少年漫画界でもっとも美しい台詞運びをする人物とは誰か?
それは勿論、冨樫義博である。
冨樫は台詞運びの基本事項は確実に行う上に、あらゆる表現技法を用いてくる天才である。若干哲学的な話になるが、もし漫画に画が一切ないとしたら、冨樫の漫画が一番読んで面白いと思う。
そんな冨樫の書いた台詞の中でも、彼の恐ろしい才能が最高に凝縮された台詞を紹介したいと思う。
それは、ハンター×ハンター18巻の、ゴンとゲンスルーの交渉が決裂し、対決が決定的となったシーンの
「キサマがダルマになるまでな!!」
である
正直よくわからないと思う。ただ明確な根拠がある、この台詞の持つ魔力の正体が掴めたのだ。普通の人は何事もなかったかのように読み流してしまう台詞だが、私はこの台詞を初めて見た中学2年のときから大好きだった。
この台詞を含む一連回は5話連続で暗唱出来るようになるくらい読み込んだ、10回20回というレベルではない、少なくとも100回単位でこの台詞を目にしている、ただ回数を重ねるにつれ、完全に暗記してしまったために読み流すようになり、この台詞の素晴らしさの本質に気づけなくなっていた。
しかし私はあるとき気づいたのだ「この台詞には最高級の踏韻技術が使われている」と。
知ってしまった、気付いてしまった、私の頭を不意に過った思いは、確信に近いものだった
解説しよう
「キサマが、ダルマになるまでな!!」
一見なんでもないこの台詞には3つ韻が含まれている
“キサマ"“ダルマ"“なるま"
である。
古来人間は韻を好む、漢詩やシェイクスピアに始まり、現在でもラップ等がある。
しかしやたらと同じ音を使うもくどくなる。要は扱いが難しい、韻はあからさまにやってはいけないのだ。
文頭の音を合わせたり漢詩やラップのように文末で韻を踏んだり、大して難しくない。
しかし上の冨樫の例は文中である、しかも手足がなくなる状態のことを“ダルマ"と表現する技術を使った上で“キサマ"という二人称とあわせ、さらには“成るまで"と韻を踏ませた、一文中に3つである、これだけでもすごいのに“なるま"に至っては品詞を跨いで韻を踏んでいる、中ボスクラスの悪役のたった一行の台詞にここまでの技術を詰め込むのはもはや神としか言いようがない。氏の言葉を借りれば「3つ?冗談だろ?動き全てが罠だよ」状態である。
もし冨樫が…
意図的にこれをやったとすれば、少年漫画界では稀有な存在:偉大な理論家であり。本気で文壇に進出した方がいいと思う
意図的でないとすれば、彼は卓越した言語感覚の持ち主である。これこそが彼の最大の才能である。
実はこの直前の回に「3つ?冗談だろ?動き全てが罠だろ?」って台詞があるのだが、このセリフがが「キルア→サブ」ではなくて「冨樫→読者(「キサマが〜」の台詞のカラクリに気付いた人間)」へ向けられたものだとしたら冨樫は本当の鬼才。漫画に限定すればIQ200はある。さすがにそんなことはまずないと思うが、その可能性を意識せざるを得ないあたりが冨樫の神性の現れであると言えよう。
2010 3/15 追記
2010年ジャンプ第15号掲載のヘタッピ漫画研究所から、冨樫は前者(=偉大な理論家)である可能性が濃厚になりました、まだお読みでない方は是非!!
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