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怖い話で眠れなくする!!コミュの添い着 後編

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一週間過ぎ、二週間過ぎた。
しかし記憶は一向に風化する気配を見せず、僕はいつまでも首を掴まれているように気が重かった。
三週間が過ぎた頃、僕はとうとう耐えきれずに祖父にあの日のことを話した。
祖父はもう80近かったし、話しても問題ないだろうという思いがあったのだった。
僕が話し終わると、祖父はいつになく厳しい顔になった。
意外な表情に僕は少し驚いた。
祖父はそのまましばらく僕の顔を睨んでいたが、やがて口を開いた。

「その男達は全部で五人だったのか?他にはいなかったんだな?」

意外な問いに僕は戸惑いながらもそうだと答えた。
祖父は厳しい顔をしたまま呟いた。

「五人では足らん。もう一人おるはず・・・」

僕は何のことかわからなかった。
祖父は深刻な表情を崩さぬまま僕に言った。

「学校を休んだうち一人は風邪ということだったな?」

僕はそうだと答え、ついでに大場は公園にいなかったと言った。
すると祖父は首をかしげながら

「そんなはずはない。そんなはずはない・・・お前その後は川の方見ずに帰ったんだな?」

僕が頷くと祖父はまた黙り込んでしまい、僕は不安のあまり泣きそうになった。
僕の表情に気付くと祖父は慌てたように笑顔を作って言った。

「いんや、お前はもう心配いらん。じいちゃんに任しとけ」

しかし祖父があいつらと渡り合えるとは思えず、僕の不安は消えなかった。


その次の日、祖父は隣町の知り合いに会ってくると言い残して出ていった。
そのまま祖父は夜になっても帰らず、両親は警察に通報しようかと騒ぎ出し、僕は祖父があいつらに殺されたんじゃないかと半ば信じ始めていた。
10時過ぎ、母親がまさに通報しようと受話器を取った時、祖父が帰ってきた。
普段かくしゃくとしている祖父が今はひどく弱々しく重病人のようだった。
その後僕は寝床へやられた。
両親は随分祖父を問い詰めたらしいが祖父は頑として口を割らなかったようだ。
祖父は翌朝学校に行く僕を玄関まで見送り、その時に

「もう何も心配いらんよ。全部済んだから」

と言った。
その後祖父は二度と僕にその話しはせず、僕も聞けなかった。
それ以来祖父は体調を崩し、入退院を繰り返すようになった。
そしてあの事件から三年後、いよいよ危ないとなって僕らは病室のベッドで祖父を囲んだ。
祖父は朝から長いこと眠っていたが夕方ふっと目を覚まし僕と二人にしてくれと言った。
両親が出ていくと祖父は僕を近付けて言った。

「俺はもう長くないけん、少し早いがお前にも教えておかないといかん。当事者だからな・・・あの日お前が見たのはな『添い着』だ」

「そいぎ?じゃあねってこと?」

「添える着物と書いて『添い着』だ。
ここらは昔一種の地霊信仰が行われておったんだ。
地霊、つまり大地に宿る精霊を崇めていたのさ。
じいちゃんの父さんの頃は町のほとんどが信者でな。
年に二回ほど山の上で儀式めいたお祭りをやっていたもんだ。
だが、次第に町の人も移り変わっていって寂れていったんだ。
だからじいちゃんぐらいの年のもんじゃないとこの事は知らんはずだ。
そう思っていたんだが・・・
まだやっている奴らがいたんだな」

「おじいちゃん、『添い着』って・・・?」

「うん、『添い着』はな、地を汚した時に地霊を野辺送りする儀式のことだ」

「???」

聞き慣れない言葉の連続に混乱した僕を見て祖父は弱々しく笑って言った。

「簡単に言うとな、何か汚いもので大地を汚してしまった時に、地霊の怒りを買わないように清める儀式のことだ。汚れた衣を新しいものに替えて地霊を空に送り出すんだ。そうして再び大地に戻っていただくというものだ。ドラマの殺人現場にされたことで大地が汚れたと考えた信者どもが『添い着』をしていたんだろう。お前の友達はそれを見たんだな」

