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王子様の言う通り☆コミュのただのネタ帳7

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☆あらすじ等は随時更新




〜登場人物〜

藤沢 弥生(ふじさわ やよい)
享年16歳
管弦の巫女(付喪神を実体化出来る)
アズラエルの助手

アズラエル
死を司る天使
武器は大鎌
弥生の魂を狙う相棒

カガクラ
オネェな死神
武器は孔雀の羽のような扇子、鎖付きの大鎌
全体的に薔薇色

ウェウェコヨトル
アステカ神話の祭りと戦の神
炎を操る
見た目はJK

土雷
大和神話の神
雷を操る
じゃロリ

グラーキ
クトゥルフ神話生物
水を操る
棘で刺した相手を操れるウニ

アザゼル
人間の罪悪を監視する悪魔
風を操る
何千年も前に見初めた“花嫁”を溺愛、監禁している

ベリアル
知識を司る悪魔
闇を操る
アザゼルとは旧知

〜憑喪神〜

神無月(中級)
打刀、ペンダント
《キィインッ》って召喚される
自動守護してくれる

光雪(中級)
短刀、腕輪
《リィインッ》って召喚される
自主的に領域結界を張ってくれる

仟孩(上級)
大太刀、チェーンベルト
《シャアンッ》って召喚される
元々は小説のキャラの武器だった
弥生が一番思い入れを持っているので人型に成れる

寮監督や寮母は死神である
男子寮長の武器は大斧

コメント(12)

『ねえ、来た?』
『来た来た、始まるよ?』
『始まる始まる、宴だね?』
『宴だ宴だ、主役を迎えに行かなくちゃ』




『迎ェ・・・ニ・・・行・・・カ・・・ナク・・・チャ・・・』




〜???〜

「うっ・・・」
(ここは・・・)
清潔な白い部屋で、清潔な白いベッドに横たわっている少女。

「病院?何で?」
《シャッ》
意識を覚醒させ、少女はベッドの周りで視界を遮っているカーテンを開ける。

「ひっ!?」
《ガラッ・・・》
カーテンの向こうは、廃れた病室。

少女が居たカーテンの内側だけが清潔で、そこから一歩でも出ようものなら廃病院の床を踏み締める事となるだろう。

「な、何これドッキリ!?ここは何処!?ナースコール・・・ないっ!?うわぁっ!?」
《ガタガタガターンッ》
あまりにも慌て過ぎて、少女はベッドから落ち、その拍子にサイドテーブルの引き出しを開けて中身をブチ撒けてしまった。

「いったたたぁ(汗)何たる無様な・・・あり???」
(手紙?)
床に座り直した少女は、サイドテーブルから落ちたらしい手紙を拾った。

封を切り、中を改める。

「えーと・・・“御願い。還って来て。御願い。思い出して。君が居ないと壊れてしまう。君が居ないと何も出来ない”・・・何じゃこりゃ?」
(僕のベッドのサイドテーブルに入ってたから、僕宛かと思ったけど・・・違うっぽい?)
少女は引き出しを元に戻し、部屋を見回す。

(見た目は病室?っぽい?けど、僕は怪我も病気もしてないはず?てか荒れ果て過ぎ。不衛生だなぁ)
「長居すると本当に病気になりそうで嫌だ。帰りたいし、お腹空いたし、ママ心配してるだろうな」
少女は意を決し、瓦礫だらけの病室を歩き出した。

錆びた扉を何とか開けて、染みだらけの廊下に出る。

(窓はある。開かないみたいだけど。外は曇天。ここは・・・かなり上の階みたい?)
「普通の病院って、こんなに階層無くない?高層マンションかっつーの(汗)」
窓の外を窺えば、下が見えないほどの吹き抜けが確認出来た。

「うーん?内装はやっぱ廃病院だよねぇ?壁に必ず手すりが付いてて親切な・・・ん?」
(誰か居る?)
少女が考えながら歩いていると、進行方向の曲がり角から青年が現れた。

(・・・日本人じゃないなぁ。銀髪?ロシア辺りかな?何かコッチ来る。そうだ、ここが何処か聞いてみよう)
「って言うか足音しないなぁ」
少女が立ち止まって青年を観察している間に、青年は少女の前まで来た。

『藤沢 弥生(ふじさわ やよい)さん・・・で、お間違い無いでしょうか?』
「事務的かつ流暢な日本語Σ(゜Д゜)はい、そうです。お兄さんは誰?」
青年に問われ、少女こと弥生は首を傾げた。

(僕を知ってるって事は、やっぱドッキリ?変な事しなくて良かったぁ!!)
『藤沢 弥生さん、16歳。性別は女性。備考なし』
「ふぁっΣ(゜Д゜)???」
青年は懐から本を出し、目を通した。

『では、お休みなさいませ』
「え・・・」
《ヒュッ》
本を懐に戻した青年は、何処から出したか大鎌を振り上げ、弥生を斬りつけようとした・・・


「うわぁあっ!?」
『おや?』
《ズザザッ》
弥生が寸での所で飛び退き、大鎌は宙を掻く。

「ななな何すんだイキナリ!?危ないじゃん!?ドッキリだって、やり過ぎだよ!!」
『そうですね』
「そうですね、じゃない!!殺す気か!?」
『そうですよ?』
怒鳴る弥生に、青年は笑顔で返答。

「・・・え?殺す気なの?」
『正しくは、貴女は既に死んでいます』
「は???」
『私は魂を回収に来たのですよ』
青年は爽やかな笑顔を崩さない。

『私は“死の天使”。名はアズラエル。貴女の魂を回収すれば、丁度百の魂を回収した事になり、私は“死神”になれるのです』
「え???意味が分からない(汗)」
弥生は混乱している。

『人間で言うと、今が専門学生として試験中で、百の魂を回収したら合格。死神と言う職業に就き、更に千の魂を回収すれば昇格し、中級の死神に、更に一万の魂を回収すると上級の死神・・・』
「丁寧な説明をどぉもっ(汗)ぢゃなくて僕は死んでないからっ(汗)」
わざわざシステムを解説する青年に、弥生が苦笑しながら突っ込んだ。

『間違いなく死んでいますよ?“あの世”で詳しくお話し致しますので、大人しく御同行を・・・あ』
「うわぁん!!変質者だぁあっ!!」
《ダッ》
最終的に鳥肌が立った弥生は、全力でその場から逃げ出した!!

『困りましたね。ウロウロされて記憶を取り戻したり、悪霊化しては一大事。急がなくては・・・』
《トッ》
青年は、笑顔で弥生を追うのだった。




〜???〜

《スパーンッ》
「ぷっはぁあ(汗)何なんだ、あの変質者(汗)何が“死の天使”だよ訳が分からないよっ(汗)」
病院の廊下を逃げ回り、適当な部屋に入った弥生。

「ひとまず隠れて・・・ぎゃっ!?」
(かっ、かかかか棺桶ぇえっ!?)
部屋の中には、壁に沿って大量の棺桶がビッシリ置かれている。

「びょ、病院の死体安置室???気味が悪いな(汗)別の部屋に・・・ん?」
(ポケットに何か入ってる?)
隠れ場所を変えようと、スライド式の扉に手を掛けた弥生は、ふとズボンの尻ポケットに何かが入っている気配を感じた。

「・・・さっきの手紙?」
(サイドテーブルに戻したはずなのに???)
尻ポケットには、あの手紙が捻り込まれていた。

「僕ってば、戻したつもりで持ち歩いてた?いやいや、流石に無意識で尻ポケットにゃ入れないわ(汗)何これ(汗)」
(ドッキリじゃなくて夢?にしちゃ妙にリアルだぞ?)
弥生は、とても混乱している。

「あーもー!!訳が分からないよ!!とにかく、えーと(汗)ここは死体安置室みたいで気持ち悪いから移動を・・・ひっ!?」
《ガタガタガタガタッ》
気を取り直して、扉を開けようとした、その時!!

