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真夜中のお茶会コミュの戯曲「運命の恋(笑)」

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落語原作シリーズ。
元は「短命」という艶笑ものでしたが、そこから離れ、かなり別のお話になりました。
私のリアルを知っている人は身内ネタで楽しめます。

最初のイメージは姉は中谷美樹か松雪泰子で、
妹は木村佳乃のつもりで書いてたのですが、
途中からとある舞台のニュースを見てしまい、
実際に姉妹役だった宮沢りえと松たか子が頭の中で喋ってましたw
やっぱり宛書きというのはイメージが作りやすいね。
安東は伊勢谷友介(か要潤)、ジュゲムが神木隆之介だったのは固定ですけど…w



  《登場人物》

アネ

イモート


長命(イモートの夫)...理系研究者



安東...映画監督

別府...証券会社サラリーマン

堂島...もと落語家の自営業。



堂島の妻

ジュゲム…長命の息子(中学生なので女性がやっても可)





  《舞台》

とある地方都市の山の上にある湖畔のペンション。
舞台中央に小さなテーブル2台といす4脚。正面奥にペンションの入り口。

コメント(12)

プロローグ


    テーブルについているアネとイモート。
    アネはTOEICと書かれた本を読んでいる。
    イモートは出かける仕度をしている。


アネ    (本を置いて)ねえ。

イモート  (動作やめずに)なに、おねえちゃん。

アネ     私、とうとう結婚するわ!

イモート   え、あの先生と?

アネ     もう先生じゃないわよ。卒業してもう随分経ったんだし、学校も辞めてうちのペン
       ション継いでくれるって!

イモート   まだつきあってたんだ。

アネ     え?

イモート   なんでもない。


    長命登場。


長命     こんにちは。

イモート   あ、長命さん、姉です。

アネ     え、あなたの彼?

イモート   そう。大学の先輩。今ドクターなの。

アネ     お医者さんなの?

長命     いえ、大学院の博士課程2年です。はじめまして。

アネ     へー、頭いいんだあ。チョウメイって苗字ですか?

長命     はい。長い命と書きます。

アネ     わー、長生きしそうなお名前ね。何の研究?

長命     えーと…。

イモート   じゃ、私たち出かけるから。(立ち上がる)

アネ     そう。あ、そういえばまだ聞いてないんだけど。

イモート   ああ、おめでとう。

長命    (何の事かわかってないが)おめでとうございます。

アネ     ありがとう。じゃ、いってらっしゃい。今度ドレス選びついてきてね!(立ち上がっ
       て退場)


    イモートにスポット。


イモート   なぜだか誰にでも好かれるタイプの人っていますよね。子供の頃から可愛くって人気 
       者で、ほっとかれないという。うちの姉もそんな人で、私の周りの人はみんな姉を好
       きになる。それから姉はなんていうんですか、恋愛体質っていうか。人を好きになる
       とその相手しか見えなくなっちゃうタイプですね。子供の頃はうちによく遊びに来た
       母方のおじが大好きで、後をついて回ってばかりでした。中学に入ってからは2年お
       きくらいに好きな相手が変わったけど、その度に「こんな気持ち初めて!」とか言っ
       てました。最近は高校の時の英語の先生とつきあってたのは知ってたけど、結婚する
       とは思わなかった。(スポット消える)

長命     どうしたの?

イモート   え、なんでもないよ。

長命     おねえさん、いつもあんなにテンション高い人なの。

イモート   え?あー、まあ常にだけど、結婚するって言ってるからね。

長命     ああ、そういうこと。ってか、おねえさん、君とは正反対だよね?今日は特に君のテ
       ンションが低いけど。

イモート   結婚するって言ってるからね。(小声で)だからあんまり会わせたくなかったんだ...。

長命     え?

イモート   いや、何年保つのかなーと。

長命     君って...意外と意地が悪い?

イモート   姉を見てるとどうも恋愛に対してシビアになっちゃって。

長命     ふーん、まあいいや。行こ。

イモート   うん。


    2人退場。暗転。 
第1幕 第1場

    結婚行進曲が流れるが、一瞬で不穏に途切れる。
    明るくなると、テーブルを囲んで飲んでいる安東、別府、堂島。

堂島     で、どうなの別府ちゃん、最近の株の動きは。どこが買いなの?

