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〜假面世界ヘノ来訪〜コミュの桜

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桜の季節



桜をテーマに物語を募集したいと思います。



ジャンルゎ問いませんので、ご活用ください。




ここゎ一応、アンソロジー専用にしていきたいと思います。




     よろしくご協力ください。!





感想などはコチラまで
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=41462575&comm_id=1767034







コメント(8)

【サクラ理由】

日本の国花となっている花。
春に白や桃色の美しい花を咲かす。儚く散ってゆく姿もまた美しい。

僕は春という季節が大好きだ。
なぜなら春は僕の大好きな桜が咲くからだ。桜はいい。
あの赤ともピンクともいえない花の美しい色。
憧れる女性(ひと)の頬の色と一緒の色。
そして儚く散ってゆく花びらの美しさ。
だから僕は子供の頃から、桜が好きだった。

子供の頃、誰に教えてもらったかは忘れてしまったが、こんな話を聞いた事がある。

場所は今でも覚えている。
桜が満開の小さな公園で僕は一人の男の人と二人立っていた。
幼い僕の前に立っていた男は僕にこう尋ねた。

「桜が毎年綺麗に花を咲かすのはなぜだか知っているかい」

男の質問に幼い僕が答えられるはずがなかった。僕は男の顔を見て、ゆっくりと、首を左右に振った。

「そう・・・知らないか・・・桜の木の下には死体が埋まっているんだよ・・・桜の木はその死体の血を吸い上げて花の色を染める。そうこの花の色は血の色なんだよ」

男の話は今も僕の心に残っている。
そして幼い僕はその話を聞いた時、それを確かめたくて友達と桜の咲く公園へ行った。
昼間では大人に見つかって止められる心配があったので、僕達二人はすこし日の暮れた頃に公園に向かった。

そして僕達は古くなり少し赤茶けて錆びついたスコップで、桜の木の下を二人で掘り出した。

時折吹く風に桜の木は静かに揺れ、桜はその美しい花を散らしていく。僕達が桜の木の下を掘り出してからどの位が経ったのだろう。 いくつも重なる桜の根をどけて、僕のスコップに何か固い物が当たった。

それは白く石の様に固い物でまるで何かの骨の様だった。
僕達はそれを手にとってじっと見つめた。

「ねぇ、これって骨かなぁ?」

友達が僕のほうを見て、不思議そうに尋ねた。

「多分・・・そうじゃないかなぁ」

僕は友達の問いにそう答えた瞬間、突然拭いた強い風に僕らは驚き、顔を見合わせた。
僕達は互いの顔を見ると恐くなって、その場所から逃げ出した。
今思えば人間ではなく、犬か猫の動物の骨だったのかもしれない。

しかし、今も僕の思い出の中に、その時の事が今でも鮮明に残っている。そしてあれから十年以上の時が流れた今、僕はその話を信じ、試してみる事にした。

にぎやかな街を離れた郊外の山道を、僕は今、車で走っている。
運転席に座る僕の隣にはすでに生きる事を終え、冷たくなった彼女が助手席に動くことなく、息もすることなく座っていた。

僕は山道の途中に車を止め、重たくなった彼女の死体と、真新しいシャベルとそして桜の苗を車の中から取り出し、暗くなった山の中へと入っていった。

土を掘る鈍い音が辺りにこだまする。
そして僕は深く掘った穴の中に彼女の死体を入れ、死体に土をかぶせた。

そして僕は小さい桜の苗木をその上に植えた。
何年後に花が咲くかは解らない。
今植えた桜が綺麗な花を咲かすまで僕がやる事はただ一つ、生きる事だった。

血を吸い、赤く染まった桜の花を見るまで。

---------------------------
か、被った!?
「さくら並木」

あぁ、綺麗だな・・・。空を見上げると、背の高い並木がそびえ、目の前にはピンクの花びらの色に染まって見える。桜は満開を迎えていた。

僕は今年、大学生になった。大学構内の桜並木は、僕のことを祝福してくれているかのように咲き誇っていた。
そういえば、僕の双子の妹が言っていたけど、桜の花って、一つのつぼみから幾重にも花が咲くらしい。だから、つぼみの頃見えていた空は、満開の桜の向こうに見えなくなるらしい。こういう何か役立ちそうな、役にたたなそうな、知識を、僕の妹は、よく知っていて教えてくれる。

