梅雨が明けて間もないある日。まだ夏の実感も湧かない、そんな夕闇の中。コンビニを出ると外がまだ涼しいことに気付く。
コピー取ってる間に一雨来たのか……梅雨明け、じゃなかったっけ？
なんにせよ傘持ってきてないからあがってよかったよ。せっかくこんなに大量にコピー取ったのに。
そう。前期の試験はあと語学を残すのみ。
これからじっくり漬け込まないと！
そこへ急に、ポケットの中に響く仔犬の泣き声。
『ひゃん！ひゃん！ひゃん！』
この仔犬の名前はシルフィ。シルフィってのは風の精霊だか妖精だかの名前、なんだってさ。
風の精霊っていうより、風が吹けば飛びそうなチワワ。
うちで飼っている犬が大型犬なせいか、チワワとか見ると違う生き物にしか思えない。
いつだっけかな。俺の携帯が彼女の携帯にすり替わっていた。
「間違えて持って帰っちゃった♪」
なーんて言ってたけど。一時間後、携帯を返しに来た時「着メール音変わってるみたいよ？」だって……確信犯か！
機種が同じだと使い方がわかんなかったときに聞けるから、とか言って二人とも同じ機種にさせられたのまで大いなる前振りだったのかと思うと、ちょっと寒くもなる。
女は怖いぜ。
んで。内容は……と見てみたら。
『牡蠣食べたい。いいなー。』
こいつ、３日前にオイスターバーに行ったって言ってたどの口でそれ言うか？
で、簡単に、レス。
『ナマモノだから土産なし。』
いっつもいいもの食ってるくせに。
俺の彼女、野々宮優美（ノノミヤ・ユウミ）との関係は、その半分以上が幼馴染み。
会社の用事とかで旨いもの食いに行っては、食った旨いものを写メでわざわざ送ってくる。
俺は大学に進学したんだけど、彼女は親の圧力で短大。そして親が常務やってる会社でコネ採用。あの旨いもの食いまくりな感じは、きっと不当に給料たくさんもらってる。
最近の口癖は「おごってあげるよ。ほら私、働いてるし」って……俺の財布事情とは大違いだが、そこはあえて断るのがつまらんプライド。
……とか考えているからかも。
パチンコ屋の角を曲がり、そこでつい吸い込まれかけ……そうになったところを呼び止められた。
「琢磨先輩ぃ！ そっちじゃないですよぅ！」
このアニメ声は後輩の青戸さん。
まるでシャンプーの宣伝みたいに、長い髪をたなびかせながら走ってきた。
「今日のヒミツ会合はぁ、その先ですってばぁ！」
「やべぇ。見張られてるよ」
「違いますよぅ。あたしも遅刻なんです！」
この声と会話していると、どうも萎える。
でも「これがいいんだ」って、ダチの赤城……今日の主催者……は言うんだよな。
二人でパチンコ屋を通り過ぎる。
とんこつの匂いと焼肉の匂いが混じって俺たちを迎える。
このあたりは食い物屋が多い。しかもコッテリ、ガッツリ系ばかり。
だが、俺たちの目当てはそんなこの場所のカラーとは正反対。あの和風で地味目の看板。
地下へのびる階段をふぅふぅと下りてゆく。けっこう急なんだよな。
『なにいうてんの屋』
安いけど旨い穴場の店。俺たちのお気に入りの店だ……ったのに、ネットか何かで紹介されたらしく……店の扉を開くと同時にパチンコ屋の中かってくらいにうるさい喧騒が溢れて出す。
今じゃ呑みに来るのに予約しないと、だよ。
ああ……まったく。誰だよ、紹介とかふざけたマネしたの。
本当にこの店を愛するファンなら、店が荒れるようなことすんなよな。
ったく……
と、そこで。
「青戸さ〜ん！ 待ってたよ〜！」
と、店の中を走ってきたバカが赤城。
同じ大学で一番仲がいいやつ。しかもバイトも一緒。彼女より一緒に居る時間は長いかもしんねぇ。
「赤城せんぱぁ〜い！」と走ってゆく青戸さん。
おいおい、そんなサービスすると赤城の片想いがまたこじれるじゃないか。
いやいっそ付き合っちまえばいいのにとは何度も言っているのだが、赤城のやつ妙にオクテで。
肝心なことは言えないでいるから、一種の遊びか儀式みたいに受け取られているっぽい感じ。
あらら。
赤城君。手をひいて行っちゃったよ。それセクハラだから。っつーかそれなら正式に付き合えよ。
ツッコミを入れるために慌てて追いかけて……はじっこの席に着く。
男子二名。女子二名。一応断っておくが、合コンではない。
（続く）
次話→
一覧→ http://
コピー取ってる間に一雨来たのか……梅雨明け、じゃなかったっけ？
なんにせよ傘持ってきてないからあがってよかったよ。せっかくこんなに大量にコピー取ったのに。
そう。前期の試験はあと語学を残すのみ。
これからじっくり漬け込まないと！
そこへ急に、ポケットの中に響く仔犬の泣き声。
『ひゃん！ひゃん！ひゃん！』
この仔犬の名前はシルフィ。シルフィってのは風の精霊だか妖精だかの名前、なんだってさ。
風の精霊っていうより、風が吹けば飛びそうなチワワ。
うちで飼っている犬が大型犬なせいか、チワワとか見ると違う生き物にしか思えない。
いつだっけかな。俺の携帯が彼女の携帯にすり替わっていた。
「間違えて持って帰っちゃった♪」
なーんて言ってたけど。一時間後、携帯を返しに来た時「着メール音変わってるみたいよ？」だって……確信犯か！
