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未完の蜜柑物語コミュの【第一幕】始まらない時間

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さて、第一幕の始まりです。

「どうせ第一幕が既に完結編だろ?」
とかいう突っ込みは受付ません。
管理人が一番思ってることを代弁してくれなくていいですw

ここから始まる物語が全ての始まり。
変化の連続。
多種多様な世界観。
異色な表現と感性。

どうぞ、書き手も読み手もお楽しみください。

コメント(19)

衝撃的な事は、いつも何気ない日常から始まる。
それは何故か。
答えは簡単だ。
平凡があるからこそ非凡が存在するからだ。
いつもの「普通」といわれる生活に、何かのスパイスが注がれれば、それが「衝撃」になる。

衝撃的な出来事。
突飛な事態。
異常な世界。
そんな事、つい数分前には自分に関連性のないものだと思っていた。
生涯、生きている限り、関わりのないものだと思っていた。
いや、思っていたかった。
こんな事になるぐらいなら…。



私の名前はリン。
友達にはリン姉ちゃんと呼ばれている。
歳上から「姉ちゃん」と言われることに対して、もう違和感はない。
時間軸は、ここがパラレル世界でない限り2006年6月。
私の精神状態が正しければ、今は地球上にいる。





そして





今、私がいる場所は







鑑別所、鉄格子の中…。
そしていつもの朝を迎える…。

教官「おい、出ろ。朝の体操だ。」

朝は決まって囚人たちのマラソンだ。
私はシマシマ柄のジャージを着て外へ出た。


教官「よし、ではいつものランニングだ。俺についてこい」
囚人「おいーす」

教官「ファミコンウォーズを知ってるかー!」
囚人「ファミコンウォーズを知ってるかー!」
教官「こいつはどえらいシミュレーション!」
囚人「こいつはどえらいシミュレーション!」

(以下略)


さて、いい汗をかいた。
次は飯だ!
毎日味噌汁が飲みたい!!!!!

ということで食堂へDIVEすることにした。
食堂に着くと、一箇所だけ明らかに違う席があった。
そう、そこがいつも私が座る席。
看守も囚人もみな私の奴隷なのだ。

「ごきげんようみなさん」

私が一声掛けるだけで、みなが私にひれ伏す。
そう、ここは監獄という名の楽園なのだ。
私はいつもの席に座った。
すると・・・

ガシャンッ!
!?
椅子はいつもの椅子とは違く、拘束椅子だった!!!
椅子に座った瞬間、手足を拘束。
こ…これは…。

周りの囚人達がニヤニヤと笑っている。
奴らが訴えるものが目で分かる。
こう言ってるのだ。
俺たちはいつまでもお前の奴隷じゃないぞ、と。
くそっ!
リンは怒りに任せて手を振り乱した。

グシャ。

あ…あれ?
手の拘束はあっさり壊れた…というより、引き裂かれた。
この拘束は………………




紙だ!




紙製品かよ!
それもそのはず。
この監獄の中でそんな手の込んだ物が作成出来るはずもない。
それにしても、こんなもので拘束出来ると思ってたのだろうか。
囚人達が驚愕の目に変わる。
怯える者もいる。
こいつらは、アホか。

リンは笑みを浮かべる。
囚人達はそれに苦笑を浮かべる。

「ごきげんよう♪」

そう言った瞬間、囚人の一人が廊下まで吹っ飛んだ。
音速を誇るストレートパンチが見えた者は誰もいなかった。
封筒を涙で濡らしながら、リンはこの鑑別所で一番の古株である、麻真の元へ向かった。
麻真ならなんとかしてくれる!
そう信じて…。

「ママ!助けて!ここを出たいの!」

リンの声に、麻真が鉄格子の中で振り向く。
目を細めて軽く笑った。
「ふぅ、やっとその気になったかい」
麻真は以前からリンを誘っていた。
ここから抜け出そうと。
リンがここへ入れられる経緯を知って、麻真が同情した為であった。
「そうなの、出たいの。こんな封筒を見つけて…」
麻真は封筒の中を見た。




