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メトロン星人の本棚コミュの「ゴジラ対モスラ  レジェンダリー版 序章」

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1
 1832年 タスマニア

 タスマニア島はオーストラリアの南に位置する、北海道より小さい自然豊かな島である。
 この島にイギリスからの植民が始まったのは1803年、当時タスマニアに住む原住民アボリジニの人口は推定で5000人ほどであったが、1830年までに、500人までに激減した。
 白人の入植者たちはアボリジニを人間とは思わず、ハンティングの対象として殺戮、また女性は略奪し凌辱した。
 手向かう男たちは情け容赦なく捕え、裁判もせずに処刑していった。
 さらに入植者が持ち込んだ伝染病、天然痘や腸チフス、性病に対してアボリジニは、まったくの無力であった。
 海岸沿いにある多くの部族が次々と消滅していった。
 かれらは文字を持たず、食料が豊富な楽園に住んでいたため、権力をめぐる競争社会が存在しなかった。
 組織だって戦いを挑むという経験がなく、土地を所有するという概念がなかった。
 そのために白人の入植地に無断で入り込み、カンガルー狩りをしたり、鳥の卵や果物を取った。
 土地をめぐる小競り合いは双方の憎しみとなり、一時的な融和策も取られたが、結果として捕えて孤島に押しこめ餓死させる結果となった。
 1828年には開拓地に入り込むアボリジニをイギリス兵士が自由に捕獲し殺害する権利を保障する法律までできる。
 1832年は、アメリカでもインディアンと開拓民との土地をめぐる、ブラックホーク戦争が勃発、パリではレ・ミゼラブルで有名な6月暴動が起きた年である。

 タスマニア南西の広大な原生林の中にアボリジニの聖地があった。
 現在の世界遺産「フランクリン・ゴードン・ワイルドリバー国立公園」の奥地。
 貴重な南極杉や巨大なユーカリの森、そこには10億年前の自然がそのまま残されている。
 氷山で削り取られた異様なケイ岩の山々、そしてボタングラスの草原が広がり、そのボタングラスから出るタンニンが河や湖を赤く染める。
 そのアボリジニの聖地というべき岩山が、イギリスの軍隊に包囲されていた。
 立てこもるのはアボリジニの戦士達、そして女や老人、子供の姿もある。
 イギリス軍の指揮官は、総督から密命を受けていた。
 アボリジニ達が金を隠し持っている、それを奪い取れというのだ。
 オーストラリア本島で金の鉱脈が見つかったのである。砂金を持っていたのはアボリジニだった。
 川沿いの部族の子供たちが、砂金の粒で遊んでいるのを開拓民が見つけ、上流に案内させたところ金の大きな鉱脈を見つけたのである。
 オーストラリアに、たちまちゴールドラッシュが起こった。
 タスマニアにも金があるはずだと、総督は考えた。
 地元の漁師やアザラシ狩りの漁師達からも、アボリジニの聖地にはすごい宝が隠されているという噂が流れてきた。

 攻撃が始まった。
 イギリス軍が隊列を敷き、銃を構えつつ、ゆっくりと前進を始める。
 対するアボリジニの戦士たちは全裸に戦いのペインティングをして、雄たけびをあげながら槍を構えて襲ってくる。
 しかしその攻撃は組織だったものではないため、あっという間に撃ち倒されてしまう。
 まるで戦いと言うよりも、鹿狩り、いや完全に虐殺である。
 ついに聖地の入口というべき洞窟の前にイギリス軍が迫る。
 洞窟の前には、白い鳥の羽を飾った老人、アボリジニの長老、最後に残った忠実な戦士、その後ろには女や子供たちの姿がある。
 イギリス軍の案内をしてきた通訳のアボリジニが、降伏を勧めても彼らは頑として断った。
 突如、長老が両手を広げ高く掲げると叫んだ。
「モスラーーーモスラーーー」
 歌が始まった。アボリジニ達は立ちあがり体を寄せ合って天を仰ぎ、歌い始めたのだ。
 それは不思議なメロディだった。哀愁のあるメロディ、意味はわからなかったが、心に訴える力があった。
 兵士たちに怯えの表情が広がる、かつてこのような抵抗をアボリジニがしたことはない。
「彼らの神でも呼んでいるのか」
 兵士たちがざわめく、攻撃の手が止まった。
 これがなにか神聖な、犯すべからざる儀式のように感じたのかもしれない。
「歌うのをやめろ」
 指揮官が何度も警告したが、歌声は止まない。
 ついに発砲を命じた。
 銃弾は長老を打ち倒したが、歌声は消えなかった。
「撃て、撃て」
 何度も何度も発砲は続いたが、倒れてもまた立ち上がり、歌い続けるアボリジニ達。
 ついに最後のひとりが死に絶えるまで、その歌が絶えることはなかった。