機種が同じだと使い方がわかんなかったときに聞けるから、とか言って二人とも同じ機種にさせられたのまで大いなる前振りだったのかと思うと、ちょっと寒くもなる。
女は怖いぜ。
んで。内容は……と見てみたら。
『牡蠣食べたい。いいなー。』
こいつ、３日前にオイスターバーに行ったって言ってたどの口でそれ言うか？
で、簡単に、レス。
『ナマモノだから土産なし。』
いっつもいいもの食ってるくせに。
俺の彼女、野々宮優美（ノノミヤ・ユウミ）との関係は、その半分以上が幼馴染み。
会社の用事とかで旨いもの食いに行っては、食った旨いものを写メでわざわざ送ってくる。
俺は大学に進学したんだけど、彼女は親の圧力で短大。そして親が常務やってる会社でコネ採用。あの旨いもの食いまくりな感じは、きっと不当に給料たくさんもらってる。
最近の口癖は「おごってあげるよ。ほら私、働いてるし」って……俺の財布事情とは大違いだが、そこはあえて断るのがつまらんプライド。
……とか考えているからかも。
パチンコ屋の角を曲がり、そこでつい吸い込まれかけ……そうになったところを呼び止められた。
「琢磨先輩ぃ！ そっちじゃないですよぅ！」
このアニメ声は後輩の青戸さん。
まるでシャンプーの宣伝みたいに、長い髪をたなびかせながら走ってきた。
「今日のヒミツ会合はぁ、その先ですってばぁ！」
「やべぇ。見張られてるよ」
「違いますよぅ。あたしも遅刻なんです！」
この声と会話していると、どうも萎える。
でも「これがいいんだ」って、ダチの赤城……今日の主催者……は言うんだよな。
二人でパチンコ屋を通り過ぎる。
とんこつの匂いと焼肉の匂いが混じって俺たちを迎える。
このあたりは食い物屋が多い。しかもコッテリ、ガッツリ系ばかり。
だが、俺たちの目当てはそんなこの場所のカラーとは正反対。あの和風で地味目の看板。
地下へのびる階段をふぅふぅと下りてゆく。けっこう急なんだよな。
『なにいうてんの屋』
安いけど旨い穴場の店。俺たちのお気に入りの店だ……ったのに、ネットか何かで紹介されたらしく……店の扉を開くと同時にパチンコ屋の中かってくらいにうるさい喧騒が溢れて出す。
今じゃ呑みに来るのに予約しないと、だよ。
ああ……まったく。誰だよ、紹介とかふざけたマネしたの。
本当にこの店を愛するファンなら、店が荒れるようなことすんなよな。
ったく……
と、そこで。
「青戸さ〜ん！ 待ってたよ〜！」
と、店の中を走ってきたバカが赤城。
同じ大学で一番仲がいいやつ。しかもバイトも一緒。彼女より一緒に居る時間は長いかもしんねぇ。
「赤城せんぱぁ〜い！」と走ってゆく青戸さん。
おいおい、そんなサービスすると赤城の片想いがまたこじれるじゃないか。
いやいっそ付き合っちまえばいいのにとは何度も言っているのだが、赤城のやつ妙にオクテで。
肝心なことは言えないでいるから、一種の遊びか儀式みたいに受け取られているっぽい感じ。
あらら。
赤城君。手をひいて行っちゃったよ。それセクハラだから。っつーかそれなら正式に付き合えよ。
ツッコミを入れるために慌てて追いかけて……はじっこの席に着く。
男子二名。女子二名。一応断っておくが、合コンではない。
（続く）
次話→
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コメント(11)
昔、書いた小説の中にまんま「サムイハナシ」がありました。
「深き血の村」の半年後に書いた作品なので、およそ８年前ですね。
ということで、シャナ題で異例の連載ｗ
んで「サムイハナシ」ってお題に向き合うまでこれすっかり忘れていたのですが、登場人物の女子にアニメ声がいますな。
『オフ』にも同じ「アニメ声」な人が出ていますな……俺、引き出し狭っ！
どうでもいい情報ですが、ついでに。
アニメ声っぽい知り合いはリアルで居なくはないですが、あんまり交流ないんだよね。実はアニメ声の女子は苦手（というかちょっとイラつくｗ）。
だからキャラとしては実在の人物をモデルにしてはいない……んだけど……
次回、実在の漫画のネタを使っているよorz
またしばらくは、一日一話ペースで頑張るです。
嘘。
明日は呑み会なので、多分、休載。すいません。
「深き血の村」の半年後に書いた作品なので、およそ８年前ですね。
ということで、シャナ題で異例の連載ｗ
んで「サムイハナシ」ってお題に向き合うまでこれすっかり忘れていたのですが、登場人物の女子にアニメ声がいますな。
『オフ』にも同じ「アニメ声」な人が出ていますな……俺、引き出し狭っ！
どうでもいい情報ですが、ついでに。
アニメ声っぽい知り合いはリアルで居なくはないですが、あんまり交流ないんだよね。実はアニメ声の女子は苦手（というかちょっとイラつくｗ）。
だからキャラとしては実在の人物をモデルにしてはいない……んだけど……
次回、実在の漫画のネタを使っているよorz
またしばらくは、一日一話ペースで頑張るです。
嘘。
明日は呑み会なので、多分、休載。すいません。
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