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因果的動的単体分割

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コミュ内全体

詳細 2016年4月21日 15:47更新

【自己組織化する量子宇宙】
J. アンビョルン(ニールス・ボーア研究所)/J. ユルキウェイッツ(ヤギェウォ大学)/R. ロル(ユトレヒト大学)

 時間や空間はどのように現れたのだろうか? どのように4次元時空は形づくられ,私たちの世界の舞台となったのだろうか? その時空は,非常に小さなスケールではどのようにみえるのだろうか? こうした疑問の数々は「量子重力理論」へと物理学者を駆り立てるが,一般相対性理論と量子論の“結婚”は未だ実現していない。

 量子重力理論の候補の1つに「超弦理論」がある。しかし,それは先ほどの疑問のいずれに対しても答えを与えていない。そんな中,4次元時空をつくり出すというか,4次元時空がひとりでに生まれる理論が登場した。「因果的動的単体分割」だ。

 そのレシピは実に簡単だ。少数の基本的な構成要素を用意する。量子論の原理にしたがってそれらを集め,よくかき混ぜて落ち着くのを待つだけだ。これで量子時空ができあがる。未知のものは何も導入する必要はない。

 このレシピはホーキング(Stephen Hawking)によって一躍有名になった「ユークリッド量子重力理論」をもとにしている。この理論は可能なあらゆる時空の形状を重みをつけて重ね合わせることで私たちの宇宙が現れるというものだ。だが,そのアイデアをコンピューターシミュレーションで試してみると,宇宙はくしゃくしゃにしぼんだボールのようになるか,ポリマーのような平らなものになるかのどちらかだ。いずれも,私たちの宇宙とは似ても似つかない。

 著者たちは失敗の原因を探すうちに,重要なポイントにたどり着いた。それは「宇宙には因果律が備わっている」というものだ。因果律とは原因と結果が決まった順序で起こるという原理で,一般相相対性理論に不可欠なものだ。因果的構造を組み入れて改めてシミュレーションしたところ,果たして4次元時空ができあがった。この時空は大きなスケールでみると,見事に一般相対性理論の重力方程式の解の1つ「ド・ジッター宇宙」だった。しかも,シミュレーションの詳細を少々変えても結果がほとんど変わらず,普遍性を備えている。

 では,量子論が重要になる小さなスケールはどうなっているだろうか? なんと,時空を“顕微鏡”で拡大していくと,次元が連続的に変化するのだという。このことは,時空が時空の“原子”のような基本単位が集まってできたものではなく,無限に同じ構造を繰り返す“退屈のきわみ”でできていることを示唆しているかもしれない。

著者
Jan AmbjØrn/Jerzy Jurkiewicz/Renata Loll
1998年,3人は独自の量子重力理論を提唱した。アンビョルンはデンマーク国立学士院の会員で,コペンハーゲンのニールス・ボーア研究所とオランダのユトレヒト大学の教授。タイ料理の名人と評判だ。ユルキウェイッツはポーランドのクラクフにあるヤギェウォ大学物理学研究所の複雑系理論部門長。かつてニールス・ボーア研究所に勤務していたとき,近くの海岸でヨットの魅力にはまった。ロルはユトレヒト大学の教授で,ヨーロッパ最大の量子重力理論グループを率いている。以前,ドイツ・ポツダム郊外のゴルムにあるマックス・プランク重力物理学研究所(アインシュタイン研究所とも呼ばれる)で,ハイゼンベルク奨学金を受けて研究していた。少ないプライベート時間には,室内楽の演奏を楽しむ。

原題名
The Self-Organizing Quantum Universe(SCIENTIFIC AMERICAN July 2008)
                        -日経サイエンス2008年10月号-



【時空は小さな三角形の集まり?】
ひも理論,ループ量子重力理論に次ぐ新理論が登場

 微細な三角形の構造から構成される風景があり,その構造が常に変化して新しいパターンを生み出す様子を想像してほしい。この風景は遠くから見ると完全に滑らかだが,近づいて見ると奇妙な幾何構造がごちゃまぜになっている。この一見単純なモデルが「因果的ダイナミック単体分割(CDT:Causal Dynamical Triangulation)」という新理論の中核だ。CDTは重力の法則と量子力学の統一という物理学における最も悩ましい問題の解決に向けた有望な手法として登場した。