そんなことを考えながら、空を見上げていたら、肌色の何かが見えた気がした。肌色?視線を動かす。桜の木の上、枝のところに手が見えた。
女性の手だ。
薄いピンクの衣をまとっているので、桜の色にまぎれて、気付かなかったようだ。枝に引っかかって、腕をくたーとしているさまは、生きているのか死んでいるのか分からない。
あわてて声をかける。
「すみませーん・・・。あのーーーーー生きてます?」

反応がない。

「あのーすみませんーーー」

ちょうどブロック塀の所が段になっていたので、そこに登ってみるとどうやら眠っているようだ。何とか力を振り絞って、女性の身体を支えて木から降ろす。(たとえか弱い女性でも眠っている体は、ずしりと重たくなる)
「あー、疲れたぁぁぁぁーー」
思わず声に出してしまい、口に手をあてる。よかった、どうやら眠り姫は眠ってい・・
「いっ?!」
先刻までどうみても20歳前後の女性が、霧に包まれたようにぼやけて、気付くとそこには、一人の少女が立っていた。
見間違いかと必死に目をこすってみても、目の前にいるのは、真っ黒い目をくりくりとさせて、こちらを見ている女の子だ。4歳か5歳くらいだろうか。子供の年齢なんてわかんないけど。
「ねぇ、おじょうちゃん。君はいったい・・」
少女はたった一言、声を出した。いや、鳴いたというべきか。
「にゃー」

「にゃー?」
僕は捨て猫でも拾ったのだろうか。
ため息をついた。
###############################

大学一年生の時に拾ってしまった女の子を僕は一人暮らしの部屋で一緒に暮らした。
問題は無かった。他の誰にも彼女のことは見えなかったのだ。
三年目の春に、僕は彼女を連れてあの桜並木に散歩に行った。彼女はあの日「にゃー」と鳴いてから、一言も言葉を発さなかった。でもあの日から少しづつ笑ったり泣いたりするようになり、感情を見せてくれるようになった。彼女の微笑みは、僕に心の安らぎを与えてくれた。

急なラファール(突風)に、僕は世界を失った。次に目を開けたときには、目の前には何もなかった。薄いピンクの衣をまとったあの日の大人の彼女の姿以外は。桜並木も、道も、空も、地面さえも何もかもなくなってしまった。
うっすら微笑んだ彼女をみていたら、もうこの何も無い世界も、物が溢れている現実の世界も、どうでもよくなった。
「さくら・・・」
たったひとつの名前を呼んだ。
そして僕は全てを失って、全てを手に入れた。


   


         【惚ほり桜】



「なぁタケル、聞いたこと無いか?」小学校から9年間も同じクラスの、腐れ縁同級生である安田陽司が、赤味噌ネギチャーシューメンを頬張る手を止めて、小声で聞いてきた。

「桜台公園の映櫻沼に生えている300年桜のうわさ・・・?」

「あぁ・・・詳しくは知らないけど・・・?聞いたことあるな・・・?」俺がそう応えると、陽司の顔が急にあかるく輝きだした。

「そ・・・そうだろ??気になるだろ??俺はその話聞いて以来、もう、うずうずしちゃってさ!」陽司はそう言い放つと、割り箸まで放り出し、何故か手もみを始めた。

 それほど広くもないこの街の外れに桜台公園という大きな公園がある、その公園内に沼があるのだが、沼のほとりに、あくまで噂だが、樹齢で300年を数える桜があるのだ。

樹齢が300年とは、にわかには信じがたいのだが、その荘厳たる大木をひと目見れば、この話が、まんざら出処のわからない、眉唾モンの噂ではないとわかるだろう。この街唯一の自慢と言ってもいい。

