が周りから聞こえる。
今回彼が発表した内容はそれほどにも偉大な内容なのだから、そう感じるのも無理もない。

「はっはっはっ、キミ面白いね」

声は笑っているが、目は笑っていない。
獰猛な野獣のような眼光から放たれる覇気に、私は必死に耐えながら彼を見つめ返す。
一歩でも引くと、一気に彼の私に対する関心が無くなるような気がした。
私の予想が当たっていれば、彼はとんでもない研究者だということになる。
品定めするように近づいてきた彼は、私の肩に手を置いて微笑みかける。

「いい目をしている。先見眼とでも言うのかな、素晴らしいよ」

どうやら彼の興味を勝ち取ることができたようである。
肩に置かれた手に力がこめられ、まるで彼の意思が流れ込んでくるような気がする。

「今回の発表、ここに集まった豚どもには調度いいレベルだと思っていたのだが、どうやら一人だけ違ったようだね」

彼の言葉に会場が一気にざわつく。

「ここに集まった頭の固い連中には、この程度で十分だと思っていたんだけどね。だって僕が10年も前に完成させた内容を世紀の大発明だって喜んじゃってるんだから」

周りの教授たちも、ようやく自分たちが馬鹿にされていると気づく。
口々に怒りの声を発しているが、彼は気にした様子も無く続ける。

「教授を名乗る豚どもよ、この程度の成果で満足するなんて研究者に有るまじき醜態だと思いたまえ。キミ達も研究者なら常に先を見据えないとダメだよ。この研究成果に先が存在することに気づいたのが、まさか一番年下の彼女だなんてね」

教授達の怒声を全身に浴び、彼は恍惚な表情を浮かべる。
ヤバい、この人ちょっと・・・・・・いやかなり変態だ。

「いいよいいよー、その怒りこそがキミたちを次の進化に導く。だが今宵、次のステージに進めるのは彼女だけだ」

彼は天を仰ぎ宣言すると、再び私に向き直る。

「技術はまだまだ未熟だが、キミには可能性を感じるよ。なにより先を見据える目がいい! 小鳥遊桜子君、僕のところで研究を手伝わないかい?」

研究発表の場である学会で、ヘッドハンティングとは前代未聞である。
本来なら大学を通して、様々な手続きが必要なはずだが、彼にはまるで常識が通用しない。

「ここにいる豚どもじゃ、キミの才能を開花させることは不可能だ。僕の所に来るがいいよ」

今回彼が発表した内容だけでも、最先端の技術を軽く越えている。
さらにその未来技術にはまだ先が存在し、それは既に形になっている。
彼はどれだけ先を見据えて研究しているのだろうか。
想像を絶する彼の技術力、発想力、全てに興味が湧き惹かれた。

「ぜひ勉強させてください」

今の環境では何年研究を続けても彼に追いつくことは出来ないであろう。
彼の元で研究を手伝い、彼の全てを吸収し、彼を越える研究をする。
私は迷うことなく彼の手を取った。

「小鳥遊さん、キミは何を言っておるんだね」

隣に座っている岡田教授に視線を向けると、ひどく狼狽している。
大勢の教授連中の前で助手として連れてきた生徒を奪われる、彼にとっては大恥もいいところだ。
だが目の前のチャンスを逃す手はない。
体裁を気にして彼の誘いを断れば、二度とチャンスは訪れないかもしれない。
人生は決断の連続であるとはよくいったものね。

「岡田教授、今までお世話になりました。今日で大学を辞めさせていただきます」
「いい判断だね」

教授はまだ何か言っていたが、男は満足気に頷く。

「いい研究環境を手に入れるのも研究者に必要なスキルだ。君が僕のところで研究をしたいのなら来るといい」

私は岡田教授に一礼し、男と共にその場をあとにした。


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起床時間を告げる目覚まし時計のアラームが部屋に響き渡る。
昨日は休日とはいえ、石動君の来訪やら家族の誘拐やらで大変で、家に帰ってから荒らされた部屋を片付け終わると時計の針は日付をまたいでいた。
まだ眠い目をこすりながらむくりと起き上がり、窓にかかったカーテンを勢いよく開けると朝を告げる日差しが容赦なく眼球を刺激する。
仕事柄徹夜することは少なくはないが、朝の日差しだけはどうも苦手である。
それにしても懐かしい夢を見たものね。
博士と出会ってから色々あったわけだが、あれから7年経って、少しは博士に近づけたのだろうか。

