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BDについてもっと知りたい!コミュの『Hors Jeu(オフサイド)』

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 ワールド・カップ2006も佳境に入り、ついにベスト8が出そろいました! 予選で不振だったフランスも強豪スペインの無敵艦隊(古い?)を見事に撃沈しました。ということで、このサッカー漬けの日々、絶妙のタイミングで椿屋さんから教えていただいたBDをご紹介します。椿屋さん、ありがとうございます! Patrick Cauvin(パトリック・コーヴァン)という小説家が原作、Enki Bilal(エンキ・ビラル)が作画を務め、1987年に autrement(オートルマン)という出版社から出された『Hors Jeu(オフサイド)』がそれです。これ、厳密に言うとBDではなく、横長の版型、左ページにコーヴァンによるテクスト、右ページにテクストと関連したイラストという構成になってるんですが、エンキ・ビラルが挿絵を描いているので、ほぼBDと見なすことにします。
 普通のストーリーものではないので、要約が難しいんですが、基本的な枠組みは、かつてサッカー中継のアナウンサーだった語り手 Stan Skavelicz(スタン・スカヴェリック)が、「デルタ・ワーク・3」というテレビ局の依頼を受けて、今は無き(!)サッカーというスポーツの消滅の過程を辿るというもので、言わばサッカーの架空の歴史という感じでしょうか。『火星年代記』に倣って、『フットボール年代記』とでも名づけたくなるような雰囲気を持っています。まず、スカヴェリックのモノローグがあり、その後は、イレブンということなのか、全11章から成っていて、かつての名選手の姿や観客などサッカーを巡る環境の変化、その後のサッカーを変えることになったルール改正などが、多くの場合、陰惨なエピソードを伴いつつ、もっともらしく語られていきます。例えば、一番最初の「Wansa Sidrons(ワンザ・シドロン)」という章では、同名の名選手がフィジカル・チェックを装った痙攣誘発剤の投与によって、試合中に倒れ、その後、命を失う様が語られ、次の「Ordonnance 20-27(20-27条例)」という章では、観客の暴徒化(1試合で127名の死者なんてことも!)や選手同士の諍いから生じた大量殺人事件をきっかけとして無観客試合が完全義務化される顛末が語られ、第3章にあたる「Berthold Kajeski(ベルトルド・カジェスキー)」という章では、選手の視床に電極を埋め込むことで、ミスを犯した選手に刺激を与え、それを通じてミスを少なくしていくという Punishment Flash(パニッシュメント・フラッシュ)という技術の開発、導入初期にベルトルド・カジェスキーという選手を襲った悲劇が語られ……、という具合に我々の時代の後のサッカー(文字通り命を賭けた戦い!)の歴史が様々な局面から露わになっていきます。
 面白いのは、本の裏表紙に本編では語られていない(と思われます…)サッカーの歴史が述べられていることで、そこんところを訳してしまうと、「075年、上層部はサッカー・ボールの使用廃止を決定した。この瞬間から、選手自身のゴールへの突入が目的となる…/ 『フット・ボール』という言葉は消滅した… この言葉はもはや新しいスポーツの名にそぐわなかったのである。私はそのことを記憶しているわずかな人間の1人であろう… 残念なことだ… それは実に美しいスポーツだった…」という感じです。冒頭にあるように、もはやサッカーはなくなってしまったんですね。しかし、全く救いがない訳ではなく、全11章の後に、語り手スタン・スカヴェリックのモノローグが再び置かれていて、散歩に出た彼は、誰が教えたのか、空き地で瓶をボールに見立ててサッカーをする子どもたちの姿を見かけ、サッカー無き世界にあって一縷の望みを見出します。
 一種のアンチ・ユートピアものとも言えると思うんですが、暴力化・技術化したサッカーを嘆くことで、間接的に現代のサッカーへの愛を表明した作品と言えなくはないかもしれません(笑)。上でもちょっと紹介した第2章「20-27条例」の次のような一節が、そんな気分を示しているような気がします。「ユービック・カメラ(偏在カメラ?)や選手がプレイしている瞬間に見ているのと全く同じものを観客に見せる主観的装置によって実現された進歩にもかかわらず、観客の震える歓声や熱気や狂騒に代わるものは何もないように私には思われる」。