全国各地の桜の木の下、飲めや唄へのバカ騒ぎが行われるこの時期など、見事なまでの優美な姿で、この街の人間はおろか、他県からわざわざその姿を見ようと人が集まってくるほどなのだ。

ところが最近奇妙なことに、この桜をめぐって都市伝説まがいな噂が広まり始めた。

花の咲くわずかな時期、夜、人っ気の無い時間帯に男だけで沼に近づくと、岸辺の妖艶な大木の前に一人の美しい女性が立っている。

不審に思いながらも近づいてみるとその女、薔薇のごとく豪奢で、純白の山百合のごとくたおやか、濡れ羽色に艶めく長い黒髪を鷹揚に風になびかせ、まるでこの世のものとは思えない美しさで微笑みかけてくる。
その麗しい微笑は、見た者の心に、強く、強く刻まれるらしい。

思わず見とれ、声も出ずその場に立ち尽くし、次の瞬間、はたと気付けばその女はいつの間にやら霧散し、跡形もなかった。
ただ辺りには、桃色の愛らしい花びらが舞うばかりだったそうだ。

ところがその後、その女にすっかり心奪われた男共は、食事も喉を通らず、夜も眠れぬまま女を想い始める、やがて高熱にうなされ、苦しみの果て死んでいってしまうというのだ。

中には、あの美女が誰かに取られやしないだろうか?という狂おしい嫉妬の心が燃え上がり、果てにその桜の太い枝に首をくくり、自ら命を絶つ者まで現れる始末だ。

こんな恐ろしい噂があるにも関わらず、そこまで美しい女性が拝めるのならと、この桜を訪れるバカな男は後を絶たないという。


「見に行こうぜ!タケル〜。」何故か甘えた声を出す陽司に、「興味ねぇ〜よ!」とだけ応えると、「タケルはイケメンだから、モテて仕方ないだろうから興味もわかないだろうが、こっちは進学以来、誰一人とも付き合っていないんだぜ!?そんな俺をお前まで見捨てるって言うのか?!」と、支離滅裂な理論で反撃された。