別府     デイトレーダーみたいにずっと見てるわけじゃないんだよ。業界ごとの伸びくらいな
       らわかるけど…。

堂島     なんだ、つまらんなー。せっかく同級生が証券マンになったんだから、投資でも始め
       ようかと思ったのに。こっちは退屈してんだよ。

別府     そりゃ、ちゃんと始めるって言うんなら資料揃えてから相談乗るよ。

安東     堂島、おまえ地元のが家族のためにいいっていうんで落語家辞めて実家継いだんじゃ
       ないのか。

堂島     そうなんだけどさー、もうだめだねここらは。安定感というか、将来性がない。安東
       はその点気楽でいいよな。今回だってロケハンで戻ってきたんだろ。

安東     まあね...。

    喪服姿の長命登場。
   
別府     長命どうしたんだよ、その格好...。

長命     すまん、急に身内に不幸があって。

堂島     おやじさんか?そんなの知らせてくれよ。そしたらおれらも...。

長命     いや、義理の兄なんだ。

安東     お前、弟しかいなかったんじゃない?

長命     えーと、奥さんの姉さんの旦那。新婚2年でポックリ。

別府     お前もまだ1年じゃないか。

堂島     えー、こわ!なんでまた?

長命     新婚だけど、結構年上だったしな。元教師と教え子だったらしい。

堂島     うわー、それはちょっとドキドキする話だな!

安東     うるさいよお前。

別府     手伝い足りてるのか?近いなら行けるぞ。どこだ?

長命     山の上のペンション、てか民宿だけど...親戚いっぱい来てるしだから抜けて来れた。
       せっかく月1の定例会に安東まで帰ってきたんだもんな。

堂島     ヨメの実家付き合いはなー、しんどいよなー。

長命     お前結婚何年だっけ。

堂島     もう8年よ。今年、下の子が幼稚園だ。

長命     早いもんだなー。今や安東はいっぱしの映画監督だし。ロケハンだって?

安東     うん。その山の上のペンションの辺りに行く予定。あの湖のそばだろ。

堂島     おお!あの湖のペンションって、そういや美人の奥さんがいるって有名だったよな。
       なんだ長命、お前あの人妻と親戚になったのか。

長命     義理の姉だよ。

堂島     うお、義理のお姉さんが未亡人になったわけだな。

別府     お前、いい加減飲み過ぎだよ。

堂島     やー、あれは確かに旦那がポックリ逝くのもわかるわ。「短命」って噺みたいだよな。

長命     なんだ、タンメイって?

堂島     お前とは正反対ってことだよ。短い命。まあ、おれにも縁はないけどな...。

安東     どういう話?
    堂島、舞台中央に椅子を持ち出し座る。(座布団を持ち出してくるのでも可)

堂島    (落語家の口調になって)えー、では、毎度馬鹿馬鹿しい話を…。昔ある所に、伊勢屋
       という質屋に、評判の器量よしな一人娘がおりまして。用もないのにそのお嬢さん目
       当てで行く客で店が繁盛するくらいいい女。それが年頃になって父親も亡くなってし
       まったということで婿を取ったんですな。安東みたいなイケメン婿さん。夫婦仲も良
       くて美男美女のお似合いカップルだった。ところが何年か経つと、その若旦那の顔色
       が日に日に青白くなっていき。どんどんやせ細って寝込んじまったんだが、幾月も経
       たないうちにポックリ逝っちまった。

安東     ふうん。

堂島     葬式が済んでしばらくすると、周りが未亡人になるには早いとまた二人目の婿養子を
       世話する。今度は丈夫が取り柄の男だ。今で言う美女と野獣だけど、仲はやっぱりや
       けに良かった。でもそのうちこいつも段々青白くなって、また寝付いたと思ったら
       ポックリと。

別府     ホラーなのか?

堂島     この話のミソは、傍にずっと奥さんがついてたことなんだ。いくら薬飲んでも、毒が
       傍にいるから治るもんも治らんわけよ。ヨメの器量が良すぎる、夫婦仲が良すぎる、
       夫が暇すぎる、ってのを俗に「三過ぎる」ちうてね。まあ亭主が短命でもしょうがあ
       んめえ、(普通の口調に戻り)っていうことよ。

長命     なんでそれが短命になるんだ?

