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セラニンコミュのパリスダール

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 パリスダールは自分を東方三賢人の誰かの一人だと信じていた。三人の名前は知っていたけれど、それはきっと伝承をあのアホたれのパウロが間違えたものだと信じていた。パウロによるほとんどの伝承を信じていないパリスダールは、けれど三賢人の存在とジーザスの奇跡についてだけは信じていたから自分こそがジーザスの奇跡によって現代に蘇った東方三賢人の一人だと信じて疑わず、大学では神学を学ぼうとしたけれど、学力が足りずにどこの大学にも受からなかった。
 パリスダールはラテン語を饒舌に話そうとラテン語の本を買ってきた。なぜラテン語なのかは分からなかったけれど、やはりラテン語だろうと思った。なぜならパリスダールは賢者なのだ。ラテン語とギリシャ語程度は分からなくてはならない。
 パリスダールはそのようなことを言って、両親を説得し、一人上京して東京の多摩地区に居座った。近くに協会がある場所に住んだ。
 パリスダールが19歳になったとき、両親が死んだ。
 パリスダールのねじはそこできれいさっぱり吹っ飛んでしまった。

 パリスダールはギリシャ語とラテン語を学ぶことに困難を覚え始め、二つの言語をあわせてこそ始めてインテリゲンチャであると信じて四種類の辞書を一ページずつ切り離して乱数表を用いながら四つをきれいにランダムに編集しなおし、「真にインテリゲンチャ足るべきもの言語の辞書」と称してそれの勉強にとりかかった。
 ラテン語とギリシャ語と日本語が複雑に混ざり合ったその本は、しかし乱丁レベルであってパリスダールには退屈であり、パリスダールは三ヶ月ほどでその因果関係をすべて覚えてしまうに至って、そこで活字一つ一つを切り離し始めた。紙で切ると裏と表で文字がずれる。
 故に1ページずつコピーをとってから文字単位で切り離した。その作業には全部で二ヶ月かかった。パリスダールは10キロ痩せた。
 パリスダールの食事は質素なものだった。パリスダールはワインを飲み、パンを食べた。なぜだか分からないが、ジーザスと縁のあるものしか食べないことが彼にとってのすべてであった。
 パリスダールは辞書の編集を始めた。パリスダールの手元には信じられないほどの活字が置かれ、それを張るべき巨大なスケッチブックの山が置かれた。活字一つ一つに番号をつけて乱数表で辞書をつくろうとも思ったけれど、活字は多すぎた。原始的な方法ではあるが、パリスダールはくじ引き方式をとることとした。ワインの空き瓶を3ダース用意し、その中に36等分した活字の紙切れを入れ、ビンには36の番号を振った。
 そして、1〜36の番号の決め方はこれもくじにした。ワインの小瓶の中に1から36までの数字の書かれた紙をいれ、ビンをふり、出た番号のビンをふり、それを無限に繰り返してパリスダールは辞書を作った。
 日羅辞書 羅日辞書 希日辞書 日希辞書 四つの元素からパリスダールはインテリゲンチャの聖典を作り上げようとした。

 その作業には6年を費やした。一度のくじで6枚以上のくじが出るとやり直しをすること、それがパリスダールが自らに定めたルールであった。6は獣の数字。それはジーザスの教えにあっただろうか。

 6年後、「インテリゲンチャの聖典たる世界を包含し得る辞書」はパリスダール編として刊行された。父と母の遺産のすべてを使った。
 本は、二十六冊売れ、971冊売れ残った。1冊は協会に寄付し、一冊は両親の墓に置き、一冊でパリスダールは勉強をし始めたのだ。
 パリスダールは東京に来て7年、ついに勉強を始めた。真のインテリゲンチャになるために。

 パリスダールの辞書の読解は難解を極めた。それもそのはずでそれは日本に存在する様々な活字とアルファベットの羅列に過ぎなかったからであった。それは辞書ですらなかった。それで何をいかに勉強すればいいのか、まずはその命題こそがこの賢者に与えられた最初の難問であった。自らを三賢人の一人と称するパリスダールではあったが、その問題を解くのに3日間かかった。
 パリスダールは理解した。それはすなわち、人工言語の創出である。パリスダールはこの難解きわまる乱数表であるかただの文字化けの集合体であるインテリゲンチャの聖典からランダムに二つの部分を選び、その前者を単語とし、その後者を意味とすることに決めた。
 「αか但φλのけ。合」は「そcηあ,wイ今弧」を意味した。
 そうやって辞書を二次的に分解するのにさらに乱数的にランダムに非恣意的に切り出すことで、パリスダールはインテリゲンチャの聖典を「解釈」した。
 「インテリゲンチャの聖典たる世界を包含し得る辞書」を購入した学生や暇人や学者や精神科医たちは、五週間以内に全員が自殺ないしは精神に障害をきたしていた。「インテリゲンチャの聖典たる世界を包含し得る辞書」はちょっとした騒ぎになり、売れ残りの本はすべて売れ、被害者は増えた。