部屋の棺桶の蓋が、一斉に揺れ始めた!!

まるで“中身”が外へ飛び出そうと暴れているようだ!!

《ガターンッ!!》
「ぎゃあぁあーっ!?ゾンビぃいっ!?てか扉が開かない!?嘘だろ待って待って待ってうわぁあぁあーっ!?」
実際に暴れていたらしい“中身”が、棺桶から一斉に飛び出した!!

しかも逃げられない!!

『伏せてっ!!』
「ぶぇえっ!?」
《シパァアーンッ!!》
“中身”が弥生に襲い掛かった、その刹那!!

扉の向こうから声がして、指示に従った瞬間に扉と“中身”がバラバラに斬られた!!

『御無事ですか?』
「・・・ふぇ?何で?僕を殺すんじゃ???」
“中身”を斬ってくれたのは、何と先程の青年。

『貴女は既に死んでいます。私は、その魂を回収します。害獣共に横取りされては困るのです。魂を喰らった害獣はチカラを得て、いつか現世に進出してしまう。そうなれば犠牲者が生まれる。もしかしたら、それは貴女の親しい誰かかも知れないのですよ?』
「え・・・」
青年は弥生を背に庇い、“中身”に冷笑を向ける。

『規則により、“あの世”に着くまで貴女の死因は教えられません。死因に納得せず、問題を起こす魂もおりますので。しかし貴女は確実に、完璧に、間違いなく死んでいます。だから・・・』
《スパパパンッ!!》
青年は躊躇なく“中身”を斬りつけて行く。

『・・・その魂を回収させて下さいね?』
《ズパァンッ!!》
遂に最後の一体が、大鎌の餌食となった。

青年が、爽やかな笑顔で振り返る。

「・・・僕は本当に死んでしまったの?貴方が信頼に値すると言う根拠は?」
『提示出来る根拠はありません。信じて頂くしかないですね』
「ここは何処なの?害獣って何?」
『質問責めですか?困りましたね?』
弥生は体が震えるのを抑えようとしながら、青年を睨んだ・・・
『仕方無い。一つだけお答え致しましょう・・・“害獣”とは、魂と言う“中身”を喰らい歪な形で蘇ろうとしている“器”です。差し詰め魂が“電池”で“器”が“時計”ですね』
「・・・そして、蘇ったら現世に出て人を襲う、って事?」
弥生は俯いた。

『御理解頂けた所で、回収作業を・・・っ!?』
「うわっ!?」
《ピッ・・・》
青年が大鎌を構え直した時、例の手紙が独りでに宙を舞い、青年の手の甲を切った。

「何・・・わーっ(汗)」
『逃ゲテ弥生チャン・・・』
《ブワッ》
手紙は青年の血を吸って、何と人の姿に!!

しかも喋った!!

『逃げて弥生チャン・・・コイツ嘘つき・・・ッ』
『まさか“中級付喪神”が居るだなんて。そんな気配は無かったのですがねぇ?』
《ザンッ!!》
必死に訴える“手紙”を、青年が狩る。

「う、嘘つき?どっちが?“手紙”が?貴方が?」
『私は嘘は申しません』
「わわっ分からないっ!!分からないよ僕にはっ!!どうして“手紙”は僕を庇ったの!?僕の味方なの!?」
『違います』
「じゃあ何でっ・・・うわぁっ!?」
『藤沢弥生さんっ』
《ミシッ ガラガラガラガラッ!!》
混乱する弥生の足元が、崩れた!!

弥生は、そのまま下へ落ちる。

『これは本格的にマズイですねっ』
《バッ》
青年は引き吊った笑みを浮かべ、弥生が落ちた穴へ飛び込んだ。





〜???〜

「うわぁあぁあーっ!?」
《ドッサー☆》
穴に落ちた弥生は、何か柔らかい物の上に尻から着地!!

「痛・・・くはない(汗)ここは何処なんだ(汗)まだ病院・・・違う???」
(・・・子供部屋?縫いぐるみやら玩具やらが大量の、女の子の部屋かなぁ?)
病院の敷地内かと思いきや、そこは一般家庭の子供部屋。

「赤ちゃんが持ってそうなタオル地のウサギさんも居る・・・・・・・・いや、待って何これ待って待って(汗)」
幼児が好きそうな物で埋め尽くされた、その部屋。

弥生は、そこに見覚えがあった。

(ここは!!僕の部屋じゃないか!?僕が中学生になるまで、パパに与えられていた部屋だ!!)
「中学からは二階の部屋が僕の部屋になって、それまで使っていた・・・この部屋は・・・物置に・・・・・・ぐぁあぁあっ!?」
《ズキィイィンッ!!》
部屋の正体を思い出した弥生を、急激な頭痛が襲う!!

弥生は、その場に倒れた。

『弥生チャン・・・』
『弥生チャン・・・』
『還って来て・・・僕達の・・・“御主人様”・・・』
「あぁあぁあぁあーっ・・・!!」
《バキィインッ・・・》
あまりの痛みに絶叫する弥生を、縫いぐるみ達が取り囲む。

そして鼓膜を揺らすのは、何かが砕けるような音。

『アハハハハハハハハッ』
『ヤッタヤッタ』
『一つ“取り戻した”・・・』
縫いぐるみ達は弥生の周りを飛び跳ね、頭を撫で、不気味な笑みを浮かべる。

『弥生チャンが死んじゃったなんて、嘘だもんね?』
『全部“取り戻した”ら還って来てくれるもんね?』
『後二つだよね?“死の天使”なんかには渡さない』
『『『僕達の弥生チャンは生き返るんだ・・・』』』
弥生の姿は、縫いぐるみ達に埋め尽くされた。





〜・・・〜

『空間が・・・ねじ曲げられている・・・』
《スパパパパンッ》
弥生が落ちた穴へ飛び込んだハズの青年は、何故か保育施設のような場所に辿り着いていた。

飼育小屋の動物の“死体”に襲われ、駆逐している所である。

(先程の気配、弥生さんが“一つ”取り戻してしまった。“反魂の儀式”が成立したら、秩序が乱れてしまう)
『死者は甦ってはならない。あの世で裁判を受け、天国か地獄に向かわなければならない』
《ザッシュ!!》
青年は“その空間”の出口を探し、大鎌を振るった。

(弥生さんの気配が遠い。まだ“病院”に閉じ込められているなら、そこまで行かなくては。距離は・・・二駅分、だったかな?)
『まあ我々は人間と違って、文字通り“真っ直ぐ”行く事が出来るけれど』
《ズワッシャアァアー!!》
“死体”は全て切り裂かれ、青年はドス黒い返り血を浴びて溜め息をついた。

『急がなくては』
《バチバチバチバチッ》
青年は、その“施設”の出入り口であろう“門”まで一っ飛びし、大鎌で“門”を斬ろうとした。

しかし、見えないチカラが反発を起こしていて斬れない。

『“結界”?そこまで高等な術が使えると?“一つ”取り戻しただけで?これ最早“見習い”の任務では無いような???』
《バチバチバチバチッ》
青年は反発力に目を丸くしつつ、“結界”を斬ろうと力を込めた・・・
〜???〜

