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2016年06月05日07:50

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「山河ノスタルジア」

イーユン・リーを読んだばかりだったので、変わりゆく社会の中でままならぬ人生と変わらぬ人の情を透徹したまなざしで描くジャ・ジャンクーの新作がとても心にしみた。

中年の俳優たちが20代を演じる過去のシーンはリアルな映像としてはかなり苦しいが、半世紀があっというまに過ぎ去っていく実感は、この歳になると痛いほどわかる。
親しい男友達2人のどちらを選んだとしても、幸福にはなれなかったヒロイン。快活で希望に満ちていた乙女が、結婚に破れ、気がつけば初老のおひとりさまとなって遠い異国で暮らす息子を想いつづけている。オーストラリアで思春期を送り、今では中国語もろくに話せない息子は、父親とディスコミュニケーションに陥り、年上の女性講師を慕って、子どもの頃に母からもらった合鍵をお守りのように身につけている。この息子を演じる若い俳優がなかなか魅力的。
「長江哀歌」で悠久の自然とそれを平気で破壊していく工事現場を淡々と並列して描いてみせた監督は、本作でもそのスタイルを崩さず、あくまで点景をぽつんぽつんと配置して、変わりゆく中国と変わらない親子の情を淡々と描いていく。多くを描かないことで生まれる余白の豊穣がうれしい。

ケレン味たっぷりのサプライズも相変わらずで、ペットショップボーイズの「GO WEST」で始まるイケイケなディスコシーンには意表を突かれ、ラストで再びおぉ〜と思わされた。「母なる証明」をちゃっかり換骨奪胎しているところがいかにもジャ・ジャンクーっぽい。
昔のイニャリトウのように社会派然としていた「罪の手ざわり」より、本作の方が私は好きだ。

長江哀歌
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罪の手ざわり
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