麻真も声を上げて泣いた。
「ちょっと待って!!」
リンが何かに気付いたらしい。

「この封筒、文字が浮かんでるわ…」

「な、なんだってーry」
謎のリアクションを取る麻真。

それを華麗にスルーしてリンは考える。

どうやら二人して号泣したために涙でぐちゃぐちゃになった封筒だったが、その本来の仕掛けが作動したらしい。

誰かが秘密の連絡用に宛てた手紙といったところか…
それにしてもこんな手の込んだことするなんて、よっぽど知られたくないことなのかしら…

「何て書いてあるんだい?」
華麗にスルーされた麻真が言う。


リンが浮かんだ文字読む
「どれどれ…」



明日 17時 鑑別所第2図書館
麻真はその文字を読むと……


声を上げて泣いた。


「違う違うっ!! ここよ、ここ。
『明日 17時 鑑別所第2図書館 』
 …って書いてあるでしょ?」
リンは焦りながらも、ここで頼れるのは麻真しかいないと思い、慎重だった。

「それギャグだわ」
だが、ひどいリアクションだった。

「いやいや、そんな一言で片付けないでよ〜!!」

「わかってるわよ。………ふむ。」

「…でも、これは困ったわね。」

「何故?」

「…だって、『明日』って書いてあったら、もしかしてもう終わってるかもしれないし…」
リンが弱気にそういうと、麻真は不敵な笑みでリンに言った。

「ふふふ。いやあ、これは今からきっかり21時間後だわね。」

「え?」

「これはね、今日18時の清掃の時間のあとに落ちていたんだよね? だったら、これは清掃の時間から今の時間、つまりこの40分の間に誰かが落としたということなのさ」
麻真は驚くほど正確に分析をしていた。
鉄格子の中の空気の温度が、少しだけ上がったような気がした。
リンは手紙の真相の追求と、これから起きることにちょっとだけ期待しながら、言った。
「明日の17時、第2図書館…」

すると、麻真がゆっくりと立ち上がっていった。
「じゃあ…早速準備しようかねぇ」

「え、準備って?」
「ここ、出たいんでしょ?」
「うん・・・」
「これはチャンスなのよ?もしかしたら、私たち以外の何者かが脱走を企ててるのかもしれない。そうでなくても、なにかを企んでいるのは間違えないわね。」
麻真は、今までみたことのないような真剣な顔で語った。
「いい、リン?この監獄は来るものは拒まないけど、出ようとするものには容赦ないのは知ってるわね?」
そんな設定あったっけ・・・?と思ったけど黙って続きを聞くことにした。

「リンは第二図書館にいったことある?あそこはね、ちょうど裏門の反対側にあたるのよ。この手紙が仮に逢引のサインだとしても、利用する価値はあると思わない?
にぱー☆」
麻真は満面の笑みで私に微笑みかけた。
「わかったわ麻真!それで私はどうすれば・・・」
麻真は私に近づくようジェスチャーして耳元に囁いた。
『ごにょごにょごにょ』
なんて大胆な計画を!!!

麻真は「それじゃ、またあとで」と言い残し去っていった。
取り残された私は、ただただ呆然とするだけであった。
何にせよ第二図書館に行くまでにまだ時間はあるし、やるべき事がある。
これは一度きりのチャンスかも知れないのだ。
あそこに行ってみたらなんてことない事なのかもしれない。
でもこれがチャンスであるなら絶対に失敗は赦されない。
だから真剣に、抜かりなくやる。
失敗をして刑期を延されたら取り返しがつかないし。

いまでも愛して止まないカズヤの為にも絶対に。
本当は私はこんなところで、のうのうと刑期を全うしようとしている場合ではないのだ。

カズヤは、私がこんな所に居る事なんて知らない。
カズヤだけがきっと…多分…まだ知らないのだ。
今でも私がどこかで元気に暮らしてると思っている事だろう。
私があの人を庇って捕まったなんてこれっぽちも思ってもないに違いない。
此処に来るちょっと前、まだ何もこんな事になると思ってなかった時に私がついた嘘を信じてると思う。
喧嘩別れをした時のあの言葉を。
それがあの人を庇ってるとも知らずに。