(そこに・・・僕が居たハズだったのに・・・)
「・・・ぅ?」
弥生は、カビ臭い物置の中で目を覚ました。

「うげろぉお・・・臭いっ・・・何だ、この壮絶な悪臭は・・・」
(臭いのせいか・・・嫌な夢を見てた気がする・・・)
充満した体に悪そうな臭いが、頭痛を誘発する。

『二度とは戻れない・・・幸せだった日常・・・“特別”な友達・・・』
「そうそう、そんな感じの夢を・・・え???」
ふと、背後から声が聞こえた。

『どうして裏切ったの・・・どうして信じてくれなかったの・・・』
「あ、れ・・・???」
『僕が君を陥れるハズがないのに・・・僕達は“友達”だったのに・・・』
「き、み、は・・・」
振り向けば、薄暗い倉庫に体育座りでうずくまる、“誰か”。

『やあ・・・“僕”は“君”だよ・・・“あの子”に裏切られた・・・“あの人”見捨てられた・・・そして・・・』
「あ・・・あぁあっ・・・!!」
顔を上げたのは、両目があるべき場所に空洞を持つ、弥生自身。

舌は切られて口から血を流し、手足は腐ったようにボロボロ。

上半身は刃物で滅多刺しにされていた。

『思い出せ!!怨みを!!憎しみを!!ここから出るんだ!!生き返るんだ!!奴等に復讐するんだョオオォオォオーッ!!』
「ぎゃあぁあーっ!?」
《ブシャアァアーッ!!》
身体中から血を撒き散らしながら、“弥生”が弥生に襲い掛かる!!

『弥生さんっ!!』
「ふぁえっ!?」
《ズパァンッ!!》
腰が抜けて動けない弥生を助けたのは、またしてもあの青年。

物置の壁ごと大鎌で“弥生”を切り裂いて登場である。

『沢山の“建前”で心を守る・・・壊れないように・・・』
「ひぃっ!?まだ生きてるっ!?」
斜めに両断された“弥生”は、喋り続ける。

切り取られた舌から、ボタボタと血を滴ながら。

『何も要らない・・・二度と失いたくないから・・・』
『しぶといですね』
《チャキッ》
青年が大鎌を構え直した。

『どうして・・・邪魔をするの・・・僕は還りたいだけなのに・・・』
『貴方に還る場所はありませんっ』
『待っていてくれる人が居るんだよ・・・ママは僕を待っていてくれる・・・いつも守ってくれたママ・・・僕の一番の味方・・・きっと心配している・・・』
『御母様は藤沢 弥生さん御本人の死体を弔う準備中です。貴方ではなく、本物のっ』
《ガキィインッ!!》
“弥生”は体から引きずり出した骨を棍棒のように振り回し、青年に応戦する!!

『ママ・・・何処なの・・・寒いよ・・・』
『ぐぅうっ!!魂の回収任務だけなら、こんな障害は無いはずだと言うのにっ・・・かはっ!!』
《ドゴォッ!!》
遂に“弥生”は、青年の隙を突いて彼に一撃を加えた。

「アズラエルさんっ」
『私は“死の天使”・・・魂の回収を行う・・・』
『僕は狩られたりしない!!アハハハハハハッ!!』
《ガッ ガッ ガキィンッ》
“弥生”の棍棒と青年の大鎌が、再びぶつかり合った!!

『“僕”を選んでくれた“あの人”の笑顔が消えても!!側に居た“理由”を忘れられても!!二度と“見て”貰えなくても!!』
『(早く黙らせなくては!!弥生さんの“記憶”がっ!!)』
《ビシュッ》
血の涙を流す“弥生”の喉元を、大鎌が掠めた!!

「僕を“選んで”くれた・・・“あの人”・・・」
『弥生さ がふっ!?』
《ドゴォッ!!》
弥生の中で何かが紐解かれ始め、青年は“弥生”に懐に入られ腹を殴られた。

「“あの子”の・・・下らない些細な嫉妬のせいで・・・僕は・・・」
『弥生さんっ・・・堕ちてはいけませんっ!!』
「生きていて良い“理由”を奪われ・・・“あの人”は僕にくれた“理由”を・・・忘れてしまった・・・」
『藤沢 弥生さんっ!!』
《ヌグニャアァアァアッ・・・》
そして“世界”が歪む。

弥生が“二つ目”を取り戻してしまったから。

「どうして・・・僕ばっかり・・・」
『そうだ!!アイツも不幸になれば良い!!生き返って復讐するんだ!!』
『・・・これまでかっ!!』
《ガッ!!》
青年は“弥生”に背を向けて大鎌を振り上げ、弥生を狩ろうとした。

“弥生”は、その隙を好機と見て青年を破壊にかかる。

青年は、自身の破壊と引き換えに、任務を遂行するつもりなのだ。

『弥生チャン・・・』
『弥生チャン・・・』
『還って来てくれるんだね・・・僕達の・・・“御主人様”・・・』
《バッ!!》
弥生が狩られる寸前、“人形”達が弥生の身代わりになるべく飛び出した!!

『アハハハハハハハハッ』
『がふっ・・・!?』
《ドシュッ!!》
“弥生”の棍棒が、青年の胸を、背後から貫いた・・・





続く
〜???〜

「どうして・・・どうして・・・どうして・・・」
『お帰り、“僕”・・・さあ、残りの“記憶”を探して・・・還ろう・・・』
《グシャッ》
俯いて涙を流す弥生。

倒れた青年を踏んで近付く“弥生”。

二人の足元には、身代わりとなって破壊された“人形”達。

「・・・それでもね?」
『え』
《ドッ・・・》
弥生が、“弥生”を、懐のバタフライナイフで、刺した。

「“僕ばっかり”って思っても・・・苦しくても・・・悲しくても・・・」
『な、ん、で・・・ェエ・・・』
《ズバァアッ・・・》
そのまま横に切り裂けば、“弥生”は完全に胴体が床へ落ちる。

《ゴトンッ・・・》
「辛くても・・・幸せだった過去は消えたりしない・・・僕は“死”を受け入れるよ・・・」
(有難う・・・理由はどうあれ・・・僕を還そうとしてくれて・・・)
床に落ちた“弥生”を見下ろし、涙を流しながら微笑む、弥生。

「アズラエルさん、起きて?僕を狩るんだよね?」
『・・・』
「起きなよ、僕の気が変わらない内に。僕が死因を思い出す前に。それが・・・使命なんでしょ?」
『・・・』
弥生がいくら揺すっても、死神はピクリともしない。

「帰る場所も、還る事も、諦めたんだ・・・狩ってくれなきゃ・・・一人ぼっちでさ迷う羽目になる・・・」
(もう・・・“独り”は・・・嫌だ・・・)
《グッ・・・》
弥生は青年の側に座ったまま、バタフライナイフを握り締めた。

「独りにしないでぇえっ・・・!?」
《ミシッ》
泣き崩れる弥生の耳に、不穏な音が届く。

「しまっ!?害獣・・・ふぁえっ!?」
《ビュワァアァアッ!!》
咄嗟に振り向いた弥生の目に、害獣(猿型)が映った時だった。

彼女のバタフライナイフが霧となって手の中から消え、吹いてもいない風に流されて害獣の方へ向かったのだ!!

