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ルカ・トゥリン

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詳細 2024年1月17日 07:31更新

最先端の科学をもってしても、いまだ解明されない匂いのメカニズム。この超難解な謎にとりくんだ一人の天才科学者がいた。彼の名はルカ・トゥリン(Luca Tulin).......



“鋭敏な嗅覚と豊かな文才をもち、香水ガイドがベスト・セラーになったことから一般の人が知り得ない香水業界の裏側を覗き見ることができたルカ・トゥリンは、たった一人で嗅覚の新理論を作り上げる。それは、神経の配線や遺伝子を調べるのに忙しく、自分の鼻を使って匂いを嗅ぐことを忘れている嗅覚研究者たちには決して真似のできないことだった。しかし、トゥリンの論文は、1年近くもじらされた挙げ句、Nature誌にリジェクトされてしまう。嗅覚研究の大御所たちには、「非弾性電子トンネル分光」などの難解な物理学を駆使した彼の理論は到底理解できなかったのだ。保守的で既得権益を守ることに汲々としている腐敗した科学界にたった一人で立ち向かう、奇矯な天才科学者、ルカ・トゥリン──いかにもマスメディアが飛びつきそうな話題ではないか。
問題は、匂い分子の形と、我々が知覚する匂いとの間にはどのような関係があるか、ということである。ヒトは400個弱、マウスは1,000個あまりの嗅覚受容体をもっている。受容体と匂い分子との関係は多対多になっていて、一つの匂い分子は複数の受容体を活性化させ、一つの受容体は複数の匂い分子によって活性化させられる。我々が知覚する匂いは、活性化した受容体の様々な組み合わせのパターンとして認識される("combinatorial coding"という)。

「形状説」によれば、それぞれの嗅覚受容体は、匂い分子のある特定の部分を認識するという。しかし、この説には明らかな問題がある。似た匂いを示す分子の形が全く異なっていることがあるのだ。例えば、アーモンドの匂いを示す分子は75種知られていて、そのうちの一つは青酸ガス(HCN)であるが、この分子はアーモンド臭を示す他のどの分子とも構造が似ていない。つまり、分子の形から匂いを予測することができないのである。そこでトゥリンが提唱したのが、嗅覚受容体は匂い分子の分子結合の振動を検出しているのだ、という「振動説」である。ただし、振動説そのものは新しくはなく、1938年に既にDysonによって提唱されている。新しいのは、非弾性電子トンネル分光によって蛋白質が分子振動を検出することができる、と提唱したことである。

この説が正しければ、これは世紀の大発見である。しかし、どんなに美しい理論でも、それが真実でなければゴミと一緒である。トゥリンの説は果たして正しいのだろうか?Natureにリジェクトされた末、Chemical Senses誌にレビューなしで掲載されたという論文を読んでみると、大きな問題点が二つあることに気付く。一つは、メカニズムの説明があまりにもお粗末なことである。ただ、NADPHやZnが結合するアミノ酸配列のモチーフがあると言っているだけである。(しかも、NADPH結合モチーフとされている配列は全く保存されていない。)これではレビュアーを納得させるには程遠い。第二に、主観的であることである。トゥリンがいくつか示している、分子の形が似ているのに匂いが異なる(そして、振動スペクトルも異なる)例や、形が大きく異なるのに匂いが似ている(共通の振動スペクトルをもつ)例は、確かに面白い。しかし、二つの匂いが似ているかどうかの判断は個人によって異なる。トゥリンに言わせれば、そんなものは匂いを嗅いでみれば明らかなのかもしれないが、それは間違っている。判断は、その人の嗅覚の鋭さばかりでなく、先入観にもよるからだ。(違う匂いであることをあらかじめ言われていれば、そのように感じるかもしれない。)トゥリンは、SH基(ご存じの通り、温泉、あるいは腐った卵の匂いがする)と似た振動数を示すBH基をもつデカボランという物質は、硫化水素と似た匂いがすると主張している。しかし、ボランはロケットの推進剤に使われる物質で、猛毒である。従って、このことを一般の被験者を使った実験で確かめることはできず、この主張は原理的に再現不可能なのである。そういう訳で、この論文がNatureにリジェクトされたのは妥当であると思われる。

Natureは、本書http://www.excite.co.jp/book/product/ASIN_4152085363/が相当ハラに据えかねたらしく、Nature Neuroscience誌の本書に対する書評では、大人げないほどケチョンケチョンに酷評している。それでも気が済まなかったようで、更に、(Turing testならぬ)"Turin test"を否定する論文をわざわざNature Neuroscience誌に掲載している。これは、二重盲検試験を行ったところ、トゥリンが振動説の根拠として主張している、(1)guaiacolとbenzaldehydeを混合するとバニラの匂いがする、(2)偶数個の炭素をもつアルデヒドと奇数個の炭素をもつアルデヒドは異なった匂いがする、(3)アセトフェノンと、重水素で置換したアセトフェノンは匂いが異なる、のいずれも支持されなかったというものである。だからといって振動説が否定できる訳でもなく、この論文も本来ならNature姉妹誌に掲載されるほどのレベルではない。しかし、トゥリンの仮説はこのようなツッコミを誘発しうるということである。

トゥリンがいくら珍奇な匂いのコレクションを見せびらかしたところで、形状説支持者には「神経の配線の問題だ」という逃げ道が存在するので、それは決して証拠にはならない。振動説を万人に納得させるためには、具体的な分子機構とともに、各受容体がどの振動数に対応しているかを示さなければならないだろう。ただ現状では、どの匂い分子がどの受容体に結合するかということがほとんど分かっていないため、これはできない相談である。それでも、単一の嗅細胞で、アセトフェノンと重水素化したアセトフェノンに対する反応性が異なるか、というような実験なら可能なのではないだろうか。いずれにせよ、「形状説vs.振動説論争」(全く論争になっていないが)は、近い将来完全に決着が付くはずである。

本書が上質のエンターテイメントであることは確かだし、筆者の指摘するように、peer reviewという今日の科学のシステムに構造的な問題があることにも同意する。しかし、本書の振動説礼賛は、かなり割り引いて聞く必要があるだろう。穿った見方をすれば、この本の出版によって、Linda BuckとRichard Axelにノーベル賞が与えられることになった、と考えられなくもない──科学の健全性を示すために。ただ、彼らの受賞は振動説の否定を意味するわけではなく、それが真実である可能性は依然として残されている(ただし、証拠がないのだ)。”

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