普段は鋭いクセに何故か私に関しては甘いあの人。
私の嘘を本当の事だと思って信じてくれてる。
あの時は怒っていたけど、きっと今は心配してくれてるだろう。
突然目の前から姿を消した私の事を。
でも私が事件を起こしてTVに大々的に映し出された時も、あれが私なんだと気付いてないだろう。
あの人の愛してくれた私と、普段の私はあまりにも違っていたし周りもその事に気付いてないはずだから。

カズヤは優しい人。
あの人の為ならなんでもしてあげるっていつも思ってた。
今すぐにでも出来るのならば飛んでいきたい。
私を抱きしめて欲しいと思う。
あの人の事を考えると、こんな所にいる汚れてしまった自分にも、
まだかわいらしい部分が残されてたのだなぁと思い知らされる。
そんな自分も嫌いじゃないんだけどさ。
あの人だけがいまの私の唯一の希望。
今ここにいるのも後悔はしてない。
あの人のためにした事だからこれで良かったんだと思ってる。

だけどはじめて麻真に脱出の話を持ち掛けられた時はかなりぐらついた。
あの時はその事をおくびにもださず、表面上はあくまでもいつもの私を心掛けていたけど。
だって私は失敗したくなかったし、さっきも言った様に失敗して刑が重くなってしまったりしたら
カズヤに会うのがずっと先になってしまうから二つ返事でOKを出す事はしなかったのだ。
その時の私は「勝手にやればいいじゃない」ってかなりぞんざいに言ったと思う。
でも麻真は見抜いていたのだろう。
私の心が大きくゆらいだのを。
それで何度も事ある毎に話を持ちかけてきたりしたのだ。

しかし手紙のせいだとはいえこの話にのってしまった以上、私は今からあるべき事をする為に動こうと思う。

それは
いつか、看守から密かに奪った銃。
これを用意しておこうと思った。
使う機会はないと信じたいけど、何が起こるか分からない。
リンはそれを取りに、自分の部屋に戻った。

銃は見つからない様に天井の裏に隠してあった。
リンはそれを持つ。
ベレッタM92FSの弾装填状況を確認した。
大丈夫…。
私はやれる…。
この先何が起きても私は…カズヤの事だけを考えて…ここを出るのよ。
想いを胸に、リンはトリガーの安全装置を外し、銃を抱いた。



時刻は17時。
予告通り、私と麻真は第二図書館で落ち合った。
昨日は全然眠れなかったのに、朝から目は冴えていた。
一種の興奮状態にあると言ってもいい。
心の中で色々な計画を立てようとしたけど、あっという間にこの時間になってしまった。
でも大丈夫。
ここに誰がいて、どんな事が起きようとも、私達二人の計画に狂いはないはず。
この1歩を踏み出せば世界が変わるのよ。

麻真がこちらを見て頷く。
それを合図に…リンは第二図書館の扉を開いた。



「やぁ、来てくれると思ってたよ」
中には夕焼けを背に、一人の男が立っていた。
男は恭しく手を胸に当てて会釈をする。
リンは麻真の方を向いた。
麻真はその意図を理解した様に首を振る。
どうやら麻真も知らない人物の様だ。
「謎は解けたかい?」
男は、こちらの様子などお構い無しに質問をしてきた。
「水で文字が浮かび上がる仕掛けなんて、シャレてるじゃない」
麻真が、警戒しながらも余裕の表情を作る。
そう、ここに呼び出したからには何かがあるのだ。
その何かが分からない限り、油断は禁物。
この男の…得体が知れない。
「あれ?おやおや、本当の仕掛けには気付いて貰えなかったようだね」
男はガッカリした様に手を頭にやった。
本当の仕掛け?
文字が浮かび上がる自体、十分な仕掛けじゃない。
これ以上に何があるというのよ。
「それの本当の意味を教えてあげるよ」
私達が黙ってると、男は麻真が手に持っている紙を指差し言った。

「『今日のめちゃイケはDVDで録画しといて』って書いてあるだろ?そう、これ自体に意味があったのさ。暗号というものは難解なものを1つでも解明出来れば、それで全て解けたと思うもの。水に浮かび上がった文字を見て、それ以上の意味など求めなくなる。悲しいねぇ。難儀を追い簡易を見逃すなんて。」