『泣くな主、お前は独りではない・・・』
「誰ぇえっΣ( ̄ロ ̄lll)!?」
《ズシャズシャズシャッ!!》
霧は人の形と成り、両手の五指にバタフライナイフを挟んで立ち回り、害獣達を切り裂いた。

しかも何かイケメンだ。

『俺は主の刃・・・髪の色が持ち手と同じだろう・・・?』
「持ち手?あ、バタフライナイフの!?えっ!?君はバタフライナイフの化身か何か!?」
《ザシュッ》
害獣を殺しながら言うイケメンに、弥生は目を丸くした。

『俺は付喪神・・・主は俺に強い思い入れがあっただろう・・・長い年月を掛けずとも、付喪神に成れる程の・・・強い想いが・・・』
「・・・“あの人”が、くれた物だから」
《シパァンッ》
最後の一体を倒し、付喪神は弥生に近付いた。

『主・・・お前は死んだ・・・』
「・・・うん」
『死んだ事により解放された魂は・・・お前の“特別な能力”を目醒めさせてしまった・・・』
「は???」
付喪神の言葉に、弥生が再び目を丸くした。

『“死の天使”に狩られていたなら、発現せぬまま“輪廻”に乗れていたのだが・・・お前は目醒め、俺を召喚した・・・』
「え?え?え???」
弥生は混乱している。

『お前は思い入れを持った物の付喪神を・・・実体化させてしまうんだ・・・』
「えぇえぇーっ!?」
弥生の目玉は今にも溢れ落ちそうだ!!

『もうお前は人間でも死者でもない・・・じきに迎えが来る・・・最後に、お前を護れて良かった・・・』
「え、じゃあ僕は何!?迎え!?最後!?どう言う・・・うわぁあぁあっ!?」
《ピカァアァアッ》
弥生が言い終わる前に、天から目映い光が降り注ぎ、彼女は意識を失った。

(人間の道具である俺には本来、害獣を倒せる力はない・・・お前のお陰で戦えた・・・悔いは無い・・・)
『“ヒト”から外れた我が主に、幸あらん事を・・・』
《バキィイィンッ・・・》
付喪神は、硝子細工のように粉々に砕けた。





〜???〜

『藤沢 弥生さん、起きて下さい』
「・・・へぁっ!?」
《バッ》
気付いた時、弥生は見知らぬ白い部屋に居た。

『お目覚めですか?』
「ア、アズラエルさん!?」
隣には、あの青年。

弥生は簡素で清潔なベッドに寝かされていた。

「生きてたの!?」
『生きていません、
死んでいます。そしてこれ以上は死にません。気絶と消滅はしますが』
起き上がった弥生に、青年が微笑む。

『ここは“あの世”で、私達を連れて来たのは私の上官。貴女にとって、面倒な事態になりました』
「面倒な???」
青年の台詞に、弥生が首を傾げる。

『付喪神と言うモノを御存知でしょうか?古の時代、管弦楽器を用いて“それ等”を呼び起こす巫女の一族がおりました』
「え?アズラエルさん???」
『その“管弦の巫女”の生まれ変わりが、どうやら貴女のようでして』
「待て待て待てぇいっ(汗)」
弥生、再びの混乱・・・




続く
〜あの世〜

『貴女が“能力”を失うまで魂を狩れなくなりました。私は“死神”に成れず、しかし貴女と“特別任務”を拝命する立場に・・・』
「アズラエルさん!!」
《バチンッ》
笑顔で淡々と告げる青年を黙らせる為、弥生は彼の頬に両手打ち。

『痛いです』
「状況を整理させて!!」
青年は弥生の手を退かし、自身の頬を両手で包んだ。

『整理をなさるのは構いませんが、決定事項は変わりませんよ?私は上官に逆らえませんし、貴女に選択肢はありません』
「何それ!?ふざけんなだよ!?」
《ガッ》
困ったように笑う青年の胸ぐらを、弥生が掴む。

『・・・独りは嫌ですか?』
「嫌だよ!!僕は死んだんでしょ!?死体は弔われて、人間じゃなくなって、誰とも繋がりが無くなって・・・この上、何で更に苦しまなきゃならないのさ!?死なせてよ!!」
青年を更に締め上げる弥生。

『独りでなければ、辞令を受けて下さいますか?』
「組織に属してすらいないのに辞令とかっ・・・」
『お友達になりましょう』
「・・・What's!?」
青年の脈絡の無い提案に、弥生は何故か英語で驚いた。

『独りでなければ良いのでしょう?貴女が“能力”を喪失するまでは相棒なのだから、“相棒兼友達”になりましょう?』
「死神が友達とか意味が分からないから(汗)」
『死の天使、ですよ?』
「どっちでも良いよっ(汗)」
弥生は三度目の、目を丸くする攻撃!!

「大体!!アズラエルさん任務の為に僕と友達になるんでしょ!?そんなの友達ぢゃないやぃ!!」
『貴女が“独りは嫌だ”とおっしゃるからです。友達が嫌ならば、“相棒”だけで構いませんか?』
「だーかーらーっ(汗)」
『御給料も出ますし、衣食住も保証されますよ?』
弥生が頭を抱えて叫ぶのを、青年は愉しげに見ている。

「アズラエルさんには分からないかも知れないけど!!人間には感情とか葛藤があって!!状況や気持ちの整理に時間が掛かるの!!」
『ふふふふふ。それは我々も同じですし、そもそも私は“元・人間”ですよ?』
「・・・・・・・・・ひゃい???」
『ふふふふふ』
弥生、固まる。

『本来なら死者は魂を回収し、“あの世”にお連れし、裁判を受けて天国か地獄か判決を頂き、必要な労働を終えたら転生となります』
「・・・天国でも働くの?ぢゃなくてアズラエルさん!?」

『通常は簡単な花の水やり等で“徳”を積んだら転生出来ますが、私のように天界で働く事を希望するなら残れますよ?』
「アズラエルさん、元は人間なのΣ(゜Д゜)!?いやいやいや僕は希望してないんだから転生させてよΣ( ̄ロ ̄lll)!!」
弥生、リアクション疲れとかしないのだろうか?

『藤沢 弥生さん。貴女を独りになんてしません。私と組みましょう。“特別任務”は、きっと遣り甲斐があって鬱になっている暇などありませんよ?』
「無駄に爽やかだなコノヤロウ(汗)」
弥生はグッタリしている。

やはりリアクション疲れか。

「・・・もう良いよ分かったよ(汗)組めば良いんでしょ組めば(汗)」
『有難う御座います』
遂に弥生は、根負けした。

「相棒=対等、だよね?アズって呼ぶからね?そっちもフルネームは辞めてよ?」
『では弥生さん』
二名は、軽く握手を交わした。

『弥生さん。もう人間の友達は作れませんが、人外の皆さんも中々に素敵ですよ?害獣以外は』
「害獣以外は、ね?」
『そして私は、弥生さんの友達第一号です』
「暗に自分が素敵だと言いたいの?アズはナルなの?」
『これは手厳しい』
「べーっ(笑)」
弥生は、やっと笑顔を取り戻した。

『・・・そうです、弥生さん。今の貴女は“記憶”を二つ取り戻してしまっているので、そこそこ霊感の強い人間には可視えてしまいます。任務以外で“この世”を歩く際は、お気をつけて』
「え、任務以外で歩いて良いの?」
アズラエルの言葉に、弥生が舌を引っ込める。