「ふぁ・・・・・・あ」

欠伸を噛みしめながら庭先へ視線をおろすと、そこには石動君がゴム風船を使った特訓をしていた。
やわらかいゴム風船を掴んで別の容器へ移す、たったこれだけの行動だが力加減を制御する訓練としては十分である。

「朝から熱心ねぇ」

石動君としては、少しでも早く常人と同じように力を制御できるようになりたいのだろう。
だが本人の意思とは裏腹に、彼の周りは水浸しになっていた。
いったいいくつ水風船を割ったのだろうか。
成果としてはまだまだではあるがいい心がけね、部屋に出入りするたびにドアノブを破壊されてはたまったものではないもの。
私は階下のリビングへ降りると、ベーコンの焼ける香ばしい香りが空腹の胃を刺激する。

「ねえ桜子、ちょっといいかしら」

朝食用のアイスティーを作っていると、母さんが神妙な顔で話しかけてきた。
朝からいったいどうしたのだろうか。

「石動君、昨日は当たり前のようにうちに泊まったけど、今日は帰ってくれるのよね?」

母さんの心配も当然よね。
昨日はバタバタしていたので仕方なかったが、女所帯に若い男性が泊まるとなると色々問題あるわよね。

「昨日は助けてもらった関係上、言い出せなかったんだけど、ずっとうちに居ついたりしないわよね?」

どうしたものか。
私の立場としては彼のデータ取りが必要なため、近くに居てくれると何かと都合がいいわけだが、かといって一緒に暮らすのも問題よね。
ご近所さんの目もあるし、若い男が女所帯に頻繁に出入りしていたら、どんな噂が立つかわかったものじゃない。
これは早急に手を打たないといけないわ。

「そうね、ずっと居られても困るし少し話してくるね」

さっき窓から確認した時は、たしか庭先で訓練していたわね。
ん? 庭先? 嫌な予感がする。
私は急いで外に出たら、そこには近所でも噂好きで通っている武田のおばちゃんが石動君を質問攻めにしていた。

「あちゃー、遅かったかー」

武田のおばちゃんに見つかったとあっては、昼にはご近所さん全員に知れ渡っていると考えて間違いない。
こうなってしまった以上、もはや隠すことは不可能だ。
だって武田のおばちゃんに口止めとか絶対無理だもん!
こうなっては変に隠すよりも、相手が納得する説明をする方が被害は少ないはず。
私は意を決して二人に話しかける。

「おはようございます、武田のおばちゃん今日も早いですね」
「あら桜子ちゃんおはようさん、ところでこの人って桜子ちゃんのイイ人なの?」

まずは様子見のジャブを差し込んできたわね。
残念だけど、武田のおばちゃんの思っているようにはいかないんだから。

「桜子さんは自分を一人前の男にしてくれた大事な人です!」

は? コイツ何口走っちゃってくれてるの?
私はキッと石動君を睨み付けるが、彼はおばちゃんの方を向いていて視線には気づいてないようである。

「あらまぁ、じゃあ昨日はお楽しみだったのね?」

武田のおばちゃん、お前も朝から何の質問してんの?

「ええ、桜子さんだけでなく、紫子さんと緑子ちゃんも交えて楽しませていただきました!」
「ええっ! 緑子ちゃんまで!? 最近の若い子って凄いのね!」
「いえいえ自分なんてまだまだですよ、桜子さんなんて自分より大活躍でしたからね!」
「桜子ちゃんってウブなふりして、実は凄かったのね?」
「ええ、自分もビックリするくらいのテクニックを持ってますからね!」

なんだこの状況は・・・・・・。
石動君と武田のおばちゃんの、次々に繰り広げられる会話に圧倒され声も出ない私。
あれ? なんで私、こんな朝早くから家の前で辱められてるんだろう?

「いえ・・・・・・これはそういうんじゃなくて・・・・・・その・・・・・・」
「どうしたの桜子ちゃん、照れなくてもいいのよ」
「いやだから違うんですよ」

なんとか誤解を解かなければ!
このまま武田のおばちゃんを野に放ったら大変なことになる!