そう喋り、男が続ける。

「そう!『めちゃイケ』。これがキーポイントなんだ!この言葉をハングル文字に置き換え、そしてそれをフビライ語に訳し、それをギリシャ文字に変換させた後、個々のパーツを分解し、英数表記すれば自ずとポルトガル語に繋がる、そして全てを時計回しに90度傾ければ…わかるだろ?そう!こう言いたかったのさ!」

そして男が吠える。

「『めちゃイケ』は『ぐるナイ』に変換されるのさ!そう、僕はこの第二図書館に来た人に、ぐるナイをDVD録画して貰いたかったのさ!!!」

















静寂に包まれる。

麻真は呆然と立ちすくんでいる。

私は…




彼にニッコリ微笑み…
















ベレッタの引き金を引いた。
パンッ―!!
ベレッタの銃声が、図書館の静寂を破る!!

「馬鹿っ!! こんなところで打ちなさんな!!」
「あっ!!」

私はあまりの興奮に、冷静さを失っていた。
この牢獄という檻にいて、麻真の声にようやく我を取り戻せた。

「っ!! ヤツはっ!?」

周りを見回す。
どうやら、さっきの銃声は、警報が鳴っていないから大丈夫みたいだが…。

「……あいつなら、そこにいるさね」
「あっはは〜、いきなりご挨拶ですねぇ」

男は飄々とした態度で、私を見下ろしていた。
……私はヤツに傷一つ負わすことが出来なかった。
いや、傷一つなくて良かったというべきか。
それとも、傷一つなくそこで笑っているヤツに驚愕すればいいのか。
一瞬の出来事に、私は戸惑うばかりだった。

「貴方……、一体何者なの?」
麻真が少し震えた声で言った。

私はヤツの返答を静かに待った。
あたりはもうすでに、夕闇に包まれていた。
視覚できるものといえば、奴の黒い影、それと、時折窓から差し込むサーチライトの光だけだった。

「僕が何者かだって? あはは、そんなことは重要じゃないね。君たち、ここから出たいんだろう? あの手紙を頼ってきたのならね」
にたにたと笑うヤツの白い歯が、奇妙に歪んでいるのが、見えた。
私は気持ちを落ち着かせるために、ゴクリと唾を飲み込む。

「ええ、ここから出たいわ。貴方が何者かなんて、もういい。……さっきの事は、悪かったと思ってる、ごめんなさい。」
「……ふん、別にどうってことないさ」

「だから……。だから、もし、ここから出られる方法があるなら、教えて欲しいの!!」
私は心からお願いした。
声が引きつっていたが、しょうがない。
麻真が、私の気迫に息を呑んでいるのがわかった。

………。
長い時間が流れる。
その永遠とも言える時間が、麻真の一言で静かに砕けていった。

「貴方は、私たちを、助けてくれるの?」

そして、ヤツは私たちをなめる様に見て、言った。

「……僕はね、『助ける』とかはしないんだよ。ただ、『手助け』するだけさ。ここは牢獄だよ。人間が作った、規制と規則の箱庭さ。でもねぇ、ここにいてはいけない人間もいる。それは、自分の意志を、外の世界でも突き通すことの出来る人間だ。自分は規制と規則に飲み込まれないと信じ、信じ続けて……。そして、それを胸に走り続けたものだけが、本当にたどり着きたい場所にいけるのだ。その手助けをするのが、僕の役目さ」

ヤツはそう言うと、小さくため息をついて続けた。
「さて、じゃあ始めようか」

「始める……って、何をだい?」

「決まってるじゃないか。ここを出るにふさわしいかどうかの、試験をだよ!」

ヤツの目がニタリと歪む。
そう、私たちは選ばれたのだ。
ここから、この箱庭から出られるにふさわしい人間かどうか、その試験を受けることに……。
「試験といってもたいした事ないよ」
男は、そういうと手のひらの上に小さな丸い金属をだした。
私はその金属に見覚えがあった。
「10円・・・?」
「そう、なんの変哲もない10円玉さ。
 コイントスって知ってるよね?表か裏か当てるあれね。」
男はクスリと笑い、その10円玉を起用に手の甲で回しはじめた。
「表か裏か当てるだけで、僕は君たちの手助けをしよう。ただし、外れた場合は僕の手助けをしてもらう。ああ、僕の用事が終われば君たちの手助けもするよ。いい条件だとおもうけど?」