堂島     お、話の続きとそっくりなこと訊いてくるな。だからな、たとえばヨメさんが風呂か
       ら上がってくるとするだろ。布団に入るといい匂いがする...となると短命なんだよ。

長命     うーん...んん?

堂島     そうでなくても、「おかえりなさいあなた、お風呂にするご飯にする、それと
       も...」ってな感じになるだろ?それで、エプロンの下は...。

安東     お前、それ現実にそうだったことがあるのか。

堂島     ないからうちは短命じゃないんだよ。むしゃぶりつきたくなるようないい女だった
       ら、ってことだ。

安東     むしゃ…。(やや引いている)

長命     いやー...。(想像もつかない)

別府     なんでそれが短命につながるんだ?

堂島     これだから素人童貞は困るよ。つまりさ、「新婚は、夜することを昼もする」ってこ
       とだよ。うちはここんとこご無沙汰だけどさ...。長命とこはまだ1年だしな。どうだ、
       長命なのに「短命」だったりするか?奥さんも姉妹なんだからさぞかし...。

長命     それぞれ父親似と母親似らしいから全然違うんだよ。

別府     昼に何をするんだ?

安東     堂島、たとえがわかりにくいよ。

堂島    (安東に)だって、そういう噺なんだからしょうがないよ。(別府に)だから、朝起き
       てもヨメさんがいい匂いしてたら...ってことなんだよ。(長命に)どっちがどっち?

長命     忘れた。でも両親は結構昔に亡くなってて、おじいさんに引き取られたんだって。

堂島     じゃあ身寄りが少ないんじゃないか!そのうちお姉さんを慰めるために、俺らの定例
       会に誘うってのはどう?

安東     やめとけ、お前妻帯者だろう。

堂島     女に不自由してないお前とは違うんだよ。むしろ、結婚した方が不自由だ。

長命    (一人で)おれは短命なのか?

堂島     しかし、この「短命」って噺には続きがあってだな。犠牲者が2人じゃ済まないんだ
       よ。

別府     え、それじゃ…。

    3人、堂島の方に身を乗り出す。
    暗転。
第1幕 第2場

    小鳥の声でライトオン。アネのペンションのカフェ。
    テーブルの上にクロスがかかり、調味料が乗っている。
    「しばらくお休みします」という看板。
    安東が一人で歩いてくる。
    奥から平服のアネが歩いて来る。

アネ     あ、いらっしゃいませこんにちは。

安東     いや、僕は違うんです。

アネ     あら、お客様かと思いました。

安東     映画撮影のロケハンのためにこの辺を回ってるんですよ。

アネ     そうですか、じゃあコーヒーでもいかが?

安東     え、でもお休みじゃないんですか。あの僕、長命の高校の同級生で。

アネ     そうでしたか。ええ、四十九日まではとにかくお休みしようと思ったんですが、長命
       さんのお友達で、しかもこの辺りを映画に撮って下さるなら大歓迎です!

    アネ、安東をテーブルにつかせ、コーヒーを持って来て隣に座る。
    歓談を始める二人。
    イモートが登場しそこにスポット。

イモート   姉と安東さんが仲良くなるのにそれほどの時間はかからなかった。姉の口から、それ
       まで聞いたことのない「トリュフ」とか「フェリー」とか、キノコや船みたいな言葉
       が出るようになったのだ。

    安東、退場。イモート、代わりにテーブルにつく。

アネ     トリュフじゃないわよ、トリュフォー。フランスの映画監督の名前。

イモート   おねえちゃん、映画と言えばハリウッドのラブコメか、踊る大江戸線ばっかりじゃな
       いの。

アネ     いいじゃない、趣味が変わったの。

イモート   趣味ねえ…。

アネ     それよりねえ!私、安東さんと結婚するわ!

イモート   ええ?まだ先生亡くなってから1年しか経ってないよ?そんなに急がなくても…。

アネ     だって、いつまでも悲しんでなんかいられないわ、ペンションだってそろそろ本格的
       に再開したいし。いなくなったおじいちゃんにも、よくこの土地を守ってくれって言
       われたのよ。安東さんも、映画でこの街をロケに使うから、ぜひともここを拠点にし
       たいって言ってくれたの!

イモート   あ、そう。私は聞いてませんけどね、そんな話。

アネ     大丈夫よ、安東さんがいるから!こんな気持ち初めてなの!(電話の音に立ち上が
       る)あ、安東さんかも!ね、一緒にドレス選んでちょうだいね!(退場)

イモート   ドレス、また着るの?

