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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第九十八回 大邦将猛 作 負け犬(1) (自由課題)

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仲間と呼べるやつらだったのか・・もう思い出せないくらい
希薄な関係の同僚と飲んでいた。

彼らと何度か通った新橋の手ごろな店。カウンターとボックス2個くらいの店
僕は飲みつけない酒を覚え始めたころだった。

カウンターの向こうの女の子は明るい。同僚とどっかの客がワイワイ歌ってて
なじめない雰囲気で接客上手な子に絡んでもらってなんだかやっと
居場所をもらえてる感じだった。

・・・へー結婚してるんだ。
  一番まともそうだよね。硬い仕事なの?
  あたしそういうとこで働いたことないからイメージ湧かないよ・・・

たわいもない話をすることが仕事なんだろう。止まらないし早すぎない語りは心地よかった。
カウンターの子と話し込むのははじめてだった。
ちょっと前までは同僚とつきあってるときは
まともな家庭があるなら、まっすぐ家に帰ればいいのに・・・
と思っていたが少し疲れが癒えるような気もしていた

そう思いながら僕はおそらく一回り以上年下のその子の表情に魅せられた。
「奥さんとはどうやって知り合ったの?」
 たわいもない話はさえぎられて、 突然、その子が切り出した。
 僕は答えるべきかしばし戸惑った。あまりプライベートなことを話さないほうだから。

「高校のときの同級生でね。高校のときは友達以上になれなかった。
 僕は彼女が好きで、ずっと一緒のクラスでよく席が隣になった。
 得意な数学を教えてあげたり、よく話した。
 人気のある子だったから、よく羨ましがられた。
 高校を卒業するときになって、付き合って欲しいって
 伝えて、あっさりと振られた。」
「?でどうして結婚したの?」
「お互い違う土地に行ってなぜか向こうが実家には年賀状とかくれてて
 10年たって同窓会があるって話で実家に帰ってて連絡がとれた。
 携帯もスマホもないから固定電話だよ。
 『好きだから会いたい』電話でそう伝えてあうことができた。」

なんで結婚したんだろう・・・・僕もわからない。
10年ぶりのデートなのか会えたのはなぜかどちらもろくに話さず
向こうがやたらに結婚にこだわった。
そんなことを話したら、カウンターの子は不思議そうな顔をした。

ほんの一瞬だが人間は深くどす黒い心に入り込んでいくことがある
このときの僕がそうだった。よその人には話せない面目なさもあるが
指1本も触れずに妻と結婚を決めたとは言えなかった。
そして新婚の数か月男女になれなかった。

ぎこちなく関係を何とかもって、まるで欲望を持つのは僕だけで
請い願って体を求めさせていただくとでもいうような関係だったといっていい。

妻は夜を怖がるかのようにすぐ終わるはずの家事を緩慢にこなして夜を短くし
せいぜい週に一度僕を受け入れた。

高校卒業時の告白を拒絶し、再会ののちに結婚をもとめた。
たぶん僕を男としてもとめたのではないのだろう。
何を求めて結婚にこだわったのだろうと醜い憎しみのような心持になったことも少なくない。
僕の稼ぎがそこそこあったから妻は専業主婦だった。それが彼女の求めたものか?

頻度の少ない男女関係だが子供は一人できた。
自分にも妻にも似ている不思議だ。
愛おしくも何よりも弱く完全なものに見えて僕は長男を心の底から愛した。
そして長いセックスレスの時をすごすようになったが
美しい妻と愛らしい長男をもち、自分は幸せなのだと思い込もうとしていた。
30代の男性が最も欲望に苦しむ時間を
おのれを偽り、家族ごっこをして過ごした。

妻を恨めしく思ったこともある。あるいは彼女に別の恋人がいたのだろうか?
わからないがいなかったのだろう。そうおもいたい。
憎しみは愛の一つの形だ。僕はそう思った。
やがて僕は妻を愛さず憎まずその存在をゼロと認識するように心を統制する術を覚えた。

そして一瞬の奈落から這い上がりまた外面を整えてこう言った。

「結婚して5年したら子供ができた。今五歳でまるまるしたほっぺでにこにこして僕に駆け寄ってくるよ」
「ぜんぜんうまく行ってるじゃない。」
(ああ、家族ゲームは!)

