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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第122回『何がJUNYに起ったか?』前編・チャーリー作(三題噺:「A子」「とあるバー」「キャンディ」)

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 JUNY<ジュニー>さん



 突然の手紙、失礼します。
 いつも、書くもの倶楽部に参加させていただいています、シャーリーです。
 住所もなく、差出人に『シャーリー』などと書きましたので、さぞびっくりされたかと思います。本名ではきっと誰だかお分かりにならないと思い、mixiのハンドルネームにさせていただきました。すみません。
 先月の書くもの倶楽部のイベントのときに、手紙をこっそりお渡ししようかと思っていたのですが、なかなかタイミングがなく、他の参加者の方に知られてはアレかと思いましたので、仕方なくお店の郵便ポストの中に投函させていただきました(『KOYONO<こよの>』と札のあるポストでお間違いないですよね)。



 そういえば先ほどアップされた、今月のJUNYさんの小説、早速読ませていただきました。
 【とあるバー】でマスターをしているJ(あからさまにJUNYさんご本人としか思えないですが、あくまで架空なのですよね)が主人公で、客の【A子】から結婚相談される話でした。
 二人の男に二股をかけているA子は片方からプロポーズされるも、もう一人の男に未練があって別れられず、悩んでいた。そんな彼女に対して、Jは求婚してきた男と結婚しつつ、もう一人の男とも別れずにそのまま交際を続ければいい、などと大胆不敵な助言をします。
 悩んだ末、A子はJの言うとおりに結婚するのですが、なんとその数年後、求婚してきた夫には長年愛人がいたことが発覚。しかも夫はA子と付き合っていたころから、すでに愛人とねんごろな間柄になっていたというではありませんか。
 しかしA子もA子で、結婚後ももう一人の男と付き合い続け、なおかつその事実を夫にはひた隠しにしている身。そこでA子は離婚を迫るどころか、夫と愛人の関係を認め、妻公認で交際を続けることまで提案するのです。
 不倫にスワッピングまで、よくこんな荒唐無稽な展開を思いつくなぁと呆れつつ、こういう奔放な性の価値観がいかにもJUNYさんらしいと感心しつつ、最後まで興味深く読ませていただきました。




 ……すみません。話が脱線しました。
 こうしてわざわざ手紙を書いたのは、もちろん小説の感想をお伝えするためではありません。
 どうしてもJUNYさんにお尋ねしたいことがあるのです。
 まさか、お忘れではないでしょうね?
 去年のクリスマス・イブのことです。
 あれからもう半年が経っているのに、今さら何を聞きたいのかとおっしゃるのかもしれません。
 しかし時間の経過は問題ではありません。むしろ時間が経てば経つほど、僕のモヤモヤした気持ちは大きくなるばかりです。溜飲は下がるどころか、口からあふれ出てしまいそうなほどです。
 毎月書くもの倶楽部があるので、その場で直にお尋ねしても良かったのですが、他の参加者がいる前で、あの話題に触れていいものかどうかためらわれました。
 なにしろJUNYさんはあんな出来事があったことなど、まるでおくびにも出されませんし、僕と会っても何事もなかったかのように自然に振る舞われています。人前で話してもよいのかどうか、自信がありません。
 仮にあの話題に触れることにJUNYさんに否やはないのだとしても、倶楽部の誰かがそれを耳にして、良からぬ噂が広まってしまっては大問題です。そのせいで、JUNYさんにご迷惑がかかったり、書くもの倶楽部がなくなってしまうなどという事態は万が一にでも避けなければなりません。
 さんざん悩んだ挙句、こうしてお手紙を書かせていただいたのです。



 単刀直入にお聞きします。
 イブの夜、いったい何があったのですか?
「君もあの場にいたのだから、君の見たまま覚えているままだ」とJUNYさん、あなたはおっしゃるかもしれません。
 ですが、JUNYさんもご存じのように、あの日の僕は連日徹夜続きで、ひどい寝不足のせいで頭がぼうっとしていました。ところどころ記憶がおぼつかない箇所があるぐらいです。
 それに僕は完全な傍観者として、事件を目撃したまでです。僕の知り得ないところで何が起こっていたのか、それを教えていただきたいのです。


 ここでいったん、僕の覚えている限りの記憶をたどってみましょう。
 これから書き出すことは、あの夜目にしたことを一つ一つ、できる限り正確に細かく描写したつもりです。