『非番の際は自由です。動物と、そこそこ霊感の強い人間には可視えてしまいます。任務中は意図的に視せたり視せなかったり。“この世”で買い物等をなさる場合、意図的に視せないと存在が希薄過ぎて交通事故に遭ったり順番を抜かされたりぶつかられたりします』
「されたの???」
死の天使に妙な親近感が湧いた瞬間だった。

『では弥生さん。話がまとまった所で、“あの世”・・・“天界”を案内しましょう。これから暮らす寮や街、様々な施設を紹介します。生活しているモノ達以外は、あまり人間界と変わらない風景かも知れませんよ?』
「そうなんだ?」
『交通手段は雲ですが』
「大違いぢゃねぇかっΣ( ̄ロ ̄lll)!?」
アズラエル、笑顔。

「案内は有難いけど(汗)なぁんか事ある毎にからかわれてる感が(汗)」
弥生の新たな世界は、拓けたばかりだ・・・
〜天界〜

『さあ弥生さん、色々と御復習をしましょうか?』
「すっごい!!本当に雲が道路を走ってる!!夢みたいだ!!」
死神や死の天使が勤める役所の医務室を出て、徒歩で寮に向かうアズラエルと弥生。

『死者は“あの世”で裁判を受け、天国か地獄に行きます。天国では生まれ変わりたい存在に見合った“徳”を積み、地獄では罪に合わせた刑罰を受け、晴れて転生となります』
「あっちにスーパーがある!?人間界と変わらないね!!」
『希望すれば、天国では天使に、地獄では獄卒に成り、働き次第で昇格も・・・』
「アイス!!アイス屋さん!!美味しそう!!」
弥生は異様に興奮している。

『・・・弥生さんが話を聞いて下さらないΣ(・ω・)』
「ふぇあっ!?ご、ごめん(汗)つい(汗)聞く聞く、聞きます(汗)」
アズラエル、ちょっと拗ねた。

『天界と人間界は、生活しているモノ以外、あまら変わりがありません。交通手段は雲の車や電車ですが』
「ねえ、“天界”と“天国”って何か違うの?」
『“にほん”か“にっぽん”かの違いです』
「呼び方だけか」
弥生は納得した。

『死神や死の天使は役人のような立場で、死神はマイホームを持てますが、死の天使は寮生活です。ちゃんと男女は分かれています』
「当たり前だよねΣ( ̄ロ ̄lll)」
《ズビシッ》
微笑むアズラエルに、弥生が突っ込んだ。

『と、話している間に寮の門まで辿り着いた訳ですが。はい、これ入寮証です。受け付けに提出して下さい』
「はぁい」
アズラエルは弥生に、書類を渡した。

『任務の際にはスマホ(天界製品)に連絡します』
「スマホ(天界製品)なんだね」
『人間界でも使えます』
「わあ便利」
弥生、棒読み。

『何度も御説明している通り、存在する種族以外は人間界と大差ありません』
「安心しろ、と?」
『女の戦いに、充分な御注意を』
「・・・は?え?うぇえぇいっ!?」
《ガッシャーン》
アズラエルは爽やかに微笑み、弥生を門の内側へ放り込んだ。




〜女子寮〜

『って訳で、新しい子が来たでぇ?仲良ぅしたってなぁ?』
『はい』
「よ、宜しくお願い致します(汗)」
入寮証を提出し、如何にも適当そうな寮母に紹介されたのは、女子寮の寮長。

ガタイの良い女性だ。

『後は彼女に案内してもろて?何でも聞いたってな?』
「は、はぁい。有難う御座いました(汗)」
寮母、去るの早い。

『・・・で、新入り。お前、名前は?』
「(初対面で“お前”とか)・・・藤沢 弥生です」
『誰が名字まで言えっつったよ?なーまーえー!!馬鹿じゃないの?日本語が通じない訳?』
「(うぜぇ)・・・済みません」
寮長、態度が悪い。

『済みません、じゃないだろ?失礼しました。または、ごめんなさい。躾が出来てないなぁ。チビだし頭も悪そうだもんね』
「・・・」
『何、その眼は?って言うか、もう人間じゃないから。名字とか要らないから。その位は察しなよ。本当、親の顔が見たい・・・ぶきゃあぁあっ!?』
「ぶっ殺すぞゴリラ女がぁあっ!!」
《ドバキャアァアッ!!》
弥生、遂にキレて飛び膝蹴りを顔面に見舞う。

『あ、そうそう。揉め事は極力自分等で片付けてなぁ?』
『このガキっ・・・ぐごぉおっ!?ぶひゃあっ!?ふんげぐぉおっ!?』
「おらおらおらおらぁっ!!」
《ドカバキベキゴキャアッ!!》
弥生さん、御乱心・・・





続く
〜天界〜

『おやおや?弥生さん、早速トラブルですか?』
「アズラエル!!笑い事じゃないよ!!」
入寮翌日の昼、スマホ(天界製品)で連絡を取り、カフェで待ち合わせた二名。

「寮母は適当だし!!寮長は失礼なゴリラ女だし!!何で死んでまで対人関係でストレス感じなきゃいけないのさ!?」
『ウチ(男子寮)なんて、寮監督は忘れっぽくて、寮長はパンツ一丁のオジサンですよ?』
「・・・“死の天使”だよね?“天使”なんだよねっ!?」
『いやぁ。色々な方がいらっしゃいますから』
アズラエルが大らか過ぎる。

『そうだ、弥生さん。これを差し上げます』
「ふぉ?ペンダント?日本刀みたいな飾りが・・・」
『丸腰で“特別任務”は危険でしょう?それに思い入れを持って下さい。頑張って付喪神を召喚しましょうね?』
「思い入れは持てと言われて持つモノぢゃないよねっ!?」
弥生は目玉をひん剥いた。

突っ込み疲れないのか?

『うるせぇぞ弥生。カフェで騒ぐな、周りに迷惑だろ?』
「あ、寮長・・・」
そこに現れたのは、豚ゴリラ(キテレツ大百科かよ)・・・もとい、女子寮の寮長と。

『そのチビッ子がアズラエルの相棒か?男?女?』
『どう見ても女性ですよ寮長。それに女子寮の子ですから、やはり当然ながら女性です』
男子寮の寮長だ。

服は着てるよ、外だから。

『聞いてるぞチビッ子。お前、コイツに楯突いたって?』
「腹が立てば手も出る」
男子寮長に嘲笑われ、弥生が睨み付ける。

『やるじゃん!!そーゆー根性と実力のある奴、なかなか居ないんだぜ?大概はコイツのガタイにビビって、泣くか陰でコソコソするかだってのに(笑)』
「・・・ふぁ?」
『まあ気概は認めるが、忍耐が足りないよ。アタシがビシバシ鍛えてやるから覚悟しな?』
「ふぉおぉおっ!?」
寮長’sに肩を叩かれ、弥生は奇声を上げた。

何か気に入られたらしい。

『女子寮長様は思った事がすぐ口に出て、手厳しい方と窺っています。しかし、料理上手で面倒見も良いそうですよ?』
「口が悪いのに面倒見は良いの!?有り難迷惑とか思われるタイプじゃん!?」
《ガタガタッ》
アズラエルのフォローに、弥生は思わず椅子から立った。