 過去20年以上にわたって統一理論の最有力候補とされてきたのは「ひも理論」で,基本粒子と力が実は非常に小さな「エネルギーのひも」であると考える。だが一部の科学者は,ひも理論は既定の背景のなかにひもを設定しているので誤りだという。粒子と力だけでなく,その存在の舞台となる時空まで生み出すような理論のほうが優れている……。

 そこで1980年代から1990年代にかけて開発されたのが「ループ量子重力理論」で,大きさわずか10−33cmの小さなループのネットワークとして時空を記述する。この理論はブラックホールの特性を予測するなど顕著な成功をいくつか収めたものの,極めて重要な試験をまだパスしていない。時空の粒が集まって,私たちにお馴染みの4次元時空を形成することを示せていないのだ。

4次元単体の集まり

 一方,CDT理論は生まれてから10年足らずだが,すでにこのハードルをクリアしている。同理論は主に欧州の3人の理論家によって着想された。オランダのユトレヒト大学のロル(Renate Loll),コペンハーゲン大学のアンビョルン(Jan Ambjørn),ポーランドのヤギェウォ大学のユルキウェイッツ(Jerzy Jurkiewicz)だ。

 CDT理論は単純な三角形構造をもとに時空を組み立てる。バックミンスター=フラー(R. Buckminster Fuller)が三角形の面を使ってジオデシック・ドームを作ったのと似たやり方だが,基本的な構成要素は「4次元単体」と呼ばれる“4次元の四面体”だ(四面体に三角形の面が4つあるように,4次元単体は5つの四面体が境界になっている)。各単体は幾何学的に平らだが,これらが集まってさまざまなパターンでくっつくと,曲がった時空を生み出すことができる。量子論の考え方では,非常に小さな規模で見ると時空の構造は常に変化しているはずなので,時空全体の幾何構造は,単体の取りうるあらゆる配置についてそれぞれの確率を足し合わせることによって定められる。

因果律に背くパターンを排除

 以前,このように宇宙を三角形に“分割”して表そうとした際には無意味な結果しか出なかった。無数の次元を持つつぶれた時空か,たった2次元の巻き上げられた幾何構造のどちらかにしかならなかったのだ。これに対しCDT理論は,因果的でない配置を除外したのがポイントだ(つまり,原因よりも出来事が先に生じることを許すようなパターンを除外する)。

 こうした非現実的な配置を排除すると,うまくいった。2004年,ロルとアンビョルン,ユルキウェイッツの3人はコンピューターシミュレーションを使って,数十万個の単体からなるモデル宇宙がちゃんと4次元になることを示した。

 さらに最近,モデル宇宙の大規模な形が標準的な宇宙論によって予測されるものとまさに一致することを示した。次の大きなステップは,モデルに物質を組み込み,一般相対性論の方程式を完全にシミュレートできるかどうかを調べることだ。

 カナダのオンタリオ州ウォータールーにあるペリメター理論物理学研究所のスモーリン(Lee Smolin)によると,この理論は検証可能な予測をいずれ生み出す可能性があるという。例えばCDTモデルの時空は微小スケールで非古典論的な幾何構造を取るため,高エネルギーの光子については光速が通常とはわずかに異なるかもしれない。

 スモーリンはループ量子重力理論の先駆者だが,CDT理論がこれまで理論物理学者からあまり注目されてこなかったのは,同理論の研究がコンピューターシミュレーションに多くを頼っているためだろうとみる。しかし「この分野の研究では真相を知るのは容易でない」とスモーリンはいう。「紙と鉛筆で明らかにするのは難しい」。

                        -日経サイエンス2007年4月号-



どうなんでしょうか。

【keyword】
因果的動的単体分割法/量子重力理論/ユークリッド量子重力理論/重ね合わせの原理/因果律/ド・ジッター宇宙/フラクタル

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カテゴリ
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