たしかに、条件的には悪くない。でも、何かかが引っかかる感じがした。

「麻真。私思ったんだけどね、別にこの変な男に付き合う必要ないんじゃないかしら?」
麻真の眉毛が一瞬ピクリと動いたのを私は見逃さなかった。
「な…なにいってるのリン?もうこの男には私たちが脱獄しようとしてることがばれてるのよ?!未遂でも、ばれれば刑が重くなるのを知ってるわよね!?私は嫌よ!」

麻真が妙にくいついてくる。
麻真とこの男は実は知り合いなのではとさえ思えてくる?
私の頭はクールになっていく。
私は少なくともこの男を知らない。
この監獄に入ってから、一度も見たことがないのだから。
この監獄では、食事の時に全ての囚人が集められる。
そして、私は全ての囚人の顔を覚えている。
いくら記憶を手繰らせても、このふざけた顔の男はでてこない。
もし、麻真とこの男が最初から計画を打ち合わせていたとする。
私が、賭けに勝っても負けても3人で行動することになるだろう。
この男と、麻真が私を囮にして逃げるということも考えられるのでは?
背筋を青虫が這うような感覚が襲う。

いやいやいやいやいやいや
麻真に限ってそんなことはない。
私の相談をいつも真剣に聞いてくれたし、なによりも大切な仲間なのだから。
仮に男と麻真が知り合いだとしても、これは私を試そうとしているだけにきまっている!


「さぁ?どうするの?僕はどっちでも構わないけどね。」

麻真は私をみてコクリとうなずいた。
ああ、目が怖いよ…
まだやるとはいってないんだけどなぁ…
私は苦笑しながら決心した。
そして、必ずあたることを確信して!

「わかったは、その勝負うけます」
男は一瞬意外そうな顔をしたが、満足そうに微笑みコインを投げた。
コインが空中に舞っている刻、私は見逃さなかった!
そう、麻真の顔を!!!
「俺は永谷園、このチームのボスをやっている」

最後の男が椅子から立ち上がり、ポケットに手を突っ込む。
風貌からして、こいつがトップというのは最初から予想がついていた。
それにしても永谷園?
これ名前?
偽名じゃないの?
何こいつ、海苔くせぇー。

そんな事を思っていると、住谷と田中も立ち上がった。
「こいつら…役に立つの?」
田中がいやらしい目で私達を品定めする。
こいつにもベレッタの銃口を向ける日が近い気がするな…。
チームリーダーの永谷園が、フッと笑う。
「まー大丈夫だろう、最中が見つけた人材だしな」
そう言ってリーダー永谷園と男の目が合った。
なるほど…。
私達を第二図書館に呼び寄せた、この怪しい男…最中というのか。
一瞬、永谷園の目が麻真に移った気がした。
でも麻真は素知らぬ顔をしていた。
…何か気になる。
第二図書館で、この最中という男に会ってからの麻真が…何か気にかかる。
それが何かは分からないけど…。
女の直感ってやつね。

こうして、私・麻真・最中・永谷園・住谷・田中が、この薄暗い部屋に集まった。
このチームが何なのか。
どういった集まりなのか。
何が目的なのか。
全く分からない。

でも。
何か行動を起こさない限り、何も起きない。
ただ毎日を送っているだけじゃ、脱走なんて始まらない。
宝くじも馬券もガリガリ君も、買わなけりゃ当たらないのだ。

私はこれから起こる事を、冷静に、ゆっくり、慎重に、完璧にしていく…そうしていくのだ。





「んじゃ」

永谷園が切り出す。




「本当の試験をして貰おうかな」








また試験かい!!!
ちりちりと、天井からぶら下がる小さな電灯が鳴っていた。
この6畳半ほどの部屋には、明かりが隅々まで行き渡っていなかった。
それが、組織の集会っぽさを一層際立たせいるような気がした。