          ***




 あの日、僕は家の近所のカフェ・バーで小説を書いていました。
 英国パブ風の内装からJUNYさんはあの店をバーと思われたかもしれませんが、実は昼間もカフェとして営業しているのです。ご存じの通り、駅前のバスターミナルから住宅街の路地に入った、非常にわかりにくい場所にあるので、週末を除けば平日の夜でも閑散としています。
 個人経営だそうですが、広さは学校の教室ぐらいあり、店内は結構な席数を誇ります。フードとドリンクさえ頼めば、よっぽど混雑しない限り何時間でもいさせてくれるので、僕はワーキングスペースというか、執筆スペースとして重宝していました。


 その日は朝から東京でも雪が降り積もっていて、例年になく寒いイブでした。
 僕は昼間から店の一角に陣取って、小説の手直しをしていました。
 ミステリー大賞に応募するための作品で、もともとは書くもの倶楽部で数か月にわたって連載していた作品をまとめて長編にしたものです。ちょうど翌日のクリスマスが賞の締め切りだったものですから、僕は何日か前から連日徹夜で作業に当たっていました。
 そこへ、あなたが現れたのですよね。
 おそらく夕方の五時か六時くらいだったと思います。眠すぎて気絶するだろうかというくらいに頭が朦朧としていましたので、何時ごろだったか正確には覚えていません。ただ、すでに日が落ちて辺りは暗かったはずです。
 気づいたら、視線の先のソファ席にJUNYさんがいたので、腰を抜かすほどびっくりしたのを覚えています。教室に例えるなら黒板と最後尾の席くらいの距離があったでしょうか。
 最初は他人の空似を疑いましたが、尾崎紀世彦似の顔立ち、野性的で挑むような目つきはJUNYさんに相違ありません。すぐにあなただと確信しました。
 KOYONOでは季節問わず、Tシャツにジーパンとラフな格好が多い印象ですが、この日のあなたはダンディでシックで、意中の人とデートするときのような、やたら気合いの入った出で立ちでしたね。
 それもそのはず、あなたは女性と二人連れでした。
「どうせ、彼女の素性を聞きたいんだろ」
 違います、JUNYさん。……いや、まあ、そうですね。聞きたいは聞きたいです。
 なにしろ、きれいな人でしたから。お歳はアラフィフくらいとお見受けしましたが、背が高く色白で、背筋の伸びた後ろ姿が美しく、良い意味で実年齢がわかりません。黒の光沢が眩いワンレングスの髪に、高級アパレルブランドのモデルを飾れそうな落ち着いた大人の装いで、陳腐な表現ですが、全身から気品があふれ出ているようでした。
 こっそり横顔を拝見しましたが、間違いなく、書くもの倶楽部ではお見かけしたことのない方です。僕は倶楽部の常連とはたいてい顔見知りですし、こんな美魔女は一度会ったらなかなか忘れられるものではありません。
 何というお名前で、どこでどういった経緯でJUNYさんと知り合い、いつから二人だけで会うような間柄になって、どのようなご関係に発展しているのかは、それはもう隅から隅まで教えていただきたいです。
 でも、会う場所で多少の推理は働かせられます。
 僕の住んでいるところはM市で、東京の郊外の中の郊外です。KOYONOがある半蔵門へは、車で多摩川を越えて一時間くらい、高速を使わなければ渋滞次第でその倍はかかることもあります。千代田、文京、港区辺りが行動範囲であろうJUNYさんが、女性と会うためにそんな辺鄙なところまでわざわざ出向いてきた。ということは、それ相応の関係と断言して差し支えないでしょう。


