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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第31回 ハルト作 『クローゼット』

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紅茶、まだある? そう。
なんだか急に寒くなってきたね。雨が降るのかなぁ。
そう、それでね。うちは両親が共働きだったから、弟と二人で家にいる事が多かったの。
結構年も近かったし、仲が良かったんだ。
たまに両親は職場に泊まり込むことがあって、帰って来ない日もあった。
ご飯は用意してくれていたけど、まあ、監視の目がなかったから、やりたい放題だったよね。
だんだん普通の遊びには飽きてきちゃって、そのうちちょっと危ない遊びをしたりしてた。
両親は気付いてなかったと思うなあ。
火遊びとかじゃないよ。
弟が学校で聞いて来た「一人かくれんぼ」をしようって言いだしてね。
あれ、知ってる?
その時は知らなかったんだけど、あれって降霊術なんだってね。
「一人かくれんぼ」をやると、誰にでも奇妙な事が起こるって言ってたから二人で試してみることにしたんだ。
「一人」って言うくらいだから、本当は一人でやらなきゃ駄目みたいなんだけど、やっぱりそこは怖かったから、二人でやったんだよね。
ぬいぐるみの綿を抜いて、お米を詰めて、そこに二人の切った爪を一緒にいれて縫い付けるの。
その縫った糸で、ぬいぐるみをぐるぐる巻きにして、水を張ったお風呂に閉じ込める。
「最初は私たちが鬼だから」って言って。
ぬいぐるみをお風呂に入れたら、家中の電気を消して、テレビだけ点ける。テレビは砂嵐にしてね。
それだけでももう怖いよね。
目を瞑って十秒数えたら、ぬいぐるみを探しに行くの。
もちろんお風呂にいるのは分かってるんだけど、探しに行くふりをする。かくれんぼだからね。
で、お風呂にいたぬいぐるみにナイフを刺して「アメちゃん、見ぃつけた。次はアメちゃんが鬼」って言うの。
そうそう、ぬいぐるみに名前を付けるんだけど、アメちゃんって呼んでた。今日みたいに雨が降っていたからさ。
お風呂にまたアメちゃんを置いて、今度は私たちが隠れる番だった。
なるべく狭い所が良いね、って言って、私たちはお母さんのクローゼットに隠れたの。
懐中電灯を持ってね。
怖かったけど、お母さんの匂いがして二人ともちょっと安心してた。
お母さんはクローゼットに色んなものを隠していて、見たことない指輪とか、多分お父さん以外の男の人にもらった手紙とかも入ってた。
もちろん、お父さんには言わなかったけど。
私の名前が書いてある臍の緒とかも入ってた。
一つだけ鍵が掛かった引き出しがあって、それだけはどうしても開けられなかった。
クローゼットをかき回している時は気付かなかったんだけど、少し経ってから変な音がしているのに気付いたの。
それは、テレビでね。
テレビは砂嵐だったはずなのに、急に女の人の声が聞こえてきて。最初は分からなかったんだけど、よく聞いてみると「あんたはニセモノ」って言ってるんだよね。
弟と二人で震え上がった。「ニセモノってなに?」ってね。
テレビの音はおかしくなるし、雨はどんどん酷くなる。
二人で「やっぱり止めておけば良かったね」なんて言いながら、テレビの音がもとに戻るのを待っていると、今度は何かを引き摺る様な音がしてきた。
怖かったけど、そのままかくれんぼを続ける訳にもいかなくて、思い切ってクローゼットの外に出てみることにしたんだ。
用意してあった塩水を口に含んで、外に出るの。じゃないと、見付かっちゃうからね。
でも弟は嫌がって、外に出たがらなかった。
仕方なく「じゃあお姉ちゃんが行ってくるね」って言って、弟を残して外に出たんだ。
物凄く怖かったよ。
でも私はお姉ちゃんだったから、我慢しなきゃって思ってた。
すぐにお風呂場に行ってぬいぐるみを探したんだけど、何故かどこにもなくて。
その代りに、小さいリボンが付いた鍵が浮いてた。
「あ、もしかして」と思ってその鍵を拾って、またクローゼットに戻ったの。
鍵は、開けられなかった引き出しのものだった。
弟はびっくりしていたけど、その鍵を開けてみたんだ。
お母さんの秘密がもっと知りたくて、秘密を知ったら、何かの切り札に使えると思ったのかな。
嫌な子供だったよね。
鍵を差し込んで回すと、あっけなく引き出しは開いたの。
中には少ししか物が入っていなかった。
白黒の、渦巻きみたいな写真と、小さい陶器の入れ物。
子供だった私には、それが何だかよく分からなかった。
弟はそれを見たら余計に怖くなったみたいで、とうとう泣き出してしまった。
もうこれ以上は駄目だな、と思ってもう一度塩水を口に入れて外に出た。
ぬいぐるみを探して、終わりにしなきゃって。
暗かったせいもあって、ぬいぐるみのアメちゃんはなかなか見つからなかった。お風呂にはもちろんいなかったし、テレビの部屋にもいなかった。
懐中電灯で床を照らした時、そこにお米が落ちている事に気付いたの。
そのお米を辿って行ったら、玄関にアメちゃんが落ちていた。
私はそれを持ち上げて、コップの塩水を掛けてから「私の勝ち」って三回唱えた。
そしたら、お米で膨らんでいたアメちゃんが急にだらんとして、縫い目からお米が全部零れちゃった。
私はアメちゃんをそのまま玄関に置いて、弟を呼びに行った。
「もう大丈夫だよ」って言いながらクローゼットを開けたんだけど、弟はいなかった。
どこ行ったんだろう。
あんなに怖がってたから、外に出るはずなんてないと思ってたのに。
でも、その時私は大変な間違いをしてしまったことに気付いたの。
かくれんぼを終わらせるとき「私の勝ち」って言ってしまった。
本当は「私たちの勝ち」って言わなきゃいけなかったのに。
私の間違いで弟がどこかへ行ってしまった、連れていかれてしまったって、とても焦ったの。
どうしようって、今度は私が泣き出してしまった。
丁度その時、両親が仕事から帰ってきて、一生懸命説明したんだけどなかなか分かってもらえなかった。
それよりも勝手にクローゼットを開けたり、ぬいぐるみを壊したり、お米を粗末にしたことを、こっぴどく怒られた。
私は「そんなことより弟を探して」って言ったの。
でも、お父さんもお母さんも、顔を見合わせて怪訝そうにするだけで何もしてくれない。
そんな二人の顔を見ているうちに、思い出したんだよね。
そう言えば、私には最初から、弟なんていなかったんだって。