そして、6人が囲う小さな机の上に、何枚ものぼろぼろになった紙の束があった。
計画の書類なのだろう。
表題に、「奇人士々脱獄ノ件」と書かれてあった。

私の右隣に麻真、そのさらに奥には、土気色の壁。
全く狭い部屋なのに、机以外に何もないためか、とても広く感じられた。


「さて諸君。構想1年、準備期間3年弱、約4年をもって、ようやくここまで来ることができた。あとは実行に移すのみとなった。これはみんなのお陰といえる、ありがとう」
永谷園が唐突に言うと、さらに最中が続けて言った。

「ふふ。僕らの計画も、これで最後になるわけだね」
そう言って、最中はくくっ、とにごった笑いをついた。

「………」
私は、そんな彼らを見ながら、

(……4年もあれば、刑期終わるんじゃないの?)

と思ったが、あえて口に出さなかった。

頭の中で一瞬のうちに考えた、こいつらの本当の怖さ。
現行の法律では確か…もし殺人を犯したなら最低懲役5年以上。
…もしくは、死刑。

しかし彼らが構想したのは、4年も時間がかかる、としてとりかかった計画。
私の考えがそこに行き着いた瞬間、ぞっとした。

そんな彼らの素性を、最低限のことしか知らないでおこうと思うのは、自然なことだった。

そして、永谷園は私と麻真をじろりとなめるように見ながら、言った。

「そ・こ・で・だ。この計画は、失敗が許されないのだよ。リン、麻真…君たちに試験を受けてもらう。しかし、今回は先ほどのような度胸試しなんかでは、ない」
女の直感が、またビリビリ反応する。
私はごくりと唾を飲み込んだ。

「ええ、わかってる」
「あたしたち、損はさせないわよ」
そう言って、麻真は鼻息を吹いた。

「大丈夫かなぁ〜、こいつら女だし」
住谷がねっとりとした口調で言う。
続けて田中が、腑抜けた声で、

「ははははは〜、試験パス出来なきゃあ、即〜、脱会でしょ」
と言った。

「今度の試験は何?」
私は最中に聞く。
…気持ちで負けてはいけない。
そう思いながら、私は試験を受ける決意をした。
麻真も真剣な目で、最中を見ていた。

電灯はなお、ちりちりと鳴っている。
聞こえるのはそれだけで、あとは静かな、本当に静かな夜だった。

そんな静寂を打ち破る、6人の会談。
そして最中が口を開いた。

「それでは、試験の説明をいたしましょう。内容はいたって簡単…」
そこで最中がいったん切る。
私と麻真を交互に見て、続けた。
彼は、全く予期しない言葉を突きつけた。
いやな予感が、見事的中した。

「リンさん、麻真さん。2人が戦うのです」

「なっ!? それ、どういうこと?」

「どういうことも、こういうこともありません。言葉のとおりです」
…この男、さらっと言ってくれる。
事前に知っていたのか、奴らは、表情一つ変えずに、じっとその場に座っていた。

その時、私が予期せぬ人物が口を開いた。
これこそが、本当のいやな予感だったのに気がつくのに、時間がかかったのは言うまでもない。

「そう、じゃあ早いところ始めましょうな」
…麻真だった。

「なっ、麻真っ!!」
「しょうがないじゃな〜い、試験なんだもの…。ねぇ」
「………。あなた、やはり最初から…」
「さあて、なんの事かしらね」
「………」

このとき私は、初めて麻真の恐ろしさを知った。
彼女の『人に付け入る能力』なんか、別に大したことじゃあない。
彼女の本当の恐ろしさは、『人を欺くことに対する残忍さ』だったのだ。

「降・り・る…なんて言わねぇよなぁ? この計画を知られてしまった以上、お前に残された道は2つだからよう。試験を受けるか、もう二度と日の光を見れないか、だ」
凄みをきかせて、永谷園が言った。