『弥生、カフェでは静かに!!』
「ごめんなさい(汗)」
《ヒョイッ》
女子寮長が弥生の頭に拳骨を振り下ろしたが、軽々と回避された。

『避けられてやんの(笑)だっせぇ(笑)』
『うっさいわ!!』
『お前の声の方が煩いわ(笑)』
『ぐぬぬぬっ!!』
男子寮長にからかわれ、女子寮長は歯軋り。

『ちなみに、御二人は御夫婦です』
「・・・Really!?」
弥生、何故に英語で驚く。





〜街中〜

『弥生さん、他に行きたい所はありますか?』
「特にないから、このまま街を案内して欲しいかな」
カフェを出て、フラフラ歩く二名。

『では、大型デパートが近くにあるので寄りましょう。大体の物は揃いますよ?』
「ほぼ人間界だね(笑)」
弥生は楽しそうだ。

「あ、そう言えばさ?ここの住民は天使や神なのに、羽がなくない?」
『羽のある種族は限られており、人間界で、必要な時しか出しませんから』
出し入れ自由らしい。

『弥生さん、何か欲しい物は・・・』
「あ、寮母さん」
ふと、大型デパートに向かう群れに寮母を発見した弥生。

『あーっ!?弥生ちゃん!!何や、貴女も買い物に来たん!?』
「(寮長も寮母も声デカイ)・・・あ、はい」
『ここホンマ良ぇよ!!何でも揃っとる・・・あぁ!!アズラエル君も居るやないの!!』
『御無沙汰しております』
寮母の勢い。

『あれ?アズラエル君?』
『寮監督様』
「何この遭遇率(汗)」
そこへ男子寮監督も現れた。

寮監督は買い物帰りらしい。

『何を買われたのですか?』
『いやぁ、嫁と息子に食材の買い出しを頼まれたんだけどね?ついでに言われたトイレットペーパーを忘れちゃって、仕方無いから帰り道のドラッグストアで買うよ』
寮監督は妻子持ち。

ちなみに寮母は旦那持ち。

『弥生さんは、欲しい物は無いのですか?』
「前回の付喪神事件で給料は入ったけど、何があるか分からないから節約しないと」
付喪神事件とは、弥生が“死の天使の相棒”としてスカウトされた時の事。

給料はスマホ(天界製品)に入る。

紛失時は、喚べば(僕のスマホーっ!!とか)けたたましい警報が鳴るので安心。

「あ、飲食物は無駄遣いに入らないから」
『おっしゃる通りで』
弥生とアズラエルは、甘い物が大好きである・・・




続く
〜天界〜

『さて弥生さん。そろそろ仕事内容の説明と行きましょうか』
「ラーメン屋で???」
一日中、天界のあちこちを廻った二名は、夕飯に立ち寄ったラーメン屋で大事な話をする事に。

『まず“死神”と“死の天使”の違いですが、正規社員とアルバイトみたいな物です。給料も待遇も仕事量と内容も、色々と違いますよ。勿論、福利厚生や補償もね?』
「俗世寄りの説明を有難う(汗)」
笑顔で淡々と話すアズラエルに、弥生が苦笑を返す。

『例えば“死の天使”は、与えられた任務をこなすだけです。“死神”は与えられた任務を効率良く短時間で最小限の被害で、むしろ被害を出さずに片付け、報告書を提出し、会議にも参加します』
「会議まであるんだ(汗)」
ちなみに会議とは、最近の死者と魂の状況、天国や地獄の情勢、害獣対策等を話し合う。

『そして、私と弥生さんが“死神棟梁”に命じられた“特別任務”は・・・』
「棟梁とか、大工さんみたい」
『・・・良ろしいでしょうか?』
「ごめんなさい(汗)」
あくまで爽やかなアズラエル。

『私達が果たすべき“特別任務”の内容とは、例えば弥生さんのように“特殊能力”を有する魂の回収であったり』
「ん?」
『例えば弥生さんのように、死を受け入れられず逃げたり暴れたりする魂の回収であったり』
「んん?」
『例えば弥生さんのように、害獣に狙われたり護られたりしている魂の回収であったり』
「ちょっとアズ(汗)」
運ばれて来た味噌ラーメンと餃子を受け取りながら、アズラエルは説明を続けた。

更に炒飯も来たが、どんだけ食べるんだ???

「何で一々僕を引き合いに出すのさ(汗)」
『イメージし易いかと』
「要らん御気遣い(汗)どぉも(汗)」
『ふふふ、どう致しまして』
弥生は豚骨ラーメンと餃子。

『本来ならば貴女の魂を狩り、“死神”になっていた私ですが、思わぬ妨害(害獣と付喪神)で貴女を覚醒させてしまった』
「アズ・・・」
『“管弦の巫女”の能力は貴重で、発現したならば是非とも手を借りたい。私は貴女を覚醒させた責任がある』
「アズは僕の“首輪”にされちゃった訳だ?生け贄的な?」
弥生は自嘲の笑みを浮かべた。

『どうせなら“相棒兼騎士”の方が格好良いのですが』
「パートナー兼ナイト、ねぇ?キザだなぁアズは(笑)」
ラーメンを啜りながらなので、あまり格好は付かない(笑)

『所で弥生さん』
「な、何?」
『デザートは何処で食べましょう?』
「っ・・・まずは目の前の食事に集中しようか(笑)」
弥生、ラーメンを吹きそうになる。




〜女子寮〜

『あ、弥生さん。お風呂もう入った?』
『良い湯加減だったよ〜♪』
『ってか何処行ってたの?まさか一人旅?ウケる〜♪』
「ただいまです。お風呂まだです。ちょっと相棒に街を案内して貰ってました」
女子寮に戻った弥生を、先輩達が出迎える。

『お帰りなさい弥生さん』
『今日は入浴剤の日だよ』
『何でしたっけ?カコナール?』
「それ風邪薬です(笑)カモミールかな?」
弥生は風呂に向かう事に。

『あ、勇者弥生さんだぁ』
『その呼び方よしなよ』
『確かに強者ではあるよね』
「あー・・・寮長とやりあったからですか(汗)」
脱衣場に着くと、今から出るらしい先輩達に声を掛けられる。

『寮長云々もそうだけど、純粋にさ・・・弥生さんの実力は“死の天使”としてポイント高いよ?』
『後は頭が冷静なら、ねぇ?』
『で、でも“死の天使”に成ったばかりですし(汗)冷静なら対応なら、これから身に付きますよ(汗)』
「ははははは(汗)」
弥生は本当は“死の天使”ですらないので、笑って誤魔化す。

「ふひゃ〜♪昨日も思ったけど、ここの風呂って銭湯みたいですよね〜♪」
『木桶だしね』
『スノコ敷かれてるしね』
壁面は富士山が描かれている。

誰の趣味なんだろうか?





