しごと脳コミュの安藤忠雄さん

「頭の糖尿病」～思考停止という生活習慣病

■19世紀、浮世絵は海を渡り、欧州の印象派の画家らに大きな影響を与えた。その頃の日本人は、西洋から「文化大国」として尊敬されていました。／そころが今の日本はどうでしょうか。「モノはあふれているが、創造力がなく、誇りを失っている」と天国のポール・クローデルは嘆くでしょう。私は日本の衰えた現状の根っこに、人々の「思考停止」があると思っています。

■思考停止は、生活習慣病としての糖尿病に似ています。いわば「頭の糖尿病」。糖尿病が飽食の時代に急増した典型的な現代病であるように、思考停止も日本社会に急速に広がりました。現代人は、物質的な豊かさと、マスメディアやインターネット、携帯電話などを媒介してあふれ出す情報におぼれ、自分で考えることを忘れたのです。／糖尿病が死に至る病の原因になるように、思考停止も放っておけば、日本社会に致命的な影響をもたらすでしょう。

■経済低迷、少子高齢化、環境破壊、地域間格差、国際競争力の低下。日本は今、さまざまな問題を抱えています。未来を担う子供を救うには、教育と社会システムを改革すること。まず何より一人ひとりが考える努力を取り戻し、今までの消費中心の生活を改め、国際的に深刻な環境問題を考え、謙虚に生きるように心がけて欲しい。／その際大切なのは、国や自治体にばかり変革を期待してはいけないということです。自らが意識改革し、責任ある個人として立ち上がらなければなりません。

■第３回地球温暖化防止会議で京都議定書が世界的に認知されたことは、日本には幸運でした。日本は古来自然と生きてきました。官民の垣根を越え、環境先進国として世界に見本を示せば、国際社会に存在をしめせます。「瀬戸内海全部を海洋牧場にする」くらいの大胆な提案をする気迫を持てば、アジア、そして世界で、日本が見直されます。大きなビジョンを示すリーダーがいて欲しい。
（朝日新聞　2005年1月7日　朝刊「政治・総合」）