* スタン・スカヴェリックと訳しましたが、主人公の名前の発音は自信ありません… Fnac を見ると、この本、まだ買えるみたいですね。表紙はちょっと変わってるみたいですけど… 原作者 Patrick Cauvin(パトリック・コーヴァン)については、フランス版ウィキペディアに項目がありました。ほとんど著作リストだけって感じですが、参考までに。
http://fr.wikipedia.org/wiki/Patrick_Cauvin
画像は左から表紙、第1章、第2章です。

コメント(11)

左から第3章、第4章、第9章の画像です。第9章の画像が現行版の表紙になってるみたいですね。画像は椿屋さんからご提供いただきました。椿屋さん、ありがとうございます! 全部載っけてもいいんですが、やりすぎな気もするので、ここまでということで。第4、9章の画像は僕の個人的な趣味から選びました。
スペイン・チームのことを「無敵艦隊」って言うのは一昔前だと思ってたんですが、普通に今でも言うみたいですね。記事で普通に使われてました。
ショードヴァルさま
ありがとうございます。
お忙しいところ、急な発案で
お手間をとらせてしまい恐縮です。
絵だけを見て楽しんでましたが、
「年代記」的奥行きを読んでこそですね。
フランス語マスター努力します。

ああ、フランス勝ち残ったんですね!
ビラルの故国は全て敗退ですが…。
>椿屋さん
とんでもない! こちらこそ素晴らしい作品を教えていただきありがとうございます。これからもいろいろご教授ください。

「ヤン・シュヴァンクマイエル」コミュに書き込みがあって、思い出したんですが、サッカーの悪夢と言えば、シュヴァンクマイエルの短編フィルム「男のゲーム」ですよね! 
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=7861966&comm_id=11613
コーヴァン/ビラルの『オフサイド』とは雰囲気がちょっと異なりますが、これはこれで大好きです。
「男のゲーム」
今でもあの音楽(応援歌)は
口ずさめますよ〜♪
>椿屋さん
あの音楽いいですよね! なんかやたら陽気で軽やかなやつですよね?

>のりおさん
スポ根モノ! たしか前回のBD研究会後の懇親会で話題になってましたが、BDやアメコミにはなさそうですね。そもそもスポーツをテーマにした作品があんまりないんじゃないでしょうか? 映画ではいくつかあったりするので、あっても不思議はないんですけどね… 誰かご存知ですか? 清谷信一さんの『ル・オタク』という本によると、これはアニメですが、『アタッカー・YOU』が大ヒットし、バレー人口が増えたということもあるようですから、全く受けないというわけでもないようです。
知る限りでは、欧米に「スポ根」はほとんど無いようです。
ただ、架空のスポーツ・ヒーローものは若干確認しました。
オーストラリア人の友人からいただいたのですが、
イギリスのサッカーものです。
BDコレ一通り紹介終ったら、次に行きますね。

ただ、アメリカでは実在のスーパースター物語以外
あまりスポーツ・ヒーロー・コミックはないみたいです。
南米とか探してみると面白い。
ロナウドはキャラものがあるんじゃないですか?
映画にはそれらしいのがあるのに、どうしてでしょうね。
ブラジルの漫画情報サイトを覗いてみたところ、ロナウドではなく、ロナウジーニョがキャラ化されていました。「Turma da Mônica」という人気漫画でジョイントしています。
http://www.universohq.com/quadrinhos/2006/n25052006_09.cfm
おおー、ロナウジーニョの漫画が存在するんですねー。『ロナウジーニョ・ガウチョ』って言うんですか? 日本のマンガ雑誌にたまに載る「中田英寿物語」とかそういうノリの作品とはまた違いそうですね。

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