〜男子寮〜

『ふんっふんっふんぬっ』
『・・・寮長、本日も素晴らしい筋肉で』
こちらは男子寮。

寮長がパンツ一丁で廊下の姿見にポーズを決めている。

『アズラエルは相変わらず細いな?鍛えろ鍛えろ(笑)』
『私は素早さと鋭さが売りですから』
鍛え抜かれた筋肉を惜し気もなく晒しまくる寮長に、アズラエルは笑顔で答えた。

『あれ?寮長?またポーズを決めているのかな?そろそろ風呂に入ったら?』
『寮監督殿』
『今晩は』
そこへ風呂上がりの寮監督が現れた。

『ああ、アズラエル君。丁度良かった。今朝ね、言い忘れていたのだけれど』
『はい?何でしょう』
『明日の朝から、相棒との初任務だから』
『・・・はい???』
寮監督の言葉に、アズラエルが首を傾げた・・・





続く
〜天界〜

『これ、依頼書と地図ね。ちょっと管理局の機械の調子が悪いらしくて、スマホに通達が行かないみたいだから』
『サーバーエラーでしょうか?』
『ゲームか(笑)』
寮監督から書類を渡されたアズラエルの反応に、寮長はパンツ一丁で突っ込みを入れた。

服を着ろ、服を。

『依頼書を拝見・・・・・・うわぁ』
『どうしたアズラエル?』
『いえ、初任務から随分と濃いので。弥生さん、叫ばなければ良いのですが』
『あー(笑)頑張れ(笑)』
アズラエルは苦笑を洩らした。

《ズプンッ》
『明日の朝からでしたね。今から弥生さんに御連絡を差し上げて、念の為に明日は早めに御迎えに上がって、少しお茶をしながら任務の確認ですね』
『真面目だなぁ、偉い偉い(笑)』
『寮長君は服を着るか風呂に行こうね?』
アズラエルは懐から本を取り出し、依頼書を吸収させた。

白紙の本に新たな文字が書かれ、それは新たな任務に必要な情報として利用される。

弥生は“死の天使”ではないので、この“本”を所持していない。




〜人間界・カフェ〜

『それではサクッと説明を開始しましょうか・・・弥生さん、起きて下さい』
「/tfqjd@(-.-)Zzz・・・・」
アズラエルから連絡が来た時点では起きていた為、朝から任務なのは覚悟していた弥生。

しかし彼女は、いかんせん朝が弱い。

『弥生さん、存在感を出して下さらないと。私が一人で喋っている不審者のようです』
「(-.-)Zzz・・・・」
弥生は机に伏して寝ている。

『ならば、このまま説明してしまいましょう。後で“聞いていなかった”とおっしゃっても受け付けませんよ?』
「むにゃあ(-.-)Zzz・・・・」
アズラエルは爽やかな笑顔で“本”を開いた。

ここから、弥生に聞こえている音声で御送りします。

『ーーー男性ーーー死亡ーーー女性ーーー蘇生ーーー恋人ーーー記憶ーーー』
「(-.-)Zzz・・・・」
『なので・・・』
《ガッシャアァン!!》
「わひゃあっ!?」
アズラエルの説明が終わりかけた時、向かい側の席から机に物を叩きつけたような音がした!!

流石の弥生も目を覚ます!!

『お仕事ですよ弥生さん、まずは標的を観察しましょうね?』
「うぇ???」
アズラエルは予想していた事態らしく、笑っている。

「何よ、その女!?家に帰らず何処フラフラしてんのかと思ったら!!また浮気!?」
「え?だ、誰?」
「例のストーカーじゃないの!?」
騒ぎの方に目を向ければ、ギャルな見た目の女性が仲睦まじいカップルに絡んでいる。

「帰るわよ卓史!!」
「待って(汗)本当に知らないんだ(汗)君は誰なんだ(汗)」
「アンタの嫁に決まってんでしょ!?」
「ぶへっ!?」
《ベシッ》
女は男の顔面に大きな封筒を叩き付けた。

「これは私達の結婚式の写真!!これが婚姻届のコピー!!これが親戚で集まった正月の写真!!こっちはアンタの浮気で裁判した時の書類!!」
「偽造や合成じゃないの?」
「不倫相手は黙ってなさい!!」
「人違いだってば!!」
物凄く揉めている。

「それに彼は私との結婚を控えているの」
「だったら重婚で犯罪ね!!法的に不可能ね!!」
「御客様、大丈夫ですか?」
見かねた店員が、声を掛ける。

「警察を呼んで下さい、この人はストーカーです」
「誰がストーカーよ!!この泥棒猫!!」
「辞めろっ・・・」
《バシィンッ》
興奮した女の平手打ちから恋人を守り、男が叩かれた・・・のだが。

《ゴトリッ・・・》
「きゃあぁあぁあっ!?」
「うわぁあぁあっ!?」
叩かれた衝撃で、男の首が、床に落ちた。

「えぇえーっ!?首が取れたぁあぁあーっ!?かかか怪力女ぁあぁあーっ!?」
『違いますよ』
《キィンッ》
思わず立ち上がって叫ぶ弥生。

アズラエルが冷静に“本”を開くと、カフェに結界が張られた。

『本当は彼等が店から出た辺りで尾行して、適当な所で交通事故に遭って戴き、速やかに魂を回収したかったのですが』
「へっ???」
『やはり“特別任務”、一筋縄では行きませんね』
「アズ!?」
アズラエルは、結界内部に招かれた者達へ近付く。

『弥生さんは寝惚けていて聞いて下さいませんでしたが、こちらの男性は二年前に亡くなっています・・・奥様に殺されて』
「あ・・・ぁあぁあーっ!?」
アズラエルが生首を拾うと、女が絶叫して床に泣き崩れた。

『浮気性が治らず奥様に刺し殺され、それでも彼を愛していた奥様が偶然“死者蘇生”に成功して彼を目覚めさせた。しかし彼は生前の記憶を失っており、奥様の監禁から逃げて遠い遠い街へ』
「重いな初任務っΣ( ̄ロ ̄lll)」
弥生は吐きそうだ・・・




続く
〜結界内部〜

『逃げ延びた先で、現在の恋人と出逢い、先日御婚約なさいました。しかし彼は死者。我々は彼の魂を回収しなくてはならない』
「辞めてえぇーっ!!」
アズラエルは生首を女に渡し、首なし死体に向けて大鎌を構えた。

「どうして私達の邪魔をするの!?私達は病める時も健やかなる時も一緒なの!!死してなお、二人の愛は誰にも引き裂けない!!だから“死者蘇生”が成功したんじゃない!!これは神様の御導きよ!!」
女は生首を起き、アズラエルに縋りつく。

女の力とは思えない圧力が、アズラエルの足を締め付けた。

『それは神ではなく、下等な悪魔や妖怪の悪戯です』
「アンタに何が分かるのよ!?」
『分かりますよ、“死の天使”ですから』
「知らないわよ!!」
アズラエルは、女に目線をやらず微笑む。

「奪わせないわよ!!彼は私のモノなんだから!!」
『彼の命を奪ったのは貴女で、それさえしなければ共に生きられたのです。そんなに側に居たいなら、貴女が彼の“世界”へ来て下さい』
「アズ!?それ“死ね”って事!?」
ようやく女に目線を寄越したアズラエルの発言に、弥生が目を見開いた。

『病める時も健やかなる時も、死した時も互いを愛し、連れ添えばこその“美しき夫婦”かと』
「駄目に決まってるよね!?何その悪魔みたいな理論!?余分な魂まで回収しようとしないでよ!!」
《バッ》
アズラエルと女の間に立ちはだかり、戦闘体勢に入る弥生。

『弥生さん』
「退かないからね!?」
『危ないですよ?』
「へ・・・ぎゃあぁっ!?」
《ヌワァアンッ》
アズラエルが困った笑顔で言った瞬間、弥生の背に守られていた女の顔面が裂け、歪な龍が生えて来た。

『“害獣”の中には生き物に寄生するタイプも・・・』
「そーゆーの早く言ってぇえ!!」
『言いましたよ・・・素早いですね』
「寝惚けてる時にっ!?」
《ズザーッ》
アズラエルと弥生は瞬時に女から距離を取り、構え直した。