 洞窟の入り口は血で染まった。
 そして松明を掲げて中に入ったイギリス軍の指揮官が見たものは、きれいに清められたケイ岩の洞窟。
 洞窟の壁には、極彩色の壁画が描かれていた。
 赤や黄色、緑、黒、原色に彩られた壁画には、カンガルーや人々の暮らしの様子。
 そして一番奥の壁には、大きな蝶の姿、そしてその下には大きな丸い円が描かれていた。
 金も財宝も、イギリス軍が求めているものは何もなかった。
「なんだこれは。金は、宝はどこにあるんだ。こんな壁画を眺めるために我々はやって来たのではない」
 どこを見回しても、想像していた金銀、宝石などは見当たらない。
「所詮は石器人か・・・とんだ無駄足だったな」
 イギリス軍の兵士たちは空しく引き上げていった。
 
 1876年に、タスマニアにおける最後の純血のアボリジニは死に絶えた。
 1920年、オーストラリア政府はやっと、先住民アボリジニの保護政策をはじめる。

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 2  2015年 南太平洋上 アメリカ海軍「サラトガ」作戦司令室

2014年、ハワイ、サンフランシスコを襲った大怪獣の戦いは、世界に深い傷跡を残した。
人的被害、都市、交通網、ライフラインの被害は天文学的な数字となった。
 世界中の株価が暴落し、深刻な経済危機が起こると思われたが、アメリカの大統領が行った復興への感動的な演説により、
 世界的な支援活動が巻き起こった。アジア、ヨーロッパ、アフリカ、中東、南アメリカ、オセアニア。
 それまでアメリカと敵対していたはずの国家すら、ゴジラという人類共通の破壊者に対して共に戦うことを申し出たのだ。
 ゴジラの前に、世界は初めてひとつになった。
 しかし、どうしたらゴジラを倒すことができるのか。人類最強と言われるアメリカの陸海空軍をもってしてもかなわなかった怪物なのである。
 そもそも、ゴジラはなぜムートー(MUTO)と戦ったのか、なぜあのような巨大な生物が、今よみがえったのか・・・
 敵を倒すには、相手を研究する必要がある。
 ゴジラとムートーを研究していた組織モナークは解体され、その権限と研究成果は新しく作られた国際機関に移譲された。
 芹沢博士とヴィヴィアン・グレアム、ウィリアム・ステンツ長官も、新しい組織でゴジラを追うことになった。