    暗転。
第1幕 第3場

    再び結婚行進曲が流れるが、一瞬で不穏に途切れる。
    明るくなると、喪服姿の別府と堂島、その妻がテーブルについて話をしている。
    同じく喪服姿の長命がやってくる。
    3人、同時に立ち上がる。

別府     この度は…。(全員深々と礼しあう)

堂島     なんでこんな事に?

長命     撮影中に、照明につまづいて一緒に倒れて下敷きになったらしい。

堂島     せっかくうまいことやって、撮影も順調だったってのに、惜しいことしたなあ。

堂島の妻   憎まれっ子は世に憚ってるのにね。

堂島     誰のことだよ。

別府     それで映画は?

長命     とりあえず代わりの監督が見つかるまでは製作中止だって。

別府     長命、お前こっちに帰ってくるのか?奥さんもう臨月だろ?

長命     うーん、俺はまだポスドクの配属先が決まってないから、とりあえず里帰りはしても
       らおうと思ってるんだけど、あいつが帰りたがらなくてさ。でもとりあえず出産まで
       はしばらくいさせてもらって、決まったら呼ぶことにしようかと。

    喪服姿のアネ、イモート(妊娠している)が出てくる。

アネ     本日はみなさんありがとうございました。お友達にたくさん来ていただいて、安東も
       喜んでると思います。

堂島     あ、あの、元気出して下さいね!男手で困ったことがあればいつでも言ってくださ
       い!

堂島の妻   そうですよ、私たちでお手伝いできることがあれば。

アネ     ありがとうございます。

別府     安東…来週クランクアップしたら東京で飲む約束だったんです。

アネ     私…私のせいなんです!前日あまり眠れなかったから、それで…。(号泣)

イモート   おねえちゃん。(アネを支える)

別府     すみません、いや、しかしそれはあなたのせいじゃないですよ。

長命     事故だったんですよ、おねえさん。

別府     気をあまり落とさないでくださいね。僕も何かあれば東京からすぐ駆けつけますん
       で!

    アネとイモート、退場。

堂島     ほんとに噺の通りになっちまった。

長命     安東は婿にきたわけじゃないよ。

堂島     でも、寝不足だったってことは、ずっと寝かせてもらえなかったってことだろ?(妻
       の顔を見て)ああ、おれはやっぱり長命だなあ。短いとはいえ、羨ましいぜ、安東!

堂島の妻   あんたがなんで長命さんになるのよ。

堂島     こっちの話だよ。(長命たちに)じゃあな。(妻と退場)

別府     長命…。

長命     ん?

別府     おまえ、気をつけろよ。

長命     なんで?

別府     次はお前かも…。(挨拶して退場)

長命     お前の方こそ気をつけろよ。(後を追うように退場)


    赤ちゃんの泣き声、明るくなるとテーブルで子どものおしめを替える平服のイモート。
    そこに平服のアネ登場。

アネ     ジュゲムちゃん、元気〜?

イモート   ええ、とりあえずおしめ替えたからしばらくはおとなしいでしょ。

アネ     それにしても、ジュゲムって、長命さんがつけたの?

イモート   おじいさんがね。名字が長命なんだから、もう充分だって私は反対したのよ。

アネ     まあ、元気に育つならいいじゃない。ね、ところでさ、あなたの使ってる化粧品って
       どこのだっけ?

イモート   ○○(実際に使ってるもの)だけど…使ってみる?紹介があると割引になるよ。

アネ     ううん、そうじゃなくて、会社が知りたかったの。自分が利用してるとこの株買うと、
       株主優待とかもいろいろあるでしょ?

イモート   別府さんから聞いたの?っていうか、おねえちゃんまさか、今から株でも始める気?

アネ     えー、株っていうか、デイトレードよ。

イモート   デイトレードは一日単位の取引なんだから、株主優待なんか関係ないでしょ。そんな
       ので大丈夫?素人がゲーム感覚で下手に手を出すと大損するよ。

アネ     あんただってやったことないでしょ。それにペンションだけじゃうちもそろそろやっ
       ていけないし、時間はたっぷりあるし、別府さんがいろいろ教えてくれるから大丈夫
       よ!そう、それからね!