さらに陽司は、「あ〜あ〜冷たいなぁ!お前は!一人オイシイ目に遭って羨ましいぜ!!」とスネ始めた。

こう言ってはなんだが、俺はたいへんモテてきた。
少なくともどんな女性にも好意は寄せてもらえていた筈だ。

そして、どれだけ贔屓目に見ても、陽司には浮いた話が一つも出てこなかった。

「わかったよ!!付き合えばいいんだろ!」俺は根負けして、陽司と桜の精である、絶世の美女に遭いに行くはめになった。







        ◆



 この季節、だいぶ日がのびてきた。

陽司は朝からそわそわしていたが、俺はやはり気が重かった。

まず第一に、人が死ぬ噂の立つような所などに、好き好んで出かけていく神経がわからない。

気ばかりが焦っている陽司は、日が完全に沈み去る前に、映櫻沼に向かってしまい、俺と陽司は、現地でしばらく待つはめになった。

やがて暮れて、天気がよかったため月が蒼く輝き、桜の大木は、月光の力を借りて、その優美な姿を沼に映し始めた。

沼は、滾々と地下から湧き出る澄んだ水を満々とたたえ、巨大に美しい桜の木を映し出していた。

あたりは不自然に無風状態で、水面に波紋の一つもたたない。

まるで一枚の巨大な鏡が置かれているようだ。

しばらく音楽などを聴きながら、おのおの過ごしていると突如、辺りの自然から音が消えた。

虫の音も、木々のふれあう音も、何もかもが止まってしまったように感じる。

月には、黒い雲が、薄くベールのようにかぶさり、辺りは先ほどの明るさを失った。

二人同時に、やおら顔を上げ、おもむろに桜の木に目を移す。

すると、桜の木の下に、微かな月明かりに照らされ、ぼんやりと何者かが動いていた。

「で・・・出た!」恐怖とも、歓喜ともとれる声をあげ、陽司はイヤホンを外した。

「ほ・・・ほんとにいたのか?!」俺は思わず、その謎のものに二三歩あゆみ寄った。

次の瞬間、陽司は桜の木めがけ走り出していた。

「オ・・・オイ!!陽司!待てって!」そう叫びながら、俺も陽司の後を追った。

木に近づいてみるとやはり噂通り、そこに立っていたのは怖ろしく美しい容貌を持つ女だった。近くにいるだけで、凍りつくような緊張感があり、首筋が粟立った。

絶句しながらも俺は、横にいる陽司に目をやった。奴は呆然と立ち尽くし、女から一瞬も目を外すことなく見つめており、瞬きすらしない。

そこで気がついたのだが、この謎の女、噂では麗しく微笑みかけると言われていたのだが、目の前の女は、陽司の表情と同じ、何かに驚いたような、もしくは怒っているような表情をし、俺を凝視していた。

射抜かれるような強いまなざしで見つめられ、どうにも足の震えが止まらなくなり、鼓動が速くなった。

恐怖がピークに達し、防衛本能が働いたのだろうか?蛇に睨まれた蛙の状態だった俺は、次の瞬間、陽司の腕を引き、その場から逃げ出した。

背後で何か大きな音がしたが、振り向くことは出来なかった。



        ◆



 翌日、陽司に連絡をとってみた。

奴は呑気に、「いやぁ〜すげ〜美人だったなぁ〜。」と悔いたような口調で言った。

俺はというと、特に恋の病にかかることもなく、飯も食うし、よく寝られた。

我々二人の間では、噂が本当であったか、嘘であったかの判断がつかなくなっていた。

そして、何事も変ることなく日常が過ぎ、ちょうどあの日から10日が経過した時、大変なニュースが耳に入ってきた。

どうやら、桜台公園の妖艶なる巨木の桜が枯れて倒れてしまったという。

発見者である公園の管理事務所の職員曰く、まるで何かを必死に掴もうとして、より遠くへと伸ばした腕のように先へと垂れた枝、その太い根は地中より露出し、その形は、立ち上がろうと膝を立てた脚のように見えたと言う。

小さな桃色の花びらは全て散り落ち、巨木は、見る影もなく朽ち、枯れ果てていた。熱にうなされ、狂気の末に力尽きたように・・・。

そうなのだ、

今回、命を削るほどに惚ほってしまったのは桜の方だったのだ。
 
 「桜色の思い出」



その日 私は、春休み期間限定の、暇〜なバイトを始めて間もない頃、

お客さん、来ないかな〜、

と、店の前を通り過ぎる人を眺めていた。

すると、珍しく、和服の女の人が通り過ぎた。深い紫色 ―江戸紫っていうのかな?― の着物。

あ〜、私もあんな着物、着てみたいなぁ、

と思った瞬間、

「君には もっと淡い色の着物が似合うよ!
 