 ゴジラを追っていたアメリカ海軍の航空母艦「サラトガ」は、各国の派遣したフリゲート艦、補給艦、護衛艦と共に改めてゴジラ追跡、研究の本部となった。
 
「動き始めました」
 サラトガの作戦室で、モニターを見つめていた分析官が顔をあげた。
 ぎっしりと並ぶモニターやワークステーションの前には、軍服を着た分析官が何人も張り付き、データの入力と分析に追われている。
 照明の落とされた広い室内の中央にはバックライトに浮かび上がるテーブルマップ。
 そして最新のデータに基づき、ゴジラの位置と動きがリアルタイムで表示されていた。
「現在位置は、ニューギニアの東、ソロモン海を南下しています。このままだと数日でオーストラリアに上陸する可能性があります」
 テーブルマップには、最新のデータからゴジラの進路予測が表示されている。
 シミュレーションの矢印はゴジラのスピードと周辺海域の風速、潮流、水位、気象状況、確率データの変動に合わせて次々と変化する。
 そのデータは、警報となって進行方向にある船舶、上陸の可能性のある島々、大陸沿岸の都市に知らされ、人々の避難誘導の根拠となる。
 他にも軌道上にある数基の軍事衛星、原子力潜水艦部隊もゴジラを追っていた。
 まるで永遠に消えることない大型台風を監視しているようだ。
「ゴジラは地上最強の生物です。なにも恐れるものがない。いままでのケースでもまっすぐに目的地に向かっていた」
 芹沢博士が、テーブルマップを見つめながら発言する。
「ドクターセリザワ、ここ半年の間ゴジラの活動は限定的だった。海溝の底に潜み戦いの傷を癒すかのようにじっと動かなかった。これは何かの兆候だと考えるかね」
 ステンツ長官がたずねる。
 まわりでは、すでに迅速な対応が始まっている。
 広い作戦室にざわめきが広がり、多くのスタッフが対策マニュアルに基づいて動き出した。
「まだわかりません。ゴジラが目指すものは生物である以上、エネルギーの摂取、敵の排除・・・そして同種の仲間を見つけて生殖という可能性もある」
「最悪だな。こんなモンスターが増えるというのか」
 
短く刈り込んだ白髪、いかつい顔の長官の顔が苦笑にゆがむ。

「芹沢博士、オーストラリアには原発はありません。ゴジラが目指すとすれば北部のレンジャーウラン鉱山ですが、ゴジラは南下する可能性が大きいと思われます」
 モニターの前にいたヴィヴィアンが、最新の予測に基づく予測をはじき出した。
「このままだと、どこに向かうことになるね」
 ステンツ長官が、ヴィヴィアンにたずねた。
「進行方向別の確率では、オーストラリア南部シドニー近郊30%、タスマニア島北部80%です」
 芹沢博士はじっと考え込んでいた。何かが起きようとしている。
 ゴジラが目指すものは何か、それを確認しなければならない。
「ステンツ長官、ヘリをお願いしたいのですが、至急確かめたいことがあるのです」
 
 数時間後、芹沢博士とヴィヴィアンは、護衛のコンバットチームと一緒に輸送ヘリでタスマニアに向かっていた。
3  タスマニア、フランクリン・ゴードン・ワイルドリバー国立公園

 フランクリン・ゴードン・ワイルドリバー国立公園は、タスマニアの西部原生地域の中心部にある。
 近くには広大なゴードン湖、フレンチマンキャップと呼ばれる巨大な岩山、そして太古の熱帯雨林がどこまでも広がっている。
 芹沢博士達を乗せたヘリは、ゴードン川上流の自然保護事務所に向かった。
 密林の中央に開かれた医療用のヘリポートに着陸すると二人の職員が出迎えた。
「お久しぶりです、芹沢博士」
 タスマニアなまりの日本語で挨拶したのは20代半ばの青年、そして大柄な白人の男性だった。
「カズヤくん、元気そうじゃないか。お父さんが亡くなって残念だよ」
「その節はお世話になりました。こちらはこの事務所のブライアン所長です」
 芹沢博士は、所長とも挨拶を交わすと、すぐに本題に入った。
「山根博士が調査していた、例の洞窟について知りたいことがある・・・」
 