『あー、彼の死体が取り込まれてしまいましたね』
「本当冷静だよねっ(汗)」
『弥生さん、彼女の始末を御願いします。私は二人の魂を狩らなくてはならないので、隙を窺って待機で』
「マジかっΣ( ̄ロ ̄lll)!?」
アズラエル、スパルタ 。

『ほら、来ますよ』
「ぎゃあぁあっ(汗)」
《ギューンッ》
男の首なし死体を丸呑み(蛇みたく顎が外れた)した龍が、弥生に向かって来る。

「アイツ僕の事も呑む気!?」
『ですかねぇ?先程みたく顎を外して一呑みかと』
「てか僕、丸腰なんだけど!?」
『武器なら渡しましたよ?』
《ズゴォンッ!!》
龍の顔面を回避する弥生。

「武器って、まさかコレ!?一日そこらで思い入れなんか持てないよね!?」
『頑張って下さい』
《チャリ・・・》
弥生は昨日アズラエルに渡された“ペンダント”を握り締めた。

首から下げられた“ペンダント”には、鞘に収められた日本刀が飾りとして付いている。

「アズは親切なんだか適当なんだか分からないよ!!」
《ガッシャアァン!!》
ひたすら突っ込んで来る龍の顔面を回避し、胴体部分へと間合いを詰める弥生。

「女性を殴る趣味はないんだけど!!」
『もう“害獣”なので遠慮なく、どうぞ』
《ズゴッ!!》
あっと言う間に至近距離まで寄り、腹に拳を叩き込む。

『まあ効かないでしょうが』
「んだぁあぁあっ(汗)」
《ガシッ》
胴体は少し後ずさっただけで、平然と弥生の両腕を掴んで逃げられぬよう捕らえた。

龍の顔面がUターンし、背後から弥生を襲う!!

「悪いけど素人じゃないから」
《グンッ》
弥生は女の腕を中心に、素早く両腕を内回しに回転させ、自身の頭を抱えてしゃがみ、横へ転がった。

そのまま距離を取りつつ立ち上がる。

《ゴシャアッ!!》
「不審者に掴まれた時の対応は護身術の基本だもん」
龍の顔面は、標的を見失って胴体に喰らいついた。

『武器がないなら自滅を誘いますか、やりますね』
「アズ」
《ズパァアンッ》
その隙を突いて、アズラエルが龍の首を切り落とした。

切り口から、二人分の魂が立ち上る。

「これで任務終了・・・じゃないみたいだね!?」
『油断しないで下さい』
《グワァバッ》
魂は回収されたが、害獣は消えていない!!

胴体を負傷したまま、再び弥生に襲い掛かる!!

「何で距離的に近いアズじゃなく、僕を狙うの!?」
『弥生さんは“魂持ち”ですから』
《ズゴォンッ》
回避に徹する弥生を、アズラエルは助けない。

『寮の皆さんには見分けが付きませんが、“死神”になると“魂持ち”か“それ以外”かが分かるようになります』
「例えば“死神”や“死の天使”は“それ以外”なんだねっ」
《ガガガガガガッ》
顔面は床を噛み砕きながら弥生を追い回している。
〜結界内部〜

(敵は負傷中、武器は無し、アズは高みの見物・・・どうしようかな?)
「おっと」
《ズゴォンッ!!》
顔面だけになっても襲って来る龍を回避し、弥生は溜め息をついた。

「もう自滅は誘えないし、物理攻撃は大して効かないし」
《ドゴォンッ!!》
弥生は考え事をするのは好きだが、賢い訳ではない。

策を練るのは苦手である。

「・・・アズ。君の大鎌、僕には使えないの?」
『使えませんよ。これは“僕自身”ですから、僕を操れない限りは無理です』
アズラエルは笑顔で見守るたけだ。

「逃げ回ってコイツの体力を削ったら、死んだりはしないの?」
『生きていないので死にません。傷を負った状態で体力が削れても、気絶するだけです』
人間なら負傷して体力が削れたら死ぬのだが、そうは行かないようだ。

「気絶してら撤収、とかは?結界内に置いて行かれない?」
『可能ですが、いつの日か結界を破って人間を襲いますよ?』
「その時に誰かが対応すれば良くない?」
『その場合、我々が駆り出されますね』
《ゴシャアァアッ!!》
弥生は龍の顔面の突撃を全て回避し、面倒臭そうにしている。

「じゃ、未来の自分に賭ける方向で。今の僕じゃ太刀打ち出来ないよ」
『御随意に』
《ガゴォオンッ!!》
弥生は逃げ切るつもりらしい。

その場合、弥生の体力は保つのだろうか?

『・・・弥生さん』
「なぁに?」
ふと、アズラエルが口を開く。

『せめて“刀”を使う訓練は兼ねて戴けますか?』
「それもそうだね」
《バキバキボキッ!!》
弥生は攻撃を回避しつつ、“ペンダント”の飾りを握った。

(思い入れを持てば付喪神を実体化出来る、だったかな?)
「思い入れ・・・名前でも付けるか?」
《バゴォオンッ!!》
弥生は溜め息をついた。

(僕が弥生だから・・・“あの人”の誕生月を旧暦にして、お前の名前にしてあげる)
「・・・“神無月”、早く目を覚ましてね?」
《ドゴォンッ!!》
加速する顔面を、難なく回避し続ける弥生。

その時。

《キィイィンッ》
「え」
“刀”が、鳴った。

「な・・・わぁあっ!?」
《キンッ》
“刀”は“打刀”の大きさになり、勝手に鞘から抜き放たれた!!

驚く弥生の隙を突き、顔面が大口を開けて迫る!!

「ちょ、邪魔っ!!」
《ズパァアンッ!!》
迫った・・・のだが。

“打刀”を手にした弥生は、そのまま顔面を両断!!

一瞬程度の隙で負傷する程、機動力は低くないらしい。

《キンッ》
「アズ!?何これ!?どうなってんの!?ペンダントの飾りがデカくなったんだけど!?しかも切れ味が凄いよ!?」
『弥生さんは混乱しているのか冷静なのか、どちらです?』
きちんと納刀してからアズラエルに詰め寄る弥生。

『・・・名前を付けたのですね。それによって少しは思い入れが持てたようで、付喪神化が成されたのでしょう。但し、低級の』
「低級?」
アズラエルの言葉に、弥生が首を傾げた。

『大きさや形が変わるだけなら低級、意思を持つのが中級、人型に変化したら上級の付喪神なのですよ』
「そうなんだ?」
《パキィインッ》
アズラエルは結界を解いた。

『さあ弥生さん。面倒事は御免です。気配を消して会計を済ませて、店を出ましょう』
「え?あ、うん・・・」
アズラエルは弥生が振り向けないよう伝票の板で彼女の後頭部を押さえ、レジに向かった。

「アズ、あの三人はどうなるの?」
『元々死んでいた二人は心臓発作で死んだ事になり、婚約者は新たな人生を歩むでしょう』
少し後ろが気掛かりな弥生に、アズラエルは爽やかな笑顔で答えた。

「心臓発作か・・・っ」
「きゃあぁあっ!?誰かっ!!誰か救急車を呼んでぇえっ!!」
《ガシャーンッ》
弥生達が店を一歩出た瞬間、婚約者の悲鳴が店内に響いた。

『行きますよ弥生さん?』
「・・・うん」
いつの間にかペンダントに戻っていた“刀”を握り締め、弥生は足を早めた。

二人の、コンビでの初任務は、こうして幕を閉じたのだった・・・

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