「………。」
その時私は思った。
ここは、監獄、規律の箱庭。
でも…私はこんなところにはいられない。
カズヤ…。

カズヤ…待っててね。
いつも明日があったのに、ある日突然、明日が来なくなった。
カズヤのいない世界に、明日が来ることはなかったから。
ここに来て、カズヤがいない世界の辛さを知ったから。

「……。わかったわ。受けてやろうじゃないの、試験。麻真、本気でいくわよ」
「…上等」

「はい、それでは、試験の内容を説明しましょう。それは…」
最終試験が、ついに始まる。
そして私はまたしても、彼の言葉に驚愕するのだった。
「さっきのコインの運試しと一緒、ただし次はズバ抜けた運と勇気がいるけどね」
そう言って最中はポケットからそれを取り出す。

それは…コルトパイソン357マグナムだった。

一瞬、私は怯んだ。
危機を感じ、思わずベレッタに手が行きそうだった。
そんな仕草に最中は静止を掛ける。
「おっと待った、大丈夫、撃ったりしないよ」
最中は手でクルクルと銃を回して見せる。
いったい…何をすると言うのだろう…。
麻真は目を閉じている。
興味がいない、というのではなく、精神統一をしている…そんな感じだった。
何か嫌な予感がする。
そしてその予感は、高確率の当選を誇っていると自覚している。

「銃で運試しと言ったらコレしかないね、そう、ロシアンルーレットだよ」

やっぱり…。
当選者の私は豪華賞品として、命の選択を自分で握れるらしい。
有難くて涙が出そう。
でも…命が左右されるだろう事は容易に予想出来た。
まだ計画の内容を知らないにしろ、私は既にこの連中の「脱走計画」を知ってしまったのだ。
ということは、悔しいけど永谷園の言う通り、この計画に乗るか…口封じの為にこの世から消えるか…二択しかないのだ。

はめられてる…。
何かがおかしい。
なぜこんな事をするのだろう。
最初から私なんて放っておいて、彼らだけで脱走をすれば良かったものを…。
それなら計画も私に知られずに済んだ。
こんな構想も準備段階にも参加しなかった私なんて無視して。
何だろう、この違和感。
何かがある。
それが何かは分からないけど…これには裏がある。

「…ルールは分かったな?」
私が色々考えているうちに説明が終わっていた。
混乱も重ねて頭がおかしくなりそう…。
説明を全く聞いていなかった。
「ごめんなさい、ボーっとしてて聞いてなかったわ」
リンはもう一度説明を促した。
「一回で聞いてろよ?でもまぁルールは簡単。このパイソンはあえてカスタマイズしてないタイプでね、装弾数は6発になってる」
最中はリボルバーを手のひらで回し、ガシャっとセットする。
「この中の1発がアウト、残り5発は空砲って事。お互い1発ずつ自分に向けて撃ってもらう。あとは言わなくても…分かるね?」
パイソンを机の上に置いた。
黒く鈍く光るボディーが…赤く見える。
それは心の血の色だったかもしれない。

「了解したわ」
麻真はあっさりと了承し、向かいの机の椅子に座った。
…………やるしか…ないのか…。
住谷が私の為に椅子を引く。
さぁ、死刑台にいらっしゃい。
そんな声が聞こえそうだ。





極限状態になればなるほど、頭がクリアーになる。
中途半端な緊張や動揺だからパニックを起こす。
覚悟を決めた時、人間は本能のみ働く。
勘・経験・知識・反応・潜在能力、全てが備わる。
人がこれほどまでに追い詰められる事が、何度あるだろうか。
人生に二度あれば、それは修羅の人生だ。

私の一度目は、ここに来る事になった事件の中にあった。
そして…今、二度目が訪れた。

私に選択権がない?
違うわ。
私がこの勝負に乗ってあげるのよ!