イモート   なに、結婚でもするの。

アネ    (一旦絶句)やだ、先に言わないでよ!

イモート   まさかとは思ったけど…。だって、安東さんなくなってからまだ半年しか経ってない
       のに…。

アネ     もう百ヵ日も終わったわよ。だって、こんな気持ち初めてなのよ!お祝いしてくれな
       いの?

イモート   お祝いはするよ、でも、もっと近所の目とかもさあ…。

アネ     うーん、わかった。じゃ、とりあえず入籍だけにする。別府さんも会社があるしね、
       私が東京に行くわ。それなら周りもとやかく詮索しないでしょ?

イモート   え、じゃあここはどうするの?

アネ     昼間のカフェだけでもあんたがやっててちょうだい、それならジュゲムちゃんがいて
       もできるでしょ?週末にはなるべく戻ってくるから。じゃあ頼んだわよ!(いそいそ
       と退場)

イモート   え?え?

    赤ん坊、泣き始める。
    それを抱いて呆然としたイモート。
    暗転。
第2幕 第1場

    明るくなると、喪服を着てテーブルに座っているアネとイモート、長命。
    そこに同じく喪服の堂島現れる。

堂島     この度は、またなんでこんな…。

イモート   フグにあたったらしいです。

アネ     最近疲れてたから、精をつけてもらおうと思って…私のせいなんです!

長命     自分でさばいたんですか、おねえさん。

イモート   市場で買ったって。

堂島     にしても、とんだ悲劇ですなー。男手で困ったことがあれば…。

イモート   あ、ほんとに!お願いします。(長命を見ながら)なんせこの人は全然帰ってこない
       から…。

長命     飛行機で半日かかるんだから仕方ないだろ!(堂島に)ところで今日は奥さんは。

堂島     あ、その…。できちまって、3人目が。

アネ     まあ!おめでとうございます!うちもまたペンション再開しますし、いろいろよろし
       くお願いしますね。

イモート   おねえちゃん、帰ってくるの?…じゃあ、私、長命さんとこに帰る。

アネ     え、どうして?

イモート   だって、週末には帰るって言ってたくせに、全然帰って来なかったじゃない!長命さ
       んも仕事ばっかりだし、ずっと私一人で育児もカフェもやってきたの。もう疲れた!
       私、やめる!

    イモート、憤然と退場。長命とアネ、慌てて後を追う。
    残された堂島にスポット。

堂島     段々キャラも減ってきて、とうとう俺にもチャンスがやってきた。そんなわけで、わ
       れらがヒロイン、アネさんはペンションを再開したのですが、約4年で3人も死人の
       出たとこなんで、みなあまり寄り付きません。死人の出ない家はありませんが、いく
       ら何でも多すぎるよなあ…。(退場)

    暗転。
    小鳥の声でライトオン。アネのペンションのカフェ。
    テーブルの上にクロスがかかり、調味料が乗っている。
    スーツケースやリュックの大量の荷物を持った長命が一人で歩いてくる。
    奥からエプロンをつけたアネが歩いて来る。

アネ     あら、長命さん。お久しぶり!どうしたの、そんな夜逃げみたいな格好。

長命     いえ、夜逃げではないです。こちらで少々ご厄介になろうかと思いまして…よろしい
       でしょうか?

アネ     そりゃ、構いませんけど…。イモートたちはどうしたの?ジュゲムちゃんは?東京で
       一緒に暮らしてたんでしょ?

長命     はあ、それが、お恥ずかしいことに、配属先がこの近くに決まった途端、あいつが
       やっぱり帰りたくないと言い出して揉めまして。僕はもう、実家が遠くに引越してる
       から、ここでおねえさんと家族みんなで生活できればと思ってたんですが…。

アネ     あの子はもう、そうは思ってなかったってことね。

長命     はい。他に物件を探す余裕もなく来てしまったんで、ホテルもない町だし、堂島んち
       は3人も子どもがいるしなので、とりあえず荷物だけでも預かっていただければそれ
       で…。

アネ     もちろんですよ!そうだ、あなたしばらくここにいなさいよ。それで私も一緒にあの
       子を説得してあげるから。夫婦はやっぱりね、短い間に何が起こるかわからないから
       一緒にいなくちゃ。あの子はそれを知らないから意地を張ってるのよ。

長命     あ、ありがとうございます。

アネ     2年ぶりのお客様だから張り切るわね!あれ、3年だったかな…。

長命     それって、おねえさんが戻って来てからずっとですか?