「あらやだ、もうこんな時間ね。そろそろ旦那の出る時間だし帰るわね!」
「だから私の話を・・・・・・」
「それじゃあまたね」

誤解したまま行かないでえええええっ!
そう言い残すと、私の心の声などお構いなしに武田のおばちゃんはスタスタと去ってしまった。
終わった、これで今日の昼には最低で下劣なな噂がこの町に広がっているわ。
いったい私が何をしたっていうのよ。

「どうしたんですか、桜子さん」
「おいテメェ、そんなに私たち家族を貶めたいのか?」
「はい?」

思い返せばこの男に関わってからロクなことがない。
研究所で暴れるわ、そのせいで研究所を破棄することになるわ、面倒ごとを博士に押し付けられるわ、家族が誘拐されるわ、挙句の果てには率先して町内に変な噂を撒こうとしやがる。
博士の指令も大事だが、これ以上面倒ごとを起こされる前に私の手で機能停止してやろうかしら。

「何が『自分を男にしてくれた』よ?」
「ばっちりメンテしてくれたじゃないですか」
「何が『三人でお楽しみ』なのよ?」
「昨日は誘拐犯を退治して、みなさんでお祝いしたじゃないですか」
「何が『私の方が大活躍』なのよ?」
「紫子さんと緑子ちゃんの救出の際、大活躍だったじゃないですか」
「何が『凄いテクニック』よ?」
「機械科学について凄い技術を持ってるじゃないですか」

コイツ、何をいけしゃあしゃあと、当たり前のようにのたまっているんだ。

「アンタのせいで・・・・・・ご近所さんに変な噂が立ったらどうしてくれるのよ?」

小さい町の人々は、ちょっとしたゴシップに飢えている。
そこに先程の話を投下するとどのような事態に発展するか、予想は簡単である。
石動君の軽率な会話のせいで、私たち家族はこの町に居られなくなるかもしれない。
私の怒りは軽く沸点を超える。

「今の会話、冷静に考えてみなさいよ。主に下ネタの方向でね」
「・・・・・・」

石動君はわざとらしく腕を組んで考え込む。
わざとじゃないのなら相当な天然ということになる。
もしわざとやっていたのなら注意すればいい。
だが天然の場合、何が問題なのかその場で理解できないため、対処法がなく非常に問題である。

「あー、なるほど!」

ようやく合点がいったのか、石動君は少し気まずそうな顔をしている。
今更謝ってもおそいんだからね!

「うーん、そんなに気にすることですか?」
「は?」
「相手も大人なんだし、きっと大丈夫ですよ」

コイツ、何もわかってない。
女所帯に男の噂、それだけでも事件に飢えた噂好きの専業主婦たちの妄想は無限大に膨らむものよ。
しかも、その男が妄想を助長させるようなことを言ったわけだから、淫らな私生活を暴露したような形になっているというのに。
コイツは自分が何をしでかしたのか理解していないと来てる。

「まったく・・・・・・アンタが来てから散々な目にあってばかりよ」
「いやそんなに怒らなくてもいいじゃないですか」

怒っている私に対してなだめようとするするが、もう遅い。

「・・・・・・てけ」
「はい?」
「アンタが居ると迷惑なのよ。今すぐ出ていきなさいッ!」

私の剣幕に押されて彼は後ずさる。
今さら状況を理解してもおそいんだから。

「・・・・・・わかりました」

肩を落とした石動君は意外なほどあっさりと承諾した。

「今までお世話になりました」

そう言うと彼はトボトボと外へ歩き出す。
元々手ぶらでやってきたので荷物はないということだろう。
素直な彼の行動に少し拍子抜けする。
これで少し頭を冷やしてくれればいいのだが。

「桜子、朝から玄関先で大声出さないの。・・・・・・って石動君は?」

騒動を聞きつけて母さんが怪訝な顔をしながらやってくる。

「出て行った」
「え?」

私の言葉に困惑を隠せないでいる母さん。
思い返すのも嫌な事情を説明するのも面倒だわ。

「反省したら帰ってくるでしょ」
「帰ってこられても困るんだけどねぇ」

そうだった、元々石動君をどうにかする話をしにきたんだった。
このまま家を出て行ってくれるのは、ある意味ありがたい。
しかし、データ取りをする以上どこに行ったかは把握しておきたい。
まぁ、戻ってきたときに再度話し合えばいいか。
私は家に戻り、そのまま出勤の準備をした。

【その2へ続く】
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