 ログハウス風の事務所の中、暖炉のある大きな居間で、熱いコーヒーを前に芹沢博士、ヴィヴィアン、そして山根カズヤ、ブライアン所長が資料を広げている。
 カズヤの父、山根博士は芹沢博士とは大学の同期であり、共に生物学、特に古代生物を研究する同志でもあった。
 山根博士は、30年前にタスマニアに移住し、研究を続けていたが現地のタスマニアアボリジニの酋長の娘と結婚。カズヤが生まれた。その後この地におけるアボリジニの伝説の研究を続けていたが、数年前に亡くなっている。
 研究はカズヤが引き継ぎ、その援助を芹沢博士が私費で行っていたのだ。
「ここが、アボリジニの聖地『インファント』と呼ばれている洞窟です。父は語り継がれてきたアボリジニの伝説から、この洞窟の秘密を探り当てました」
「ああ、私も聞いている。例の『モスラ』と呼ばれている巨大生物のことだね」
 カズヤはうなずいた。
「博士、それはなんですか。私も初耳です」
 ヴィヴィアンが驚きの表情を浮かべた。
「すまない、秘密にしていたんだ。この事を知っているのは私とカズヤくん、そして所長と数人のアボリジニだけだ」
 芹沢博士は、少し考えこむとコーヒーをすすり、語り始めた。
「私がモナークで『ムートー』の研究を続けているのと同時に、山根君もタスマニアで『モスラ』の調査を進めていたんだ。
ムートーは外骨格生物だ。単眼、複数の足を持ち、繭を作り羽を広げて飛行する、これは明らかに昆虫の特徴と言える。
2億7000年前のベルム紀は、現在より高濃度の放射能に覆われていた。
そこでは多くの巨大な昆虫や爬虫類が、生態系の覇権をめぐり、激しい生存競争を繰り広げていたのだろう。
しかしベルム紀後期の大量絶滅とそれに伴う放射能濃度の低下によって、かれらはほとんどが死滅し、生き残ったものも地下深く、または海底へと追いやられてしまった。
だが、第二次世界大戦の後、世界各地で行われた原爆実験が彼らを目覚めさせてしまったのだ。
そして1954年、ついに『ゴジラ』が蘇ってしまった。当時の軍関係者は原爆を使って殺そうとしたが、逆にゴジラを強化させることになってしまった。
モナークは、その後姿を消したゴジラを追った。
我々がフィリピンで発見した巨大な化石は、かつてゴジラであったはずの同種の生物、そしてムートーはゴジラに寄生する巨大な昆虫だったのだ。
ゴジラは体内に放射性物質を蓄積し、原子炉のような器官をもって、莫大な熱エネルギーを生成することができる。
いわば生きている原子炉と言ってもいい、ムートーもまた放射性物質をエサとして体内に蓄積しエネルギーに変換している。
ゴジラとムートーは、天敵同士と言ってもいい関係なのだう。互いに憎しみ合い戦う宿命の相手といえる。
だが、べルム紀に存在した巨大生物はゴジラとムートーだけではない。
他にも多数の巨大生物が存在した可能性があるし、その痕跡も見つかっている。ゴジラがいるなら、まだ生き延びている巨大生物がいてもおかしくはないのだ」
 ヴィウィアンが身を乗り出す。
「それがモスラなんですね。でもそんな巨大な生物の存在が、どうしていままでモナークに知られずにいたんですか」
「それは、モスラが卵だからです」
 カズヤが立ち上がった。
「これからご案内しましょう。インファントの洞窟へ」
4 インファントの洞窟