リンは椅子に座った。

そして

リンは最中に、ベレッタM92FSを投げ渡す。




それが、全ての始まりであった。
「まずは、リン。あなたがやりな」
「なっ、何で?」

不適に笑う麻真の表情からその意図はわからなかった。
ずい、と右手の上にはマグナムが無言で黒く光っていた。

私はやらなければならない。
そこには意志がある。
死ぬかもしれないゲームで、私は強く、願った。

カズヤ……力を貸して、と。

「ええ、私がやるわ」
もうこざかしい詮索はいらない。
ここで死んだら、そこまでだった、ってことだ。
そこまでの……人生が?
そうじゃない。

私が、カズヤのことをどのくらい愛していたかっていう、想いの指数がだ。


手にしたマグナムはズシリと重かった。
まるで、弾が全部入ってるようだった。

「…………」
「ん? どうした?」

ちょっと待って。
もしこのマグナムに、初めから全部弾が入っていたら……?
私はあまりに恐ろしい想像に、目の前が一瞬暗くなった。

「早くしろよ。指にちょっと力を入れればいいんだぜ?」
「……馬鹿にしないで。あなたにベレッタ撃ったの覚えてないの?」
「お〜怖い」

もう、ここまで来たらやるしかない。
私は意を決した。
いや、違う。

カズヤ。
あなたのことを思えば、もう怖いことなんてない。
そう、私はあなたのためなら何でもやれる。

こんなところ、絶対脱出してやる。

私はカズヤのことを思いながら、ゆっくりと指に力を入れる。

すると、どうだろう。
さっきまで疑わしかった、全てのことが、まるで鉛筆を削ぎ落としていくように、どんどんと消えていくではないか。

そして、私は、一気に人差し指をまげた。




……かち。





軽い音が、部屋に溶けて消えた。
まるで、子供のおもちゃのような音だったので、びっくりした。


「……おめでとう」
「……ふぅ」
最中が、据わった目で私を見ながら言った。


安堵……というより、麻真への闘志の方が勝っていた。
でも麻真は、

「ふふ、よかったわね」

と言って、口元で笑っていた。

「……?」

その表情は、悲しそうでもなく、寂しそうでもなく、あどけないほど穏やかだった。
……あの、初めて麻真に出会った頃のように。

「麻、真……?」


「それじゃあ。私の番ね」

そう言うと麻真は、1つ深呼吸をして、私を真っ直ぐに見た。
さっきまでのあやふやな表情ではない。
確固たる意志が、その目には宿っていた。
私は唾をゴクリと飲み込んだ。

「頑張ってね、リン。いろいろ意地悪して、ゴメンね。私は、リンがいつでも大好きな人のこと想っているの、よく知ってたから」
「な、何言ってるの、麻真?」
「おいおい、なんだなんだ!? しんみりするところじゃねえ、真剣勝負なん……」
「あんたは黙っててっ!!!! ……今、私は大事な話をしてるの。邪魔しないで」
「…………っ」
麻真の怒号が、暗くて重い雰囲気を一瞬で破壊した。
真っ白になった部屋の中で、麻真は続けた。

「……羨ましかったのよ、私。すごく綺麗な目をしているリンが。だから、私、力になりたかったの。……私が死んでも、真っ直ぐに生きるのよ、リン」

そして、麻真が、安全装置をはずし、引き金を引いた。
それは一瞬の出来事だった。
麻真が言い終わると同時だった。
リンが止める間もなかった。


……ある夜、暗くて小さな部屋の、出来事。

私は、麻真。
身よりも誰もいない。
社会から見捨てられて、こんな暗くて寒いところに入れられて。
ひっそりと暮らしていた。
ある日、リンという女の子に出会った。
真っ直ぐな、綺麗な目だ、と思った。
助けたい、力になりたいと思った。

でも、なかなかうまくいかない。
脱走に誘っても、乗ってこない。
そんな時、私は、出会った。
最中という男に。
私はその作戦に乗った。
でも、その作戦とは……。
私には、一瞬の戸惑いもなかった。
リンがこれで救われる……。
そう思ったからだ。

あの時、手紙を嬉しそうに持ってきたリン。
その瞬間、私の運命が決まったの。
何もできなかった私が。
誰からも見捨てられて、社会からも捨てられた、私が。
誰かのために、生きられる。

私の願いは、ようやく……。
叶ったのだ。



ぱんっ!!!!!!!



「あ、麻真ああああっ!!!」



そして、麻真は、恥かしそうに。

……笑って、死んだ。

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