アネ     そんなことないわよお。でもほら。一度別府さんと東京にいた頃、カフェしかやって
       なかったでしょ?だから、泊まれると思ってないお客さんのが多いのよね。別にイ
       モートのせいじゃないのよ。堂島さんの奥さんもたまにお茶しに来てくれてますよ。
       でも最近物騒な世の中だから、男の人がいてくれると安心だわ!

長命     あ、まあ昼はいませんけど、夜なら役に立つと思います…。

    2人、退場。
    イモートにスポット。

イモート   説得、と言ってもあの人からの連絡はなく、おねえちゃんからの電話だけ。今日は長
       命さんとこんな話をした、長命さんとどこへ行ったとか…。電話の度に声が弾んでる。
       あの人の研究内容とか、私も聞いたことがないのにどうしてそんなに詳しいの?また
       だ…。先生の時はTOEIC、安東さんの時はヌーベルバーグ、別府さんの時は株式
       投資。まさか、こんなことになるなんて!

   イモートの反対側のアネにもスポット。
   携帯電話を持っている。

アネ     もしもし?聞いてるの?

イモート  (慌てて落ちていた携帯を拾う)え、うん。

アネ     ね、だから、夫婦は短い間に何が起こるかわからないんだから。

イモート   本当にそうね。おねえちゃん、今、楽しいんでしょ。

アネ     え?

イモート   おねえちゃんは、私に電話をするためにあの人の話をしているの?それとも、あの人
       の話をするために私に電話をしているの?

アネ    (無言)

イモート   こんな気持ち初めてとか、二度と言わないでよね。

    イモート、電話を切る。
    同時にアネのスポットも消える。

イモート   夫婦は一緒にいなくちゃ、とおねえちゃんは言う。でも、私と一緒にいた時間より
       とっくにおねえちゃんの方が…。

    暗転。
第2幕 第2場

    夕暮れ時、買物帰りの長命が歩いて来る。
    反対側から仕事帰りの堂島が歩いてくる。

長命     よお、堂島。

堂島    (何か恨みがましい目で長命を睨む)

長命     どうしたんだよ。飲みにでも行くか?

堂島     お前、こっちに一人で帰って来たくせに、所帯じみてきたな。よそで新婚ごっこか。

長命     ええ?

堂島     噂になってるの知らないだろ。おまえとアネさんのこと。小さい町だからな。

長命     そんな、誰が。

堂島     当の本人さんだろうが。うちのヨメが茶飲みに行ったら、必ずお前の話が出てくるん
       だとよ。あの調子で、他の客にも話してるんじゃないのか?

長命    (無言)

堂島     ヨメさんとやり直す気がもうないなら、俺は何も言わないけどな。

    堂島、長命の肩をたたいて退場。
    長命にスポット。
    そのまま歩いて行くと、その先でテーブルに座っているアネにもスポット。

長命    (アネに近づいて)なんてことしてくれたんだ…!意味もわかってないのに、僕の仕事
       の内容まで他人に話してるのか、あんたは!

アネ     ごめんなさい、そんなつもりじゃ。

長命     じゃあ、どういうつもりだったんだよ。

アネ     だって、あなたがうちに来てくれて嬉しかったし。じゃあ、他にどんな話をすれば良
       かったの?

長命     こんな噂があるんじゃ、そりゃ、あいつも帰って来ないよ。

アネ     でも、私に任せてばっかりじゃなくて、ちゃんとあなたからもイモートに連絡すれば
       良かったんじゃない。

長命     ああ、そうですね。…じゃあ、僕はもう出て行きますから。

アネ     待って、そんな急に…。

長命     隣県で、大学にはちょっと遠いけどアパート見つけましたし。あなたは確かにほっと
       けない魅力がある…でも、いい加減、そういうの卒業してください。(退場)

    アネの方のスポットが消えると反対側にスポット、中年になった堂島がいる。

堂島     町中で噂ってのは言い過ぎたかな。そして長命がこの町を出てから、あっという間に
       十年が過ぎた。あの山の上のペンションは、もうやってんだかやってないんだかわか
       らない状態で、どんどん寂れていく一方。 同じようにアネさんもどんどん劣化が…
       いや失礼。なんだろうね、美人の方が年取った時の幻滅感て大きい気がするよね。一
       時は長命はじめ、友人どもを羨んだ自分が恥ずかしい。

    スポットが消え、荷物を持ったイモートが堂島の前に歩いてくる。

堂島     あれ?イモートさん?

