ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

半蔵門かきもの倶楽部コミュの第三十一回コヤンイ作自由課題『虚幻』その一

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
仕事を終えた生方平助は駅までの途中にあるすし屋に入った。
すしは平助の好物の一つである。その店はだいぶ前に何度か入ったことがあり、
つけ場に立つ職人のおしゃべりを煩わしく感じたことを覚えていた。
平助はその日仕事をしているうちから何故だか無性にすしが食べたくなった。
しかし、贔屓にしていたすし屋が店をたたんでしまって以来気に入ったすし屋を
見つけられないでいた。
そこで一番身近にあり最近はまったく行かなくなったこの店のことが頭に浮かんだ。
心に残るほど美味かったわけではないが、二度と行くまいと思うほど不味くはない
そんな印象のまま平助はこの店のことを覚えていた。
 

いつもならまっすぐに家に帰れば妻の頼子が夕飯を用意して待ってくれている。しかし
今日は何か用があるとかで頼子は家を空けていた。そんなわけで平助はたまの外食を
することになったわけである。頼子の作る料理はまずくはないがたまに平助の好みからすると
遠慮したくなる類のものもあったりした。しかし平助はそんな料理も極力残さず食べるように
努力していた。おいしそうに食べているように見えていたかどうかは自信がなかったが。


平助はおまかせを一通り食べて追加でまぐろの赤身と小肌を二つづつ頼んだ。あと玉子焼きのシャリ抜きと、
平助以外の客は皆男女の二人連れだった。平助はすしは一人で食べるのが好きだが頼子と二人で
食べるのも好きだった。頼子と食べるときはお銚子で日本酒を飲んだ。別にされなくてもよいのだが
頼子は必ず酌をしてくれた。そして酒を注ぎながら頼子がオットットというのが決まりになっていて
平助がそれはオレのセリフだ。というのも決まりになっていた。
他の客たちの会話を聞きつつ茶を飲みながら頼子のオットットを思い出して平助の口元は自然にゆるんだ。
小柄な職人は無口な性質らしくよけいなことを聞いてこないのも助かった。最近は職人と話をする
のも億劫だった。店長は他の客の相手をするのに忙しく平助の方まで手が回らないようだった。

平助は勘定を済ませて店を出た。そこから駅までは歩いて5分ほどである。このまま家に帰って一人で
いるのもつまらない。どうしようかと考えてひとまず本屋で時間をつぶそうと決めた。
駅の近くに大きな本屋がある。そこへ行くつもりになった。
「・・・・」平助の耳にそのとき頼子の声が飛びこんできた。ように思った。ふと前を見ると後姿が
頼子にそっくりな女が歩いている。髪の長さやかたち背丈やからだつきがそっくりに見えた。
スカートの下から覗くすねからくるぶしあたりも見覚えがあるように思えた。
しかし今朝の頼子の話からすればこの時間にこんなところに頼子がいるはずがない。
顔を見てはっきり確かめたかったが背の割に歩くのが早い女だった。平助は女のあとをついて行った。
女は一人だった。女は駅に入りプラットフォームにあがった。平助もついて行った。うろうろと歩き回って
みるがうまく顔を確認できない。そうしているうちに電車が来て女は乗り込んだ。平助の帰りとは方向が違って
いたが平助も乗り込んだ。女と少し離れて横顔を見える位置につけたが頼子のようでもありそうでないようでもあり
自分の妻かそうでないか横顔で判断できない自分に平助は少し情けなくなった。
そのうちある駅で女は電車を降りたので平助も降りて女のあとをついて行ったが、改札を過ぎたあたりで
人ごみに紛れて女を見失ってしまった。平助はしばらく駅の周辺をうろうろしていたが諦めて駅に戻り電車に乗った。

平助は自宅の最寄り駅から家までの道のりを釈然としない思いで歩いた。
あれは誰だったのだろう。頼子のわけはないと思うがもし頼子だったらどういうことになるのだろう。
頼子が嘘をついた。ということなのだろうか。そんなことは認めたくなかった。
もやもやした気持ちの儘平助は家に着いた。ドアを開け玄関で靴を脱いだ。
そこには捨てるべき雑誌や新聞などの束が積み上がり、脱ぎ散らかした平助のスリッパが転がっていた。


続く

コメント(6)

>>[001]
この後どういう展開になるかご希望ございましたらこっそり耳打ちしていただけたらもしかしたらそのその通りになるかも知れません(^w^)
>>[003]
まめやさんに受けるポイントはだいたいわかった。続きはあまり期待しないでお待ちください
平助(ひらすけ?へいすけ?)という名前は古風なため、江戸時代くらいの人物がモチーフになっていたりするのだろうかという想像を働かせながら読みました。
これからどう盛り上がっていくのか楽しみにしています。
>>[5]
主人公の名前に助を使おうと思ったのは漱石の“それから”と“門”の影響で
なに助にするかで迷ってへいすけにしました。
新撰組に藤堂平助という人物がいて平助にするなら苗字も新撰組にしようと
思ったけど、土方ではあまりにそのままなので生方にしました。
ついでに言うと頼子は映画『野性の証明』で薬師丸ひろこがやった役です。
時代設定的には大正頃を想定してますが、はっきりさせるかどうかはいまのところ
未定です。
盛り上がるかなぁ

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

半蔵門かきもの倶楽部 更新情報

半蔵門かきもの倶楽部のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。