笑
「琢磨さん！ 先、やってます！」と、元気な声は一個下の後輩、山瀬。
ベリーショートで綺麗な顔立ち。一見、美少年にも見える。いや、呑みっぷりはかなりオヤジだけどな。
つい目に付くデカイ胸以外はどうにもこうにも女とは……角度によってはいけてなくもないのだが、サークル内では残念女子の筆頭株。オヤジだからな。
その山瀬はここの店自慢の手打ち蕎麦をたぐりながら、いきなり日本酒かよ。
単位がヤバイほどの遅刻魔の山瀬。しかし呑み会の時だけは俺より早いことのほうが多いような気も。
「琢磨さん。呑まないの？」
座らないの、ではなく、呑まないの、とくる。そう。面子は２対２だが今日は合コンじゃあない。
「さて。青戸さんが到着したので、さっそくヒミツ会合を始める！」
と、青戸さんを意識した発言の多い赤城がまだ座らぬ俺を無視して号令をかける。
赤城。てめぇ、そこまで言うならさっさと青戸さん口説けよ。
そして当の青戸さんは赤城をスルー。
「山瀬先輩、ほんとお酒好きですね！ あたしはお酒ダメです〜」
おいおい。キミは未成年でしょうが……青戸さんは、二個下。というか、今年の新入生。
実は山瀬は一浪してるから、二年生だけど歳一緒。
残る俺たちは三年生。
全員、麺類大好きどものサークル『麺好（メンズ）』のメンバーだ。
んで。
その中でも特に蕎麦好きが集まったのが、この「蕎麦好き分会」。
こうして時々行っているヒミツの会合は既に三回目。
俺の生ビールと、青戸さんのマンゴージュースが運ばれてくる。
「蕎麦に乾杯！」と赤城の音頭の後、いっきに生ビールを流し込む。
くぅぅぅぅぅ。
この心地よい奔流は、季節を問わず喉に嬉しい。
いや、たまらん！
そこへ追い討ちをかけるかのように、店のご主人。
「あいよ、岩牡蠣ちゃん……っと、琢磨君！ 今週お初やないの？ 寂しかったわぁ」
このご主人がアホの坂田にそっくり。自称『関西出身』だけど同じゼミの関西人はニセモノ関西弁って言っていたっけ。
「ご無沙汰しててすんません……試験が……」
「気にせんとええねん。今日は解放されてきたん？」
「いえ、まだ、一番やばい語学が……」
「あかんあかん、頭ようなるＤＨＡたっぷりの鯵のタタキ食っとかんとあかんでー？」
「じゃあそれ、なめってください！」と、横から赤城。
「あいよ。なめろう一丁！」
相変わらず、勧め上手。
「な、なめろう！」横で山瀬が舌なめずり。
本当にただの呑み助オヤジだよ。こいつ。
「やーませ。ハァハァするなよ」
「だってぇ〜……琢磨さんだって、なめろう、たまらないでしょ？」
「うるせぇ。先輩の俺より先に呑みはじめやがって。遅刻しないのは呑みの時だけかよ？」
「あううう」
「おいおい、我が蕎麦好き分会の貴重な構成員をいじめないでくれ」
「まだ、いじめてないってば。これから。これから」
「あううう」
「だから、いじめるな、って……ただでさえ、主流派勢力ラーメン党がハバを効かせてるんだから……大事にしなきゃ」
「大丈夫。山瀬は根っからの日本酒党だから、蕎麦党からラーメン党にはならないさ。な？」
山瀬は岩牡蠣をつるりとやって、日本酒をぐびり。
目を細めて、静かに頷いた。
そして、しばし満足そうな顔で呆けたあと、ちいちゃい声で。
「……うどんも好き」と。
「それだ！ うどん好きも引き入れれば、主流派に対抗できるかも！」
赤城の目が輝く。
そこに、青戸さん。
「でもぉ。こないだ、蕎麦派とうどん派の議論は怖かったですぅ」
「そ、そうだよね。青戸さんの言うとおり！ ここは、我々だけで！」
ゲンキンなやつだ。
「赤城は青戸さんいりゃ充分だろ」と言うと、どもって反論。
どこまで本気なのか、ネタなのか。
あげくの果てに何を言い出すかと思えば。
「赤城じゃない！ ジョジョと呼べって言ったじゃねぇか！」
「ジョジョ？」
女性陣の声がかぶる。しょうがない。解説してやるか。
（続く）
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