イモート   あ、堂島さん。ご無沙汰してます。

堂島     うわ、ほんと久しぶりだね…。全然変わってないねー。

イモート   ええー、そんなことないですよ。息子も今年中学生だし。堂島さんこそ。

堂島     いや、うちももう一番上が大学生だから。そうか、ジュゲムくん、だったよね。長命
       も元気?確か、隣の県に引越したんじゃなかったっけ。今は三人住んでるの?

イモート   ええ、息子がね、今年中学受験失敗したから…東京の公立よりよく知ってる地元の方
       がいいかなと思って、あの人もこっちにいることだし。

堂島     そうだったんだ…。今日は?

イモート   姉のとこに、ちょっと。最近どうしてるかと思って。

堂島     ああ、喜ぶと思うよ。山の上まで行く人もめっきり減ってしまったし、俺も最近会っ
       てないから、よろしく言ってください。

イモート   ええ、それじゃ。(歩いていく)

堂島     イモートさん!

イモート  (立ち止まり振り返る)え。

堂島     良ければその…お茶でもどうですか。

イモート   ええ…。

    歩いて行く2人。暗転。
    夕暮れのアネのペンションのカフェ。
    テーブルの上に古ぼけたテーブルクロス。
    すっかりおばさんになってしまったアネがぼんやり座って、小鳥に餌をやっている。
    長命の息子、ジュゲムが堂島の妻と共に歩いてくる。
    
アネ    (ジュゲムたちに気づいて)あら、堂島さんの奥さんこんにちは。かわいらしいぼっ
       ちゃんね。下のお子さん?

堂島の妻   こんにちは。ジュゲムくんよ、あなたの甥御さん。

ジュゲム   こんにちは、おばさん。

アネ     え、えー!あのジュゲムちゃん?大きくなって!ほんと久しぶりね。一人で遊びに来
       てくれたの?お父さんお母さんは?

堂島の妻   お母さんと駅ではぐれちゃったんですって。それで、お連れしたの。

アネ     そうだったの。ありがとうございます。その荷物はどうしたのかしら?まさか今度こ
       そ夜逃げ?

ジュゲム   いえ、夜逃げではないです。こちらで少々ご厄介になろうかと思いまして…よろしい
       でしょうか?

アネ     まあー、小さいのにお父さんそっくりねえ!

ジュゲム   今度中学生です。こっちの学校に入学することになったんです。父に連絡したら迷子
       になったらおばさんのとこに行ってなさいと言われたんです。

アネ     そうなの。そりゃ、構いませんよ、いつまでいてもらっても。大歓迎!そうだ、あな
       たしばらくここに泊まっていきなさいよ。お母さん来るまででもいいけど、入学式は
       まだ先でしょ?

ジュゲム   あ、ありがとうございます。

アネ     8年ぶりのお客様だから張り切るわね!あれ、9年だったかな…。最近カフェも開店
       休業で、話し相手も減っちゃったしねえ。(堂島の妻を見る)

堂島の妻  (今まで興味深く聞いていたが)じゃあ、私はそろそろ…。あ、そういえばうちの人見
       ませんでした?もうとっくに帰って来てるはずなんだけど。

アネ     いいえ、最近めっきりお見かけしません。

堂島の妻   そうですか、それじゃ失礼しますね。(小声)十年前ならまだしも、あの人がもうこ
       こに来ることはなさそうよね…。(退場)

アネ    (堂島の妻に会釈)

ジュゲム   開店休業って、父が出てからずっとですか?

アネ     そんなことないわよお。何年か前は肝試しとかで来る若い人がいたんだけどね。幽
       霊ってか、こんなオバサンしかいないから。さて、夕飯は何が食べたい?

ジュゲム   いえ、そんな、出していただけるなら何でもいいです。宿泊代も、おこづかい持って
       来てますから…。

アネ     え、そんなものいいわよ、可愛いジュゲムちゃんが遊びに来てくれたんだもの。

ジュゲム   おばさん、「ちゃん」づけはやめてもらえますか…。もう中学生なんで。それにして
       も、十年間もお客が来なくて生活できてたんですか。

アネ     心配してくれるのね、優しい坊やね。大丈夫、うちにはね、おじいちゃんの埋蔵金が
       あるんだから。お母さんにもお父さんにも内緒よ?