コメント(13)

紅茶から始まるとこ、ハルトさんぽいって思いました。

一人鬼ごっこがすでに怖いのにクマのアメちゃんがお風呂場からいなるし
変な声は聞こえるし
ラストに向かってボルテージはどんどん高まって
最後のオチにゾッとしました。
女の子は寂しいから弟がいることにして遊んでたんですね。
ハルトさんの作品はいつも面白くて引き込まれてしまいます。話のアイディアや、モチーフをどう使って話を進めていくのか考えるのが上手いんだろうなと思い、さすがだなと思いました。

意図された受け取り方と違いましたら大変申し訳ないんですが、
僕は、最後の一文を読んで、思わず笑ってしまったんです。嫌みではないですよ。なんか、「ああ、なーんだ」という感じがして、安心感を覚えたからかと思います。
>>[1]

紅茶や珈琲、喫茶店などがついつい出てしまうのは
私の食い気が反映されているせいですね笑

それと、ぬいぐるみのアメちゃんは、何故クマだと?
それがまたホラー!
>>[2]

やはり怪談を書くなら、最後に「実は○○だった」
で、ゾッとさせたいと思いました。
たとえ作り話でも、ヒヤっとするのが良いなと。
>>[3]

感想ありがとうございます。
ちなみに…
クローゼットの鍵がかかった引き出しから出てきた
渦巻きの写真と陶器の入れ物が、弟の正体なんですよ。
>>[004]
あーーーーっどこにもクマって書いてない。
なんでクマって思ったんだろうげっそり
読ませていただきました!
電車の中で読みながら、周りの音が遠くなるような恐怖で小さく声を上げてしまいました(笑)

最近引越しをして、ちょうど風水のことを調べたときに、読んでてうすら寒い思いをした人形についての記事があったので載せてみます。
http://fusui-kantei.com/column/kuma-ningyou.html

弟は、最初からいなかったのか、それとも人形に連れ去られてしまったのか。
一人かくれんぼということは、お姉ちゃんだけがかくれんぼしてたことにもなると思うけど、弟君が学校からやり方を仕入れてこなければやっていないわけで。どちらだとしても怖いっ。読んだこと忘れたいっ(笑)
>>[8]

はじめまして。感想ありがとうございます。
記事を読ませて頂きました。
そう言えば、祖母や母から「顔があるものを無闇に捨ててはいけない」と言われていましたが
こう言うことなんですね。

弟は人形に連れて行かれた、という発想は
新しい発見でした。そうも考えられますね。
ゾッとして頂けたようで嬉しいです笑
>>[10]

コメントありがとうございます。
やはり怪談は最後にゾッとする話が良いなと思って
考えました。
小道具のぬいぐるみは、言ってみれば藁人形と
同じなんですよね……………
「弟」の正体は、渦巻きの写真と陶器の入れ物、です。

つまり、

渦巻きの写真=胎児のエコー写真
陶器の入れ物=骨壺

です。

何らかの理由でこの世に留まれなかった魂として
書きました。
なので、主人公の「弟」であることは確かですが
主人公が「弟」と認識する前に、この世から
消滅していた、という設定でした。

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