そこまで言うと祖父は苦しそうに息を吐いた。
正直僕は祖父が話したことに理解が追い付かなかったが、今を逃してはもう聞けないと思い必死に祖父を見つめて訊いた。

「でも何であいつら・・・殺されちゃったの・・・?」

「『添い着』自体は特にどうというともないものなんだが、それをやるには一つだけタブーがあるんだ。儀式の最中部外者に見られてはいけないんだ。もし見られたら、地霊の怒りを収めることが出来なくなるんだ・・・」

祖父は言葉を絞り出すように続けた。

「そうなったらもう普通の『添い着』では駄目だ。本物を使わなきゃならなくなる・・・」

「本物?」

「ああ、『添い着』は中央に衣となる拠り代を置き、それを五人の男が囲んで呪文を唱えながら燃やすんだ。その時は目を反らさずに火が消えるまで衣を見つめていなくちゃならん。だから遠くから見たぐらいじゃ気付かれないはずなんだが、きっとお前の友達は物怖じせずに近付いて行ったんだろうな・・・」

僕にはその光景が目に見えるようだった。
負けん気が強く茶化すのが大好きな福田や辻田辺りが先頭を切って階段を降りていったんだろう。
或いは橋の側から飛び下りたのかもしれない。

「見られてしまった男達は、本物を使った『添い着』をせざるを得なくなった。驚いただろうな。昼間とはいえあんなとこに行く者はまずおらんだろうからな・・・」

「じ、じゃあ山口が衣に・・・」

「ああ、一番最初に捕まったんだろう・・・流石にそこでは燃やさずに息の根を停めて祝詞を唱えるだけにしたんだろうな・・・」

その後で山口は燃やされたんだろうか・・・

「他の三人も見られたからには逃がすわけには行かなかった・・・お前は『添い着』自体を見たわけじゃないし、神田の家の子だということで逃がしたと言っておったよ。じいちゃんの父さんは熱心な信者だったからな」

「あの人達に会ったの!?」

「ああ、昔熱心な信者だった家を訪ねてみたんだ。案の定、そこの親類の者だったよ。ひっそりと続いていたんだな。じいちゃんは父さんが死んだ後集まりに行こうとしなかったから・・・」

「でもあいつらは一人逃がしたって・・・」

僕は大場のことを訊いた。
彼は結局そのまま遠くの病院に入院したとかで二度と学校に戻ってこなかった。

「ああ、その大場くんというのはな、連中の中に知り合いがいたらしい。家の者が遠くに逃がしてしまったから手が出せなかったそうだ。一人だけ逃げ切れたのがおかしいと思ったが、知り合いなら手回しが早かったのも頷ける」

そこまで話すと祖父は苦しそうに咳き込み始めた。
僕は両親を呼び入れようとドアのところへ行きかけた。

「待て、まだだ。まだ言うとくことがある。お前のことなんだ」

僕はぎょっとして祖父を振り返った。

「あの時の男達の中の一人がな、お前も始末せんと『添い着』したことにならんと言い続けていたらしい」

それを聞いた僕の首筋に突然忘れていた感触が蘇った。

「それを他の者達が説得して思い止まらせていたらしい。だがなかなか言うことを聞かんでな。じいちゃんがやっと説得したんだ」

祖父はじっと厳しい表情で僕を見た。

「お前な、ここを出なきゃ行かん。将来は他の土地で暮らしなさい。お前は長男だから、ゆくゆくは旅館を継いでほしいと思っていたがそれも出来んようになった。お前のお父さんとお母さんはまだ若いから、子どもを作ることができる。じいちゃんがきちんと話しておいた。お前も納得してくれるな?」

鬼気迫る祖父の勢いに僕は大きく何度も頷いた。
それを見て祖父は満足そうに微笑んだ。
そして、ほどなく祖父は息を引き取ったのでした。

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