    と話しながら2人退場。暗転。
第2幕 第3場

    小鳥の声でライトオン。アネのペンションのカフェ。
    テーブルの上に真新しいテーブルクロスと調味料。
    以前のように身なりをこざっぱりとしたアネが、看板を塗り直している。
    ペンションの中から、漢文を読むジュゲムの声。
    荷物を持ったイモートが登場。それに気づくアネ。

アネ     あんた…。どうしてたの、今まで。

イモート   おねえちゃん…。ごめん、あの子のことお願い。

アネ     どういうこと?(イモートをじっと見て)…あなた、恋してるのね。

イモート   うん…。こんな気持ち、初めてなの。

アネ     この恋がないと生きていけない気がする?

イモート   うん。おねえちゃんの言ってたこと、やっとわかった。

アネ     わかった。じゃあ、行きなさい。誰にも言わないでおく。

イモート   ありがとう。…長命さんは?

アネ     まだ来てないわよ。

イモート   てっきり、続いてるものかと思ってたわ。

アネ     そんなこと、ずっと前に卒業したの。

イモート   そう…。じゃあ、もう行かなきゃ。

アネ     気をつけて、行ってらっしゃい。

イモート  (アネの手を握って)おねえちゃん、今まで、ごめんね。私、まだ卒業できない。

アネ     いいのよ。

    イモート、退場。反対側から、長命と堂島の妻が現れる。

長命     ほんとなんですか、堂島がペンションの方に行くのを見たって。

堂島の妻   ええ、間違いないです。イモートさんももしかしたら一緒かも。

長命     いやあ、それはないでしょう…。ここのおねえさんならわかるけど…失礼。

堂島の妻   いえ。でももうアネさんもすっかり老け込んじゃったから…。あなたもぱっと見じゃ
       もうわからないかもよ。

アネ    (2人に気づいて)あら。

堂島の妻  (また変わっているアネの容貌について驚く)

長命     あ、ご無沙汰してます。ジュゲムがお世話になりまして…。

アネ     ああ、長命さん、お久しぶりです。もう明日はジュゲムちゃんの入学式ですよ。堂島
       さんも、こんにちは。

堂島の妻   こんにちは。あの、難しい本読んでるの、ジュゲムくん?

アネ     そうですの。なんですか、最近の子どもの勉強もすごいんですねえ、小学校から漢文
       とか読んじゃうみたいなの。

    一同、耳を澄ます。

ジュゲム   「少年、老い易く、学成り難し」。

一同    (吹き出す)

アネ     まあ、中学受験がダメでも高校があるし。お父さんがなにせ博士さんだから、きっと
       ジュゲムちゃんも理系に進んだ方がいいと思うのよ。医学部にだって、工学部にだっ
       て行けるでしょ。

長命     そうですか、ところで、あいつは来てますか。

アネ     いいえ、まだ来てないわねえ。連絡も寄越さないし、ほんとどうしたのかしら。

堂島の妻   うちの…。

アネ    (遮って)いいえ、最近ほんとお見かけしませんよ。どちらに行かれたんでしょうね。

長命    (堂島の妻に)やっぱり見間違えじゃないですか。

堂島の妻   そうですか、それじゃ…。(2人に会釈して退場)

アネ    (後ろ姿を見送りながら)ずっと一緒にいてもダメな人たちもいるのねえ。

長命     え?

アネ     ううん、なんでも。さあ、これからジュゲムちゃんのお昼を作らなくちゃ。あなたも
       食べて行く?

長命     あ…はい。

    2人、ペンションの方へ。

アネ     ジュゲムちゃんはね、まだ背が小さいけど、これから大事な成長期だから、カルシウ
       ムとかたんぱく質とか必要だと思うの。だからこれからは、近所の牧場で毎朝しぼり
       たて牛乳も届けてもらうことにしたわ。

長命     …どうやら短命からは逃れたみたいだ…。

アネ     なあに?

長命     いえ、なんでもありません、おねえさん。

    2人、奥に向かって退場。
    幕。(音楽は自由に)
                                (了)   

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