 カズヤと芹沢教授、ヴィヴィアンの3人はトレッキングの装備に着替え出発した。
 洞窟は山の中を5時間ほど歩いたところにある。護衛のコンバットチームには、秘密を守るため事務所に待機してもらうことにした。
 国立公園内の遊歩道は、歩くためのスペースが厳密に決められている。
 指定された幅50センチほどの道をはずれて越えて歩くことは禁止されている。もちろん脇にそれて植物を取ったり昆虫採集などは厳禁である。
 道を少し外れると、そこは10億年前と変わらぬ人間が手つかずの自然が残っているのだ。
 靴や衣服について持ち込まれる細菌や種などを排除し、まわりの植物や昆虫、小動物の生活環境を守るためには必ず守らなければならない。
 3時間ほど進むと、カズヤはわき道にそれた。
 わき道の入口はブッシュで巧妙に隠され、アボリジニでもなければ見分けることは難しい。
 そのままさらに2時間。目の前に小高い岩山が出現した、カズヤは振り向いて言った。
「ここが聖地インファントの入口です」
 ユーカリの密林の中に小さな広場があった。その背後にはケイ岩の岩肌がむき出しになっている。
 3人は荷物を降ろし、キャンプを設営した。迷彩色のテントを張り、装備を確認する。
 そして岩肌に開いた小さな穴から、洞窟へと入った。
 腰をかがめてしばらく進むと広い通路に出る。カズヤは壁を探るとスイッチを入れた。
 途端にあたりが青白い光で満たされた。LEDの照明が洞窟の奥へと続いている。
「おお・・・」芹沢教授とヴィヴィアンは驚きの声を上げた。
 まわりの岩壁には、色とりどりの壁画が描かれていた。
 カンガルーを狩る人々、森の動物たち、歌い踊る人々、長く続く洞窟の奥までその壁画は続いていた。
「アボリジニの芸術です。ステンシルで描かれた貴重な壁画です。約1万年前のものだと思われます」
「これは素晴らしい・・・・アボリジニアートの傑作だ」芹沢博士がため息をつく。
「研究のために洞窟内には照明が設置してあります。入口の細い通路もカムフラージュのために後で作ったものです」
「これは本当に世界遺産だわ。でもこれが誰にも知られていないなんて、残念ね」
 ヴィヴィアンも食い入るように眺めていた。
「アボリジニは、文字を持たない民族でしたが、この絵はかれらの歴史であり、生活であり、言葉でもあるのです」
 さらに通路を進むと、途中から粗く削った岩壁に変わった。
「この通路は、ここで行き止まりでしたが、壁を取り除くと新たな通路が見つかりました。この先にモスラが隠されていたのです」
 そして突然、広い空間に出た。ぼんやりと光るLEDライトの照明では、光は広大な闇の一部にしか届かない。
 しかし、ひんやりとした清浄な空気、キーンと張りつめた静寂、そしてなによりも圧倒的な空間の広がりが感じられた。
 カズヤが照明のスイッチを入れる。
 芹沢博士は、思わず息をのんだ。
 そこはドーム型の野球場といってもいいほどの大きさを持つ空間だった。
 5階建てのビルがすっぽりと入ってしまうほどの高さ、サッカーのグラウンドのような広がりのある平らな岩の広場。
 壁際にずらりと設置された多数の灯光器が、その中央にある巨大な物体に光を投げかけている。
 それはまさに巨大な卵、楕円形の白い球体、表面には薄い青の縞模様がある。圧倒的な質量感、自分たちがまるでアリにでもなったような違和感がある。
 芹沢は亡くなった山根博士から話は聞いていたが、まさかこれほどの大きさのものだとは、自分の目で見るまでは信じられなかった。
 呆然と立ち尽くす二人を置いて、カズヤは卵に近づいてゆく。
 その先には、小さな祭壇があった。
 壁画の描かれた岩壁、これは通路をふさいでいた本来の壁なのだろう。その前に祈りをささげる祭壇が設置してある。
 民族衣装を着た少女が二人、ひざまずいて祈りを捧げていた。
 すこし先にはさまざまな観測機器とモニターと発電機。これらはモスラの研究用に山根博士が運び込んだものだ。
 少女が立ち上がった。双子のアボリジニの少女である。
 