 そうだな、僕だったら 薄〜いピンク、桜の花びらが舞い散るようなデザインにするよ、美咲さん。」

はぁ〜? 何、この人。いきなり着物のデザインって。

それに、何で名字でなく名前の方を呼ぶかなぁ、初対面なのに・・・

と、唖然としてると、

「あ、僕、あっちの売り場の川島。今日、お昼一緒に食べようと思って誘いに来たんだ。

 あ、ナンパじゃないよ、頼まれたんだ 店長に。

 急用が入っちゃったので、代わりに美咲さんとランチ行ってきてくれ、ってね」

あぁ、そういえば、店長、今日ランチごちそうしてくれるって言ってたっけ…

「じゃ、後で迎えに来るから」

と、私の返事も聞かずに行ってしまった。

変な人〜。

これが彼に対する 私の第一印象だった。


その日の昼、しょうがなく そのカワシマさんと近くのファミレスに行った。

カワシマは、コーヒーのおかわりができるのでファミレスが好きなのだそうだ。

ファミレスでコーヒーを何杯も飲みながら 周りの人達を観察するのも好きだと。
 
なんでも、彼は呉服屋の息子で、着物のデザイナーなのだが、

自分の家である呉服屋の事だけしか知らないと デザインの幅も狭くなる、とかで

社会勉強の為、1年間、この店に修行に来ているそうだ。

それで、さっき あんな事言ったのか〜、ちょっと納得。

 
後で他の人から聞いた話によると、彼が私を名前で呼んだのは、

名札の「筧 美咲」という私のフルネームの「カケイ」が読めなかったから、だそうだ。

(芸能人に疎い彼は、俳優の筧利夫も知らなかったらしい)

ホントに、修行が必要かもね・・・



「美咲さんは、何月生まれ?」

「4月です」

「やっぱり桜の季節だね!」

「そういえば、美咲っていう名前も、桜が美しく咲いていたから付けた、って両親が言ってました。」

「へぇ、いい名前だね! 絶対、桜が似合うと思ったんだぁ」

なぜか、彼は とても嬉しそうだった。

 
私は美術系の大学に通っていたので、修行中といえどもデザイナーの彼の話には興味があり話が弾んだ。

いつのまにか 彼の印象は ”変な人” から ”おもしろい人” になっていた。



その日以来、ランチに誘われる事はなかったが、カワシマは暇になると私の売り場に油を売りに来た。

とりとめのない話が退屈なバイトの中での楽しみになっていた事は、私自身あまり気づいていなかった。


そして、時はゆっくりと流れ 私のバイトも今日が最後の日となった。

「明日で美咲さんとも、お別れかぁ、淋しくなるな〜」

昨日はそんな事を言っていたカワシマだが、私が帰る時間になっても見送りに来てはくれなかった。

あ、私は何を期待していたのかな・・・

と、少し狼狽していると 店長が教えてくれた。

「そういえば、夕べ 川島のお父さんが病気で倒れたんだよ。呉服屋の事もあるし

今日はどうしても来れなかったんだ。筧さんの最後の日なのに残念がっていたよ」

私は いろいろな事がショックで 涙をこらえるのが大変だった。




 
それから、1年過ぎ 私は20歳になっていた。

私は成人式をどうするか決めていなかったが 友達は着物を着たいというので、

着物の展示会を一緒に見に行く事になった。


わぁ〜、いろいろあるんだなぁ、私も着たくなってきたよぉ、

と思いながら見て回っていると、会場の一番隅に飾られていた着物が

私の目に飛び込んで来た。

「あっ・・・!」

思わず叫んでしまった。

そこには、とても淡いピンク色の桜の模様の着物があった。


しばらく動けないでいた私に、ふいに誰かが話しかけて来た。

「君には 淡い色の着物が似合うよ!
 
 薄〜いピンク、桜の花びらが舞い散るようなデザインにしたよ、美咲さん。

 きっと また会えると思っていたよ」


彼は、なぜかとても嬉しそうだった、私は涙をこらえるのが大変だったのに・・・

 
 
                                         おわり


 
「追憶の彼女」



桜が咲く季節に私はいつもここに訪れる。

悠久と時を経た大樹。視界に納まりきれないほどの花を咲かすこの樹。

この桜を眺めていると思いだす情景があるからだ。

もしかしたら記憶の中の彼女に会いに来ているのかもしれない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