 パリスダールは生き残った。その意味で、パリスダールは賢かった。乱数から意味を作り出した。それはミケランジェロが大理石からピエタの形を取り出すのと同様であった。

 パリスダールの辞書は新たなる形となった。それは「インテリゲンチャの聖典たる世界を包含し得る辞書 第二編」として発売された。今度は100部刷ってあっという間に売れきった。そしてある出版社の男がパリスダールの元を訪れ、その出版社が残りの版権を買い取った。
 かくして「インテリゲンチャの聖典たる世界を包含し得る辞書 第二編」はとある出版社から奇書中の奇書として発売され、ベストセラーとなった。
 人々はインテリゲンチャになりたがっていた。目の前に自らを三賢人の一人と称する男の書いた奇書があり、いかなる分野の専門家であっても解読できぬとあっては、もし自分が読むことが出来たならば、理解しえたならば、自分は世界最高の頭脳を持つのではないかと思う愚民が多数いた。たくさんの本が売れた。
 そしてたくさんの人が発狂し、その3割が自殺した。マスコミは狂喜し、版元の小さな出版社も喜び、葬儀屋も精神科医も喜んだ。とある精神科医はこの本に書かれていることと被害者たちの行動は無関係としか思えないと発言した。「インテリゲンチャの聖典たる世界を包含し得る辞書 第二編」の意味を理解できる人間などいなかったから、因果関係もくそもないのだ。意味のない文章は人を殺しうるか。大きな議論がおき、文学者でいままでずっと飯も食えない貧乏暮らしをしていた人々が急に脚光を浴び、世界は徐々に自らのねじをはずしていった。

 パリスダールは世間の騒ぎをよそに一人勉学に励んでいた。辞書の単語の意味をもう一度考えていた。

 そしてある日、パリスダールは気づいた。この辞書にはただひとつ、日本語で発音したとき、意味を持つ文字列が存在していた。
 「γーm髭&τT」は、「しヲ以つ手句ル視見〜奪ス」を意味していた。パリスダールはその単語をしばらく見つめ、意味をしばらく見た。
「死を以って苦しみから脱す」
 パリスダールはつぶやいた。
 「γーm髭&τT」という単語が世の中に存在するとは思えなかった。その意味を知った人々が、インテリゲンチャたるにはどうなるべきであろう。
 その翌日、ある言語学者が「γーm髭&τT」を見つけた。彼はいままで冷や飯を食わされてきた学会に怒りを抱いていた。いつかも奇書の騒ぎのときにマスコミに担ぎ出され、そして偽者だと捨てられた記憶があり、メディアを嫌悪していた。彼は悪意を持っていた。
 そして彼の弟はテレビ局に勤めていた。彼はある日、サブリミナルで「γーm髭&τT」という単語を流して欲しい、と弟に頼んだ。兄弟仲は良くなかったが、弟は一度妊娠した恋人の中絶費用を借りていたため、兄に借りがあった。
 そしてその日、日本中の人が見るある番組にその単語は流された。

「γーm髭&τT」

 パリスダールはテレビを持っていなかった。故にその騒ぎもしらなかった。パリスダールは「γーm髭&τT」の意味についてずっと一人で考えていた。脳内で、パリスダールは自由に賢者だった。
 協会の鐘が鳴っていた。ひどく大きな音だった。
 その日、テレビを見ていた人間の8割がその文字を認識した。そしてそのうちの3割はその文字を見たことがあった。そしてさらに2割はその言葉を辞書で引いた。「インテリゲンチャの聖典たる世界を包含し得る辞書」。

 その日、自殺者の数は108万人に上った。

 パリスダールは今日も勉学に励んでいる。言語学者は弟ともに逮捕された。今、日本の注目は、裁判所が、あるいは様々な専門家だか科学者だかが「γーm髭&τT」という単語に致死性を認めるか否かであった。

 パリスダールは賢者である。パリスダールは自らの学問に打ち込むために、その第一弾の準備として辞書を作り、それによって広島に投下された核弾頭の数倍の人を殺した。
 しかも、自らはまったく手を下さず。

 パリスダールの名が歴史に記されるのには、いま少し時間がかかる。

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