「トルニとカルニです。彼女たちはモスラの声を聞くことができます」
 カズヤの言葉に、双子達はかすかに微笑んだ。
 5 災厄の始まり

「モスラが、よみがえろうとしています・・・・」
 姉だと紹介されたトルニは言った。
「モスラにとって永遠の命を持つ卵から幼虫に変わることは、大変な危険を伴う行為なのです。でも、この地球に危機が迫っている。
人間だけではなく、この星の生物すべてが滅んでしまうような危機が訪れようとしています」
 トルニはカルニの手を握りしめ、目を閉じて心に浮かぶ声を必死に伝えようとしているかのようだった。
「何のことだね、カズヤ君」
 博士の顔に緊張が走る。
「芹沢博士、数日前からモスラの卵に変化が起こっているのです」
 祭壇のそばには観測用の機器が設置され、モニターには各種のデータが表示されている。
「超音波によるスクリーニングで内部の幼虫が動き出しているのが確認できます」
 そこには、モスラの胎動ともいうべき変化が、しだいに活発になっていく様子が現れていた。
「モスラは卵のまま、存在し続ける特異な生物なのです。卵のままなら死ぬこともなく、ひとつの命を永遠に生き続けます。
生殖し、子孫を増やして死んでゆく他の生物とはまったく違う存在なのです。どうしてそんな生物が存在するのかわかりませんが。
でもガイア理論のように、地球がある種の巨大な生命体であるとすれば、モスラはその意志を表現する存在なのかもしれません」
 カズヤが、そびえたつ卵を見上げている。
 自然界にあるはずのない未知の巨大な生物たち。
 しかしゴジラやムートーなど、常識をはるかに超えた巨大な生き物を見た今となっては、この双子の言葉も真実味を帯びてきた。
「博士、この子たちはどうしてこのモスラ・・・いや巨大な卵とコンタクトができるのですか・・・私にはとても信じられない事ばかりです」
 次々と現れる驚愕の事実を前に、ヴィヴィアンは混乱していた。
「ヴィヴィアン、このことは山根博士と私だけの秘密にしていたのだ。あまりにも特殊なケースだし問題が大きすぎる。この秘密を知っていたアボリジニたちは、1830年代に絶滅している」
「そう、ごくわずか生き残ったアボリジニの子孫が、細々と伝説として伝えてきたのです」
 カズヤは悲しそうな目で双子を見ていた。
「彼女たちの祖先が全滅したおかげで、モスラの秘密が守られたのだともいえます。悲しいことです」
 カズヤが、そっと双子に寄り添う。
「トルニとカルニは、私の幼馴染です。私が育ったアボリジニの部族では、代々モスラの伝説を言い伝えてきました。
その伝説の継承者がこの双子の家系なのです。妹のカルニは、生まれつき脳に障害がありコミュニケーション障害と診断されましたが、ある日突然、モスラと交信できるようになったのです。
私は一種のサバン症候群なのではないかと思っているのですが、ずっとカルニの世話をしてきたトルニには、カルニの心がわかります。
きっとモスラがカルニを使って、私たちになにかを伝えようとしているではないでしょうか」
 トルニが、もう一度繰り返した。
「モスラはよみがえります。この星に大きな危機が迫っています。モスラはそれに立ち向かおうとしています」
 芹沢博士がたずねる。
「それはゴジラのことかね、ゴジラがここを目指しているという可能性が高いが」
 トルニが、目を閉じカルニの手を握る。
「いいえ、違います。もっと恐ろしいもの・・・・それはかつて何度もこの星を襲った破滅的な災害、大絶滅の原因となった怪物です」
 トルニとカルニが、天井を指差した。
 カズヤが、コントロールパネルを操作すると、大型の灯光器が動きだし、遥か高みにある天井を照らし出す。
 その時、気が付いたのだ。
 大きな岩盤だと思っていた天井は、巨大な生物の一部だと。
 卵の上部には20メートルはありそうな大きな鍾乳石が何本も垂れ下がっている。
 だがそれは、石ではなく大きな昆虫の脚、そして天井の岩板は昆虫の羽、そして壁際には巨大な頭部が確認できた。
 そう、それは巨大な蛾の姿。体長は150メートル、広げた羽は250メートルから300メートルはあるかもしれない。
 あの巨大なゴジラやムートーよりも、さらに巨大な生物なのだ。まさに人の想像を絶する存在といえる。
 
「これが、モスラです・・・・卵を残した後、モスラは卵を守るように覆いかぶさり化石になりました。約6500万年前の事です。
 再び大きな災厄が訪れようとしています。ゴジラもモスラも、そしてわずかに生き残っているはずの仲間も立ち向かわねばなりません」