私がこの枝に届くかどうかぐらいの頃に、この樹の下で私は彼女に出会った。

白髪に染まったその髪はまるで桜色を映したような薄墨色をしていた。

「今日もいい天気ね。良い花見日和だわ」

風に煽られた髪を抑え、私に声を掛け微笑んだ。

彼女、白ばあちゃんは私の曽祖母だと聞いて吃驚したのを覚えている。

互いのことを話し合って、とても楽しかった。

私はもっと喜んで欲しかったのか、花のついた枝を彼女に手渡した。

彼女は受け取った枝を大事に受け取り、私に強く拳を落とした。

あまりの突然さにたたらを踏みながら、見上げると彼女は優しく微笑んだままだった。

「桜の花は手に取ってはいけないのよ」

何故?と問いかける前にそう私に語り出した。

いきなりであったからなのか理不尽さは感じたが、それよりも理由が知りたかった。

「花は新しい枝にはつかないのよ。何年もかけて枝を太く固くしてからようやく花が咲くのよ」

この枝はあなたよりお兄さんよ?と笑顔で枝を私に渡した。

こんなに細い枝が?とも思ったが、改めて触って見ると見た目以上に固く、何層にも皮が厚くなっていた。

そんな私に納得がいったのか、彼女は私の頭を撫で、折れた枝のもとへ歩き出した。

「2つ目はね、桜の木は病気に弱いのよ。傷ついたところから簡単に病気になり枯れてしまう」

折れた根元を優しく丁寧になでる。それはとても悲しそうな顔だった。

「すぐには枯れないけど、いずれ花が咲かなくなってしまうかもしれない。私はそれが悲しい」

この大きい樹が枯れるなんて、そんな馬鹿なことだ。そう思ってもいけないことをしてしまったことは分かった。

だから、頭を下げた。だけど、その頭はコンっと小気味よく叩かれた。

「分からないのに頭を下げなくてもいいわ。難しいことだもの」

彼女はまた笑いながら頭を撫でた。

最後にね、と彼女は上を見上げる。私も同じように上を見上げた。

「無粋な真似は止めなさい」

視界に納まりきれない程の花は、風に揺られながら私の全てを埋め尽くしていた。

「桜の花は一つを自分のものにするのではなく、自然なままをみんなで見るのがとても綺麗なのよ」

ふと、手元の枝に視線を落とした。先ほどの綺麗だった一輪の花は、幾分か色あせて見えた。

どうしてこんなつまらないことをしてしまったんだろうかという後悔が生まれ、とても申し訳ない気持になった。

俯いてしまった私に彼女は優しく頭を撫でてくれた。ささくれた幼心はそれだけで穏やかになったものだ。

「とても頭の良い子ね。その気持ちを忘れてはいけないわ。大事なことよ」

結局、無粋という意味は分からなかったが、彼女の手はとても優しかったことは覚えている。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


あれから20年以上たったが、私はいまだに彼女とこの桜に謝ることができずにいる。

曾祖母はあれからすぐに亡くなってしまったし、無粋の意味も見つけられずにいた。

変わらず桜は咲き誇っているし、視界に納まることなく、花のついた枝は風に揺られていた。

変わったのは見守る人の中に曾祖母が居なくなったことぐらいだ。

何百年も変わらないまま桜は咲き続け、それを見守る人の心も変わらないのだろう。そう何世代も。

おそらく曾祖母も同じ気持ちだったのだろうか。そうだったらいいなと思う。

「パパ〜」

遠くに行った思考を戻すと小さな女の子――私の娘がそばに来ていた。

彼女は嬉しそうに手に持っていた枝つきの桜の花を私に差し出し、思わず桜を仰ぎ見てしまう。

あぁ。もしかしたら、曾祖母はこんな気持ちだったかもしれないと。

確かに無粋だ。満開の笑顔をここで折ってしまうことが。

しかし、やらなくてはいけないのが親の役目でもある。

私は出来るだけ優しく小突いたが、それでも痛かったのか、彼女は少し涙目で頭を押さえた。

近くまで来ていた妻が咎めるような視線で見ていたのが、可笑しくつい微笑んでしまう。

あの頃、そばに居た両親も今の妻と同じ顔をしていたのだろう。

さて、今にも決壊しそうな愛娘をどうやって伝えよう――ありのままを伝えよう。

とても大好きだった薄墨色をした桜のような彼女のように。


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