ははは。僕の中から笑いがこぼれた。
「そうかなぁ。僕はよくわからない。家庭はうまく行ってるよ。稼ぎもあるし、うまいもの食って、いいとこに出かけてる。妻は今でも美人だし、子供は天使のように愛らしい。」
すこし沈黙。

つい口が割れた。
「でも20年の間にただの一度も男女になれてなかったような
 そんな悔しさもある。それが偽らざる気持ちだ。」
このひとことを言う必要はないのにどうしても欺瞞がやるせなかった。
なんだか妻との間の恋愛いや男女の立ち位置の差分を暴露するような惨めさがあった。
恋愛は常に駆け引き。
惚れた弱みというのはいつまでも付きまとう。自分に魅力のない負け犬はそうやって駆け引きに負け続けるしかない。
僕は久しくそれに苦しんできたのだと思わされた。憎まなければ本当にゼロになる。その時間をやり過ごそうとしてる。

不思議だが久しぶりに若い子と話してゼロがゼロでなくなったのかもしれない。この子といるとそう思わされる。
なぜこのカウンターの子にその気持ちを話そうと思ったのかまったくわからない。
いたずらっぽく覗き込む顔に刺激されたのかもしれない。

「結婚って、男の人が一途なほうがうまく行くんだって。そういうよ。」(ああ一途だったねそれがどうした・・・)
「女の論理さ。男だって、相手により強く愛されたいと思ってる。」
「男は惚れられるとすぐにつけあがるんだって。
 追いかけさせておかないといけないって姐さんがいつも言ってる。」(僕はそんな思いをしたことがない。魅力のない負け犬なんだ。)
「君もそう思うの?」
「うん。奥さんが羨ましいよ。」

そしてふいに唇を、僕のに押し付けてきた。

(・・・え?・・・なんだよ。)

時間がとまったみたい。カラオケに聞き入ってた同僚が息をのむようにとまってこっちを見た

(・・・おい・・・)

プラスチックみたいに無機質で、薄暗がりに漂っている透明な雰囲気が僕をにわかに包んだ。
唇はグロスで輝いていたと思う。柔らかく、それは密着してるのにどこまでも距離がある。
からかわれているのだと本能で感じた。

「おい、大人をからかうなよ。」
やっとふりきってそう言った。
人生38年で最大のサプライズだ。

「あっははっ! えらいね。一度奥さんに振られたんでしょ。」
「??(なにがえらいんだ)」
「あたしだったら、そんな人二度と会いたくないよ。
 10年たって、何を言われてもいまさらって思う。
 『好きだから会いたい』って自分から言ったの?負け犬確定じゃん。
 よほど奥さん好きだったんだね。おじさんかわいい。
 しかも20年男女になれてない?子供いて?どういうこと。あはは」

「・・・」

「アタシは東京に出てきて、こんなとこ勤めるようになって、お酒と化粧を覚えたよ。
 たまに田舎に帰って『変わったね』っていってくる奴がいても見向きもしない。
 アタシはずっと昔から、可愛かったのよって思ってる。
 この髪のセットから服まですごい金かけてんの。でも
 アタシはずっと前から、可愛かったって思ってる。
 金掛けなくたってアタシは光ってるのよ。そう思いたいの。
 きれいなんだろね奥さん。
 そんな風に10年も20年も想われてみたいよ。
 いまのはそういう意味のいたずら。」

カウンターで店の子が客に堂々とキスをするのは
さすがに人目を引く。

みんな知らん振りするのが異様だ。
この子、後でママに怒られるんじゃないか?