 
 突然、洞窟全体が揺れ始めた。
 細かな破片やチリが頭上から雪のように降り注ぐ。地震ではない。卵をモニターしている装置から警告音が鳴り響いた。
「いかん、モスラが生まれるのかもしれない。全員すぐにここから逃げ出すんだ」
 芹沢博士が、ヴィヴィアンをかばいつつ洞窟の入り口へと走る。
 カズヤは、トルニとカルニを抱きかかえるようにして走った。
 モスラの卵は振動を始めている。天井から大きな岩盤が崩れ落ち、モニターや灯光器を押しつぶした。
 トンネルの通路に逃げ込むのと、天井が崩れるのとは、ほぼ同時のタイミングだったろう。
 
 
 芹沢博士とカズヤ達は、インファントの洞窟から光あふれるジャングルのキャンプに戻った。
 ユーカリの密林からこぼれ落ちる陽射しは、ジャングルをやわらかな光で満たしている。
 時折、小鳥がさえずり、風が梢をゆらして吹き抜ける。
 芹沢博士やヴィヴィアン、カズヤや双子は無事だったが、機材やデータは何ひとつ持ち出すことが出来なかった。
 ほこりにまみれて、呆然と立ち尽くすしかなかった。
 まるで、今見た事がすべて夢か幻であったかのような錯覚におちいる。

 しかし、その静寂を破って、サラトガの作戦室から連絡が入った。
 ゴジラがタスマニアに迫っているという。
「やはり目的地は、ここか・・・・それとも」

 モスラの胎動はすでに始まっている。
 卵から巨大な幼虫が生まれようとしている。
 そして幼虫は、急速に成長し、さらに巨大化して成虫となる。
 この星を脅かす、災厄と戦うために・・・・・
 それは、もしかするとゴジラにとっても大いなる敵なのかもしれない。
 人類など、モスラやゴジラにとっては、なんの意味もない小さな存在であり、この星に一時の間はびこる、たかだか数百万年の歴史しかない生物なのだ。
 
 かつて2億年の大繁栄を誇った恐竜を絶滅させた怪物が、再び現れるというのか。
 人類が築き上げた文明、核兵器やコンピューターシステムなど、何の役にもたたないだろう恐ろしい存在。
 そして戦いによって激変する地球環境。
 果たして今の人類が持つ能力で、文明を存続させることが出来るのだろうか。
 いや、そもそも生き延びることができるのだろうか。

 芹沢博士は呆然と立ち尽くす。
 
「神よ・・・・・我々を、いや人間を救いたまえ」

 芹沢は、人間が信じるすべての神々、キリストやブッダ、アラー、そのほか思いつくすべての神々に祈ってみた。
 しかし、答えはない。

 ゴジラが、そしてモスラが守るべきものは、この星であり人類でないことは、明白な事実なのだから。

 
 


 あとがき

 この作品は、2014年に公開された「GODZILLA」の続編になります。
 と言っても、勝手に想像して書いているだけで、すべては私の妄想であります。
 どこからか「GODZILLA」の続編が作られる。キングギドラとモスラ、ラドンまで出るらしいぞ、なんて噂を聞きました。
 うわーーーー見たい、それは見たいでしょ。
 というわけで、ただただ妄想の世界に浸りきって書き上げました。
 ただ、こだわったのはモスラの設定、やはり今現代にモスラをよみがえらせるとしても、インファント島ではないな、と思いました。
 というわけで、いろいろ調べてタスマニア島に決定。
 悲惨なアボリジニの歴史まで、しっかり調べてきました。
 本当は、キングギドラとラドンも出したかったのですが、時間切れ。
 モスラの幼虫とゴジラの戦いも、妄想してました(笑)

 それよりも「GODZILLA」の続編を早く観たいなぁ。
 日本のゴジラもぜひ、復活してほしいところです。

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