 話が逸れました。
 この女性を仮にA子さんと呼びます(JUNYさんの小説みたいですが、他に呼びようがないので)。
 不躾ながら、お二人の様子をパソコンのモニターごしに盗み見させていただきましたが、僕はずっともうニヤニヤが止まりませんでしたよ。
 A子さんとあなたは実に親密そうでしたね。
 二人とも終始笑みが絶えず、会話に食事にワインが弾み、気持ちまで弾んでいる様子が手に取るようにわかりました。その一方、お互いに礼節が行き届いているというか、わきまえているような感じもありました。
 もしかしたらA子さんは愛人ではなく、実はJUNYさんの知られざる奥様ではなかろうかとも頭をよぎったのですが、それにしてはイチャイチャが過ぎるし、あなたの鼻の下は長く、伸び切っている。大人らしい落ち着いたディナーデートでありながら、付き合って日の浅いカップルのような、互いにときめいておられるのがひしひしと伝わってくる。
 その様子に、やはりA子さんとあなたとは忍び逢うランデヴーな関係なのだと、僕は半ば確信しました。
 それにしてもまあ、あなたは美女の前では本当に紳士の鑑ですね。
 クリスマス・イブだからでしょう、あなたは赤と緑のウールチェックの包装紙に包まれたプレゼント(箱の大きさからしてジュエリーでしょうか)を律儀にA子さんへ贈っていましたし、彼女のグラスが空になればさりげなく気を利かせて店員さんを呼び、帰るときはわざわざA子さんのイスを引いてあげたうえにコートまで着せてあげて、紳士たるものの立ち居振る舞いを教えられているかのようでした(勉強になりました)。
 でも最も印象的だったのは、JUNYさんの笑顔です。あなたが、あんな優しそうな眼差しで、あんな風に屈託もなく笑うなんてとても意外でした(いえ、別に普段のJUNYさんをディスりたいわけじゃないんですが、書くもの倶楽部ではあんな表情を見かけた覚えがないので)。
 やっぱり魅力的な女性を前にすると、人……いや、男は親しい者にも見せない、隠れたもう一枚の仮面を被るんでしょうか。



 ここまでの描写でお察しのように、お二人に目が釘付けの僕は、とても執筆どころではありません。JUNYさんをお見かけしてからというもの、一文字も書き進められないのです。
 当然でしょう。
 知り合いの、それも家族関係も仕事も本名すらも存じ上げないような相手の、ベールに包まれたプライベートの一端を垣間見てしまったら、どうしたって気になるものは気になります。芸能人の下世話な不倫報道に「くだらない」と顔をしかめつつ、ついつい好奇心に駆られて、週刊誌を舐めるように熟読してしまうのは、これはもう人間の性というもの。
 しかもJUNYさんは、毎月の書くもの倶楽部で、ご自身の実体験としか思えないような内容の小説をよく書かれる。夫の不倫を密通ではなく、妻公認の交際と認め、さらにはその妻自身も夫に隠れて別の男と関係を続けているなどという、淫靡にして破廉恥極まりない物語を書き、それを良しとするような人です。
 そんな人のプライベート、もとい女性関係を知りたい、覗いてみたいと思ってしまうのは果たして僕だけなのでしょうか。
 そして、その密会の場にたまたま居合わせるという千載一遇のチャンスを前にして、誰が見て見ぬふりなどできるでしょうか。



 僕の体感では、正味三、四時間ってところでしょうか。
 あらかた食事とワインとイチャイチャを楽しまれた後、JUNYさんとA子さんは連れ立って店を後にされました。
 一瞬、僕の中の出歯亀根性が顔を出して、お二人の後をつけようかと不埒な考えが浮かびましたが、すんでのところで踏みとどまりました。これは誓って嘘偽りない真実ですよ。さすがにストーキングは犯罪ですから。
 この近くで、JUNYさんが女性を連れていきそうなホテルなんてあったっけ。いや、きっとA子さんのお住まいがこの近所で、今ごろそこで二人はあれやこれやのウヒャヒャヒャヒャを繰り広げておられるのか……。
 イブの夜に一人でカフェで過ごすなどという、独り身の見本のような僕の頭の中では、妄想がとめどなく広がって、口からよだれが垂れそうです。徹夜で朦朧としていたはずの意識は覚醒し、かぎりなく冴えわたっているというのに、明日の小説の締め切りなど、もはやどこ吹く風。執筆を再開しよう、小説のことを考えようなんて気はさらさらありません。いっそ今夜目撃したことを小説に仕立てて、来月の書くもの倶楽部で発表しようか、などとバカなアイデアを思いついたところで――
 はい、この日のサプライズドッキリ第二弾が入り口のチャイムを鳴らして、店に入ってきたじゃありませんか。
 その姿に、僕は思わず「えっ」などと声に出して叫んでいました。
 まさか、JUNYさんが店に戻ってこられるとは、ね。


 でも、あなた一人だけだったら、驚きも束の間のものだったでしょう。
 忘れ物を取りに戻ってきただけかもしれないし、場合によったらあなたは僕に気づいていて、A子さんと会っていたことを口止めするために、わざわざ戻ってきた可能性もなくはない。
 でも、JUNYさんの後をついて店の看板をくぐってきた人物を見て、僕は文字通りの意味でイスから転げ落ちそうなほど驚愕しました。
 だってそこにいたのは、A子さんとは似ても似つかない、全く別の女性だったのですから。





<つづく>

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