「勘定を」
ほかの言葉が出てこなかった。カラオケの音もまったく耳にはいらないまるで静寂な空間のようだ。
したたかに酔って、僕は勘定して出た。
この店にはもう来ないだろう。同僚ともたぶんもうこのことは話さない。

そしてしばらくして彼女は僕の名刺の番号に電話を掛けてきた。
これが舞(まい)との出会いだった。

コメント(7)

舞が魅力的です。これからの僕との関係はどうなるのでしょうか。そして、奥さんとの関係は舞の登場でどうなっていくのか。男女の関係に、勝ち、負けを持ち出す感覚の苦しさ、それを正面から描く勇気に脱帽です。つまり、エンタメではなく純文学ってことですね。
>>[1] わ、ありがとうございます
純文学。。。。考えたことないですが
まあコンプレックスに歪む男性をかいてみたく・・・
(勇気いるなたしかに。。。マイミクさんに 実話かといろいろ突っ込まれました)
三題噺でこれはむりだ・・・とおもったら
負け犬(2)って書くかもしれません

鬼殺しのせいでこんなくるしまぎれに・・・・orz
自分的には完全にコッチが好みですね。
主人公の男性のこれからが気になります。
舞と夏の夜空に突然上がった花火のようなキスが、どんなことになってゆくのかが楽しみです。
ただ、ふと気がついてしまったのですが、大邦将猛さんもJONYさんもラストが、その日に初めて会った、付き合っているわけでも、恋をしたわけでもない相手からの突然のキスで終わっているこの偶然的符号的同期化の一致が何故か気になります。
今、世界にはなにかそのような偶然の一致をうながす星の動きでもあるのでしょうか。
私も知らず知らずのうちに、最後は唐突なキスで話をしめてしまうかもしれません。
また週末に飲みにゆき、偶発的なキスをしてしまうかもしれません。
世界はジャック・オー・ランタンのようにくり抜かれた西瓜のフェイスが凍らした鬼も殺すような鬼滅の酒で男女を酔わし、花火のような一瞬で終わるキスの花を咲かせようとしているのでしょうか。
あらたなミステリーを夏の夜の夢のように見つけてしまいました。
>>[3]
あ、本当だ。(笑)
そんな世の中の男性ちょくちょく突然キスされないと思うんですfが・・・・・

お兄ちゃんに惚れる話より先にとりあえずこれをアップして14日の会におじゃまするのを手ぶらにしないようにと思っておりました。
制約がないぶん気楽に話が作れたかもです^^ 
あっちの方が苦しかった分ちょっと時間もかかり(どうやってまとめようかと・・・直ちゃんなるありえない不思議な女子をひねりだし・・)
一応テーマに沿ってるからなんか話をでっちあげる良い練習になったのかな・・・と この不思議な文学バーに通う意義を見出していたりします。

続き書くほどいけてないかもしれませんが三題噺で降参しそうなときに
負け犬(2) (3)と書くかもしれません
やっぱこの舞ちゃんと僕はちょめちょめなかんけいにならんといけんのだろうな。。。。とあほな作者は考えております。

>>世界はジャック・オー・ランタンのように・・・
おおお、それをかぼちゃでなくてスイカでやれば一気に3つ自然に入る^^
日輪刀もはいる。。。 
ロイヤーさんも書かれるのだったらぜひ読ませていただきたいですーー。
お会いするのが楽しみです。よろしくお願いします。

>>[4]
何か書いてみます。
私の主人公も最後に突然キスをされるかもしれません。
世界は不可解な偶然に満ちていますので。
続きが気になります!!!
主人公のみじめさが手に取るようで、なんともやりきれない気持ちになります。
主人公側から語られる妻しか描かれていないので、続きを書かれるのでしたら、ぜひ妻を見てみたいですね。
何を思って、しつこく迫る主人公氏と結婚しようと思ったのか。歪んだ愛情を持つ夫に対してどんな感情を抱いているのか、主人公氏以外に男はいないのか……
気になります。
>>[6]
こちらにも
ありがとうございますー

まいと僕で不倫話をバリバリ書こうかとー笑

そんなの需要あるのかー?爆

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